七夕
第13話:七夕
 今日は七夕です。
 準は色紙を切ったり貼ったりして、七夕飾りをつくりました。
 お願いごとを書いた短冊も、いっぱいつけました。
 「あら、きれいにできたわね」
 窓の外に竹を立てていると、お母さんがほめてくれました。
 「ねえ、チカチカする電球、出してよ」
 「バカねえ。それはクリスマスツリーでしょ」
 「そうだっけ。エヘヘヘ・・・」
 これに電飾つけたらさぞきれいだろうなと思ってた準は、ちょっとがっかりです。

 「アルタイルとベガ、あっちの方かなあ」
 準は東の方の空を見ています。でも、まだ梅雨のさなか。今日もどんよりと曇っていて、星ひとつ見えません。
 「ねえ、あのふたり1年に一回しか逢えないんでしょう。なんかかわいそうだねえ」
 「でも、雲の向こうで逢ってるんじゃないの。誰にも見られなくて喜んでるかもね」
 「そうか、そうだねえ」

 そのとき、準はふと思い立って、お母さんに言いました。
 「ねえ、この夏休み、蛍くんのうちに遊びに行ってもいい?」
 準には蛍くんという親友がいます。でも、遠くに住んでいるので、手紙をやりとりするだけで直接逢ったことがないのです。それでもふたりは仲良しです。
 「いいけど、ひとりで遠くへ行けるの?」
 「平気だよ。ぼく電車のことよく知ってるし」
 「でも、よそのうちにお泊まりできるの?」
 「・・・だ、大丈夫だよ」
 「くまちゃん抱っこしてたら、蛍くんに笑われるわよ」
 お母さんは笑ってそういいましたが、準はちょっと心配になってきました。でも、不安よりも蛍くんに逢いたい気持ちが勝っています。準は決心しました。
 「ぼく、がんばってみるよ」
 「そう。それならお父さんから蛍くんのお父さんに話してもらうわ。あちらのご都合があるからどうなるかわからないけどね」
 「うん!」
 なんだかこの夏休みは、準にとって忘れられないものになりそうです。

 寝る時間です。準はパジャマに着替えて窓の外を見ています。
 「あら、くまちゃんは卒業したんじゃなかったの?」
 準がくまちゃんを持っているのを見て、お母さんがそう言いました。
 「でも、こいつが寂しがるといけないし、うちにいるときはいっしょに寝てやろうかな、なんて・・・」
 「ふふふふ。早く寝なさいね」
 「はあい」

 お母さんが行ったあと、準はもう一つ短冊を飾りました。それにはこう書いてあります。
 ”蛍くんにあいたい!”
 「ぼくのお願い、叶いますように」
 曇り空に向かって、準はそっとつぶやきました。 

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