腰みのおしりふりふりダンス準くん
第18話:運動会の練習
 9月になり新学期が始まりました。
 準はこの季節が憂鬱でたまりません。
 楽しかった夏休みが終わってしまったというのもあるのですが、ほかにも理由があるからなのです。
 準は体育が大の苦手なので、走るのも、跳ぶのも、投げるのもダメです。だから、ほら、9月といえば・・・そう、運動会がイヤでイヤでしょうがないのです。本番もさることながら、毎日毎日練習しなくちゃいけないのが苦痛でたまりません。毎日、おなか痛くならないかなあとか考える準くんです。

 それが、今年はもっとやりたくないものが加わってしまいました。
 いよいよ運動会の練習が始まる前の日に、先生がこう言いました。
 「今年のマスゲームは、『とんでったバナナ』を歌いながら、おしりふりふりダンスに決まったぞ」
 「ええーっ」
 「幼稚園のお遊戯じゃないよー」
 たちまち、クラス中からブーイングの嵐です。しかし、さらに先生は追い打ちをかけます。
 「男の子は全員、腰みので踊るんだ」
 「げげーっ」
 「そんなの恥ずかしいよー」
 男の子達が口々に文句を言いますが、先生は話を続けます。
 「女の子は胸にホタテ貝だ」
 「きゃー」
 「なにそれー」
 女の子達も騒ぎはじめて、教室は大混乱です。
 「こらこら静かに。・・・もう職員会議で決まったから、変更はできないぞ。これがびしっと揃ったら、とてもすばらしいと思うけどな。さあ、明日から練習練習」
 結局先生に押しきられて、やるはめになってしまいました。

 「ほら、もうちょっと腰を振って!」
 「『あおいみなみの』のところ手の角度は45度だ」
 いよいよ、練習が始まりました。音楽と、先生のかけ声に合わせて踊らないといけません。準はよく間違えてそのたびに先生に叱られました。9月とはいえ真夏のような日差しの運動場で、しかも裸足です。舞い上がった砂埃が口の中に入って、ザラザラしてのどが渇きます。
 ・・・なんでこんなことしなくちゃいけないの。
 準は泣きたくなってきました。

 日曜日です。準はお父さんが休みのときは、いっしょに夕食を食べるようにしています。
 「おい、運動会はいつだ。今年も応援に行くぞ」
 「・・・いいよ、来なくても」
 お父さんに言われて、浮かぬ返事をする準です。
 「どうした・・・あ、今年はリレーのクラス代表に選ばれなかったな」
 「・・・って、選ばれるわけないでしょ。足遅いんだから」
 「ハハハ、それもそうだ。じゃあどうして?」
 「それが・・・」
 準は事情を説明しました。
 「なんだ、そんなことか。ちょっとそこで踊ってみろ」
 「ええっ、ここで?」
 「なんなら駅前でやるか」
 「・・・いいよ、ここで」
 準はしぶしぶ『とんでったバナナ』を歌いながら、お父さんにダンスを披露しました。
   ♪ バナナがいっぽんありました あおいみなみのそらのした
     こどもがふたりでとりやっこ バナナはつるんととんでった
     バナナはどこへいったかな バナナンバナナンバナァナ ♪
 「いいぞいいぞ。なんかぎこちないけど、そこがまた準らしいし」
 お父さんは手をたたいて喜びました。
 「もう、からかわないでよ。だからいやなんだ。それに幼稚でしょ、ぼくはもう4年生だよ」
 「ごめんごめん。でも、ほんとにいいと思うけどな。幼稚って言うけど、『バナナンバナナン』のところ、くるっと回って、しゃがんでパッと立ち上がるのなんか、幼稚園児じゃできないぞ。だからいかにも4年生らしいダンスだと思うけどな」
 「そうかなあ」
 「じゃあ逆に、お父さんがそれ人前で踊ってたら、準はどうする?」
 「・・・他人のふりをする」
 「ひどいなあ、準は。でも、そうだろ。つまり、そのダンスは今の準くらいの年齢じゃないとできないんだ。そのときにしかできないことを一生懸命やってるのって、とてもすてきなことだと思うよ」
 「・・・うん」
 「・・・でも、そのダンスいいな、お父さんにも教えてよ。いっしょに駅前で踊ろう」
 「えーっ、今人前じゃできないって言ったじゃん」
 「そうか、そりゃ残念。じゃあ、お父さんの分も運動会でがんばって踊れよ」
 「うん!」
 お父さんはお酒が入って上機嫌です。そんなお父さんを見ていると、準もなんだか運動会でダンスを見せるのが楽しみになってくるのでした。




 『とんでったバナナ』という歌をご存知でしょうか?。Meteorはこの歌が大好きで、よく歌っています(^^;。
 seguさんという方がつくっておられる「やっぱり世の中バナナだね」というHPのなかに、『とんでったバナナ』が聴けるコーナーがあり、リンクフリーとありましたので勝手にリンクさせてもらいました(MIDIはくいまぁさんという方の作)。行ったらブラウザの「戻る」ボタンで帰ってきてね(^^;。
とんでったバナナ

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