ボランティア自粛の時代     2002年8月1日
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 中教審が答申で小中高校生全員に「奉仕活動」という方針を打ち出した。これは、大変問題がある。 
 今回の答申では奉仕活動の定義を「対価を目的とせず」としながら、「公共施設の入場料の割引」や「入試での有利な評価」や「単位認定」という「対価」が列挙されている。
 
 ボランティア活動は、自発性に基づき見返りを期待しないから価値がある。この答申の描く奉仕活動は、入試や就職での「見返り」を餌にして強制的に多くの若者に活動をさせようとしているので、本来のボランティアとは無縁のものである。これでは小中高校生が本来のボランティア活動を経験する事が不可能になる。
 
 さらに、青年や社会人に対しても「1年程度の奉仕活動」を検討している。これが「国への奉仕活動」を考えているとしたら、どうみても徴兵制の一歩である。
 
 今重要なのは、失業率が5%を越えた時代に、どのように失業者に職場を提供するかである。今までボランティアに依存していた活動を「有料」にして、失業を減らす工夫が大切だ。非自発的なボランティアは「自粛」することが、これからは必要である。
 
 民主主義社会の根本は、自分の意志で自分の行動を決めることだ。一方、全体主義は国が市民の行動を強制する。今回の答申は、この民主主義社会の基本を破壊するものだ。
                    
 
 
 
奉仕義務化と労働時間      2000年11月21日
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 首相の私的諮問機関である「教育改革国民会議」が、小中学校で2週間、 高校で1ヶ月の「奉仕活動」を打ち出した。まずこれについて触れたい。
 「奉仕」という言葉が付こうとも、これは無償の強制労働であり、勉強を中断して行われるので、性格としては戦争中の学徒動員と全く同じものだ。このような活動を市民に強制する国は、「自由主義国家」ではなく、戦前のような全体主義国家と言わざるを得ない。
 もしこの強制労働が教育現場に導入されたら、どんなことが起こるだろうか。東京大学の佐藤教授は、朝日新聞(8月13日)で「戦時中に・・・奉仕活動の義務化を行ったが、その現場でいじめや暴力がまん延した」と指摘した。提案されている強制労働は共同生活で行われるので、「指導員」の目に付かない場所で、普段の学校生活以上の「いじめや暴力」が、多く発生することは間違いないだろう。中学生、高校生ではさらにもうひとつ、「性のトラブル」が発生するだろう。「指導員」がこの「いじめ、暴力、性のトラブル」を防止するのは大変困難だろう。今述べたことが、決して杞憂ではないことは、例えば、高校での3泊程度の修学旅行で、引率した教師がこれらのトラブルが発生しないように、ほとんど毎日、数時間の睡眠時間で「指導」にあたっている現実が示している。結論として、強制労働は「理念」としても現在の「自由社会」にふさわしくなく、実施段階では、いじめや暴力などのマイナスの教育効果が波及する可能性が高い。
 さらに、もしこの強制労働が導入されたらどうなるか?この制度は、公立学校で導入されても、ほとんどの私学では導入しないだろう。例えば、高校2年生で、1ヶ月の強制労働が有る学校と、普段通り学習を継続している学校の学力の広がりは、すざましいものとなる。1ヶ月ほとんど勉強せず、再び勉強を始める時、実際は数ヶ月の遅れとなってくる。国公立の入試科目が、5教科7科目に増えようとしている。現在でもこの科目増に対応できる公立高校は少ないだろう。そこに1ヶ月の強制労働が導入されればどうなるか?「公立高校に入ってしまうと、国公立に合格できない」とほとんどの保護者が考えるだろう。その意味で、私立は「公立への強制労働の導入」を心待ちにしているはずだ。強制労働が公立に導入されれば、国公立進学希望の「教育熱心な」保護者や生徒が、雪崩を打ったように現在以上に私学を希望し、その結果、公立の教育環境は現在よりも悪化するだろう。
 ではどうするか?教育改革国民会議が「教育の原点は家庭である」と述べている。子供は親の姿を通してこれから生きていく社会や仕事をイメージする。疲れた親を見て、子供は未来と仕事への絶望感をもつだろう。反対に生き生きとした親と家庭でふれあうことは、子供に未来への希望を与える。NHKの国民生活調査によると、平日に10時間以上働く人が、75年から95年の20年間で、12%から21%へと急増している。今、最も必要なことは、働いている親の労働時間を短縮し、親を企業から家庭へ取り戻すことだ。そのために、高校生までの子を持つ親に対して、「平日の最大労働時間を9時間と制限する」、「年休を完全取得させる」、「時間年休を取りやすくする」、「サービス残業の厳格な禁止」などの援助を、法的な規制に基づき実施する。政府は、子育ての支援が「企業の社会的な責任」であると主張し、「子育てにやさしい企業」キャンペーンを大々的に実施する。また、18歳までの子供がいる家庭には、「単身赴任を禁止する」という法的規制をとる。これらを通じて親と子供が向き合う時間を確保、増加させなければならない。
 
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 上の意見書で触れた労働時間は、実際どうなっているか?
 引用したNHKの国民生活時間調査では、男性の平日の労働時間は、75年7時間49分、85年8時間34分、95年8時間29分となっている。75年と95年とを比べると、平日の労働時間は40分も増加している。特に10時間以上働いている人が増えており、75年では全体の12%にすぎなかったものが、95年では21%にも跳ね上がっている。(少し遅く電車に乗ると、朝のラッシュ並に帰宅を急ぐ乗客がいるのもうなずける)。
 東京工業大学の矢野真和教授が、日本の平均都市として愛媛県松山市を選び、そこで72年と91年との生活時間を調査している。その調査によると、有職者男性のうち9.5時間を超える長時間労働者の割合が、72年では31%、一方91年では38%に増えていることが示されている。
 では諸外国では労働時間は、どういう動きがあるか?
 去年1999年10月23日に日経の夕刊は「仏で週35時間労働法 雇用創出策に副産物 共働き女性のゆとり生む」という記事を載せた。「もともと失業対策としての色合いが濃いが、共働き女性にとっては減った労働時間を家事や子供と一緒に過ごすために使えると期待が高まっている。しかし複雑な労務管理を伴うため企業の反発も強く、すんなり定着するかどうかは予断を許さないようだ」と解説した。
 約1年後、2000年日経11月13日の夕刊「ウーマン24時」はパリ在住の浅野という人の記事を載せた。「この秋のフランスで、明るい話題は出生率の増加だ。・・・戦後最低の出生率を記録した1991年に比べて、5%の上昇。2000年上半期だけで、さらに5%も上昇している。ミニ・ベビーブームの到来だ。・・・35時間労働時間制は昨年から本格的に始動した。・・・35時間労働制は女性に限らず、フランス人全体の生活を大きく変えようとしている。・・・・会社側との交渉次第で、就労時間がよりフレキシブルになった所も大きい。こうした労働時間短縮の傾向が、働く女性に精神的な子育ての余裕を与えている事実は見逃せない」。
 日本では、親のしつけが精神論のレベルで議論になっても、しつけをするための条件として、親の労働時間が大々的に議論されることが大変少ない。
 
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 11月15日の朝日新聞は「奉仕義務化、6割消極的 教育改革 提言へ市民から意見」と報じた。「提言への意見募集に対して、10月末までに2086件が寄せられた。意見の中では奉仕活動に対するものが最も多く、697件。このうち、積極的な意見は183件だったが、消極的な意見は56%にあたる392件に上がった」。先に述べた私の意見もその反対に一つにカウントされたわけだ。意見発表はできなかったが、権利行使をして社会への一つのアピールにささやかながら協力できたと、自己満足をした。
 
 現在、衆議委員と参議院で憲法調査会が開かれている。これらにも意見を出すことが可能なようだ。
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