お盆です。準はおじいちゃんの家に行きました。
「よう来たの、準。また大きゅうなって」
準はおじいちゃんとおばあちゃんに温かく迎えられました。これから16日の夜までお泊まりです。
夕食後、準は縁側に腰を下ろして夕涼みです。
今年はいつも一緒に遊ぶいとこが来れなくて、子どもは準一人きりです。せっかく楽しみにしていたのに、つまらないなあと思ってしまいます。手持ちぶさたにしてると、おじいちゃんがお盆にキュウリとナスをのせて持ってきました。
「ぼくもうおなかいっぱい・・・」
「食べるんじゃないよ。これで馬と牛をつくるんじゃ」
「・・・?」
「ええか、今日はご先祖様が帰ってくる日じゃ。キュウリで馬をつくって、これに乗って早ううちへ帰りんさいというんと、戻りはゆっくりしんさいちゅうて、ナスの牛をつくるというわけなんじゃ」
「ふうん」
準はおじいちゃんに教えてもらって、キュウリとナスに折った割り箸をさして、ちょっと不格好な馬と牛をつくりました。そしてそれをお盆にのせて、仏壇の横に飾りました。
「ようし、じゃあご先祖様を迎えに行ってこい」
「どうするの?」
「ひとりでお墓に行って来るんじゃ」
「い、今から・・・」
夜・墓地・・・準はたちまちいやーなことを思い出してしまいました。
「あの、ぼくは夜はお墓には行かないことにしてるんだけど・・・」
「怖いんか。男の子のくせに情けないの。じゃあじいちゃんがついていってやるけぇ、いっしょに来い」
「・・・うん」
準は仕方なくおじいちゃんについて行くことにしました。
集落のはずれにある墓地につくと、おじいちゃんは先祖代々のお墓の前で持ってきた灯籠と線香に灯をともし、ごにょごにょとお経をとなえました。
「ようし、帰るぞ」
「え、それだけ?」
怖がりのくせに、何か変わったことが起きるかと思って期待してた準は、あまりにもあっけないのでちょっと拍子抜けです。
「準も来るしご先祖様も帰ってくる。盆はにぎやかでええの」
頭をなでてもらって、準はおじいちゃんの顔を見上げました。そのとき見た夜空には、満天の星が輝いていました。
14日、15日と、準は海で泳ぎました。おじいちゃんの家は海のすぐ近くで、家から海パンで行けるので松林で着替えなくてすみます。夜は盆踊りを見たりして、結構楽しい日々を過ごしました。
16日、ほんとは今日帰る予定だったのを、1日のばして明日の朝帰ることにしました。おじいちゃんがどうしても見せたいものがあるというのです。
「準、その灯籠を持ってついてこい」
日がとっぷりと暮れた頃、おじいちゃんはご先祖様を迎えに行ったときに持っていった紙製の灯籠を指さして、準に言いました。
おじいちゃんと準は、昼間泳いだ海岸にやってきました。防潮堤を越えるとそこは階段状の護岸になっていて、近所の人が手に手に灯籠を持って集まってきていました。
「ご先祖様の霊を、灯籠といっしょに海に流すんじゃ」
「あれ、ナスの牛に乗って帰るんじゃなかったっけ?」
「ハハハ。まあ昔からそう決まっとるんじゃ」
「ふうん」
なかのろうそくに灯をともし、準はそっと水面に灯籠を浮かべました。灯籠は引き潮に乗って、すこしずつ岸を離れます。他の人が流した無数の灯籠が、抜きつ抜かれつしながら流れていきます。
「きれいだね、おじいちゃん」
「ああ」
「でも、不思議だなあ」
準は、もう一つ疑問に思っていることがあります。
「お迎えしたときはお墓だったでしょ。どうして送るのは海なの」
「うーん、これも昔からそうじゃから・・・。でも、入口と出口、どこかでつながっとるんじゃないかの。出逢った人間は必ず別れる。生まれたものは必ず死ぬ。その繰り返しじゃ」
「人は死んだらどうなるのかなあ・・・」
準は小さい頃から漠然と不安に思ってることを、おそるおそるおじいちゃんに尋ねました。
「さあの。じいちゃんもまだ死んだことないけぇ、わからんのう。生きてるうちは誰にもわからんのじゃけえ、あれこれ言ってみても始まらんのじゃないかの。あとのことはみんなお任せして、今日を精一杯生きることじゃ」
「そうだね」
「わかるか?。おまえはほんとに賢い子じゃ。やっぱり見せてよかったのう」
頭をなでてもらって、準はうれしそうにうなづきました。海にはたくさんの灯籠が光っています。空には天の川が架かって、無数の星が瞬いています。心のなかにも、何か灯火がともったような、そんな気持ちになる準でした。 |