(第9話からの続き)
日曜日、準は約束した時間に海田くんのうちへやってきました。
「海田くーん」
玄関前で呼びますが、誰も出てくる気配はありません。
・・・留守かな。
昨日うちにいなかったね、ということにして帰ろうかなと、準は思いました。ほんとはあまり来たくなかったので、ちょっとほっとしています。
準が後ろを向いたとき、ドアの開く音がしました。振り返ってみると、海田くんが立っていました。
「・・・あがれよ」
「あ、はい・・・」
日曜なのに、海田くんのうちはほかに人がいる気配がありません。海田くんの部屋に通され、言われるままにベッドに腰を下ろしました。
海田くんは、準の前に立っています。こないだの公園のときと違って、別に何をするわけでもなく、準を見ています。準は一体どうしたらいいのか、困ってしまいました。
そのうちに、海田くんは言いにくそうに口を開きました。
「・・・こないだ、その、クラスマッチの時・・・。実は俺、長縄跳びが苦手で、おまえが先にひっかっかってくれてほっとしたんだ、ほんとは。なのに、あんなこと・・・」
準はもちろん、あのとき悔しかったことを忘れてはいません。それならかばってくれてもいいのに、一番悪口言ったのは海田くんじゃないか・・・準はなんだか腹が立ってきました。
「ずるいよ、そんなの」
ついそう言ってしまって、準はしまったと思いました。なにしてくるかな、と海田くんを見上げていると、海田くんはぺこりと頭を下げて言いました。
「悪い・・・いや、ごめん」
そう言われて、準は拍子抜けしてしまいました。
「だから、ほら、チョコレート・・・」
あれはお詫びのつもりだったのか、だけど・・・。
「・・・でも、あれってもしかして」
「そんなことはしてないよ」
海田くんは、準の目を見てそう言いました。準は、海田くんはこんなやつだって決めつけていた自分が恥ずかしくなりました。
「ごめんなさい、疑ったりして」
「いいよ、べつに」
今度は準が立ち上がって頭を下げると、海田くんはあっさりと許してくれました。
「あれ、海田くんが描いたの?」
立ち上がったときに、海田くんの机の上に紙があるのを準は発見しました。紙には、かわいいウサギの絵が描いてありました。
「あっ」
海田くんはあわてて隠したあと、じろっと準を見ました。
「おかしいか」
「そんなことないよ。そんなかわいい絵が描けるなんてすてきだな」
「そ、そうかな」
海田くんは、恥ずかしそうな顔をしました。
「・・・ねえ、くまちゃんの絵、描いてくれない」
「よし」
準が思いきって頼んでみると、海田くんは色鉛筆でくまの絵を描き、準に渡しました。
「へええ、ほんとに上手いね。どうもありがとう」
準が笑顔でお礼を言うと、海田くんは初めてうれしそうな顔をしました。
・・・そうか、海田くんも寂しかったんだ。
だからひとりで絵なんか描いてたんだろうな。準は海田くんのほんとの素顔を知りました。そして、描いてもらったくまちゃんの絵を見ていると、海田くんとともだちになれそうな、そんな気がしてきたのです。
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