(第8話からの続き)
放課後、準が帰ろうとすると、下駄箱のところで海田くんが待っていました。
「ついて来いよ」
「は、はい」
準は、なにされるのだろうとどきどきしながら、靴をつっかけて先に行こうとする海田くんを追いかけました。
「あ、あの・・・」
「なんだよ」
「ぼく、通学路違うんだけど・・・」
「関係ねえだろ」
学校帰りに寄り道は禁止されています。準は誰かに見つからないかと気が気ではありません。でも海田くんはお構いなしに先に歩いていきます。そして、とあるスーパーに入ろうとしました。
「あ、あの。学校帰りに買い食いとか禁止されてるんだけど・・・」
「そんなことはしねえよ。じゃあそこで待ってろよ」
準を入り口に置いて、海田くんは中に入っていきました。
・・・そんなことしないって、ま、まさか万引き?!。
準は後を追いかけて止めようかと思いました。でも、怖くてできません。いっそこのまま逃げようかとも思いましたが、明日なにされるかわかったものではありません。結局、迷っているうちに海田くんはスーパーから出て来てしまいました。
海田くんに2歩遅れて近くの児童公園にやって来ました。海田くんはベンチに準を座らせると、カバンのなかからチョコレートを取りだし、準に差し出しました。
「食えよ」
「ど、どうしたの、それ・・・」
まさかさっきの・・・。
「関係ねえだろ」
準は手を出すのをためらいました。でも、海田くんが怖くて結局受け取りました。
海田くんがにらんでいます。準はふるえる手で銀紙を剥き、目をつぶって一口かじりました。
チョコレートの甘い味が口に広がります。こんな時においしいって思ってしまう自分が悔しくなります。
・・・やっぱりあの時止めてれば。それに、イヤならイヤって言えばよかった。
準は自分が情けなくなって、思わず涙が出てきてしまいました。でも、今の準にはチョコレートを食べることしかできません。
「何で泣いてるんだよ」
「だ、だって・・・」
そんな自分がひどくイヤなやつに思えて、あとからあとから涙が出てきます。涙は口の中にも入ってきます。罪悪感のチョコレートは、とてもしょっぱい味がしました。
そんな準を、海田くんは不思議そうに見ています。
「変なやつだな。おまえなんか知らないよ」
海田くんは準を残したまま、帰っていってしまいました。
・・・何なんだろ・・・。
準の方こそ、なんだかわけが解りません。でも、海田くんに開放されて、ちょっとほっとしました。
準は手の甲で涙を拭いて立ち上がりました。チョコレートは結局それ以上食べることも捨てることもできず、うちへ持って帰って自分の机の奧にしまいました。
それからというもの、廊下を歩いていると足を引っかけたり、靴を隠したり、海田くんは準にいろんなことをしてきます。準は学校で海田くんに顔を合わすのがイヤでイヤでたまらなくなりました。
「今度の日曜日、俺んちへ来いよ」
そんなある日、突然海田くんが準にそう言ってきました。
「は、はい・・・」
準はもちろん行きたくないのですが、やっぱりイヤだって言えませんでした。準は今度はなにされるのだろうと不安に思いながら、日曜日を迎えました。 −続く−
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