入学式の準
第4話:入学式の想い出
 新学期が始まりました。
 準は通い慣れた通学路を、ひとりで登校しています。
 風にのってどこからか飛んできた桜の花びらが、ちらほらと舞っています。穏やかな、春の一日の始まりです。
 何人かの子たちが、走って準を追い抜いていきました。見ると、新しい一年坊主達です。黄色のカバーをつけた新しいランドセル、ぶかぶかの制服・・・自分にもあんなころがあったなあと、準は昔のことを想い出しています。

 入学式の日、準はお母さんに手を引かれて、初めて学校の門をくぐりました。式は体育館でありましたが、言われるままに並んだりしただけで、別に特別の感動はありませんでした。
 式が終わって、うちに帰る道々、準はお母さんに言われました。
 「明日からは、この道をひとりで通うのよ」
 準は自分にできるのかと、ものすごく心配になったのをおぼえています。
 校門の前で撮ってもらった写真が準のアルバムに残っています。桜吹雪の中、緊張した面もちで、何とも不安そうな顔をしています。お母さんがついてきてくれなければ、泣き出していたかもしれません。
 よく、一年生になるのが待ち遠しくて、入学前にランドセルを持ち出して叱られた、なんて話を聞きますが、準にはそんなことはありませんでした。希望よりも、新しいことに不安をおぼえてしまうほうが先にきてしまう性格なのです。もっと何事も楽しめたらいいのになあ・・・。

 ♪一年生になったら〜・・・さっきの子たちが、楽しそうに歌を歌っています。あの歌を聴くと、準は自分には何人友だちがいるのかなあとか思ってしまいます。
 ・・・百人なんて、とんでもないよなあ。もちろん、同じクラスになったことのある人や、近所の子たちを入れたら、百人くらいはいるだろうけど、友だちって訳じゃないし・・・。
 準は転校していった仲良しの中沢くんのことを想い出しています。中沢くんがいなくて、これからちゃんとやっていけるのかなあ・・・準はまた不安になってきました。
 ・・・でも、学校に通うのだって、あれからすぐに慣れちゃった訳だし、中沢くんがいないのは寂しいけど、何とかなるよね、きっと・・・準は自分に言い聞かせて、そう思うことにしました。

 気がつけば、もう何度通ったかわからない校門はすぐそこです。あの日のように桜が散っています。準は先ほどの一年生達のように、走って門をくぐりました。

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