準は今日1日、机に向かっています。
準は4年生。私立中学受験のためには、夏休み返上で勉強しなければなりません・・・というわけではないみたいです。
「だからあれほど言ったでしょ。宿題はきちんと毎日しなさいって」
「だってだって、夏休みは長いからまだまだ大丈夫だと思ったんだもん」
だから言わんことじゃありません。もう夏休みも数日、準は今年もためてしまって、お母さんに叱られ叱られ、泣きべそをかきながら宿題をやっているというわけなのです。気分を変えようと居間の机でやっているのですが、全然はかどりません。
「えーん、涙で問題が見えないよー」
「バカねえ、泣くか勉強するかどっちかにしなさい」
「・・・うん」
準は涙と鼻水を手の甲でぬぐって、シャツで手を拭きました。
「・・・あの、なんだかおなかが痛くなっちゃった」
準はおなかを押さえて、そっと上目遣いにお母さんを見て言いました。
「だめよ、あんたはすぐそうやってイヤなことから逃げようとするんだから。今日は1日、机の前から放しませんからね」
「そ、そんなー」
準はがっかりしました。そして、今さらながら我が身の不徳を後悔するのでした。
「おうい、やってるか」
もう夜です。そんな様子を、お父さんが見に来ました。
「お、お父さーん」
準は、すがるような目つきでお父さんを見ました。
「なんだ、まだ終わってないのか」
「ねえ、お父さん。ノストラなんとかさん、『実は8月だよ〜ん(^^)』、とか書いてないかなあ。今から地球が滅亡したら、宿題やらなくてすむんだけど・・・」
「残念ながら予言ははずれたみたいだから、地道に生きていくしかないぞ。・・・でも、日記くらいは書いてるだろう?」
「う、うん少しだけ・・・」
「計算ドリルはやったのか?」
「・・・」
「漢字練習は、何も考えなくていいからすませたよな?」
「・・・・・・」
「じゃあ、自由研究はバッチリとか」
「・・・・・・・・・」
「ううん、こんなに計画性のないやつも珍しいな。でも、そこが準らしくていいぞ」
「うん!」
「喜んでる場合じゃないでしょ」
お母さんは、準の頭をはたきました。
「ようし、お父さんが手伝ってやろう。計算ドリルを見せなさい」
お父さんは、ドリルをぱらぱらとめくってから、準に返しました。
「・・・やっぱり、その、計算は自分でやりなさい」
「ええーっ」
「漢字百字も手伝ってやりたいが、お父さんは字が上手なのでおまえみたいにへたくそな字は書けないし」
「・・・そうかなあ」
「よし、自由研究をいっしょにしよう。何かやりたいテーマはないか」
「そうだなあ。宇宙の果てはどうなっているのかとか、死後の世界ってほんとにあるのかとか・・・」
「それはすてきな研究課題だな。でも、夏休み中には答えは出ないだろうから、ライフワークにしなさい。・・・よし、もっと子どもっぽいのにしよう。アイスクリーム何個食べたらおなかこわすかとか」
「Qちゃんじゃないよお」
「ふふふ、じゃあ準らしいの考えたぞ。寝る前にラムネ何本飲んだらおねしょするか、なんて」
「どどどどうしてそれ知ってるの?。ああーっ、蛍くんのお父さんがしゃべったな」
「ハハハハ。うちに帰ってきたとき、おまえの顔に『ぼくはおねしょしました』って書いてあったぞ」
「そうだっけ・・・。でも、そんなの恥ずかしくて学校に出せないよー」
「面白いテーマだと思うけど、それもそうだな。じゃあ、お父さんがインターネットで適当なホームページ見つくろうから、それを書き写せばいい。いい時代になったなあ」
「・・・」
「じゃあ、お母さんも何か手伝うわ。このままじゃあ終わりそうもないものね。でも、今年だけだからね、いい」
「うっうっ」
「何泣いてるのよ」
「・・・だって、もう終わらないかと思ってたの。助かったと思って・・・。あ、ありがとう。えーん」
準は、救われた思いで、うれしさのあまり泣きじゃくりました。そして、来年こそはきっとひとりでやるからねと、心に固く誓いました。・・・でも、たぶん来年もこの子は同じことを繰り返すんだろうなあ。そして、泣いてるのを見たら、つい手伝ってしまうんだろうなあと思う、お父さんとお母さんでした。 |