桐生うどん

 西の西陣に東の桐生と称される絹織物の産地桐生市、名前は有名だが何県にあるのかお分かりだろうか?栃木県?東の端ではあるが群馬県にある。
 以前、群馬県は小麦の生産量が多いと書いたが、赤城山の南の地方は特に質もいいとされる。家庭で麺を打つのは当たり前、冠婚葬祭には必ずうどんを出し、四十九日の法要にはうどんやで作った干しうどんを町内に配る習慣まで生まれた。人口13万の町にうどん店が78軒以上あるのもうなずける。最近では、この78軒が店の位置、自慢のメニューを地図に記しコメントした「うどんマップきりゅう」も作った。うどん好きもいるようで「桐生うどんそば食べ歩き記二枚目」なる本を自費出版した人もいる(そばうどんでないところに注目)。 

 桐生うどんの典型的メニューは「もり」だ。もりとは「茹であげたうどんをもりせいろにのせ、少々の薬味で麺そのものの味を楽しむもの」との説明があった。つまり簡単に言うとざるの海苔がないやつである。
 朝、香川を発つと、飛行機と新幹線を乗り継いでも桐生に着くのは正午だ、うどんの食べどきの11時30分に着かないのが少し残念ではある。ここまで読んできて、「ところでなぜ桐生に行ったの?」と聞く人がいるだろうが、「うどんを食べに行ったのだ」こう答えるとますます混乱する人もいるだろう。スキーのためだけに北海道へ行く人や、美術館巡りにフランスへ行く人がいる時代だ、麺聖がうどんを食べに桐生に行っても許されると思う。
 時間がないので地図を眺めて駅の近くの店を攻めることにした。香川県人はうどん=麺、つまり(決して嫌いではないが)上にのっかっているものを考え店は選ばない(だしも一部の人にとってはおまけかもしれない)。麺聖も当然メニューがよりシンプルなところを選んだ。即ちお勧めが天ぷらうどんとか鴨南蛮など書いてある店は避けもりを攻めたのだ。 

 まず商店街を折れてすぐの山本屋本店、桐生に数ある山本のルーツだそうだ。ここから暖簾分けした店が「*山本」と名乗る。ご主人によると桐生のうどんは堅さも太さも店でバラバラだそうだが、ご主人自身は柔らかめの麺を好むそうだ。麺の決め手は粉よりも塩加減と熟成だと熱心に語ってくれた。
 次は通りから少し入った路地の奥の第三山本、この路地を入るという行為はなかなかの店が、と期待させる。案の定、路地の奥にはなかなかの風情を持ったレトロな店が建ってあった。感動し写真をとり次へと向かった。(冗談です)店の中もなかなか期待を裏切らない造りで、これだけで「ゲリラうどん通ごっこ」に登場しそうである。もりを注文したがつやつや輝く太めの角ありの少しねじれた麺がでてきた。これは出色の出来であった。
 最後に新聞でも紹介された川野屋本店、写真を撮っているとおばさんにもっときれいな店があるのにと言われた。きたない店を撮っているのですとは答えられず笑ってごまかした。店構えからは期待を持ったのだが、時刻は一時半、遅く着いた私が悪かった。少し伸びた麺を冷やしにしたようなもりうどんだった。ここは次回に期待したい。

 実はこのほかもう一軒レストランのような一般店でかけを食べたがこれはまずくて食べられたものでなかった。その店が特にひどいのかどうかは確かめる勇気と体力がなかったが、まずい麺でも冷たく締めると食べられる、冷たい麺を食べ、まあまあと思い油断し熱い麺を食べるとひどい目に遭う、ことは多い。県外でどう考えてもまずい店で食べなければならないとき、釜上げは避け(たぶん箸で持ち上げようとする前に切れる)ざる、あるいは生卵をもらう(かき混ぜて味をごまかす)、これは鉄則だ。
 うまい店もありまずい店もある。地図をよく見ると山本の他にも宮島庵、藤屋、川野にもよく似た名前がある、分家なのだろうか。もっと多くの店で食べたいが昼時の2時間程度では4玉程度が限度かと思う。お腹の容量に限りがなければ名物のソースカツ丼も食べたかった、風の強い寒い日の旅であった。

index.htmlに戻る 武者修行の旅に戻る

(写真が多く見れるだけですが、Netscape Navigator 3.0以上推奨)