「準、こっちへ来なさい」
準が柏餅を食べていると、お父さんが呼びました。
「なあに」
「ちょっとここに立ってみて」
お父さんは、5月5日は子どもの背を測るものだと思っています。毎年同じ柱で、準の身長の記録をとっているのです。
「そんなに変わってないよ〜」
準がちょっと面倒くさそうに答えます。
「いいからいいから。・・・あ、ずるしちゃダメ」
「エヘヘヘ」
準は背を測ってもらうときはそうするものだというように、背伸びをします。お父さんは準の肩を押さえて、頭の上にそっと本の背表紙をあてがいます。そして、柱に鉛筆で印を付けました。
「ほら、去年より5センチも伸びてるぞ」
「ほんと?」
自分では実感がないのに、たしかに去年よりも背が高くなっているのです。
「大きくなったなあ」
お父さんは息子の成長を喜んでいますが、準はちょっと不満です。
「ねえ、ぼくはもう長いこと子どもなんだけど、いったいいつになったらほんとに大きくなるのかなあ」
親戚に遊びに行ったりすると、かならず準ちゃん大きくなったねえ、と言われます。でも、そう言われる割には全然大きくなっていないのが、準には不思議なのです。
「ハハハハ。それは大きくなったねえと言われなくなったときに、ほんとに大きくなったってことじゃないのかな」
「ねえ、ぼくはいつごろ、大きくなったって言われなくなるんだろう」
「準はまだ4年生だろ。まだまだ・・・いや、もしかしたらあっという間かもな。そう思うのは、大人になってからだけどね」
「・・・ふうん」
無限とも思える時間を、あっという間って言ってしまうなんて、大人ってよくわからないなあ。でも、ほんとに大きくなったときに、ぼくにもそのことがわかるんだろな、きっと。結局なんだかよくわからないまま、納得する準でした。 |