竹中流改革カジノ資本主義でいいのか
     高杉良
    朝日新聞2002年3月1日
 
 1年ほど前、私は大阪で
関西の財界人を前に、「日
本経済はアングロサクソン
・リセッションに陥つてい
る」と話しました。今日の
不況はアメリカによつても
たらされたとの意味合いの
ほか、歴代為政者のアメリ
カ一辺倒を、私製の造語で
皮肉ったのでした。当時は
森内閣でしたが、席上、私
は、小渕内閣以来の経済政
策ブレーン、竹中平蔵・慶
大教授(現・経済財政担当
相)を名指しで批判したこ
とを忘れていません。
 
 竹中氏は「バブルの清算
は2年で終える」と答申し
たあの小渕内閣の経済戦略
会議メンバーですが、そん
な短期間に、積もり積もっ
た不良債権を処理するよう
銀行を仕向ければ、金詰ま
りが広がり、倒産は増え、
消費もしぽんで、不況が深
刻化するばかりだと案じた
ものです。しかし、竹中氏
は、弱い企業を早く市場か
ら退出させたほうがいいと
論じ、IT革命が日本を救
うと旗を振ったのでした。
(略)
 私は、このところずっと
証券や銀行を舞台にした小
説を書いており、この間、
何百人もの官民の関係者に
取材してきました。日本経
済に猛烈なバブルをもたら
すきっかけとなる85年のプ
ラザ合意の裏に何があった
のか、邦銀の融資総額に対
する自己資本の比率や保有
株式の自己資本算定基準を
細かに定めるBIS規制が
なぜ突然浮上したのか
金融ビッグバンをなぜあれほ
ど急いだのか。ブッシュ大
統領の訪日に合わせ、日本
国債の格付けを昨年末に続
いて、もう2段階引き下げ
る意向を示した米系格付け
会社の狙いは何なのか
解明し切れないことばかりで
すが、私はそこに、アング
ロサクソン、つまりアメリ
カとイギリスの金融界
の意思を感じてなりません。
 
 日本の株価が下がり続け
るなかで、日本の投資家は
死屍累々です。しかし、日
本売りを戦路とする米系投
資会社や外資系証券はこの
間もカラ売りにより巨額の
利益を上げている。竹中氏
は、雑誌「プレジデント」
に「竹中平蔵大臣の『構造
改革』日記」を連載してい
ますが、最新号に「ハイリ
スク・ハイリターンの時代
が到来した」と書いていま
す。会社なども定年までい
続けずに、「リスクを冒す
勇気」を持てというのです
が、ブローカーならいざし
らず、国民に"カジノ”を
奨励せんばかりの国務大臣
など、いたためしがない
竹中氏が日本マクドナルド
の未公開株を譲られたり、
国会で地方税納税にからん
で追及されたりしたのは、
リスクだったのかと半畳の
一つも入れたくなります。
 
 「マーケットに聞け」が
竹中経財相の常套句です。
しかし、日本のマーケット
は、先述のように、株式も
債券も、外資のカラ売りな
どでいいようにもてあそば
れているのが現状です。そ
れでもいいというのであれ
ば、その理由を説明するの
が先決で、マーケットが間
違っていることを立証しろ
と反駁するのは言いがかり
というものです。
 
 いかに巨額でも銀行への
公費投入は必要でしょう。
しかし、構造改革は時間を
かけて進めるべきです。映
画「男はつらいよ」のタコ
社長は、手形の決済に追わ
れながらも、気を遣うのは
常に従業員のことでした。
弱肉強食、勝った者の総取
り、ハイリスク・ハイリタ
ーンの無理強いは日本社会
を間違いなく破壊します。
 
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第2回世界社会フォーラムの全世界から8万入が結集!
反グローバル化のネツトワークで社会的公正と平和を実現しよう!
 
ATTAC Japan事務局田中徹二
                  ピースネットニュース2002.3.10
◆はじめに
もう一つの世界は可能だ(Another world is
possible)」をメインスローガンに、第2回世界社
会フォーラム(WSF2002)が1月31日から2月
5日までの期間、ブラジル南部の都市ポルトアレグ
レ市で開催された。このフォーラムは、世界経済
フオーラム(WES、通称ダボス会議)に対抗して昨
年より同じ時期に開催されてきた。経済フォーラム
が世界を動かしている経済や政治のエリートたち
の、つまり経済のグローバル化を推進する人たちの
フォーラムなら、社会フォーラムはそれに異議申立
てをしている人たち、つまりNGO・市民、労働組
合など持たざるもののフォーラムである。第2回目の
今年は、昨年の4倍から5倍といわれる8万人
の人々が、文字通り「インド・アフリカのNGOか
らアメリカの先住民代表まで、パレスチナの戦士か
らイスラエルのNGO代表団まで」、国境、民族、
言語の壁を超えて集まった。
 
 日本からは、ATTAC(アタック)Japan関係者10
人が参加した。「日本の労働者が直面する現実と
いうワークショップを主催するとともに様々な社
会運動団体との交流を行ってきた。
 
 残念ながら、日本のマスコミはこのWSFについ
てほとんど報道しなかうたが、フランスから6人も
の閣僚が参加したこともあってルモンド紙などフラ
ンスのマスコミ、またイギリスのガーディアン紙や
BBC放送、アメリカのニューヨークタイムズ紙な
どは連日のように報道していた。ここにもグローバ
リゼーションに対する関心の度合いの違いそし
てそれは日本における反グローバリゼーション運動
の弱さの反映でもある一を痛感した。
 
WSF2002はどれほどの規模であったか?
 WSFについてある人は「貧者の国連」と名付け
たが、世界131ヵ国から約5,000の市民団体、
15,000の市民社会の代表団など8万人近くが結集
した。まず、どれほどの規模の民衆のフォーラムで
あったかを数字で見ることにする(公式数値と地元
新聞の報道より)。
 
1)参加者一51,300人(前もって締め切りまで
に登録した団体とその構成メンバー)
2)傍聴参加者一35,000人(フォーラム開催中
に登録した団体と個人と思われる)
3)ユースキャンプー40ヵ国ll,600人
4)参加国一131カ国、使用言語一186カ国
語、人種一210
5)NGO、社会運動、労組など市民社会の代表
 団一15,230代表
6)市民団体、市民組織一4,909団体
 
 また、国別に参加者数が多い順に見てみると、ブ
ラジル(何万人にもなる)、イタリアとアルゼンチ
ン(ともに1,400人)、フランス(800人以上)、米
国(420人)、以下スペイン、ウルグアイ、カナダ
と続き、アジアではインドが多かったようだ(韓国、
中国・香港、日本からはそれぞれ10数人)。目立っ
のは、昨年少なかった米国から多くのNGO、研究
者が参加したことでありる。
 
 このようにWSFは巨大なフォーラムであった。
プログラム案内は3ヵ国語で書かれた分厚い新聞紙
のようなものにびっしりと書かれており、朝8時
30分から夜9時まで会議、セミナー、ワークショ
ップが記されていた(その後夜を徹してコンサー
トが催されている)。さらにプログラムには書かれ
ていない会議、交流会、討論会などがあり、こちら
はウェッブサイトで探すか、有力組織から情報を聞
き出さなければならなかった。
 
WSF2002で何が討論されたか?
このフォーラムの目的を一言で言えば、第一にオ
ルタナティブ(代替案)のための会議と討論の場で
あり、第二に交流・連帯の場であった。昨年4月、
第1回WSFの成功を受け、ブラジルの7つの諸団
体(NGO、労働組合、農民団体、人権団体など)
とフランスのATTACによる組織委員会は、WS
Fの目的として「新自由主義に反対する地球規模の
市民社会の諸団体によるオルタナティブのための民
主的討論や経験の自由な交流の公開会議場」と位置
付けた(世界社会フォーラムの宣言の基礎)。
 
 さて、会議やセミナーには、ノーム・チョムスキ
ー、イマニュエル・ウォーラースティン、リゴベル
タ・メンチュー、バンダナ・シバ、ベルナール・カ
ッセン、スーザン・ジョージ、ウォールデン・ベロ
ー、モー一ド・バローなど日本でもよく知られている
著名な論者や多くの学者・研究家が参加した。
 
 会議(コンフェレンス)では、4つのテーマに基
づく6つのカテゴリーを1日1テーマづつ4日間、
午前中に行われた。そのテーマとは、@富の生産と
社会的再生産、A富へのアクセスと持続可能性、B
市民社会と公共空間、C新しい社会における政治権
力と倫理である。カテゴリーとして@は国際貿易、
多国籍企業、金融資本規制、対外債務、労働、連帯
経済、Aは知識・著作権と特許、医療・健康・
AIDS、持続可能な環境、水一公共財、先住民、都
市・都市住民、Bは差別と不寛容への闘い、コミュ
ニケーションとメディアの民主化、文化的創造・多
様性とアイデンテイテイ、市民社会の国際運動とし
ての展望、暴カー家庭内暴力を容認する文化、移住
者・人身売買(女性、子ども)・難民、Cは国際組
織と世界権力構造、参加型民主主義、主権・国民・
国家、グローバリゼーションとミリタリズム、原則
と価値、人権の経済学・社会と文化的権利、という
どれもこれも魅力的内容で行われていた。
 
 交流・連帯では、大陸別・地域別会議や労働組合
などの社会運動別会議、ATTAC世界総会など国
際NGOの会議などがセミナーやワークショップと
平行して行われ、ネットワーク化が飛躍的に進めら
れた。女性、青年、先住民、労働、反戦平和(アジ
アやラテンアメリカなど大陸別に)ほかで宣言・決
議などが上がった。また、フランスからの6人の閣
僚の参加のほかに世界から多くの国会議員も参加
し、世界議員フォーラムが行われ、米国
の戦争を糾弾する決議が上がった。
 
 さらにATTACフランス、ブラジルCUT(中
央労働組合評議会)、ヴィア・カンペシーナ(農民
の道;ラテンアメリカ・ヨーロッパを中心に世界各
地に支部を持っている)、フォーカス・オン・ザ・
グローバル・サウス(タイ)などのイニシャティブ
によって、「ポルトアレグレU:社会運動団体から
の呼びかけ/新自由主義、戦争、ミリタリズムヘの
抵抗を:平和と社会的公正のために」という宣言
採択された(http://wwwJca.apc.org/attac-jp/
)。
 この宣言を作るために、連日様々な運動体がこ
の指とまれ方式で断続的に集まり、最終日までにま
とめあげた。実は、第1回目と同じく今回もWSF
としての決議や宣言は出なかったので、この呼びか
けの内容が、WSFに参加した団体の中で社会運動
をより強化していこうという諸グループの今後1年
間のいわば運動方針になると思われる。
 
 そして2月5日の最終日、来年のWSF開催は三
度ポルトアレグレで、04年にはインドで、05年は
アフリカで開催することが発表された。
 
世界経済フォーラムで途上国の貧困対策の声上が
るが?
 (略)
 今年は「リオプラス10」という国連持続可能な
開発のための世界サミットが開催される年である。
ひるがえって、10年前の92年リオデジャネイロで
の地球サミット(国連環境・開発会議)で、貧困と
環境対策資金として1250億ドルが必要と試算さ
れ、先進国のODA(政府開発援助)拡大、GEF
(地球環境ファシリティー)の役割拡大などが合意
された。しかし、その後資金が集められ実行性のあ
る対策は講じられてこなかった。それどころか、グ
ローバリゼーションの名のもとに弱肉強食の市場原
理主義が地球を席巻し、途上国は貧困から脱却でき
ず先進国との格差が歴史上はじまって以来というレ
ベルにまで拡大してきた。さらにこのグローバリゼ
一ションは先進国でも優勝劣敗をもたらすリストラ
をもたらし、失業者やホームレスを増大させる一方
である。地球環境といえば、地球温暖化ひとつ取っ
ても明らかなようにその危機は止めどなく進行して
いる。
 
 今やどれだけの資金が貧困・環境対策費として必
要になっているのだろうか。世界人口60億のうち、
その半数が1日2ドル以下で、5分の1が1日1ド
ル以下で生活しているという(世界銀行調査)。そ
うした中にあって、すべての子どもが最低限の生活
水準を達成できるようにするためには、年間800
億ドルが必要との試算がユニセフから出されてい
る。この数字が緊急かつ最低限の資金となるであろ
う。しかし、世界のODA総額が560億ドル程度
であるように、この最低限の資金すら国際社会は講
ずることが出来ないでいる。
 
 こうした経過を知るものにとっては、どれほど途上
国の貧困対策が声高に叫ばれようが、世界のエリー
トたちが真剣に貧困対策に立ち向かうとはとうてい
考えることが出来ないのである。
 
◆おわりに
「社会運動団体からの呼びかけ」にもあるように、
今回のWSFでの議論の一方の柱は、米国の戦争政
策に典型的に現われているグローバリゼーションと
ミリタリズムについてであった。議論のほかに私た
ちが感じたことは、何よりも人間としての尊厳と社
会的公正を求める全世界の運動を担う人々の熱気に
ふれたことであった。
 
 今日の日本列島を覆うリストラ・失業、民営化の
攻撃は、経済のグローバル化の中で日本資本主義が
牛き延びるための攻撃である。したがって、それに
抗する運動も一国で完結することはなく、グローバ
ルな規模での闘いが意識的に追求されなければなら
ない。そして米国の戦争政策とそれに追随する小泉
政権に立ち向かっていくことが求められている。
こうした運動の積み上げで、来年のWSFには今
年を倍する人数を派遣しよう。
 
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もう一つの世界考える集会に7万人が参加
    週間金曜日2月15日号
        金曜アンテナ
もう一つの世界は可能だ
合言葉に、世界の市民団体、反
グローバル化運動家たちが結集
する世界社会フォーラムが今年
もまた、ブラジル南部の都市ポ
ルト・アレグレで開かれた。世
界の経済政治のエリートたちが
集まるダヴォスの世界経済フォ
ーラムに対抗した第一回の昨年
にひきつづき、今回も一月三一
日から二月五日までと、ニュー
ヨークの経済フォーラムを睨ん
だ日程での開催だった。
 
参加者数は昨年の四倍を超え
る約七万人(131力国、市民
団体数約五〇〇〇団体)。講演
会、セミナー、ワークショップ
の数も倍増した。テーマは、経
済、環境、市民社会、政治権力
と倫理の四つで、現状分析と理
論中心の昨年に比べ、オールタ
ナティヴな解決策の提案が増え
たようだ。
 
 もっとも盛況だったのは、"「戦
争のない世界は可能だ」と題し
て9月11日以降の世界情勢を
論じた一連の講演会だった。こ
とに、チョムスキー氏とグアテ
マラのノーベル平和賞受賞者リ
ゴベルタ・メンチュー氏が話し
た夕べは、どちらも数千人収容
可能な会場のそとにもスクリー
ンが張り出され、そこにもひし
めくほどの聴衆が集まった。
 この一年、フォーラムを囲む
人々の危機感も著しく増大した。
昨年七月、ジェノヴァ・サミッ
トに抗議した反グローバル化運
動が弾圧を受けたのをはじめ、
テロと報復戦争、戦時下の言論
統制、WTO(世界貿易機関)
の体制強化、最近ではパレステ
ィナ難民への弾圧のほか、隣国
アルゼンチンから絶望的な経済
破綻のニュースが相次いでいる。
 
 社会フォーラムの人々にとって
は、いずれも武力と財力にもの
をいわせたグローバル化と新自
由主義経済の行き詰まりを物語
るできごと。「もう一つの世界」
のほかに人類の生き残れる道は
ないという。
(在イタリア、文筆業 齋藤ゆかり)
 
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