「5月5日って、男の子の日でしょ」
準がお母さんに訊きました。
「そうよ」
「でも、子どもの日なんだよねえ」
「そうよ」
「女の子は3月3日もあるのに、なんか不公平だなあ」
「でも、お休みなんだからいいじゃない」
お母さんはそういいましたが、準はなんか不満です。
「ねえ、こいのぼり買ってよ」
突然準はそんなことを言い出しました。
「なに言ってるの、ちゃんと持ってるでしょ」
「だって、小さいんだもん・・・」
昔アパートに住んでたから、準のこいのぼりは「団地サイズ」というやつです。大きなこいのぼりを見ると、うらやましくなってしまいます。
「それに、黒いの1匹だけだし・・・」
「緋鯉はあなたが落書きしてダメにしたでしょう」
「そうだけど・・・」
準が幼稚園のころ、赤いのがイヤで、青いクレヨンで緋鯉を塗りたくってしまったのです。準はそっちの方がかっこいいと思いましたが、当然のごとく大目玉をくったことを、忘れたわけではありません。
「そんなに欲しかったら、おじいちゃんにでも頼んでみたら」
「えーっ」
4年生になってこいのぼりをおねだりするなんて、さすがの準もちょっと恥ずかしいと思ってしまいます。
「イヤなら、あれで我慢しなさい」
「・・・はあい」
準はしぶしぶ返事をしました。
「ねえ、こいのぼりってどうして上げるの」
また準がお母さんに訊きました。
「男の子が、元気に健やかに育って欲しいって願いをこめて上げるのよ。準のこいのぼりはね、あなたの初節句の時に、おじいちゃんが買ってくれたものなのよ」
「ふうん、そうかあ」
こいのぼりにそんな意味があったなんて、準は初めて知りました。そして、せっかく自分のために買ってくれたこいのぼりを悪く言ったことを、ちょっと反省しました。
準は外に出て空を見上げました。五月晴れの空を、1匹の鯉がゆうゆうと泳いでいます。準はいつまでも自分のこいのぼりをながめていました。 |