おいしそうに誕生ケーキを食べる準
第19話:一日遅れの誕生日
 今日は土曜日。学校はお昼までです。
 準はウキウキしながら家路を急いでいます。明日はお休み、誰だって楽しい気分になれますよね。
 でも、それだけではないのです。
 10月2日は準の誕生日、子どもにとってクリスマス、お正月と並ぶ年間3大イベントです。なかでも誕生日は自分だけの記念日なので、うれしさもひとしおです。帰ったらお父さんとお母さんと、プレゼントを買いに出かけることにしています。夜はみんなでケーキを食べてお祝いです。
 ・・・ふふふ、ぼくって世界一しあわせな子どもだなあ。
 街ゆくひとも、みんな準のことを祝福してくれてるような気がします。準は、スキップしながらうちに帰ってきました。
 「ただいまーっ」
 「あ、おかえり。それがねえ・・・」
 準の顔を見るなり、お母さんが言いにくそうに言いました。
 「お父さんの知り合いの方が急に倒れられて、お見舞いに行ったのよ。今日は帰れないって、さっき電話があったわ」
 「ええーっ」
 「だから、お誕生日のパーティーは明日にしましょうね」
 「そ、そんな・・・」
 楽しみにしてたのに・・・準の目から涙があふれてきました。
 「準はもう大きいから事情はわかるでしょう」
もちろん準だってわからない年齢ではありません。でも、やっぱり誕生日にお祝いしてもらいたかったのです。なかなか泣きやまない準に お母さんは肩を抱いてあやすように言いました。
 「明日は準の好きなものつくってあげるわ。だからもう泣かないでね」
 「・・・」
 準はこくりとうなづきました。
 ・・・あーあ、ぼくって世界一不幸せな子どもだなあ。
 突然の通り雨です。準はあきらめきれずに外をながめていました。

 次の日の夕方、お父さんはようやく帰ってきました。
 「とりあえず大したことないって。よかったよかった」
 「そう、それは安心ねえ」
 「おかえりなさーい」 
 お父さんの声を聞いて、準が飛び出してきました。
 「あ、準。昨日は悪かったなあ」
 準の頭をなでながら、お父さんが言いました。
 「ううん、仕方ないよ」
 「あらぁ、泣きベソかいてたのは誰かしらねえ」
 「そ、そんなことはないよ」
 お母さんに指摘されて、顔を赤らめる準くんです。
 「ハハハハ。そのかわり、準にぴったりのプレゼントを買ってきたぞ」
 「え、なになに」
 「ふとん乾燥機だ」
 「・・・うっ」
 「ハハハ、うそだよ」
 「もう・・・冗談きついなあ」
 お父さんは、準に細長い箱を渡して言いました。
 「おまえのほしがってた、Nゲージ(注:鉄道模型)関水金属のEF58(一般色)だ」
 「わあい、うれしいな。こいつに10系寝台車牽かせて夜行急行にするんだ」
 「おまえも趣味が渋いな」
 「うん。これからレールやストラクチャーを買いそろえて、大レイアウトつくるんだ」
 「がんばれよ」
 「うん」

 夕食は、唐揚げにハンバーグ、スパゲティーです。
 「わあい、ぼくの好きなものばっかり」
 「あとでケーキ食べるんだから、その分はあけといてね」
 「平気だよ、お母さん。ケーキは入るところが別だから」
 「まあ」
 やっぱり家族みんなで食べると、ごちそうももっとおいしくなります。

 夕食の後、みんなでケーキを食べました。ろうそく10本立てて、「ハッピーバースデー」歌ってもらって、ろうそく吹き消して・・・準は今、とってもうれしい気分です。やっぱり、お父さんの帰りを待ってよかったと思いました。
 「準、いくつになった?」
 「10歳だよ」
 「もう10歳か、早いなあ。でも、お父さんと同じ日に生まれるなんて、ほんと偶然だな」
 「あ、そういえばお父さんも誕生日だったわね」
 お母さんが思いだしたように言いました。
 「えーっ、一緒に祝ってくれてたんじゃなかったの?」
 「も、もちろんだよ。お父さんおめでとう」
 なんかとってつけたように準が言ったので、お母さんが笑いました。それを見てお父さんも笑いました。
 一日遅れだけど、親子三人のしあわせな誕生パーティーでした。
 

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