せいくらべ
第6話:せいくらべ
 「準、こっちへ来なさい」
 準が柏餅を食べていると、お父さんが呼びました。
 「なあに」
 「ちょっとここに立ってみて」
 お父さんは、5月5日は子どもの背を測るものだと思っています。毎年同じ柱で、準の身長の記録をとっているのです。
 「そんなに変わってないよ〜」
 準がちょっと面倒くさそうに答えます。
 「いいからいいから。・・・あ、ずるしちゃダメ」
 「エヘヘヘ」
 準は背を測ってもらうときはそうするものだというように、背伸びをします。お父さんは準の肩を押さえて、頭の上にそっと本の背表紙をあてがいます。そして、柱に鉛筆で印を付けました。
 「ほら、去年より5センチも伸びてるぞ」
 「ほんと?」
 自分では実感がないのに、たしかに去年よりも背が高くなっているのです。
 「大きくなったなあ」
 お父さんは息子の成長を喜んでいますが、準はちょっと不満です。
 「ねえ、ぼくはもう長いこと子どもなんだけど、いったいいつになったらほんとに大きくなるのかなあ」
 親戚に遊びに行ったりすると、かならず準ちゃん大きくなったねえ、と言われます。でも、そう言われる割には全然大きくなっていないのが、準には不思議なのです。
 「ハハハハ。それは大きくなったねえと言われなくなったときに、ほんとに大きくなったってことじゃないのかな」
 「ねえ、ぼくはいつごろ、大きくなったって言われなくなるんだろう」
 「準はまだ4年生だろ。まだまだ・・・いや、もしかしたらあっという間かもな。そう思うのは、大人になってからだけどね」
 「・・・ふうん」
 無限とも思える時間を、あっという間って言ってしまうなんて、大人ってよくわからないなあ。でも、ほんとに大きくなったときに、ぼくにもそのことがわかるんだろな、きっと。結局なんだかよくわからないまま、納得する準でした。

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