「準ちゃん、ちょっとこっちへいらっしゃい」
準が部屋にいると、お母さんが呼ぶ声がしました。
「なあに」
「ねえ、ちょっとこれ着てみてくれない?」
居間に行くと、お母さんが服を準に見せて言いました。
「えーっ、それ女物じゃないの」
色は黄色だけど、なんか女の子っぽいデザインです。
「実はおばちゃんがね、みゆきお姉ちゃんが着れなくなったのを準くんにってくれたのよ」
みゆきお姉ちゃんというのは6年生になる準の従姉で、親戚にいくとよく遊んでもらったりしてるのです。
「いやだよ、女の子の服なんか」
「大丈夫よ、これだったら男の子が着てもおかしくないわよ。せっかくだから着ましょうよ」
「・・・うん」
準はしぶしぶシャツを脱ぐと、お母さんが差し出した服に手を通しました。
「あれっ、ボタンが逆に付いてるよ」
「そうなのよ、男物と女物ではボタンの付き方が反対なのよ」
「へえ、そうなの、知らなかった。・・・留めにくいなあ」
準はぶきっちょに手を動かすと、なんとかボタンをはめました。
「ぴったりじゃない、よかったよかった。ほかのも見てくれる?」
お母さんはそう言って準の前に服を広げ始めました。
「そんなにもらってきたの。でもぼく、女の子の色のは着ないからね、絶対」
準が言う女の子の色というのは、ピンクなどの暖色系のことです。やっぱり男の子は寒色系を着るものだという意識が子どもたちの間にはあるのです。
「うちで普段着にするのならいいでしょ?。それにこれからの季節、上にセーターとか着たらわからないわよ」
「そうだねえ・・・」
お母さんに言われると、そうかなって思ってしまう準くんです。
「あれっ、スカートが入ってるよ。おばちゃんもそそっかしいなあ。アハハハ」
おさがりのなかに真っ赤なスカートが一着あるのを見つけて、準は笑ってお母さんに言いました。でも、お母さんは笑わずに、準の顔をのぞき込むように言いました。
「ねえ、準ちゃん。それも着てみて」
「へ?。や、やや、やだなあ、ぼく、男の子だよ。・・・ちゃんとついてるし」
準はうろたえました。で、思わずチャックを開けてお母さんに見せようとしました。
「もちろん、準ちゃんは立派な男の子よ。でも時々、女の子だったらどうかしらと思うことがあるのよ」
「お母さんは、ぼくが女の子に生まれたらよかったって思ってるの?」
「そうじゃないのよ。お母さんは準ちゃんが男の子でうれしいわ。でも、あなたはお母さん似でしょ」
「お父さんは、お父さんの子どもの頃そっくりだって言ってたよ」
「もちろんどちらにも似てるわ。でも、お父さんはいつも男の子の姿が見れるからいいでしょ。お母さんは自分は子どもの頃どうだったのか見てみたい気がするの。だからお願い」
「・・・ぼくは着せ替え人形じゃないよ」
「ねえ、一度だけでいいから」
「・・・じゃあ、ちょっとだけだからね」
お母さんに頼まれると、断りきれない準くんです。仕方なくズボンを脱ぐと、お母さんに手伝ってもらって、白いブラウスとスカートを着ました。お母さんはどこから持ってきたのか、赤いリボンを準の髪に結びました。
「わーっ、準ちゃんとても似合うわよ」
お母さんは手をたたいて喜んでますが、準は複雑な心境です。
「・・・それって、ぼくが女っぽいってこと?」
「そういう意味じゃないのよ。お目めがくりっとしてかわいいからよ。ほんと、とってもすてきよ」
「そ、そう?」
お母さんに言われると、ついその気になってしまう準くんです。
「・・・でも、なんか変な感じだな」
下はパンツ一枚だし、それでなくても丈が短いやつだったので、なんだか下半身がすうすうします。よくまあこんな無防備な格好で外が歩けると、男の準には今一つ理解不能です。
「もう脱いでいいでしょ」
「ええ。とってもうれしかったわ。ありがとう」
「うん」
お母さんは、準に自分の少女時代を重ね合わすことができてとても満足そうです。準もお母さんを喜ばすことができてちょっとうれしくなりました。
「そうだ・・・ねえ、明日いちご模様のパンツ買ってくるからはいてみない?」
「ななななにそれ。いちごパンツなんてイヤだよ絶対」
準はあわてて言いました。男の子の名誉にかけて、真っ白パンツ(ブリーフ)は守り抜かなければなりません。でないと、ほんとに一線を越えてしまいそう・・・。
「ふふふ、冗談よ」
「なんだ、びっくりしたなあ」
準はほっと胸をなで下ろしましたが、お母さんはほんとははかせてみたいと思っていたのです。いつか準のご機嫌がいいときに頼んでみようかなと、よからぬ策略を練るお母さんなのでした。 |