おもらしした蛍くん&準くん
蛍くんと準くんの夏休み:第2章  作 Mizumori Sho (みずもり・しょう)
 蛍くんは、ふと我に返りました。
 まだ心臓がどきどきしています。背中が汗でぐっしょりです。
 ぐっしょり・・・。蛍くんはあわててズボンに手をやりました。
 「・・・やっちゃっ・・・た・・・」
 蛍くんは恐ろしさのあまりおしっこをもらしてしまったのです。実は去年もおもらししてしまって、おどかした子に助けてもらったのです。今年はまだ気づかれてないようです。
 ・・・早く逃げなくっちゃ。
 ふと隣を見ると、同じように地べたに座っている準くんがいます。
 「準くん、こっち」
 蛍くんは、まだ放心状態の準くんの手を引っ張って走り出しました。
 ・・・あれ、ぼくなにやってるんだろ。
 準くんも、ようやく気がつきました。
 ・・・それにしても、ひやっとしたなあ。あれ、ひやっとした割には、パンツがあったかいぞ・・・え?・・・。
 「わああ!。ぼ、ぼくおもらししちゃってる・・・」
 思わず準くんが声を上げます。
 「・・・うん、ぼくも・・・」
 振り向いて蛍くんが答えます。

 ふたりは裏道を逃げました。濡れたパンツがくっついて走りにくいし、夜道は真っ暗なのですが、そんなことは言ってられません。走って走って、蛍くんのうちの近くまでやってきました。
 「ねえ、どうしよう」
 「うん、困ったねえ。とりあえず、ぼくんちに帰ろう」
 「でも、この格好じゃあ」
 「・・・仕方ないよ」

 「お母さーん」
 そのままうちに上がるわけにもいかず、蛍くんは玄関でお母さんを呼びました。こういうときに男の子が頼れるのは、お母さんしかいません。
 「早かったのね」
 「・・・ぼく、おもらししちゃった」
 蛍くんは、何度言ったかわからないこの台詞を、言いにくそうにお母さんに言いました。でも、蛍くんが言わなくても、もじもじしている様子でわかったみたいです。
 「まあ、今年もなの・・・さあ、早く着替えなさい。あら、準くんは?」
 もっと辛い立場の準くんは、この様子を門の陰で見守っていました。蛍くんのお母さんに呼ばれて、思いきって出ていきました。
 「あ、あの・・・実はぼくも・・・」
 準くんが全部言い終わらないうちに、お母さんは笑い出しました。
 「あらあら・・・仲がいいのねえ。おふろがわいてるから、ふたりでいっしょに入ったら」
 叱られるかもしれないと思っていた蛍くんと準くんは、ほっとしました。
 「準くん、行こう」
 「うん」
 温かいおふろで、イヤなことはきれいさっぱり洗い流す、蛍くんと準くんでした。

 二日目の朝がやってきました。
 今日は蛍くんのお父さんに、車で海水浴に連れて行ってもらいます。
 「二人とも、ちゃんとシートベルトしめたか? 出発するぞ」
 「は〜い!」
 蛍くんと準くんは声をあわせて言いました。
 
 40分も走ったでしょうか。後ろの座席で二人がわいわいしていると、海が見えて
きました。
 「ほら準くん、海だよ!」
 「わー、ほんとだ!早く泳ぎたいなー!」
 そんな話をしているうちに、海水浴場に到着です。
 車から降りると、準くんはなぜか松林の方へ歩いていきます。
 「あ、準くんどこ行くの?」
 蛍くんが言いました。
 「え?海水パンツに着替えようと思って」
 「この先に海の家があるから、そこで着替えればいいんだよ」
 準くんのこたえを聞いて、蛍くんのお父さんが言いました。
 「え?そ、そうだよね…」
 準くんは、ちょっと照れた顔をしながら言いました。
 
 そして、海の家で全員水着に着替え終わりました。
 「あれ?お父さんは泳がないの?」
 「早くおじさんも一緒に、海で遊ぼうよ」
 蛍くんと準くんは言いました。
 「あ、いや、お父さんは泳げな…えへん、泳がないからいいんだ。海の家で待って
るから、二人で泳いできなさい」
 「えー、つまんないなあ。もー、お父さんなんかほっといて早く行こ、準くん」
 「う、うん」
 蛍くんが準くんの手を引き、海の方へ砂浜を走って行きました。
 「わー、すごく大きな波だねえ」
 波打ち際で準くんが言いました。
 「そうかなあ、これぐらい普通だと思うけどなあ」
 「でも、ぼくがよく行く海は、波ってぜんぜんないんだよ」
 「ええ!?波がない海なんてあるの?」
 蛍くんが不思議そうな顔で言いました。
 「うん。でも、そんなに驚く事かなあ」
 準くんも不思議そうな顔で言いました。
 
 二人は、水がおなかぐらいまでの浅い所で、ビーチボールで遊んでいます。
 「ねえ、蛍くん泳がないの?」
 準くんがききました。
 「え?ぼ、ぼく浅い所で遊んでるのが好きだから…。準くんこそ泳がないの?」
 「あ、ぼくもここで遊んでる方が楽しいから…」
 結局、またビーチボールで遊びはじめる二人でした。
 しばらくして、蛍くんが何かもじもじしているのに、準くんが気付きました。
 「ねえ蛍くん、どうかしたの?」
 準くんがききました。
 「う、うん…。ぼく、おしっこしたくなっちゃって…」
 蛍くんは下を向いて恥ずかしそうに言いました。
 「おしっこ?…実はぼくもさっきからおしっこしたいんだ…ねえ、このまま海の中
で一緒におしっこしない?」
 準くんがちょっと照れながら言いました。
 「ええー?海の中で?」
 「うん、きもちいいよー」
 「そ、そうだね。ぼく、もうガマンできないし…一緒にしちゃおうか」
 「じゃ、いくよ。いっせえのー…」
 「………」
 「………」
 「あー、すっきりしたー」
 蛍くんが言いました。
 「きもちいいよねー。してる時はちょっとあたたかいし」
 準くんが笑いながら言いました。
 
 それからしばらく遊んで、二人はお父さんの待っている海の家へ戻りました。
 「どうだ、楽しかったか?」
 お父さんがききました。
 「とぉーっても楽しかったよ!ねえ、準くん」
 「うん!すごく楽しかったです」
 二人が元気にこたえました。
 「二人とも、かき氷食べてから帰らないか?お父さんも食べたいし」
 「わー、食べる食べる!準くんも食べるよね?」
 「うん!」
 「よーし、じゃあ決まりだ。すみませーん!かき氷3っつください。お父さんは氷
レモン…準くんと蛍は何がいい?」
 「ぼくイチゴね」
 「ぼくはミルクがいいです」
 「じゃあ、レモンとイチゴとミルクをお願いしまーす!」
 お父さんが大きな声で、お店の人に言いました。
 すぐにおいしそうな、かき氷が運ばれてきました。
 「いただきま〜す」
 二人は声をあわせて言いました。
 
 海水浴から帰ってきて、その日の夜。
 今日の夕食はカレーライスです。
 「今日のカレー、ちょっと辛いよ」
 蛍くんと準くんは、水をいっぱい飲みながら大好きなカレーライスを食べています。

 「川咲くーん」
 外の方で蛍くんを呼ぶ声がしました。その声は昨日の近所の友だちです。
 ・・・や、やばい。
 蛍くんは、危うくスプーンを落としそうになりました。そして、隣の準くんにそっと耳打ちをしました。
 「ぼくらのおもらしのこと、みんなにばれちゃってたらどうしよう・・・」
 誰にもわからないように帰ってきたつもりですが、もしかして見られてたかも・・・。
 「えーっ。だったら今頃、街中どころか、日本中の大評判になっちゃって・・・」
 「そうかもしれない。ねえ、どうしよう・・・」
 「うん、困ったねえ・・・」
 「蛍ちゃん、早く出たら」
 お母さんに言われて、蛍くんは覚悟を決めて玄関に出ました。
 「な、なあに・・・」

 −続く−

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