「ただいまー」
準が買い物袋を提げて帰ってきました。明日は遠足なので、おやつを買いに行ったのです。
「おかえりー。なに買ってきたの」
お母さんが訊きました。
「ええとね、”ばかうけ(青のりしょうゆ味)”でしょう、それからエンゼルパイ、マーブルチョコ、バーベQ味に・・・」
「ちょ、ちょっと。そんなに持ってって大丈夫なの?。いくらまでって決まってるでしょ」
「平気だよ、ディスカウントストアで安く手に入れたんだ。税抜きならなんとかおさまってるけど」
「ああいうのは定価で計算するんじゃないかしら」
「ええっ、そうなの。じゃあ、ボンタンアメは置いていこうっと。そのかわり、こないだお土産にもらったウナギパイ持っていこうかな、お金かかってないし」
「遠足にウナギパイ持っていく人がありますか。もらい物でもだめよ」
「なんだ、がっかり」
準はしぶしぶウナギパイをあきらめました。
「ただいまー」
お父さんが帰ってきました。
「おかえりなさい」
「準、明日は遠足だったな。ほら、バナナを持っていきなさい」
お父さんは、出迎えた準にバナナを一房渡しました。
「わあい、♪バナナンバナナン」
「だめよ、バナナ持ってったらおやつの金額オーバーするでしょ」
お母さんが口を挟みました。
「ええっ、バナナは弁当のデザートだろ」
「おやつよ」
お父さんとお母さんが言い合いを始めました。
「ううん、確かに見解は分かれるところだな。『ジュリスト』見ても判例は書いてないだろうし」
「だったら・・・。切って別の容器に入れたらどう見てもデザートになるわ」
「なるほど」
「わあい、やったやったーっ。ウサギのリンゴも入れてね」
「はいはい」
ようやくバナナ問題は解決しました。
「ところで、明日はどこへ行くんだ?」
「○○山だよ、お父さん」
「へえ、そりゃまたずいぶん遠くだな」
「だってバスだもの」
「なんだ、歩きじゃないのか。じゃあ遠足じゃなくて遠バスだな。でも、天気は大丈夫かなあ。寒冷前線が通過するとか言ってたような」
「ええっ」
「でも、バスなら関係ないか」
「雨が降ったら、向こうに着いて遊べないよ」
「それもそうだな。だったらてるてる坊主でもつくったら」
「うん」
準は早速、ティッシュペーパーでてるてる坊主をつくりました。ティッシュを丸めて芯をつくり、外からティッシュをかぶせて目鼻を描いたらもう完成です。芯は、顔を描きやすいように表を平らにするのがポイントです。準はそれを自分の部屋の窓の外につるしました。
「どうか明日は晴れますように」
準はてるてる坊主に手を合わせると、窓を閉めて床に入りました。
朝です。準は目を覚ますとすぐ飛び起きて外を見ました。少し雲はありますが、雨は降りそうもありません。
「わあい、晴れたよーっ」
「あれ、いつもお寝坊なのにこういう日は早いのね」
早速お母さんに報告に行くと、お母さんは笑って言いました。
「へえ、準のてるてる坊主は効果抜群だな」
お父さんが言いました。
「えへへ、すごいでしょ」
「今度は、パンツに入れて寝たらいいぞ」
「もう・・・。今日はしなかったでしょ」
「アハハ、ごめんごめん。今度11月に、そのてるてる坊主貸してね」
「うん、いいよ」
なにを言われても、今朝は上機嫌の準くんです。
「ねえ、お弁当のおかずはなに?」
出がけに、準はお母さんに訊きました。
「ふふふ、それは開けてのお楽しみよ」
「ええーっ、ちょっとだけ教えてよ。”お弁当ハンバーグ”入れてくれた?」
「もちろんよ。準ちゃんの大好物だもんね」
「ヤッホー。じゃあ、行って来ます」
「気をつけてね。ハチに刺されないように」
「はあい」
「それから・・・」
お母さんは、もうかけ足で門の外に出ようとしている準に、後ろから大声で言いました。
「バスに乗る前に、ちゃんとおしっこ済ませておくのよ」
そ、そんなこと大きな声で言わなくても・・・。ちょっとだけまわりの目が気になって思わず赤くなる準くんです。それでも、お父さんお母さんの愛情のいっぱい詰まったちょっと重めのリュックサックが、心をウキウキと軽くしてくれるのでした。 |