第3章 実施にあたって
1.現在実施可能範囲

 当薬事制度研究会は別紙資料1に発足当時の紹介を記載していますように、同業種の中の
異能者の集まりであることから、卒後教育調査班では数回にわたって討議してきた結果、
卒後教育に対する協力及び実施可能範囲について各委員の間で次のような合意に達しました.

1)異能者の集団を各専門分野の集団に変えて7〜8つのグループを編成する.
2)近畿大学薬学部の独自性を強調する意味で,一年を通じて毎週土曜日又は日曜日にどこかの
グルー プが講座を開いているような形式(分科会方式)を基本とする(大学の諸行事及び会場などの
都合 も考慮して最低年間35週を確保予定).
3)各グループが年間の目標に沿って教育内容を企画立案する.

 具体的に薬事制度研究会の各グループの卒後教育に対する考え方並びに協力できうる骨子を紹介します.

a.開局グループ

 一般の中小小売り店舗においては,後継者難の状況にあり,現状では大型ドラッグ・ストアが
全国展開を始めるとその経営はますます困難なものとなることが予想されます.
零細な薬局であっても,一般サラリーマン以上の生産性を上げて豊かな暮らしが出来るように
しておかなければ今後ますます後継者問題は深刻化するものと予想されます.
 薬局経営者の師弟の在学生を含め,独立を目指す方々に開局の準備から開局後の日常業務に至るまで
実習を含めた教育を行い,その中で現在直面している問題点として例えばインフォームド・コンセントや
保険調剤薬局そして「かかりつけ薬局」などについて種々の立場にある人たちからの話を聴いたり
その対策なども含めてた勉強を考えています.

b.病診グループ

 わが国の医療制度が変革期に入ったと言われて久しいですが,医療法の改正や診療報酬制度の
改定が現実のものとなり医療環境の変化は着実に現われてきています.
病院薬剤師業務に関係する代表的な例として,薬剤師による病棟業務への参画期待があげられましょう.
このような状況を背景に,非常に多くの専門職能が業務分掌している医療の中で,お互いのテリトリーを
尊重しつつ薬剤師が職能を確立・発展させるためには,たゆまぬ研鑽・努力が必要であることは論を待ちません.
もちろん,病院・診療所勤務薬剤師の自己啓発への取組は非常に熱心で医療の最前線に職する者の責任感が
感じられます.
一方,研修会や講演会などへの参加機会は非常に多く,情報過多の時代と言われていますが,本当に有意義な
情報は施設間格差もあり,平均的には決して十分ではありません.
日常業務の問題解決や新しい業務への取っ掛かりを見付け業務を更に発展させて行くためには,
目的を明確にした研修会への参加が必要であります.
近畿大学薬学部の卒業生が激変の医療の中で今後も活躍して行くため,一般的な薬剤師研修会に併せて
業務別の目的意識を持った卒後研修会を開催してはいかがでしょうか.
病院薬剤師,開局薬剤師を問わず,研修テーマによって薬剤師が集い十分に討論することが望まれます.
更に,これらの研修が生涯教育のポイントになるならばなお幸いと考えています.
講師やアドバイザーになっていただく先生は,卒業生の中にも多く居られますが,必要に応じて学外からの
招請を考慮すればなお良いのではないかと考えています.これらの研修会開催へのお手伝いの労は
惜しまない所存であります.

c.MRグループ

 独占禁止法運用の強化,取引慣行の改善,新仕切価 格の実施,薬価改正(加重平均方式の導入),
診療報酬の改定,第2次医療法の改正,老人医療法の改正,GPMSP(Good Post Marketing
Surveillance Practice:新医薬品等の再審査の申請のための市販後調査の実施に関する基準),MR(Medical Representatives:医薬情報担当者)の在り方の報告書,臨床医薬品の適正化など薬業界を取り巻く環境
の変化には目を見張るものがあります.
このような変化の中で MR として適応していくために各自の研鑽が今迄以上に必要となってきました.
現在のMRの問題点は,MRは自社の製品の薬理作用についてはかなりの専門的な知識を持っていますが,
生理学と関連した 理解の仕方は非常に弱いと思われます.
将来 MR は資格制度になる可能性があります.また特定機能病院専門のスーパー MR を育成している企業も
すでにあります.更にMR のランク付けをしょうと考えているメーカーもあるようです.

 このように今後薬学部卒業生が MR として活躍していくに当たっては重要な役割を果たすようになります.
 また,今後の問題としては大手メーカーの管理職MRはほとんどが薬剤師ですが,兼業メーカーでは10%に
満たないところもあるなど企業間でのMRの取り組み方に違いが出てくるということです.
 以上の現状をふまえてMR から見た薬業界を取り巻く環境の変化について製薬企業の営業,開発,研究に
携わる人たちの協力を得て勉強していきたく思っています.

d.創薬グループ

 『薬』を創り出す『場』としての企業並びに大学等の研究機関においては,医学・薬学・生物学・化学など
広範な領域の知識及び技術が要求され,情報も含めてその『場』に立つ者としては,最近の科学技術や
理論の進歩の速度に追いつくことが仕事の大半を占めているのが現状です.特に薬学部出身者は,
元来広く浅くかつ満遍なくこれらの領域を網羅し,把握しているはずですが,意外にも自己の領域だけに
留まっている方が多いようですまた,
実際に研究開発の実務についても既製の考え方から出られず,応用力に欠ける新人が増加していることも
事実です.
より強力な開発体制を考えると,より完全な形の研究者の卵を造り出して欲しい訳ですが,諸般の事情からか,
一向に改善されていない様子です.企業側からのニーズとして,医学領域は医者に,化学領域は理学部
出身者にと云う形ではなく,総合的な発想で『薬』を考えて欲しいと思っています.実社会の中で,種々の
職場でご活躍中の卒業生の方々にも,自己の領域との境界領域の情報知識があればとのお考えの方も
居られる様にも思われるので,いわゆる『実学』と云う観点でもう一度,薬学領域の知識を再構築する場として
卒後研修を位置づけるのも一つの特色と考えます.また,薬に関わっているにも拘わらず,体や健康,
環境についての応用知識が乏しいことも私たち薬学出身者の特徴と言われますが,学会の高度かつ難解な
講義ではなく,実生活の中から派生するテーマで,少し深く掘り下げて見ることも新規な吸収方法として
取り上げようと考えています.平面的な発想からではなく,幾つもの領域,分野を総合して考える機会として
いきたく思います.例えば,『水』から始めれば,環境の汚染や健康だけでなく体内での薬の吸収や
代謝や動態にまで解説することになりますし,日常の些細な疑問の答えにもなり,学問としての観点では
得られぬ情報となると考えます.実社会に役に立つ知識を実学的な観点から解説することで,薬を
より身近なものとして捉え,『新しい薬』を創り出す一助としたいと考えています.

e.流通グループ

 医薬品の流通については,独占禁止法・公正取引上の現時点での問題解決が必要です.その一つは
卸部門が関係する医療機関における建値制度,モデル契約など取引慣行に関するものが挙げられます.
もう一つは小売り部門における再販制度の適用除外の見直しです.このように日米構造協議に端を発した
これらの問題点は,商慣行が一国の国内問題として片付けられるものではなくなってきたと言うことです.
現在商慣行に対して国際的な透明性を求められている訳です.良い悪い,好き嫌いに係わらず我が国の
経済の国際化に伴って米国流の価格競争が働きやすいような経済体制への移行を余儀なくされています.
 人間の生命に直接関与するということで,従来まで医薬品についての特殊性を標榜することで価格
については硬直的であったものが経済原理,競争原理に巻き込まれざるを得ない状況になってきているのです.
 この外,医薬分業問題・小売業を取り巻く環境変化の問題(大型店,自然発生的な旧来の商店街の衰退と
ショッピング・センターの増加,セルフ販売の増加,経営者の高齢化と後継者難)等課題は多くあります.
 以上のような問題点を中心にした勉強を考えています.

f.臨床検査グループ

 病院薬剤師に対しては,DI活動・投与薬物の血中濃度測定(TDM)・入院患者への服薬指導などの業務や
医師とのディスカッションの中で話題提供していくためにも臨床検査データを理解し解析する能力を養っていく
必要があります.開局薬剤師にとっては,セルフケアの時代に伴い一般用医薬品として妊娠判定薬・尿中蛋白・
糖試験紙などが取り扱われています.それらの現状での再確認や献血時の血液検査データについて相談
された時の検査値に関する質問に的確な回答が出きるようにする必要があります.その他創薬関係の
人たちは検査薬の開発,製造,販売などに携わっており高度な検査知識が必要となってきます.
これら最低の必須知識を取り入れていくためにも医学部と協力の基に病態と関連づけた臨床化学の
教育が望まれます.

g.行政グループ

 公務員としての薬剤師は,多種多様な分野例えば国や地方公共団体における厚生行政,病院診療所,
試験研究所の研究業務,教職,税関・麻薬等の取締などに携わり地道に活躍しています.これら公務員の
中でも,特に厚生行政に携わる者の立場から教育について考えてみました.行政=公務員=お役人=
お役所=お役所仕事=後手仕事という悪いイメージで見られることが多いですが,行政は世界や国内の
情勢を真っ先に把握し,的確な判断の下に国・都道府県・市町村それぞれが一体となって法律等施策の
企画立案,実践をしなければならなりません.
私たちは単なるお役人であってはいけないのです.少なくとも目的に沿った行政施策のプロであり,
それを生かしていくためには法律等の解釈だけでなく,背景やより深い専門知識が必要となってきます.
 そのために,私たちは常に知識の収集と啓蒙を講習会や勉強会等の場で実施しています.卒後教育の
場を借りることができれば,更に多くの薬剤師に対して啓蒙することができ,また知識を得る手段になれば
行政としては願ってもないことです.
 薬剤師が多く携わる厚生行政としては薬事,食品,環境等があり,幅広い分野での協力ができます.

h.薬剤師以外グループ

 薬業界において薬剤師以外から見て薬剤師に望むことなど.

2.将来実施していくべきこと

 近畿大学薬学部卒業生が受講するに当たって魅力ある企画はどしどし取り入れていくべきです.
そのためには,広く意見を聴きまた述べることのできる制度も必要と思われます.また,薬学部の
6年制度が実施に向けて模索されており,6年制に移行した時の既卒業生に対する教育についても
今から考えておくことが必要で,出きれば卒後教育の中にうまく組み込めるようにしてはいかがでしょうか.
 在校生に対しても今後聴講させていくような方向に持って行き,実社会とのギャップをある程度埋める
手助けに利用していただければ幸甚に存じます.


目次