無防備地域宣言って何?
                きくちゆみ
http://kikuchiyumi.blogspot.com/
 
昨日、国分寺で行われた「広げよう 無防備地域宣言を わたしたちの
まちから」という集まりでお話をしてきました。集まったのは、日野、国立、国分
寺と首都圏の住民およそ80名。各地の地方議員の姿もありました。
 
無防備地域って何?というかたもいるでしょう。私自身がつい最近まで
詳しいことを知りませんでした。しかし我が家の玄関には5年ぐらい前から「無
防備地域宣言 戦争に協力しません」というステッカーが貼ってあります。広島
の友人からプレゼントされ、「戦争に協力しません」という言葉が気に入って、
貼っておいたものです。
 
無防備地域宣言は、戦争のルールを定めたジュネーブ条約第一追加議定
書の59条にその規定があります。ジュネーブ条約は戦争のルールを定めたもの
で、たとえば戦争中でも、民間人への攻撃は違法です。第一次世界大戦では5%
だった死者全体に占める民間人の割合は、第二次世界大戦では48%に跳ね上
がりました。さらに朝鮮戦争で84%、ベトナム戦争では95%にまで達しま
した。イラク戦争では死傷者の99%が民間人だと言われています。現代の戦争は、戦闘員ではなく民間人により多くの被害を出しています。
 
こうした悲惨な実態を受けて、赤十字国際委員会の主導でできたのがジュネーブ
条約です。国家による軍事力の行使という究極の暴力に対して、国際法による規
制を加えるもので、非戦闘員を攻撃してはならないことなどが定められています。
 
ジュネーブ条約第一追加議定書は、ベトナム戦争直後の1977年に作られました。
日本はジュネーブ条約本体には1953年に加入しましたが、武力紛争の当事国や
占領国が守るべき義務について定めた二つの議定書については、昨年8月31日に
加入、今年2月28日に発効しました。有事法制の成立に伴う措置だそうです。
 
このジュネーブ条約第一追加議定書第59条の規定を積極的に利用して、市民の力
で無防備地域宣言条例を制定しようという動きが広がり、「無防備地域運動全国
ネットワーク」も誕生しました。昨年から来年にかけて全国で20以上の自治体で、
地方自治法の直接請求という制度を活用し、有権者の五十分の一以上の
署名を集めて首長に条例制定を求めるという取り組みです。
 
これは平和憲法とジュネーブ条約第一追加議定書を武器にして、非戦・
戦争非協力の意志を表明する運動であり、そのことによって、戦争にまきこまれ
ない態勢、戦争をやらせない態勢を地域からつくりだす運動です。また同時に、戦
争の危険が迫る時には、無防備地域を宣言することにより、地域住民の生命、財
産を戦禍から守る運動でもあります。まさに日本国憲法9条を地域から実践する
ことなので、私もここ鴨川での可能性を追求してみたいです。
 
憲法や教育基本法改訂の試みや国民保護計画策定の動きの中で、日本国
憲法の非武装の理念を地域から実践していこうというこの草の根の運動を広げる
ために、無防備地域宣言運動全国ネットワークでは、「1000人アピール運
動」を展開しています。わたしも呼びかけ人のひとりとして名を連ねています。皆さんもぜひ賛同者に加わりませんか?
 
無防備地域宣言運動1000人アピール http://peace.cside.to/appeal.htm
                         (2005年7月18日)
 
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  あなたとわたしの命を誰が守るか?
       ーー戦争の国際基準とはーー
               ichi
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戦前の日本の軍隊は、国を守るということと国民を守るということとを分
けて考えることができなかった。戦争にも国際的ルールがある。第2次大
戦後ジュネーブ条約が結ばれたが、その後住民保護を第1に考えた追加第
1、第2議定書が1977年に採択された。第1議定書は一般住民の保護
のため、国の姿勢に国際法が介入しようとしている。住民は自らの安全の
ためこの第1議定書が必要だ。第1議定書に基づき無防備地域を宣言する
ことも可能だ。沖縄の地上戦でこの無防備地域的な宣言で住民を守った例
もある。世界で150近くの国がこれら議定書に加盟しているが、日本と
米国は加盟していない。一方北朝鮮はすでに第1議定書に加盟している。
日本と米国にこの議定書への加盟を要求する運動が必要だ。
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      はじめに
 1999年5月3日憲法記念日の朝日新聞に「日本国憲法は『無防備宣言』」という投書がのった。「戦力の保持を禁じた日本国憲法は『無防備宣言』である。この憲法と『ジュネーブ条約追加第1議定書』を武器に、自治体による『無防備宣言』を目指す運動がある」という。
 無防備宣言とはいったい何だろう?ジュネーブ条約追加第1議定書とは何だろう?という疑問がわいた。その時、運良くこの無防備地域の運動を提唱している林茂夫という人の講演会があり出かけた。
 「無防備地域運動 No12」というパンフレットを読んで多くを学んだ。以下、簡単に紹介したい。
 
     轢っ殺してゆけ
 
 この無防備地域の運動は、私は知らなかったがずいぶん前からあるようだ。このパンフレットに’83年11月に行われた「『無防備地域』のすすめ」という
シンポジウムの記録がある。
 そのシンポジウムで松下圭一氏(政治学)が、司馬遼太郎の「歴史と視点」という本の一部を紹介している。敗戦直後「東京を守る」ため北関東の戦車部隊にいた司馬が、大本営から来た将校にこう質問した。
 「素人ながらどうしても解せないことがあった。その道路が空っぽという前提で説明されているのだが、東京や横浜には大人口が住んでいるのである。敵が上陸(あが)ってくれば当然その人たちが動く。もの凄い人数が、・・・北関東や西東京の山に逃げるべく道路を北上してくるにちがいなかった。・・・この市民たちと南下する戦車とがぶつかるため交通整理はどうなっているのかを質問したところ・・・(将校は)しばらく私をにらみすえていたが、やがて昂然と『轢っ殺してゆけ』といった。同じ国民をである」
 松下氏はこの例を引きながら「日本軍には、国を守るということと、国民を守るということの区別がついていなかった。・・・日本軍は天皇や国家を守るということで、市民を守るという発想がなかった」と指摘する。また日本軍では「絶対に捕虜になっていけない、(すなわち)投降権を全く認めなかった」ので、「勝つか玉砕をするか」しかなく、「オレも死ぬのだから市民も一緒に死ねという論理で、かえって市民がまきぞえを喰うこと」になったと指摘する。このような事態は実際、沖縄戦で現れた。そこでは軍人のみならず、大勢の一般人が死ぬこととなった。
 
     一般住民の犠牲
 
 戦争にもルールがある、といったら少し意外な気がするだろうか?戦争は何でもあり、ではなくなっているようだ。このことをこのパンフレットで藤田久一氏(国際法)が、わかりやすく説明している。
 捕虜に関しては1907年の「陸戦の法規慣例に関する条約」(ハーグ陸戦法規)で規定され、1929年には「捕虜条約」ができた。
 1923年の「空戦に関する規則」では、「相手の軍事目標には攻撃できるが、一般住民は攻撃してはならない」という原則(軍事目標主義)が述べられていた。これは条約としては発効しなかったが、当時の慣習法を表現したものと理解されていた。
 第2次大戦当初は、交戦国は軍事目標主義を考慮していたが、後半では都市に無差別攻撃を繰り返した。第2次大戦中には、捕虜とか傷病兵に関しての条約はあったが、一般住民を保護する条約は存在しなかった。
 この第2次大戦での一般住民の被害という現実をふまえ、1949年に「ジュネーブ条約」(戦争犠牲者保護に関するジュネーブ諸条約)ができた。
 このジュネーブ条約は、4つの条約からできている。第1条約、第2条約は、傷病ーー傷病から傷病に変わった(一般人の被害の多さを反映している)ーーに関するもの、第3条約は捕虜に関するもので、これら3つは従来の国際的な条約を改定したものだ。
 第4条約が「文民条約」(文民=シビリアンを保護する条約)で、文民が初めて国際条約中に登場した。ただ、この文民も一部病院などを除いて自国の文民の保護ではなく、「敵の権力下に入った文民」の保護を対象としている。だからこの第2次大戦後できたジュネーブ条約は、基本的に国対国の枠組みで、戦争の被害をどうするかという観点でできている。
 
 大量殺戮兵器の発達は、戦争は戦場で兵士だけが戦いあうものではなくなり、国境を越えて相手国の一般住民、都市住民を爆撃することが可能となった。第2次戦争以後の多くの戦争では、兵士よりも一般住民の方が多く犠牲になる状態が生まれた。例えば、ベトナム戦争では、辺見庸氏によれば、南北兵士、解放戦線兵士の死者は110万人に対して、インドシナ全域での民間人の死傷者は、440万人という(注)。この事態に対し、国際的な法律はどう対応しようとしたか。
 (注)世界6月号(岩波書店)、P37
 文民ないし一般住民を保護するために、1977年に国際的紛争、非国際的紛争(国内の紛争)の犠牲者の保護を目指して2つの議定書が採択された。追加第1議定書が国際的紛争の犠牲者保護、追加第2議定書が国内の紛争の犠牲者保護である。
 
      5つの区別
 
 さて、世界の常識、日本の非常識であるこの追加第1議定書はどんな内容のものか?
 まず、議定書の基本原則をみよう。
第48条(基本原則)
 紛争当事国は、文民たる住民及び民用物に対する尊重及び保護のため、常に文民たる住民と戦闘員とを、また、民用物と軍事目標とを識別することができるようにする。紛争当事国の軍事行動は、軍事目標のみを対象とする
 これは、最初にみた戦前の日本軍の住民観と全く異なっている。戦前の日本軍は、紛争当事国というものはあるが、文民たる住民と戦闘員とを区別することはなく、民用物と軍事目標を区別すべき物とは考えていない。実は1999年の日本に住む我々も、紛争当事国/文民/戦闘員/民用物/軍事目標という風に区別して考えていないのではないか。だがこの区別があるかないかは、国家観、戦争観に大きな違いをもたらす。
 第51条では一般住民の保護をうたっている。その中には無差別攻撃の禁止も含まれる。
 第52条は民用物の保護に関してだ。
 第54条では、一般住民の生存に不可欠な物の保護をうたっている。一般住民を餓死させることを禁じ、飲料水の設備や灌漑設備の破壊を禁じている
 第55条で自然環境の保護をうたっている。
 第56条で危険な威力を内蔵する工作物および施設の保護を扱っている。ここで、原子力発電所の攻撃を禁じている
 
 これを読むと、空爆をするなら、「ピンポイント爆弾」しか国際法上は認められないことになる。1991年のイラク戦争中、軍事評論家は「ピンポイント爆撃はすばらしい」とはいったが、「これが国際法上、当然の爆撃方法だ」と言った記憶が、私にはない。
 また現在ユーゴスラビアに対して、NATOが爆撃を行っているが、軍事施設以外の列車や刑務所や電気施設などの爆撃に対して国際的な非難が起こっている。これは「人道的な感情」のレベルではなく、国際法上第1追加議定書にれっきとした根拠があることがわかる。しかしNATOの「非人道的な」攻撃に対して、第1追加議定書にふれた解説を、朝日新聞と日経新聞ではまだみていない。
 
     国際法の革命的現象
 
 さらに第58条では、予防措置として大変重要な条項がある。
 第58条(攻撃の影響に対する予防措置)
 紛争当事国は、可能な限り最大限まで次の措置をとらなければならない。
 a ・・・自国の支配の下になる一般住民、個々の文民および民用物を軍事目標の直近地域から移動させるよう努めること
 b 人口密集地域の内部またはその付近に軍事目標を設置することを避けること
 これは、住民の予防措置として、人口密集地である大都市の内部やその付近に軍事目標を置くな、ということである。神戸市の東灘区にも自衛隊の基地があるが、これは、この条項に違反している。こうみてくると、この第1追加議定書は、住民が自らの安全を守り、作っていくために大変有効な武器となる。
 
 さらに、第56条(危険な威力を内蔵する工作物および施設の保護)のBに大変重要な規定がある。
 B文民たる住民および個々の文民は、すべての場合において、国際法が与えるすべての保護(次条に規定する予防措置の保護を含む。)を享受する権利を有する。
 これは、国の姿勢いかんに関わらず、住民がこの追加議定書を根拠にして、自らの安全を求めることができるということだ。
 
 これを読んで私は、本当にびっくりした。国際法は、国と国との関係を決めるものだと今まで理解していたからだ。国民は自分の政府や国を頼りにするしか安全を求めることができないと考えていた。しかしこの追加議定書は、国とその国の住民とを分離し、一般住民の保護のために、国の姿勢に国際法が介入しようとしている。これを藤田久一氏は次のように説明する。
 「一般住民を含めて自国民の保護規定を置いたのは、国際法にとって革命的現象と言っていいくらいです。国際法は、従来、国と国との関係を規律したものと言いましたが、自国の一般住民をも対象とするとなると、国対個人あるいは政府対自国民の関係において、国際法上の一定の規律を課すことになるわけです」。
 
     だれが住民を守るか
 
 また、この第1追加議定書の意義を、林茂夫は次のように指摘する。
 「体制側の推進している国防論議に対し、平和愛好者の側は、核時代には軍事力で安全は守れないから、戦争にならないようにするのが先決だと主張しています。だが、にもかかわらず”戦争になってしまったらどうするのか、相手は敵国民を守ってくれないぞ”といわれると、この主張は説得力を失い、多くの国民の納得をえられなくなっています。そして政府・防衛庁の自衛隊増強・戦時体制づくりに、多くの国民が組みこまれていく状況をくいとめにくくしています」。
 この文章は一体いつ書かれたと思いますか?なんと16年前の1983年です。林氏はこう主張する。
 「住民保護の国際条約が国益第一主義から住民保護最優先主義にかわっていること自治体の平時における平和への努力が戦時にも役だつ規定もあること、それらをふまえて、平和への努力をいっそう強める、地域の非軍事化をますます進めることで『無防備地域』を可能とする条件をつくりだすことができます」と主張する。では、林が主張する無防備地域とは、なんだろうか?
 第1追加議定書の第5章に、「特別の保護を受ける地域及び地帯」という章がある。その第59条に無防備地域という規定がある。
 
 これは「紛争当事国に適当な当局」が、次の4つの条件を満たせば無防備地域を宣言でき、紛争当事国はその無防備地域を攻撃することができないというものだ。4つの条件とは、
a戦闘員や兵器、軍用設備がないこと
b施設が軍事目的に使用されていないこと。
c当局や住民による敵対行為が行われていないこと。d軍事行動を支援する活動が行われていないこと
 この無防備地域の宣言が、「適当な当局」となっていることに注目したい。これは国の姿勢如何に関わらず、例えば自治体が宣言をすることが可能な規定だ。
 林氏によれば、この「当局」になったのは長い討議の結果だという。
 「この条約が検討された国際会議の初期の案の段階では合意する主体は国だけでした。しかし、長い討議の過程で『国』が『適当な当局』になり、それが合意の主体になりました。この変化の過程の中に、国際人道法が住民を戦禍から守るにはどうしたらいいかという思想で貫かれていることがわかる。いまや国際政治の中でも民衆の声を無視できなくなってきたことを反映していると思います」。
 この林氏の指摘は大変重要だ。ここでも、国が必ずしも住民を守るものではないという歴史的事実に基づいた視点をみることができる。住民は国の中で、国の戦争遂行とは一線を引きながら、自らを守る方法が、この無防備地域宣言ということになる。
 
     知られていない沖縄戦
 
 第2次大戦中、ある地域を「戦闘員もおらず敵対的な行為もない」状態にすることで、その地域の住民が守られた例が、なんと日本で唯一地上戦が行われた沖縄であった。
 林氏は紹介する。
 「沖縄の渡嘉敷島のなかの前島という島では、警備にきた日本軍の駐屯を断ったことによって戦禍をまぬがれています。前島には、上海事変に従軍したことのある分校長がいて、上海事変の経験から『兵がいなければ相手方の兵隊は加害しない』と考えていたので日本軍の駐屯を断った。やがて米軍が上陸、島中を調査して日本軍がいないことがわかると、『この島には砲撃を加えないし、捕虜もとらない。安心していつものとおり生活をしなさい』とスピーカーで放送して引き揚げたわけです。
 沖縄では、虐殺や集団自決などの悲惨なケースが各所にたくさんあったわけですから、前島だけが攻撃をうけず生きのびたということが、逆にタブーのようになって、ほんの最近まで公になりませんでした」。
 沖縄戦で、この前島は一種の無防備地域となり、そのことで住民の命が守られたわけだ。
 今までの沖縄戦の捉え方は、「戦争は悲惨なもの、軍隊は住民を守ってくれない」というものであった。これはもちろん必要な視点だが、現在、住民の安全を守った例として、この前島の無防備地域の先例を評価する必要があるだろう。
 
     読売新聞の意図
 
 最近まで、ほとんどマスコミに取り上げられなかったジュネーブ条約が、東京読売新聞で今年の4月15日に取り上げられた。
捕虜虐待禁止と民間人保護へ ジュネーブ条約順守      『国内委』創設、関連法整備へ
 外務・防衛・文部と日赤 有事問題点も論議
 外務・文部・防衛の各省庁と日本赤十字社は、捕虜や民間人を虐待や攻撃から守ることを定めたジュネーブ条約の普及と、関連する国内法の整備などを目的とした『国内委員会』を二十日に創設する。国際赤十字が条約の順守を目指し、批准国政府に勧告した委員会設立の決議に基づく措置で、戦時国際法に関する協議機関の設置は初めて。条約に関連する国内法には、戦争犯罪の禁止や捕虜の処遇といった有事法制に含まれる法令も多く、国内委員会での今後の協議が注目される。(ミニ時典)
 ジュネーブ条約は一九四九年に採択され、日本を含め百八十八か国が批准している。・・・・
 これまで、日本は批准国でありながら、国内法の整備は手つかずだった。・・・また、文部省は学校教育の中で、戦争犯罪の禁止を含めた人道教育をどう普及させるかといった観点から参加するほか、条約の理解を深めるためのシンポジウムなども開催する」。
 一見、もっとなようだが、その解説をみるとその意図が正直に語られている。
 「ジュネーブ条約順守で「国内委」創設 戦争弱者保護の視点で“風穴”(解説)
 ・・・国際人道法と呼ばれる同条約の理解を深めることによって、委員会では、民間人や傷病者、捕虜といった戦争の弱者保護の観点から、国内法の整備に風穴をけたいという思いがある。二十日の第一回会議を契機に、有事法制の活発な議論が期待される。(社会部 勝股秀通)」。 
 ここでは、1977年の追加議定書についてはふれていないが、次のミニ時典の解説では少しふれている。
 「[ミニ時典]ジュネーブ条約
 第2次大戦の経験を踏まえ、1949年、民間人や捕虜など戦争の弱者保護を目的に戦場の人道的ルールを定めた条約。その後、ベトナム戦争後の77年には学校や病院、発電所といった民間公共施設への攻撃などを禁止した2つの議定書が追加された。
 これらを総称して国際人道法と呼ぶが、日本は53年に当時の連合軍の指示で条約には批准したものの、140か国余りが批准している議定書には、現在まで未批准のまま。NATO軍がユーゴスラビア連邦内の鉄橋で列車を空爆したことには、条約違反だとの国際的非難が出ている。・・・」
 
 今までみてきたように、1949年のジュネーブ条約の不備を補い、住民保護を考慮しようとする1977年の追加議定書こそ、いま日本の住民にもっとも必要とされるものだろう。
 
     東京、小平市の実践
 
 実は、10年ほど前にすでにこの第一追加議定書を根拠に無防備地域を試みた実践があった。
 朝日新聞の検索で次の記事が見つかった。
 1988年9月11日、朝刊
 「小平を無防備地域に 主婦グループ、条例化を直接請求へ   国際条約を活用
 戦争になっても軍隊は無防備の地域を攻撃できない、と定めた国際条約を活用し、自治体に「無防備地域」を宣言させることで平和を保とうという住民運動が、小平市の主婦グループによって始まった。今月下旬から条例制定を求める直接請求の署名集めに入る。非核3原則を徹底させるため、自治体レベルで非核条例をつくり、法令化をねらう住民運動は中野区にあるが、小平方式のように国際条約をうしろだてに「無防備地域」の考え方を取り入れた運動は都内では初めて、という。・・・
 3年前「市民の会」を結成するとともに、議会に対して「非核宣言都市にふさわしい教育、PR活動をすべきだ」との陳情書を送ったが、採択されなかった。・・・
 今回直接請求する条例案の試案は全7カ条。まず、市民の平和的生存権の保障として市内では、核兵器と核燃料の製造、貯蔵、使用を禁じる、とした。
 その上で、戦時においては、市は「ジュネーブ条約追加第1議定書」第59条に基づく無防備地域宣言を行い、日本政府と当事国に通告する、とうたっている。・・・
 無防備地域運動については奈良県天理市で1985年、非核無防備平和都市条例制定の直接請求があったが、市議会で否決された」
 
 1988年11月23日、朝刊
無防備地域」の宣言求める 小平の市民団体が直接請求  
 国際条約が軍隊に攻撃を禁じた「無防備地域」を自治体に宣言させようという直接請求運動をしている小平市の「非核・平和をねがう市民の会(代表・華山喜三代さん)は22日、無防備地域宣言を含む条例の制定を瀬沼永真市長に請求した。5056人の賛同署名を添えた。市長は意見を付けたうえで、12月7日開会の定例市議会に条例案を提出する。・・・10月下旬までに、請求に必要な有権者の50分の1、2297人を上回る署名を集めた」。
 
 1988年12月13日、朝刊
小平市議会委、非核条例案を否決 賛成は社党1人
市が国際条約に基づく「無防備地域」を宣言して平和を保とうという、小平市の「非核都市平和条例」案が、12日の市議会総務委員会(星野篤功委員長)で賛成少数で否決された。会派構成からみて本会議でも否決される見込み。条例案は5056人の市内有権者の賛同署名により瀬沼永真市長に直接請求されたものだが、瀬沼市長は「条例制定は適当でない」との意見を付けて、議会に提案していた。
 委員長を除く6人の委員のうち、賛成は社会党・市民会議の委員1人。保守会派の政和会2人、公明、民社党各1人の委員は反対、共産党委員は病気で欠席だった・・・」。
 
      兵庫県、尼崎市議の提案
 
 1999年、周辺事態法が国会を通過した今、尼崎市で周辺事態法の反対運動を展開していた尼崎市議のSさんは、「議員活動報告5月号」でこの追加第1議定書と無防備地域にふれている。「自治体で『無防備地域』を」と題して次の主張をしている。
 「最も最近結ばれたものが『ジュネーブ協定追加第1議定書』です。これはベトナム戦争などの悲惨な犠牲を教訓に、一般民衆を戦禍から守るための規定を定めたものです。その59条に「無防備地域」の規定があります。・・・戦争の被害から守られるべきものは一般民衆の生活である。という考えは、国際法の世界ではとっくにしっかりと打ち立てられているのです。
例えば尼崎市の場合、今のまま軍事施設もなく、軍隊も立ち寄らぬ状態であればすぐにでも、この「無防備地域」を宣言することができます。
 『地方自治体』は『国』が行う戦争に対して、ただ協力するのではなく、『独立した行政当局』として、外国に対してでも『我が街は戦争に協力しない、したがってこの街を攻撃してはならない』と宣言することができるのです」。
  
     第1追加議定書に加盟していない国
 
 1949年のジュネーブ条約は、現在188カ国が加盟している。この数は、国連加盟国の185カ国よりも多い。また、追加第1議定書、第2議定書の加盟国はそれぞれ152カ国、144カ国という(注)。ここでみてきた第1議定書は、1987年には70カ国が加盟していたので、約10年間で倍の国が加盟をしたことになる。
(注)論座6月号(朝日新聞) 小池政行、P79
ジュネーブ4条約(192)、追加議定書(162)加入国一覧 (04年03月現在)
           http://www.jrc.or.jp/about/humanity/join.html
 
 しかし現在、米国は第1追加議定書にも第2追加議定書にも加盟をしていない。日本も両議定書に加盟していないし、現在日本では、第1議定書や第2議定書があるということすら、ほとんど一般には知られていない。(数年前から現代用語の基礎知識には、載るようになったという)。
 一方、日本で「危険視」されている北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)は、1988年に国際間の紛争に関する第1追加議定書に加盟している
 第1議定書に加入するということは、例えば他国への空爆は軍事目標主義で行うと国際的に宣言していることだ。一方、住民にも大きな被害をもたらすような空爆を意図する国は、この第1議定書に加入しようとしないだろう。第1議定書に加入していない国は、「きわめて危険な国」ということになる。このきわめて危険な国に、軍事費が世界1位のアメリカと世界2位の日本がある。
 また、この第1議定書は、自国の住民に「国」に頼らずに国際的に安全を保障する根拠を与えている。一方この第1議定書に加盟していない国の住民は、自らの安全を「国」に預けざるを得ない。
 周辺事態法が国会を通過した今、国に取り込まれずに、住民が自らの安全を国際的に保証する根拠として追加第1議定書に加盟を求める運動が、日本で、そして米国で必要になっている。
                        (1999年5月31日)
                     一部資料追加:2005年6月19日
*参考*
 第51条(一般住民の保護)
 A個々の文民と同様、一般住民そのものを攻撃の対象にしてはならない。一般住民の間に恐怖を広めることをその主たる目的とする暴力行為または暴力による威嚇は、禁止する。
 C無差別攻撃は、禁止する。無差別攻撃とは、つぎの攻撃であって、それぞれの場合に、軍事目標および文民または民生物に区別なしに打撃を与える性質を有するものをいいう。
 a 特定の軍事目標を対象としない攻撃
 b 特定の軍事目標のみを対象とすることができない戦闘の方法もしくは手段を使用する攻撃
 
 第52条(民用物の一般的保護)
 @民用物は、攻撃または復仇の対象としてはならない。・・・
 A攻撃は、厳に軍事目標に限定しなければならない。
 
 第54条(一般住民の生存に不可欠な物の保護)
 @文民を餓死させることを戦争方法として使用することは、禁止する。
 A一般住民または敵国に対して生命維持装置としての価値を否認するという特別な目的のために、・・・農業地域、・・・飲料水の設備および供給、ならびに灌漑設備のような、一般住民の生存に不可欠な物を攻撃し、破壊し、・・・禁止する。
 
 第55条(自然環境の保護) 
 @戦争においては、広範な、長期のかつ重大な損害から自然環境を保護するために、注意しなければならない。この保護は、自然環境に対してそのような損害を生ぜしめ、かつ、それによって住民の健康もしくは生存を害することを意図したまたはそのように予想できる戦争の方法または手段の使用の禁止を含む。
 
 第56条(危険な威力を内蔵する工作物および施設の保護)
 @危険な威力を内蔵する工作物または施設、すなわちダム、堤防および原子力発電所は、これらの物が軍事目標である場合にも、その攻撃が危険な威力を放出させ、その結果文民たる住民の間に重大な損失をもたらす場合には、攻撃の対象としてはならない。
 B文民たる住民および個々の文民は、すべての場合において、国際法が与えるすべての保護・・・を享受する権利を有する。
 E締約国および紛争当事国は、危険な威力を内蔵する物に一層の保護を与えるために相互の間で新たな取極を締結するよう要請される。
 
 第59条(無防備地域)
1 紛争当事国が無防備地域を攻撃することは、手段のいかんを問わず、禁止する。
2 紛争当事国の適当な当局は、軍隊が接触している地帯の付近又はその中にある居住地で敵対する紛争当事国による占領のために解放されているものを、無防備地域と宣言することができる。無防備地域は、次のすべての条件を満たさなければならない。 
 a すべての戦闘員並びに移動兵器及び移動軍用設備が撤去されていること。
 b 固定した軍用の施設又は営造物が敵対的目的に
使用されていないこと。
 c 当局又は住民による敵対行為が行われていないこと。
 d 軍事行動を支援する活動が行われていないこと
4 2に規定する宣言は、敵対する紛争当事国に通告するものとし、できる限り明確に無防備地域の境界を定めかつ記述するものとする。宣言が通告された紛争当事国は、当該宣言の受領を通報し、2に定める条件が実際に満たされている限り、当該地域を無防備地域として取り扱う。・・・
6 5の取極により規律された地域を支配している締約国は、できる限り、他の締約国と合意する標識で当該地域を表示するものとし、標識は、明瞭に視認し得る場所、特に当該地域の周囲、境界及び主要道路に掲示する。
 
 
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