自衛隊、安保はもういらない
     前田寿夫
  週間金曜日 2003年5月23日号
 
必要だから存在しているのではなく、
存在するために次から次へと
「必要」だというロ実を考える一一
それが、現在の自衛隊の本質だ。
しかも自衛隊を生んだ日米安保条約
自体、「日本を守る」という虚構にす
ぎない。
 
 日本の防衛政策を考えるにあたっ
ての前提は、周囲が海で陸続きの国
がないため、こちらから手を出さな
い限り他国との揉め事は起こりにく
いという事実です。日本が何もしな
いのに相手が攻めてきた例は、せい
ぜい蒙古の元冠ぐらいでしょう。
 
 今日も、周辺諸国との間で軍事力
で解決しなければならないような問
題は存在しません。したがって、自
衛隊が想定しているような「日本が
どこかの国から攻め込まれる」など
という事態は、まず考えられません
(略)
 本来組織というものは、絶えずそ
れが「必要なのだ」ということを示
すことが求められます。自衛隊も同
じで、存在理由がなくなると困って
しまいます。そのため、自分で「脅
威」を作ることはできませんから、
常にどこかに「脅威」を求めるよう
になる。また自衛隊はこれまでさま
ざまな兵器を購入してきましたが、
それを使うためにも理屈を考えてき
たのです。
 
 これは必要だから存在するのでは
なく、存在するためにその「必要性」
を次から次に考え出すという逆立ち
した現象ですが、その結果、毎年実
に五兆円もの防衛費が投じられ、予
算規模で見ると自衛隊は世界で二な
いし三番目の軍隊に成長し、それが
既成事実化されてきました。
 
冷戦後も出番つくる
 
冷戦時代は、旧ソ連が海を越えて
軍事力を展開する能力はなかったに
もかかわらず、北海道の「敵前上陸」
に備えるという名目で大規模な機甲
部隊を配置し、現在に至っています。
 
 さらに冷戦後も、自衛隊は自分たち
の出番を作るため次々に手を打って
きました。
 
 まず、1992年にPKO(国連
平和維持活動)で「国際貢献」と称
して海外派遣に道を開き、武器も使
えるようにしました。97年秋には、
日米両国が合意した「日米防衛協力
のための指針」(新ガイドライン)で、
旧ガイドライン(78年)にうたわ
れていた「日本に対する武力攻撃が
あった場合の日米軍事協力」に加え、
「周辺事態における日米軍事協力」が
盛り込まれました。
 
 これを受けて99年5月に成立し
た「周辺事態安全確保法」では、「周
辺事態」の意味をあいまいにしたま
ま、それまでの自衛隊の基本政策だ
った「専守防衛」を捨て、日本への
武力攻撃がなくとも、わが国の領域
外で活動する他国の軍隊の支援を行
なえるようにした。
 
 政府は、軍の活動に対する支援は
「後方地域支援」であり、「戦闘地域
の外」で行なうとしていますが、
日の戦争では前線も後方もありませ
。これは事実上、憲法で認められ
ていない「集団的自衛権の行使」
踏み込んだものでした。
 
 2001年には、「9・11テロ事
件」を口実に、「テロ対策特別措置
法」でインド洋まで海上自衛隊が出
動して、米軍へ物品や役務を提供で
きるようになりました。しかもアフ
ガニスタンを攻撃する米軍の支援が
名目だったにもかかわらず、イラク
戦争の支援にすりかわってしまった。
 
 そして、現在の「有事法制関連三
法案」です。そのうちの「武力攻撃
事態対処法案」では、「日本が攻撃さ
れた場合」のみならず、「武力攻撃の
おそれれのある場合」や「武力攻撃が
予測されるに至った事態」まで自衛
隊の武力行使が認められています。
 
北朝鮮の「脅威」などない
 
 さらに、領域外に出動した自衛隊
への攻撃も「外部からの武力攻撃」
に含まれるので、「周辺事態安全確保
法」や「テロ対策特別措置法」で
域外に出動した自衛隊は、自由に武
力行使ができることになります。
 
 しかし繰り返すように、日本は他
国と武力衝突を起こすような状況下
にはありません。もし戦争の危機
あるとすれば、日本が安保条約のた
めに米国の戦略にのめり込んで、そ
の結果戦争に巻き込まれるというケ
ースしかない。
 
 現在、盛んにマスコミなどを通じ
て北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和
国)の「脅威」が煽られていますが、
日本がこの国と戦争をしなければな
らないような理由はありません。た
しかに「不審船」だの「工作員」だ
のを口実にして、「脅威」だと騒ぐ向
きもあります。
 
 しかしこれらの活動は、米軍が占
領後も日本に居残り、日本を基地に
して、日米安保条約を使って北朝鮮
に対し軍事活動を展開しているから、
その反応として北朝鮮側が行動して
いるにすぎません。
 
 しかもブッシュ政権は、公然と他
国を先制攻撃するなどと言っていま
すし、核攻撃を加える対象国に北朝
鮮を含めている。いわば、米国と北朝
鮮との間の対立関係に日本が巻き込
まれている構図であり、「はじめに北
朝鮮の脅威ありき」では決してない。
 
 それに脅威というが、中国はすで
にずっと以前から核ミサイルを保有
しており、いつでも発射できる態勢
にあります。だが中国が日本にとっ
て当面脅威とされていないのは、ど
ういう兵器を持っているかではなく、
両国関係が武力でしか解決できない
ような険悪な問題を抱えていない
らにほかなりません。
 
安保も自衛隊も虚構
 
 ところが『防衛白書』は北朝鮮の
脅威をあおり、有事法制でも「陣地
を構築するために家屋を撤収する」
というような、あたかもこの日本で
地上戦が起り得るかのように想定し
ている。旧ソ連ですら日本への上陸
作戦を展開する能力がなかったのに、
北朝鮮がそのような作戦をできるわ
けがない。しかも、目の前で韓国と
対時しているのに、それを素通りし
て日本に攻め込むとでもいうのでし
ょうか。(略)
 
 さらに、もし日本が米国の戦略に
巻き込まれて北朝鮮との間で戦争状
態になったとしても、北朝鮮側が日
本に対してできる攻撃としてはミサ
イルを発射することぐらいしかあり
ません。米国はTMD(戦域ミサイ
ル防衛)を月本と共同開発しようと
持ちかけてきましたが、これが実際
に使えるかどうか分からない。とい
うより、ミサイル攻撃に対処する有
効な手段は、実は存在しないのです。
 
 ところが、誰もこうした事実を指
摘しない。米国は本土に北朝鮮のミ
サイルは到達しないので気が楽です
が、逆にもし日本が戦争に巻き込ま
れて首都圏にミサイルが落ちたりし
たら、たいへんな被害を受けます。
有事法制を制定して米国の戦争政策
に忠義立てしても、泣きを見るのは
日本ではないか。「万が一に備える」
などという有事法制の名目が、戦争
を呼び込んでしまいかねないのです。
このように、日米安保条約はわが
国にとって脅威を作り出している
この条約が「日本を守るため」とい
う虚構の上に成立している以上、そ
れが作り出した現在の自衛隊も、そ
して有事法制も、虚構の存在です。
 
 わが国が平和を維持しようとする
なら、必要なのは自衛隊の強化でも
有事法制でもない。米国の戦争に日
本を巻き込む可能性がある安保条約
を、第一に廃棄すべきでしょう。
軍との関係を徐々に薄くしていき、
最終的には日本から出て行ってもら
うことが日本の平和と安全にとって
一番の得策なのです。(談)
      聞き手/編集部・成澤宗男
 
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法律違反だらけのイージス艦派遣
   前田哲男(東京国際大学教授)
    週間金曜日2002年12月13日号
 
 いうまでもないことだが、「イージ
ス護衛艦」の性能が問題なのではな
い。核心は、米軍によるイラク攻撃
が差し迫ったこの時期、そしてアー
ミテージ米国務副長官の来日日程
(2002年12月8日)(略)
に合わせる形で、イージス護衛艦
を日本艦隊の”フラッ
グシップ”(旗艦)としてインド洋
に送り出し、戦闘支援への旗を公然
と掲げた小泉政権の露骨な対米迎合
ぶり、そして法の枠組みを無視して
憚らない反立憲的な姿勢にある。
 
 イージス艦派遣は、それ自体の違
法性のみならず「新ガイドライン」
以降における”日米安保青天井化”
の流れを確定する象徴的な事例であ
るがゆえに、糾弾されるべきなので
ある。決定に至る過程と今後に予測
される情勢展開を考えれば、イージ
ス艦派遣が海外派兵=集団的自衛権
行使の本格的第一歩となることは、
だれの眼にも明らかだろう。それは
「満州事変」を機に、目本陸軍がア
ジア大陸の広大な戦場にのめり込ん
でいった過去を思い起こさせる。
 
 かりに、自衛隊の現状を合憲(ず
いぶん無理な見方だが)としてみよ
う.しかしその場合でも、自衛権の
行使は、@日本に対する急迫不正の
侵害の発生、A他に対抗手段がない
場合、B必要最小限度の実力行使に
限定、という三要件を満たす事態し
か許されないというのが政府みずか
ら打ち出した規範である。
 その上で自衛隊法は、任務を「直
接侵略及び間接侵略に対しわが国を
防衛すること」(第三条)と領域防衛
に限定した。また自衛隊法成立のさ
参議院は「海外出動をなさざる決
議」を付し、海外派兵禁止をかさね
て確認している。これらすべてが今
日も有効であるにかかわらず、外国
の戦争、海外の戦場に自衛隊の最新
鋭装備を提供してなお合憲だと言い
張るのは、まともな法治国家のあり
方ではない。つくられた謀略により
海外出兵の道を開いた「満州事変」
との相似性は、ここに明瞭である。
 
 また、かりに日米安保条約が合憲
だとしよう(これは.一応最高裁判決
で示されている)。ただ、その合憲
性は、条約五条に明記された「日本
国の施政の下にある領域に対する武
力攻撃」に限られるものであり、あ
くまで日本防衛に限定された共同軍
事行動が基準とされる。安保条約が
改定されていない以上、条約区域を
拡大することは安保合憲の立場から
見ても違反とならざるを得ない。
 
 なるほど「新ガイドライン」で”周
辺事態”対処が容認された事実はあ
るが、ガイドラインは政府間取り決
めにすぎず、国会で批准された条約
を修正できるものとはいえない。そ
のような文書を根拠に領域外での対
米支援を正当化し、イージス艦
派遣にまで拡大できるとするなら、
安保条約5条はもはや有名無実となり、
対米支援はどこにでも、また何にで
も可能になる。
 
 ここにも”なし崩し既成事実化”
呼ばれる日米防衛協力の悪癖が、極
まったかたちで露呈されている。し
たがってイージス艦問題は”終わり”
ではなく、それに続くPー3C哨戒
機や掃海部隊派遣、最終的には外国
領上.における地上活動にまで引き継
がれる”始まり”と受け止めておく
べきだろう。
 
 さらに「テロ対策特措法」(これは
”かりに”でも合憲といえないが)、
をイージス艦派遣の根拠にするとし
ても、この法律は「9・11事件」後
のアフガニスタン攻撃に向けて制定
されたものであり、直接であれ間接
であれ他の目的に転用できない。加
えて派遣基本計画に「情報収集」と
いう任務はどこにも見当たらない。
「イージス護衛艦の優れた情報収集
能力」を主張できる余地など、はじ
めから存在しないのである。
 
 イージス艦は、もとより派遣すべ
きでない。しかし、それだけでは不
十分だろう。必要なことは、今や明
白となった安保の無境界化と自衛隊
海外派兵の常態化ー「夫インド洋、
妻は東チモール」と自衛隊機関紙の
見川しにあったーを直視し、関東
軍・アメリカに押されて”新たな満
州事変後”へと進む小泉政権に反対
世論を結集することである。
 
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国際人道法逸脱を恥じぬ米国のアルカイダ兵処罰
 阿部浩己
       週間金曜日2002年4月12日号
 
 九・11自爆テロの後、米国政府は国家緊
急事態を宣言し、一ヵ月ほど間隔をおいてア
フガニスタンヘの武力攻撃を開始した。これ
により、事態は明白に国際人道法の適用を受
けることになった。国際人道法とは、武力紛
争を規制する国際法の一分野で、一九四九年
に署名された四つのジュネーブ条約と七七年
に採択された二つの追加議定書などからなる。
(略)
 だが大統領領命令にもとづく軍事委員会の設
置と、グアンタナモ基地に移送されたアルカイ
ダ兵の処遇には、国際人道法を軽視して
恥じぬ米国の傲慢な態度が見てとれる。
 
 第1に、米国の大統領や政府高官は、アル
カイダ兵らを「不法戦闘員」、「殺人者」など
と呼び、国際人道法の適用を受ける資格がな
いかのような発言を繰り返しているが、これ
は捕虜の取扱いについて定めたジュネーブ第
三条約(捕虜条約)の公然たる否認というし
かない。同条約は、捕虜にあたるかどうか疑
いがある者について、「権限のある裁判所」で
個別にその地位を決定すること、そして、そ
れまでの間は捕虜として処遇することを求め
ている(五条)。この規定により、交戦行為中
に捕えられた者は、「権限のある裁判所」によ
ってその地位を決定されるまで、捕虜として
の推定を受けるものとされている。アルカイ
ダ兵をその例外とする理由はない。
 
 意外に思うかもしれないが、米国は、湾岸
戦争のときなど、捕虜にあたるかどうか疑い
が生じた者の地位を「権限のある裁判所」で
決定した実績をもつ。また、そうすべきこと
を定める国内法令もおいている。米国による
アルカイダ兵の処遇には、米国自身のこれま
での国家慣行に照らしても疑問符がつく。
 
 第二に、軍事委員会は構成メンバーも訴追
されるべき者も大統領・国防長官が決める
政機関にすぎず、捕虜を裁くことはできない
もし、アルカイダ兵の中に捕虜となるべき者
がいた場合、その裁きは捕虜に対し独立・公
平な裁判を保障するよう求める捕虜条約八四
条を根底から踏みにじるものになる。それは
「条約に対する重大な違反」にあたり、大統領・
国防長官自身の刑事責任を引き起こすことに
もなる(130条)。また、裁定を独立した機
関に上訴/再審申立する権利が認められてい
ないことも、捕虜条約の要請にそぐわない。
 
 第三に、アルカイダ兵は、捕虜の資格を否
定される場合には、文民として処遇されなく
てはならないが、そうなれば、文民の保護に
関するジュネーブ第四条約が適用され、人道
的待遇と、公平かつ正式の裁判が保障されな
くてはならないことになる(五条)。この違反
も「重大な違反」として大統領・国防長官の
刑事責任を伴う(一四七条)。
 
 仮に、捕虜はもとより文民にもあたらない
とされたとしても、アルカイダ兵にはなお国
際人道法の保護が及ぶ。その場合に適用され
るのは第一追加議定書七五条である。米国は
この議定書の締約国ではないが、同条の内容
は国際慣習法として米国を拘束する。同条に
は、通常の司法手続を尊重する公平な裁判に
よらなければ被拘禁者に有罪判決を言渡して
はならないことが定められている。軍事委会
は、この基準も満たしていない..
 
 アルカイダ兵の処遇については、このほか、
拷問や非人道的処遇を絶対的に禁止する人権
諸条約との抵触も問題視される。のみならず、
適正手続を欠いたまま死刑が科せられるよう
なら、人権の中核をなす生命権を踏みにじる
ことにもなってしまおう。より根本的に問う
なら、米国はそもそもいかなる法的根拠をも
ってアルカイダ兵らをグアンタナモに移送で
きたのか。他国の領域に侵入し、被疑者を逮
捕する行為は国際法上許されない。そうした
許されない行為を幾重にも積み重ねているの
が9・11以後の米国の行状ではないのか。
平和を求める国際社会の営みは、米国の蛮
行により深刻な危機にさらされている。粘り
強く法の遵守を訴えていかなくてはなるまい。
(あべこうき・神奈川大学法学部教授)
 
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世界危機 平和主義貫け
   小田実
  朝日新聞 2002年5月18日 
 
基本的な認識として大
事なのは、今が平和な時
代ではなく、.有事だから
有事法制を作つていると
いうこと。その有事と
は、米国が引き起こして
いるものだ。昔、関東軍
が有事を引き起こして日
本を戦争に引きずり込ん
だのと似ている。
 
  4月下旬、べ平連の元
メンバーを中心にベトナ
ムを訪れた。「ベトナム
戦争で米国は反省したは
ずなのに、いろんな口実
をつけてまた動き出し
た。ベトナムの教訓を忘
れたのか」と論じ合っ
た。ベトナム戦争の体験
から見れば、今はまた世
界の危機で、危機を引き
起こしたのは米国だとい
うことになる。
 
世界では平和主義と戦
争主義がせめぎ合って来
た。平和主義は「間題を
解決するのに、絶対に武
力行使しない」との考
え。戦争主義は「武力行
使は反対だが、相手がテ
ロリストであるなどやむ
を得ない場合には行使す
る」というものだ。だが、
「9・11」以降、戦争主
義だけが横行している。
 
 こういう時こそ、平和
主義を定めた憲法を持っ
た日本の役割は重要だ。
米国が「民主主義の国」、
フランスが「文化の国」、
スウェーデンが「社会保
障の国」というなら
本は「平和主義の国」
なればいい。いや、なる
べきだ。
 
 有事法制の別の問題点
は、全体主義の許容だ。
軍隊は市民一入ひとりの
生命を犠牲にしてでも国
家全体を守ろうとする組
である。どうしても全
体を優先してしまう。こ
とに個人の力が伝統的に
弱い日本では、この全体
主義は強力に出る。国会
での政府答弁はその危険
をよく示している。これ
では個人を尊重する民主
主義がないがしろにさ
れ、個人は抹殺される。
 
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テロ防止 カンパしたら処罰の危険性
福島瑞穂(弁護士)
  朝日新聞 2002年5月9日 
 
 「テロ資金供与防止条約」
の批准と関連国内法「公衆
等脅迫目的の犯罪行為のた
めの資金の提供等の処罰に
関する法律案(テロ資金提
供処罰法案)」の審議が国
会で始まっている。当初は
「テロ対策」ということ
で、野党も含め議員たちの
多くが賛成し、すでに衆議
院は通過してしまった。今
後、参議院で審議される予
定だが、この条約と法案
は、実はメディア規制法案
や有事法制と同様に重大な
問題をはらんでいる。
 
 NGO(非政府組織)や
難民に寄付をした経験のあ
る人は少なくないだろう。
今回の条約・国内法は、そ
うした市民活動の碁本であ
るカンパ行為に大いに関係
してくる。
 
 まず「テロ資金供与防止
条約」は、テロにかかわる
団体・個人への資金援助と
受領を犯罪として処罰しよ
うとすることを目的にして
いる。しかし、対象となる
「テロ行為」の定義はあい
まいで、国際的に共通の認
識があるとはいえない。国
連でも意見が分かれ、議論
が続いているのが実情だ。
 
 米国やドイツ、ロシア、
中国を含む大多数の諸国
も、まだ批准していない
テロ対策強化の国際的流れ
はわかるが、なぜ、これほ
ど疑問の多い条約を拙速で
批准せねはならないのか。
さらに、条約を実行する
ための国内法として政府が
提案した「公衆等脅迫目的
資金提供処罰法」となる
と、条約の範囲をはるかに
超えた法律である。
 
 対象になる犯罪行為は
「公衆、政府、外国政府、
地方公共団体に対する脅迫
目的」としてひとくくりに
され、航空機、船舶、入質
などだけでなく、「爆発物
を爆発させ、放火し、その
他(中略)重大な危害を及
ほす方法により重大な損傷
を」電車などの運搬車両、
道路、公園などの公共施
設、原発、電気、ガスなど
の公用施設、建造物などに
与えることに広げている。
 
 しかも、授受された資金
が対象とされる犯罪行為に
使われたかどうかにかかわ
らず、10年以下の懲役また
は1千万円以下の罰金が科
される。刑法にはない「カ
ンパ罪」の新設であり、私
たちは「カンパ処罰法」
呼んでいる。
 
 これでは、パレスチナの
子どもたちの教育資金をカ
ンパをしたら処罰、という
こともありうる。アワガニ
スタン難民支援、チベット
独立、ミャンマー(ビル
マ)軍政に反対する活動や
反戦運動など、他にも様々
な市民活動が対象になる可
能性が考えられる。
 
 人の命を奪うテロは許さ
れない。だが、南アフリカ
のアパルトヘイト廃止運動
やネルソン・マンデラ氏の
活動、東ティモール独立運
動なども、かつては時の政
府からテロ活動として弾圧
された。テロの定義は難し
い。ところが、この法案で
は、テロ行為かどうかの判
断は捜査機関にゆだねら
れ、破壊活動防止法・団体
規制法のような団体認定の
手続きもない。これでは処
罰範囲は、恣意的なもの
なる可能性がある。
 
 表現手段を奪われた民衆
の抵抗をテロ行為と認定し
て規制すれば、海外の抑圧
的な宗教・政治体制の延命
に手を貸すことにもなりか
ねない。カンパの処罰とな
れば、思想信条の自由や結
社の自由などが著しく侵害
される恐れもある。NGO
への市民の支援も委縮しか
ねず、すでに日本弁護士連
合会が反対の声明を発表
NGOも反対の動きを強め
ている。
 
 戦前の治安維持法には
「結社の目的遂行のために
する行為」を処罰対象とす
る目的遂行罪があった。今
回の条約と国内法はそれ以
上に治安立法として猛威を
ふるう危険があることを、
しっかり言っておきたい。
 
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使命終えた。艦艇の引き揚げを 
     毎日新聞社説 2002年5月6日
 
テロ掃討作戦支援のた
めに、テロ対策支援法の
基本計画に基づいて、イ
ンド洋の米軍に給油など
をしてきた自衛隊の派遣期間が、
19日に切れる。戦況は半年で一変
した。派遣延長には大きな問題が
ある。
派遣当時の状況を振り返ろう。
中谷元防衛庁長官が派遣を命令し
たのは昨年11月20日。既に空爆開
始から1カ月以上過ぎ、アフガニ
スタンの首都カブールは北部同盟
の側に落ちていた。タリバン政権
は崩壊したが、テロ組織・アルカ
イダが拠点のカンダハルで激しく
抵抗して、米軍は地上部隊をまだ
投入できなかった。海上自衛隊が
インド洋、ペルシャ湾の米艦船な
どの補給と護衛に果たす役割はあ
った。これまでに補給した燃料は
米軍68回、英軍3回、計11万90
00キロリットルで約40億円にのぼる。
中谷長官は3月末、情勢認識に
ついて「各地にアルカイダ、タリ
バンの兵士が残っており、依然と
して危険な存在。米軍も追跡、掃
討を進めている」と述べている。
しかし、半年を経てなお続ける不
可欠の情勢なのかどうか、テロ対
策支援法の目的に立ち戻って妥当
性を判断すべきである。
まず、ウサマ・ビンラディン氏
とオマル師の行方だ。米軍があと
一歩で取り逃がした、第三国に脱
出し再び挑戦的な声明を出した…
…など生存説の一方で、死亡説も
ある。パキスタンのムシャラフ大
統領は4月上旬、「恐らく死亡し
たと思う」と述べた。消息は不明
だが、以前のように、ビデオで公
然とメッセージを発せられる状況
にないことは確かである。
また、アフガニスタンは、暫定
政権が昨年12月に発足し、ザヒル
・シャー元国王が帰国した。アルカ
イダらの兵士が完全に駆逐され
たわけではないし、軍閥間の抗争
による戦闘や要人の暗殺も企てら
れている。しかし、6月には緊急
ロヤ・ジルガ(国民大会議)も開
かれ、平和で民主的な国づくりは
着実に進む。テロリストがかくま
われる温床は失われた。
米軍は空母1隻を帰投させ、海
兵隊も減らす方向だ。北大西洋条
約機構(NATO)も空中警戒管
制機を引き揚げる。ところが、米
国は日本に派遣延長を求め、ウル
フォウィツツ国防副長宮は4月
末、与党3幹事長にイージス艦と
対潜哨戒機の派遣による支援強化
を促した。支援法は、9・11事件
に自衛権を行使した米国を、国際
社会が支援する協調行動の中で作
られた。このまま延長すれば、米
国の軍事行動の肩代わりと、イラ
ク攻撃に向けた協力に変質する。
艦船は19日をもって、日本に引き
揚げるべきである。
憲法論議まで発展した法律であ
りながら、政府は活動内容を詳し
くは明らかにしていない。軍事上
の理由をあげるが、憲法の枠内の
行動かどうか、判断する客観的材
料がない。国会も派遣後はシビリ
アンコントロール(文民統制)の
責務を怠ってきた。にもかかわら
ず、政府が延長に踏み切るなら、
基本計画の一方的な国会報告では
済まされない。国会承認にかける
のが最低限の務めである。
 
 
辺見庸氏有事法制を語る     「東京新聞」 2002年4月21日
 
 9・11以降の米国の、そして日本を巻き込んだ反テロ戦争の危うさについて、繰
り返し言い続けている作家辺見庸氏。今回閣議決定された有事法制関連法案について
も、さまざまな場で発言を行っている。「マスメディアの責任」についても厳しく言
及する辺見氏に有事法制にひそむ問題を聞いた。(聞き手・田口透)
 
 辺見氏は坂本龍一氏(音楽家)などとの対談でも、一連の流れについて繰り返し注
意を促している。有事法制でどうなるのだろうか。
 
 「これで憲法壊滅状態に陥った。無憲法状態と言ってもいい。周辺事態法などガイ
ドライン関連法が成立した(一九)九九年通常国会以降の戦時体制づくりがいよいよ
本格化したということです。冷戦時代ですら実現しなかったのに、なぜ今つくられた
のかをチェックした方がいい。やはり大きかったのは9・11。反テロ戦争に悪乗り
する形でテロ対策特措法もできたし、その中で憲法の絶対平和主義がかなぐり捨てら
れた」
 
 有事法制やメディアの規制を狙った三法案など、ここ数カ月間の動きは急だ。
 
 「僕は国に大きな戦略はないと思う。現行憲法はある意味ユニークで反国家的側面
がある。それを一気に国家主義的なものにする。自民党の全体ではないが、若手も含
めた一部の意見、国家主義的な動きが突出した結果です」
 
 辺見氏は新保守主義という若い人たちに広がる乾いた国家論と、古い情念的な国家
論の「野合」が急速に進んでいると警戒する。
 
 「小泉(純一郎)首相はいわばクリーンなファシスト。戦略的に何かをするのでは
なく、むしろ情念的です。だから分かりやすい。9・11プラス去年暮れの不審船で
一気に流れが加速した。九九年の通常国会以降、民主主義の堤防は決壊し、日本は濁
流にのみ込まれていった。その後に来るのは憲法改定でしょう」
 
 一連の鈴木宗男、田中真紀子、辻元清美各氏の“騒動”にも疑義を唱える。
 
 「あきれるのは公設秘書問題の扱い方。有事法制の論議と時期を同じくしていた。
明らかに事の軽重から言って、有事法制に論議を集中しなければならない。三六年ご
ろでしたか、日独防共協定の時もマスメディアは阿部定事件に騒いでいた。大衆社会
もそれを喜んでいた。明らかに本末転倒、わなにはまったとしか言いようがない。有
事法制に異議を唱えている人たちがやられた。そうじゃない人もいるからややこしい
んですが。ムネオごときがこの国の元凶であるような報道は笑止千万ですね。しか
し、その方が商品価値が高い、分かりやすいんですね。その中で日本の将来を左右す
るような重大事が完全に後景に押しやられてしまった。日本的なヌエのような全体主
義の結果です」
 
 自ら通信社にいた経験もあり、マスメディアに対する見方は厳しい。
 
 「権力がメディア化する一方で、メディアも権力化しこん然一体、境がなくなって
しまった」とした上で、有事法制への賛成、反対という「両論併記」的報道について
も批判する。
 
 「有事法制というのは、準徴兵態勢につながっていくものでしょう。指定公共機関
にはNHKが含まれる。民放も、流れとして新聞社にも拡大されるかもしれない。有
事法制はいわばメディア規制三法案の土台となる部分です。一番危機的な状況の時
に、両論併記というのはいわば判断放棄です。これを個条を追って検討していくこと
はできるだろうが、それは政府権力が仕掛けた『解釈論争』のわなにはまってしまう
ことです。大きな流れをつかもうとしない。戦後五十数年間、否定してきた有事法制
をなぜ立ち上げたのか。それに対するメディアの問題意識が感じられません」
 
 そして、作業仮説として三〇年代に自分がいると想定してほしいと提案する
 
 「あのころだって戦時下と意識していた人は少ないんですね。中国で廬溝橋事件が起きても、日常というのはそういうものを覆い隠してしまう。新しい世紀のファシズムだって、黒いシャツを着て、広場を行進するなんてことはないわけですよ。きれいな目をして、エコロジストだったりするんです。メディアは、そういう優しいファシズムを見抜く目がなければ駄目だと思う」
 
 有事関連法案について、法の下克上が起きているとも指摘する。
 
 「憲法には、国家緊急権は明文化されていません。つまり下位法が最高法規を否定
している、法の無規範状況が起きている。最高法規を為政者が嫌がっている国なんて
ないでしょう。戦争放棄、国家緊急権を否定することで、周辺国と平和的な関係をつ
くっていこうという決意がなければならない」
 
 こうした中、辺見氏が“異常な風景”として指摘するのが、メディアも含めて反対
の声が少ないという点だ。「9・11以降、アメリカから反戦、報復反対の声がなく
なったのとまったく同質です。今の国際政治の危険な流れと通底しています」
 
 辺見氏は三月、米国の世界的な言語学者ノーム・チョムスキー氏にインタビューし
た。
 
 「彼は今、世界でもっとも厳しいアメリカへの批判者です。僕は同調してもらえる
と思った。しかし、けんもほろろでした。『おまえはブッシュ政権を批判するが自国
の問題はどうなっているんだ。日本のメディアと知識人は何もしていない、人の犯罪
はあげつらいやすいが、日本は戦後どういうことをやってきたのか、鏡に映してみた
らいい』と言われた。正直、ギャフンでした。さらに、アメリカの言論弾圧を憂慮し
ていると話したら、笑われてしまった。言論というのは闘ってしか守れない、と」
 
 辺見氏は有事法制により逆に、周辺諸国に対日警戒と緊張が生じるとみる。北京特
派員などとして各国の駐在武官とも付き合いが深かった辺見氏は「日本を本気で軍事
侵略しようとしている国など、もともと周辺にはない」と言い切る。「有事」という
概念がフィクションの上に成り立っていると指摘する。
 
 「備えあれば憂いなしなんてくだらんことを言っているが、小泉政権は平和的努力
をまったく怠っています。世界第三位の軍事費を持つ国が、有事法制をつくることで
引き起こすのは、不必要なトラブルだけです。日本にはすでに、米ミサイル防衛計画
への全面的な協力計画があります。これだけでも緊張のもとになっている。平和的な
努力をいかにするか。そのためにある外交は死に絶えている。どうしようもない」
 
 インタビュー中、終始、厳しい表情で語り続けた辺見氏は「時間が許す限り、この
問題について、特に若い人たちと話したい」と述べた。十七、十八日には、母校早稲
田大学で講演を行ったが、大会場は通路に座り込む人も出るなど、若い学生らで立す
いの余地もなかった。講演では、最後に「あなたたち一人ひとりがこの問題を考えて
ほしい」と語りかけた。
 
 へんみ・よう 共同通信社北京特派員、ハノイ支局長、外信部次長、編集委員など
を経て退社。特派員時代は数々のスクープを放ち日本新聞協会賞を受賞。「自動起床
装置」で芥川賞。著書に「もの食う人びと」(講談社ノンフィクション賞)、「眼の
探索」「異境風景列車」など多数。最近では、坂本龍一氏との対談「反定義−新たな
想像力へ」。57歳。
 
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☆ ここがおかしい  "報復戦争"を国際法から見る"
   前田朗(国際刑事裁判所間題日本ネットワーク)
                週間金曜日 2002年3月15日号
 
ブッシュ大統領は、イラン・イラ
ク・北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和
国)を「悪の枢軸」と断定しました
が、さらにこれらの国に攻撃を仕掛
けた場合、どのような"罪"を犯すこ
とになるのでしょうか
 
◇まず「悪の枢軸」論自体のおかし
さです。ファシズム'イタリアとナ
チス・ドイツは軍事同盟関係をもっ
て「枢軸」となりました。しかし、
イラン・イラク・北朝鮮は軍事同盟
関係にはありませんし、利害が特に
一致しているわけでもありません。
政治体制も異なります。イランとイ
ラクはむしろ対立しています。共通
しているのはアメリカの横暴
に従わないということだけです。
 
 テロリストをかくまっている国を
「悪の枢軸」と決めつけるのであれ
ば、かつてラテン・アメリカを始め
として世界各地でテロ工作に関与し
たり、テロリストをかくまってきた
のはアメリカです。国家テロリスト
容疑のフジモリ(ペルー元大統領)
をかくまっている日本も「悪の枢軸」
となります。ビンラディンをかくま
っていることを理由にアフガニスタ
ンに戦争を仕掛けることが許される
のであれば、ペルーは東京にミサイ
ルを撃ち込んでもいいことになりま
す。
 
 大量破壊兵器を製造・保持してい
るとか、輸出して拡散している国を
「悪の枢軸」と呼ぶのであれば、核
兵器はもとより、「ぶどうの房」状の
兵器から散らばって広範囲に落下し
爆発するクラスター爆弾や、半径500
メートル内を無酸素状態にする
といわれる気化爆弾デージーカッター
などを保有し、かつアフガニスタ
ンに投下しつづけたアメリカこそ
「悪の枢軸」です。
 
 テロリストをかくまっている国に
対しては、国際社会からの非難を集
めることが第一です。被害国はテロリ
ストを裁判にかけるために引渡しを要請
するか、その国自身がテロリストをきち
んと裁判にかけるよう要求することがで
きます。テロリストの行為によって重大
人権侵害が発生していれば、人権委員会
などの国連人権機関で取り上げることも
できます。かつてアパルトヘイトを維持
していた南アフリカに対して行なったよ
うに、国際社会が協力して経済制裁など
の措置を取ることもできます。
 
 テロリストをかくまっているとか
大量破壊兵器を保有しているといっ
た理由で、その国に武力攻撃を加え
ることは到底許されません。国連憲
章は「紛争の平和的解決」を各国の
義務としています(三三条)。「紛争」
ですら「平和的解決」が求められて
います。「紛争」でもないのに武力攻
撃が認められる余地はありません。
 
ここがおかしい
「紛争」でもないのに武力攻撃
 
◆相手が国でない場合に、「戦争」と
いえるのでしょうか。また、被害を
受けた国家が「報復する」どいうこ
とは認められているのでしょうか。
 
◇かつての国際法において「戦争」
とは国家間の紛争解決の手段でした。
その意味では、相手が国家でなけれ
ば「戦争」とはいえません。
 (略)     無差別戦争観の
もとに植民地争奪戦が展開した結果、
第一次世界大戦の悲劇的な事態が生
じました。そこで国際社会は〈戦争
の違法化〉に乗り出しました。ハー
グ条約やジュネーヴ条約といった戦
時国際法は、一方で〈戦争の違法化〉
をめざし、他方で〈戦争手段の制限〉
を試みました。こうして一九二九年
の不戦条約が実現しました。これを
改めて継承したのが国連憲章や国際
人道法です。
 
 国際紛争の解決には、もともと平
和的解決と強制的解決があります。
平和的解決とは、@外交交渉、周旋、
仲介、審査、調停、A仲裁裁判、B
司法的解決(国際司法裁判所)です。
強制的解決とは、@非軍事的措置(外
交関係の断絶、通信の断絶、資産凍
結、輸出入禁止、経済制裁)、A軍事
的措置(戦争、海岸封鎖、占領)で
す。なお、戦争以外の軍事的措置(復
仇、自衛、干渉、内戦)もあります。
アメリカはこれらさまざまな方策
を検討することを省略して、一気に
「戦争」に乗り出しました。しかも、
相手は国家ではなく、ビンラディン
とタリバンでした。
 
 ところで、ここに登場している「内
戦」という語に注意してください。
国家間以外にも武力紛争が生じます。
その典型が内戦です。国家間の戦争
においても、国家と武装勢力の間の
内戦においても、類似した状態が生
じます。捕虜や民間人の保護のため
の四九年のジュネーヴ諸条約は国家
間の戦争や武力紛争に関する規制を
定めていますが、その共通三条は
「国際的性質を有しない武力紛争」に
おいても捕虜や民間人の保護を求め
ています。
 国際的武力紛争においても国際的
でない武力紛争においても、ジュネ
ーヴ諸条約やその追加議定書の保護
が及びます。
 
 ブッシュのいう「新しい戦争」とは、
国際法を無視して、アメリカが自由
自在に判定して、いついかなる場合
にも独断的に、一方的な攻撃を仕掛
ける無法行為のことです。
ブッシュの独善は、イスラエルの
パレスチナに対する横暴な「報復」
を招き、国際法を無視し、オスロ合
意を崩壊させる事態となっています。
 
◆テロに対する「報復」は国際法上、ど
ういう位置づけになるのでしょうか。
 
◇テロに対する「報復」は国際法上
認められていません。というよりも、
テロを犯罪とする国際法上の定義が
存在していません。.テロはもともと
の語義では、フランス革命期の恐怖
支配に由来しますから、本来的には
「国家テロ」のことです。しかし主
権国家を主体とした国際社会は、軍
事独裁政権などによる国家テロを放
置し、国家以外の個人や組織による
テロを取り締まってきました。とこ
ろが、テロを定義しようとすると、
例えば、圧政に対する人民の抵抗権
の行使がテロとされてしまったり、
植民地からの解放闘争がテロとされ
てしまいかねません。そのために国
際法上のテロの定義が確立していな
いのです。9・11後の国連総会に
おいてもテロの定義の努力が行なわ
れました。包括的テロ対策条約が近
い将来にまとまるのではないかとの
予測も見られますが、いまのところ
は定義がありません。
 
 もちろんテロ対策がなされていな
いわけではありません。テロを非難
し、テロ対策のために情報交換し、
テロ資金供与についての対策をとる
など12のテロ対策関連条約によっ
て対処してきました。
 
ここがおかしい
 「捕虜」でもないのに身柄拘束
 
◆テロリストを捕捉した場合、「捕
虜」となるのでしょうか、それとも
「犯罪容疑者」なのでしょうか。そ
してその扱いはどう変わってくるの
でしょうか。
 
◇国内刑法で「テロ犯罪を規定し
てテロを犯罪としている国家では、
テロリストは直ちに「テロ犯罪容疑
者」となりますから、刑法と刑事訴
訟法の規定に基づいて、犯罪捜査の
対象になります。
 日本のように「テロ犯罪」の刑法
規定のない国家では、テロリストは
実際に行なった個々の行為について
の「犯罪容疑者」となります。殺人
罪、傷害罪、器物損壊罪・建造物損
壊罪、脅迫罪、ハイジヤック防止法
違反、破壊活動防止法違反などです。
いずれにしても犯罪ですから、基本
的には国内司法で裁くことになりま
す。9・11の事件の容疑者につい
ても同じです。
 
 一方、アメリカはアフガニスタン
で武力攻撃を行なって「テロリスト」
を身柄拘束したと称していますが、
彼らが「テロリスト」である証拠は
何一つありません。アメリカが決め
付けただけです。 アメリカのアフ
ガニスタン戦争は違法な武力攻撃で
すが、違法であれなんであれ武力攻
撃に際して相手方の身柄を拘束した
のですから「捕虜」です。アルカイ
ダ兵がジユネーヴ条約上の捕虜にあ
たるか否かについては、ジュネーヴ
捕虜条約四条の定義にあたるか否か
で決まります。アメリカはアルカイ
ダ兵はジュネーヴ捕虜条約四条A二
号の要件を満たしていないから捕虜
ではないと主張しているようです。
 
 そうであれば、「捕虜」でもないの
に、なぜ身柄拘束したり、キューバに
連行したりできるのかが問題となり
ます。アフガニスタンで犯罪捜査を行
なう権限をアメリカが持っているは
ずがありません。これは「誘拐」です。
また、「捕虜」であれ「テロリスト」
であれ「犯罪容疑者」であれ、国際
人権法が保障している基本的な自由
と人権は当然に保障されなくてはな
りません。
 
ここがおかしい
 「予定された誤爆」で大量殺戮
 
◆アメリカによる「報復」ないしは
「戦争」が国際法に違反していると
いうことになった場合、何によって
裁くことになるのでしょうか。
 
◇アメリカの「テロ報復戦争」は、
国連憲章五一条の要件を満たしてい
ませんから、国連憲章違反です。ま
た、安全保障理事会の決議は、アメ
リカに武力行使を認めていませんか
ら、安全保障理事会決議にも違反し
ます。そして、何よりも重要なこと
は、たとえ非民主的で人権を抑圧し
ていたとしてもタリバン政権はアフ
ガニスタンの政権でした。タリバン
政権を崩壊させて暫定統治政権をつ
くる行為は、アフガニスタン人民の
自決権に対する侵害です。人民の自
決権は国連憲章が国連の目的として
掲げ(一条)ています
 
 そこで、アメリカ政府の違法行為
を裁くとすれば国際司法裁判所とい
うことになりますが、その可能性は
低いといわざるをえません。国際司
法裁判所に提訴するアフガニスタン
政権自体が崩壊して存在しません。
(略)
 
 一方、アメリカの武力行使の中で
多くの戦争犯罪が行なわれた疑いが
あります。世界に広く報道されたよ
うに多数の難民が生み出されました。
民間人の被害は膨大です。クラスタ
ー爆弾やデージーカッターは、軍事
目標中心主義を逸脱して、多数の民
間人を犠牲にする爆弾です。「誤爆」
という言い訳がなされていますが、
むしろ「予定された誤爆」によって
民間人を殺傷したというべきです。
誤爆でない場合でも周辺の民間人の
被害が多数報告されています。さら
捕虜虐殺も行なわれました。こう
した戦争犯罪について調査し、告発
することが必要です。
 
 戦争犯罪で裁かれるのは国家自体
ではなく、個人ですから、ブッシユ
とその参謀たちの戦争犯罪が問題と
なります。もっとも、アフガニスタ
ンにおけるアメリカの戦争犯罪を裁
ける国際法廷は存在しません。国際
刑事裁判所の設立が間近ですが、ま
だ実現はしていません。仮に実現し
ても、国際刑事裁判所は設立以前の
戦争犯罪を裁くことができません。
旧ユーゴスラヴィア国際戦犯法廷は
旧ユーゴ地域における戦争犯罪や人
道に対する罪しか裁けません。
(略)     アメリカが絶大な
力を誇示している現状の国連やその
機関ではブッシュを裁くことができ
ません。したがって、できるのは民
間法廷での裁きです。ベトナム戦争
におけるアメリカの戦争犯罪を告発
したラッセル法廷、湾岸戦争におけ
るアメリカの戦争犯罪を告発したク
ラーク法廷、日本軍性奴隷制を告発
した女性国際戦犯法廷、朝鮮戦争に
おけるアメリカの戦争犯罪を告発し
たコリア国際戦犯法廷といった先例
に学びながら、「アフガニスタンに
おけるアメリカの戦争犯罪を裁く民
間法廷」を実現したいものです。
 すでに日本においてもそうした提
言の動きがあります。私もそのため
の準備をして民間法廷を呼びかける
つもりです。民間法廷は実際に身柄
拘束もできませんし、刑罰を執行す
ることもできません。
 しかし、戦争犯罪の事実を調査し、
解明し、それを本来なら適用される
べき国際法に基づいて「裁く」こと
はできます。国家が国際法を無視す
る時代に、市民による市民のための
国際法を打ち出していく平和と人権
のための民間法廷を実現したいもの
です。
 
まえだあきら-東京造形大学教授。歴史の事実を
視つめる会。国際刑事裁判所間題日本ネットワーク。
 
 
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