海パンに砂入っちゃった準
第14話:海水浴
 海開きです。
 準はお父さんに海水浴に連れてきてもらいました。
 車を駐車場に停めて海水浴場にさしかかったとき、お父さんが言いました。
 「ようし、準。そこの松林で着替えろ」
 「ええーっ、海の家とかじゃないの?」
 「そんなのもったいないだろ。男の子は外で充分」
 「でも、お父さんは?」
 「ハハハハ。もうはいてるからいいんだ」
 「ずるいー」
 だったら車で着替えたのに、とか思いつつ、準は松の木の陰で海水パンツにはきかえました。

 「わあい。海だ海だー」
 今年初めての海水浴で、準は大はしゃぎです。砂山をつくったり、波打ち際で足をばしゃばしゃやったり、ひとりで遊んでいます。外海を見慣れた人には、これが海だとは受け取りにくいほど波はしずかです。
 「準、泳がないのか」
 後ろの方からその様子を見ていたお父さんが、準のそばに来て声をかけました。
 「泳いでるよ、ほら」
 準は浅いところに腹這いになって、ばた足をして見せました。
 「そういうお父さんは泳がないの?」
 「お父さんはおまえの監視役だからいいんだ」
 「・・・ふうん」
 「準、おまえどれくらい泳げるんだ?」
 「・・・今年は25メートル泳げるようになりたいな、できれば」
 「じゃあ、あのブイまで泳いでみろ」
 お父さんは、沖の方に浮いている遊泳禁止のブイを指さして言いました。
 「えっ、無理だよぉ、あんな遠く」
 「浮き輪があるから大丈夫だろ」
 「でもぼく、足が届かないところでは泳がないようにしてるんだ。なんか怖くて」
 「情けないやつだなあ・・・あ、そうか。準は覚えてないだろうなあ」
 「なんのこと?」
 「おまえがまだ2つか3つの頃、ここの海水浴場で溺れたんだ、お父さんがちょっと目を離してる隙に」
 「えっ・・・」
 「でも、すぐ助けてやったから大丈夫だったんだ。記憶になくても、そのときの潜在意識ってやつが覚えているのかなあ」
 「・・・」
 ・・・そうか、それでぼくは足の届かないところじゃ泳げないのか。それに、よく水に溺れる怖い夢を見るんだ。こないだも海に落ちる夢を見て、それで・・・。
 「なあ、準」
 お父さんが準の肩に手を置いて言いました。
 「おまえはそうやって九死に一生を得たんだ。とっても運の強い子なんだよ。よかったなあ、準」
 「・・・でも、それって監視役さぼってたことの言い訳じゃないの?」
 「そんなことはないよ。お父さんはいつも準のことを見てるからね」
 「うん」
 そう言われて、素直な準はなんだかうれしくなってうなずきました。でも、やっぱり足の届かないところでは泳げないままなのでした。

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