おねしょ布団を隠そうとする準
第20話:見ないで・・・
 準はふとんから顔を出して、そっとあたりをうかがっています。
 そのとき、お母さんが階段を上がってくる音が聞こえてきました。
 ・・・ああ、もう絶望。
 「準ちゃん、いい加減にもう起きなさいよ」
 お母さんが部屋に入ってきました。
 「きょ、今日はお休みだし、もうちょっと寝てる・・・」
 「だめよ。朝ご飯片づかないでしょう」
 「じゃあ、起きるから部屋から出てって」
 どうも準が挙動不審なのに気がついて、お母さんは準のふとんをひっぺがしました。
 「やっぱり・・・。『お風呂上がりの一杯は最高』とか言って、ジュース飲むからいけないのよ。早く着替えないと、風邪ひくわよ」
 「はあい」
 ・・・もうお気づきでしょうが、準はおねしょをしてしまったのです。こないだ誕生日を迎えて、もう「卒業」したつもりだったのですが。

 準はとぼとぼと洗面所に行って、濡れたパジャマとパンツを脱いで、洗濯機に放り込みました。
 「さ、寒い・・・」
 もう朝夕は結構涼しくなりました。いつもおねしょの朝は、濡れたタオルできれいに拭きなさいと言われているのに、今朝は乾いたタオルで適当に拭いて、それからシャツを着ました。
 ・・・あれえ、パンツパンツ。
 準がパンツを取りに部屋に帰ろうとすると、お母さんが準のふとんを玄関の横に干しているのが見えました。準はそのままの格好で、外に飛び出して言いました。
 「そんなところに干したら、外から丸見えでしょう」
 「・・・今のあなたの方が、もっと丸見えと思うけど」
 お母さんに指摘されて、準はあわててうちに入りました。
 「目立たないところに干してあげたいけど、今日はね、昼から雨が降るかもしれないのよ。だから早く乾かさないと。今晩、びしょびしょの冷たいふとんで寝るつもりならいいけど」
 「・・・」
 「大丈夫よ。今日はお休みだし、誰も来ないわよ」
 「うん・・・」
 準はしぶしぶ納得しました。

 準は、誰か来ないか外を見張ることにしました。
 すると早速、近所に住む6年生の子が来ました。準はあわてて外に出て、”せかいちず”が見えないようにふとんの前に立ちました。
 「あれ、何してるのそんなところで」
 「・・・ちょっと、ダンスの練習を。♪バナナンバナナン」
 「もう運動会は終わっただろ。それより、子供会の廃品回収、来週の日曜日だから絶対来いよな」
 「・・・は、はい」
 「あーっ、おまえやったな」
 ・・・ぎくっ。
 「い、いや、その。夕べジュースこぼしちゃって」
 「ハハハハそうか。それじゃあ」
 何とかごまかそうとしましたが、全然信じてないみたいです。準はあわててその子を追いかけて、そっと言いました。
 「あの・・・ぼくのヒミツ、誰にも漏らさないでね」
 「漏らしたのはおまえだろ、なんて。ハハハ、言いやしないよそんなこと」
 そう言うと、帰っていきました。準は、大丈夫かなあとちょっと心配になりました。

 「おはよう」
 入れ替わりに、今度はおじさんが来ました。このおじさんは、いつも準のことをからかうのです。もしおねしょがばれたら大変なことに・・・。
 「お、おはようおじさん」
 「おや、男の子のくせにミミズが怖い準くんじゃないか」
 いきなりの先制攻撃に、思わずたじろぐ準くんです。でも、そんなことに負けてはいられません。
 「きょ、今日はいいお天気だねえ」
 「何言ってるんだ、昼から雨って言ってたぞ。・・・おっ、おまえねしょんべんしたな」
 ・・・ま、まずい。
 「ちちち、違うんだよ。夕べ雨漏りがしちゃって・・・」
 「へーえ、そりゃすぐに屋根の修理を頼まなきゃ。・・・でも、それより水道屋さんを呼んだ方がいいかもな。誰かさんの蛇口は、栓がゆるんで水漏りしますって」
 おじさんは笑いながらそう言って、”誰かさん”の”蛇口”をぎゅっと握って帰っていきました。
 「あぅ・・・」
 ・・・な、何しに来たんだろ?。

 「回覧板ですよ」
 今度は、隣の家のおばあさんが来ました。準は、またも外に出て、ふとんの前に立ちました。
 「・・・ありがとう」
 「おや、コスモスがきれいに咲いたねえ」
 早く帰らないかな、という準の願いもむなしく、おばあさんはなかなか帰ろうとしません。準は、おばあさんとふとんの間に入って、一緒に移動しています。
 「なにしてるの、準ちゃん。・・・おやおや、準ちゃんはまだおしっこたれするんか、そんなに大きいのに」
 ・・・うっ。
 「そ、それは、その。湯たんぽが・・・」
 結構ぐさっとくる言葉に、言い訳もしどろもどろです。
 「まだ湯たんぽは使わんじゃろ。そうそう、寝小便にはイモリの黒焼きが効くんじゃ。こんど持ってきてやろう」
 「あ、いや、いいです」
 そんなもの食べさせられるくらいだったら、毎日おねしょした方がましだと準は思いました。

 すでにヒミツが3人にばれてしまって、準は落ち込んでいます。
 「・・・どうしてみんなにわかっちゃうんだろう。一生懸命隠してるのに」
 「ばかねえ。あんたがふとんの前に立ってるから、みんなが見るんでしょう。・・・それより、着替えるときにちゃんと拭いたの?」
 準が太ももをかいてるのに気づいて、お母さんが言いました。肌についたおしっこが乾くと、とてもかゆいのです。
 「も、もちろんだよ」
 「本当?。・・・とにかく、そっとしてたら誰もあなたのふとんなんか見ないわよ」
 「うん・・・」

 「準くーん」
 外で準を呼ぶ声がします。すっかり忘れてたのですが、今日は友達がふたり遊びに来ることになっていたのです。
 「はぁい」
 準は、今度は外に飛び出さずに、努めて平静を装って友達を迎えました。
 ・・・よかった。ばれなかったみたい。
 しばらくたっても友達がそのことについて何も言わないので、準がほっとしたそのときです。外出してて友達が来ていることを知らないお父さんが、帰ってくるなり大きな声で言いました。
 「おうい、準。ふとん乾いたぞ」
 「あわわわわわわ・・・」
 ・・・ああ、やっぱり誕生日のプレゼントは、ふとん乾燥機の方がよかったなあ。
 おもわずそんなことを考える、とってもかわいそうな準くんでした。

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