中東 動乱母親の涙と絶望を知って
アトファルナろう学校校長
(パレスチナ・ガザ地区在住)
ジェリー・シャワ
朝日新聞 2003年4月3日
 
 一筋の望みを断ち切り、
米英軍によるイラク攻撃が
始まった。遠く離れたこの
ガザ地区でもまた、人々は
食料品を可能な限り買いた
めている。世界中の目がイ
ラクにくぎ付けになってい
る間に、パレスチナ人に対
して予想される攻撃に備え
ようとしているのだ。
 
 ガザの人々は、独裁の下
で苦しんできたイラクの市
民が、今度は米国の軍隊に
よって犠牲になっている痛
みを我がことのように感じ
ている。ガザもまた、何十
年にもわたってイスラエル
がパレスチナの土地を不法
に占領することを許してき
た国際社会、特に米国に対
する完全な絶望と失望を感
じているからだ。
 
 米国生まれの私がこの地
に住んで32年。経験を通じ
て、占領とは他者によって
土地を取り上げられ、管理
されるだけでなく、日常生
活のすべてを他者に制御さ
れることだと知った。
 
 多くのパレスチナ入にと
って、占領とは民族を消し
去ること、その文化、生活
の糧、そして誇りを破壊
ることを意味する。入間は
常に自由を希求する。他者
を支配するために使われる
暴力は、子どもを殺し、女
性や男性を殺すだけではな
い。精神を殺し、理性をむ
しばみ、他者を制限し、は
ずかしめ、抑圧し、侮辱
し、そして犠牲にする。
 
 世界で最も人口密度の高
い地区の一つであるガザ。
村でも町でも、人々はイス
ラエル軍の侵攻におびえき
っている。その後には、恐
ろしい破壊と死だけが残さ
れる。トラウマを抱えた子
どもたちは、閉じこめられ
た家の中で抱き合い、泣き
叫ぶ。大人たちにはもはや
子どもを守ることも慰めて
やることもできない。
 
 イスラエル軍は例によっ
て「軍事作戦の結果、テロ
リストを根絶した」と発表
する。しかし、軍事行動に
よって子どもを含む何十人
もの民間入が犠牲になって
いるのだ。(略)
 それともパレスチナ
人の命などものの数に入ら
ないのだろうか。私たちに
は何も聞こえてこない。
 
 そんな国際社会がガザに
目を向けたのは、先月中旬
に米国人女性の平和活動家
が亡くなった時だった。23
歳の大学生レイチェルは、
民間人の家を破壊しようと
した巨大なブルドーザーの
前に「人間の盾」として立
ちはだかり、押しつぶされ
た。彼女は、祖国の政府、
政治家、評論家、そして大
統領よりも深く、入間の痛
みの何たるかを理解し、世
界が無視し続ける入々の嘆
きを聴いたのである。
 
 夜の闇が下りたガザで、
入々は身を寄せ合い、貧困
と絶望にうなだれながら、
明朝のニュースでは、新た
な犠牲者が何入報じられる
かを心配している。
 
 米国の多くの人々は、戦
争の実際を知らない。爆弾
が落ちてくることの恐怖を
知らない。しかし、日本で
も、ヨーロッパでも、それ
以外の国でも、人々は自分
自身の経験として、また共
通の記憶として戦争の恐ろ
しさを知っているはずだ。
 
 先月21日はアラブ世界の
「母の日」だった。ガザ
で、そしてイラクで、母親
たちは、子どもたちが戦争
の恐怖と国際社会に対する
絶望の中で成長せざるを得
ないことに心の中で泣きな
がら、それでも彼ら彼女ら
を静め、慰めようと、顔に
は精いっぱいの笑みを浮か
べている。210入の生徒
が通うろう学校の校長であ
り、4人の子どもの母親で
ある私もまた、その一入な
のだ。(原文は英語)
 
 
劣化ウラン弾
被害から目を背けるな
嘉借信雄/神戸大学教授(現代哲学)
  朝日新聞 2003年3月29日
 
 現代の戦争とはどんなも
のなのか。それを考える時
に忘れてならないのは、湾
岸戦争や旧ユーゴスラビア
空爆で大量に使われた劣化
ウラン弾である。今回の
ラク戦争でも、米軍は空爆
で使用したことを認めてい
る。(略)
 劣化ウランは、核燃料や
核兵器を製造する際の濃縮
工程で副次的に生み出され
る。密度の高い重金属で、
砲弾のしんに使うと貫通力
が増す。空気中で発火し、
微粒子となって飛散すれ
ば、放射能などによる環境
汚染や人体への深刻な影響
を引き起こす懸念がある。
 
 市民平和使節団の一員と
して昨年12月、私はイラク
を訪れた。劣化ウラン弾の
被害実態を調べるためだ。
バグダッドやバスラの病院
では湾岸戦争後、白血病に
かかる子どもが急増した。
がんの発生率も数倍になっ
たという。だが経済制裁の
あおりで医薬品は足りず、
医療機器もおそろしく旧式
だった。白血病患者の生存
率は1割以下、と医師は説
明した。病院によつては、
先天性異常の新生児の割合
も3%に達するそうだ。
 
 劣化ウラン弾の被害はイ
ラクだけの話ではない。米
英軍や北大西洋条約機構
(NATO)軍の兵士らに
も及んでいるはずだ。しか
し米政府は、湾岸戦争症候
群と劣化ウラン弾の関連に
ついて「因果関係は認めら
れない」との立場を崩さな
い。それどころか、この兵
器に対する恐怖心をあおる
のはイラク側の情報操作に
乗るものだ、と批判する。
 
 9・11テロの前は、欧州
議会が劣化ウラン弾の使用
中止を決議するなど、批判
の声は国際社会の間に高ま
つていた。イラクも国連に
被害救済を訴えていた。と
ころがテロ事件を機に、こ
の問題は覆い隠され、忘れ
られてしまった。
 
 劣化ウラン弾は通常兵器
として扱われている。だが
放射能や毒性の広がりは、
時間的にも空間的にも限定
できない。端的にいえば、
大量破壊兵器なのだ。国際
社会がイラクの大量破壊兵
器を問題にするのなら、
化ウラン弾の被害も正面か
ら取り上げるべきだろう。
 
 ナチスの迫害を逃れて米
国に渡った政治思想家のハ
ンナ・アーレントは、「世
界への愛」の最初の行為は
現実に注意を向け続けよう
と努めることだ、と言って
いる。注意の向け方次第
で、世界の見え方はがらり
と変わる。とりわけ情報が
あふれる時代では、隠され
た現実に主体的に注意を向
ける努力が欠かせない。
 
 イラク戦争の直前、ブッ
シュ米大統領は「真実の瞬
間が近づきつつある」と語
った。現代の戦争の真実
は、劣化ウラン弾の問題を
直視することから始まる。
放射能兵器をこれ以上、使
わせてはならない
 
 
強まる米の単独主義
「大西欧圏」に亀裂の恐れ
  日経新聞 2002年11月23日
 
・・・・・・・・・・・
 冷戦の終結に伴い唯一
の超大国となった米国は
ロシアとの「劇的な関係
の変化」(ライス米大統
領補佐官)を引き金に新
たな世界秩序のあり方を
模索した。「もはやロシ
アは敵ではない」(ブッ
シュ大統領)との発想転
換に基づく。
 
 その目線の先に出現し
たのはまず中国だった
が、米同時テロをきっか
けに米政府・議会内での
対中脅威論は急速に沈静
化。代わって台頭したの
は大統領が「悪の枢軸」
と呼んだイラク、イラン
などの中東問題である。
 
 ラムズフェルド米国防
長官の諮問機関、国防政
策委員会は「全中東民主
化・市場経済化計画」
名付けた遠大な構想を議
論している。次のような
内容だ。
・第一段階イラクのフセ
イン政権を打倒、民主制
導入
・第二段階サウジアラビ
アの王政改革、パレスチ
ナ国家のヨルダン併合実
・第三段階シリア、エジ
プトなどの民主化促進
・第四段階イランヘの圧
力強化、必要なら武力行
使も検討
 
 リチャード・パール委
員長、ウルフォウィッツ
国防副長官らが主導する
構想は身内からも「正気
とは思えない」との声が
出るほど野心的だ。かつ
て委員会のメンバーだっ
だが、米国に「前のめ
り」を是正する兆しは見
られない。国防政策委員
会でひそかに検討してい
る中東政策の青写真は単
独主義色を強める米国の
姿勢を映している。
・・・・・・
 
 
米を追認するだけの国連
ニューヨーク支局長
五十嵐浩司
   朝日新聞 11月9日
 
 強力に推すのはたった
2カ国で、百数十カ国が
反対しても押し切られて
しまう。おかしな話だ。
 国連安全保障理理事会の
対イラク決議採択の動き
は、国連と安保理が抱え
る矛盾をまた示した。
 
 そもそもの問題はイラ
クが大量破壊兵器の査察
に真摯に応じないことな
のは確認しておきたい。
だが、米国が査察のため
でなく、武力行使へのお
墨付きとして決議を求め
のも明白である。
 
・・・・
とにかく戦争反対一理由
はどうであれ、国連加盟
国に武力行使を危倶する
声が圧倒的だったのは間
違いない。
 
 国連は世界平和のため
の機関だ。憲章にそう書
いてある。だが、実際は
理念より政治の力学で動
いていることもまた事実
である。例えばベトナム
戦争は米国の、イランー
イラク戦争はソ連(当
時)と米国の意向で安保
理にかけられていない。.
 
 今回の8週間余に及ぶ
安保理の論議で目立つの
は「米国以外に核がなく、
真剣な抵抗勢力が消えた
こと」だとある国連幹部
はいう。フランスとロシ
アが見せた抵抗も最初か
ら膿砕けの印象が強かっ
た。冷戦が終わって十余
年。一極時代の米の存在
は、「反テロ連合の盟主」
という肩書が加わって強
大になっている。
 
 今回の決議を巡る動き
は、どちらに転んでも
連の威信を損なうもので
はあった。米国は否決さ
れたら単独で軍事行動に
出ると脅した。・・・
 
 一方、決議の採択は米
政策の追認を意味する。
米国はこれまでも安保
理の承認を自国の政策を
『世界の政策』にするた
めに使ってきた」(ニュ
ースクール大学のシュレ
ジンジャー教授)。戦争
の正当化に国連がまた使
われかねない。あまりに
も強大な一国が仕切る時
代の国連の限界を、今回
の決議採択は端的に示し
ている。
 
 限界を破る手だてはな
いものか。それには国連
自体が強くなるしかない
と多くの識者が口をそろ
える。国連は加盟国を集
める「器」に過ぎないの
だから、強くするには一
つひとつの加盟国がより
力強くその主張を繰り
返すことだ。
・・・
 シュレジンジャー教授
は、そうした声の積み市
ねがやがて、米国と力の
均衡をとるもう一つの
「極」に国連が成長する
可能性に期待する。
 
 今回の決議はイラクが
履行義務に違反したら、
もう一度安保理で協議す
ると規定している。今回
はないがしろにされた百
数十カ国の声をそこに反
映させるにも、一つひと
つの国が主張を繰り返す
しかないだろう。その集
積がやがて力となる。
 
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イラクに大量破壊兵器なし
元国連兵器査察官が言明!
 
 週間金曜日、9月20日号
       金曜アンテナ
 
 ブッシュ大統領やチェイニー
副大統領など米政府首脳がさか
んにイラクの脅威を説き、好戦
的風潮を煽っている。10月中
旬には二万人の海兵隊をイラク
侵攻のため配備しようと準備中
とも言われる。イラクは危険な
のか。本当に、サダム・フセイ
ンは大量破壊兵器を蓄積してい
るのか。
 
 米政府の強硬姿勢に対応して、
米上院対外関係委員会は八月、
イラク兵力の現状を把握しよう
と公聴会を開いた。しかし、イ
ラクの兵器状況について熟知し
た人物、元国連兵器査察目のス
コット・リッター氏は呼ばれな
かった。
 
 リッター氏はここ数力月、反
戦団体やNATO(北大西洋条
約機構)の集会に出席し、米国
がイラクを攻撃するのは誤りだ
と語っている。彼は91年のイ
ラク戦争(いわゆる湾岸戦争)
後、国連の兵器査察チームの一
員として七年間イラクに滞在し
た。イラクの兵器プログラムを
詳細に調べ上げ、イラク側の虚
偽や隠蔽工作にもかかわらず、
核兵器や化学・生物兵器やそれ
らの製造所を90%以上発見し、
破壊した。
 
 仮に発見漏れがあったとして
も、生物兵器は三年以内に、化
学兵器は五年以内に効力をなく
すので、現在はほとんど使いも
のにならないとリッター氏は言
う。イラクは現在、衛星などに
よって厳しく監視されているの
で、他国に知られずに兵器製造
を再開することは不可能に近い。
たとえば、化学・生物兵器を生
産すれば、それに伴って発生す
るガス類が、核兵器生産の場合
はガンマ線が検出されるはずだ
が、そのような事実はない。リ
ッター氏は、イラクは大量破壊
兵器を持っていないと言明して
いる。
 
 リッター氏は、元海軍将校で
イラク戦争にも参加し、大統領
選ではブッシュ大統領に投票し
たという。・・・、「イラクの兵
力について嘘をついている」と
主張しているのだ。
 
 イラクが再び兵器を増強して
いると疑うなら、「再査察するの
がいちばんだ」と彼は示唆する。
その声が届いたのか、ヨーロッ
パ諸国やNATOの支持を得ら
れないからか、九月初め、穏健
派のパウエル国務長官は国連査
察を再開すべきと語りはじめた。
(在ニューヨーク、フリーライタ
ー 丸子王児)
 
 
 
アルカイダ関与の”証拠”不自然
  勝手な「敵意」に警戒心
     朝日新聞  2002年9月14日
 アハラム戦略研究所 ディーア・ラシュワン氏
 
 米同時多発テロ事件か
ら1年たっても米国当局
からはテロ事件とアルカ
イダとのつながりを法的
に立証する材料は何ら出
ていない。メディアが伝
える疑惑ばかりだ。
 
 事件直後に、「犯入た
ちが使ったとされる車か
ら、アラビア語の飛行機
操縦マニュアル、コーラ
ン、ビンラデインの写真
が見つかった」と米国で
報じられた。しかし、大
型旅客機の操縦マニュア
ルはエジプト国内でも英
語版ならあるだろうが、
アラビア語版はない。欧米に
住んでいた彼らがアラ
ビア語マニュアルを必
要としただろうか。
 
 イスラムでは偶像崇拝
を禁止している。殉教し
ようとする者たちがビ
ラデインの写真を持つだ
ろうか。コーランは車に
残すのではなく、最後ま
で持っていくはずだ。誰
がこのような不自然な
"証拠"を残したのか。
 
 主犯格とされるエジプ
ト入モハメド・アタが書
いた「遺書」をドイツ誌
が報じた。中に「遺体を
清める」ことの細かな指
示があるのには、驚い
た。「殉教者の遺体は清
めない」というイスラム
の常識に反する
 
 イスラム運動を研究し
ている立場から言えば、
19人の犯人が「イスラム
主義者」だと判断できる
材料は出ていない。組織
がいきなりメンバーをリ
クルートすることはな
い。最初は全く政治色の
ないイスラムの一般的な
集まりに勧誘する。集ま
りは公開されている。集
団でコーランを読むこと
から始まり、段階を経て、
選はれたものが、最後に
アルカイダなど秘密組織
に引き入れられる。とこ
ろが、犯人の一入として
公開の集まりに参加して
いたという記録がない
事件はイスラムの側か
ら見れば何も解明されて
いない。なのに米国はア
ルカイダの犯行と決めつ
けて戦争を始め、さらに
イラク攻撃を公言する。
イスラム世界が「米国の
敵意」に警戒を強めるの
は自然なことだ。
 
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テロは世界を変えたか
 パレスチナ出身の米知識人
エドワード・サイード氏に聞く
 
聞き手
ニューヨーク支局長
五十嵐浩司
   朝日新聞  2002年9月17日
米、力任せの中東介入
イラク攻撃、非協力で団結を
 
ー「テロとの戦い」で、世
界はより安全になりましたか。
 
「より危険になったと私は感
じる。突発的なものであれ、国
家によるものであれ、以前より
暴力に支配され、人々は安全で
ないと感じている。それはテロ
のせいではなく、米国が交戦状
態にあるからだろう。テロとい
う抽象的な悪との戦いは、終わ
ることも勝利することもありえ
ない。いま、ブッシュ政権はパ
レスチナ、イラクそしてイラン
の指導部や体制を変えると公然
と言い放っている。各国は『米
国につくか、敵に回るか』を迫
られる。だれも抑えられない。
これは米国の傲慢さ、単独行動
主義の勝利だろう」
 
 「ほとんどの米国人は怒りに
駆られている。我々だけがこう
した攻撃にあったように振る舞
っている。米国がアフリカで、
アジアで、中東や中南米で何を
してきたのか、まったく知らな
。反対意見は愛国心の名の下
に抑え込まれている。星条旗、
車にはステッカー。膨大な予算
を持つ国防総省、疑問を挟まな
い議会。その結果、我々は戦争
へと向かっている。それは中東
だけではなく、世界全体の安全
を脅かすものだ」
 
 「米国人は自分は神で中東全
体を変えられると考えている。
・・・しかし、どうやって戦争
で民主主.義をもたらすんだね」
 
ーアフガニスタン再生は数
少ない救いの一つでしょう。
 
「しかし、状況は悪くなって
いる。体制は不安定だし治安も
よくない。軍閥が割拠する状態
だ。それでも米国人はアフガン
で起きていることを知らない
こうした状態をもたらしたのが
我々だということをメディアが
忘れてしまっているからだ」
 
親イスラエル政権
 
ー国家による暴力とは何を
指すのですか。
 
 「被害者の数と国際法への違
反ぶりを見れば、イスラエル軍
にかなうものはない。それを米
国は堂々と支持している
 
ーブッシュ政権はとりわけ
イスラエルに近い。
 
イラクの体制を覆そうとす
る最大の理由はイスラエルに絡
むものだろう。イラクに民主主
義をとか、イラクの民衆を救お
うとかではない。シャロン(イ
スラエル首相)とすればサウジ
アラビア、エジプト、ヨルダン
を無力化しイラク攻撃を進めれ
ば、アラブ世界を政治的に破壊
してパレスチナ人を『終わり』
にできる。ヨルダン川西岸、ガ
ザ両地区にも入植し、パレスチ
ナ入を追い出すかも知れない」
 
国連の「対米制裁」
 
一地球上の大多数が望んで
いない戦争を、止める手だては
ないのでしょうか。
 
 「まず団結すること。そして
国連で米国とイスラエルを孤立
させ、戦争に誰も協力しないと
明確にする。それでも戦争を起
こせば米国に制裁を科す
 
ー米国に制裁?
 
「対米制裁!その通り!
他に道はない。米国は人類史上
最強の軍を持ち、誰も抑えられ
ない。だから使える手だては外
交、政治そして経済の力だ」
 
ーしかし、米国は国連安保
理で拒否権を持つ。安保理を通
さずに制裁などできますか。
 
 「米国が拒否権を使うなら、
『平和のための結集』と呼ばれ
る国連総会を招集する。極めて
重要な事案に関してはそこで安
保理決定を覆せる。そうした例
はあった(注)。世界をたった
一つの国、いや、世界から孤立
したたった一握りの人々の自由
にさせてはならない」
 
(注)平和のための結集
安保理が常任理事国間で合意でき
ず平和への脅威や侵路行為に対処
できない場合、総会が肩代わりす
る。だが、肩代わりを決めるの
は安保理。田年の朝鮮戦争の際
に使われたが、ソ連(当時)が
欠席したため可能だった。
 
ー難しい手法です。
「しかし、驚くほどに誰もが
イラク攻撃に反対している。ブ
ッシュは『あらゆる手段を講じ
る』といっているが、(イラク
に国連の)査察団を復帰させよ
うなどとは望んでいない。米国
はイラクが核保有の能力がある
だけで攻撃する必要があると説
明する。だが、そうした国は恥
ほどもある。イスラエルはすで
に核を持っているのに、誰も査
察を言い出さない」
 
国外渡航14%のみ
 
ー正義と悪、イエスかノー
か。米国のこの単純な二分法は
何が原因なのでしょう。
 
「19世紀に大国になってから
米国は戦争に負けた経験がなく
無敵だという意識がある。
・・・そこでは教育の役割が
大きい。若者たちは米国が特別
な目的と使命を持つと教えられ
る。また、米国が世界で最も宗
教的な国だというのも一因だ。
『神の下の国』の意識。それに
国民の14%しか国外に行ったこ
とがなく、連邦議員も30%しか
パスポートを持っていない
 
ーこの内向きぶりがテロ後
の反イスラムの空気に?
 
「こうした空気はかなり前か
らある。私は20年前に『イスラ
ム報道』という本を轡いた。今
もその内容と変わらない。い
や、少し悪くなったか。・・・
ここではメディアの責任が大き
い。極めて単純化し、『イスラ
ムは病んでいる、欧米を嫌って
いる』と繰り返す」
 
ー米メディアの9・11報道
をどう見ますか。
 
「ひどいものだ。メディアが
これほどまでに政府に従順だっ
たことはかつてない。政府が言
うとおりに『我々はいま、爆撃
しています』と伝えるのは、
の広報機関に過ぎない」
 
ー知識入の役制は。
 
 「米国の学者は政府入りを視
に入れている。政権交代のた
びにワシントンに群がり、シン
クタンクや政府機関に入る。最
も重要な学者は政府の一部とな
る。だから政府を攻撃しない
また、真の反対勢力が組織され
たことがない。民主、共和の2
大政党は本質的には同じだ
 
・・・・
テロも撲滅できる
 
ー9・11後、悪化する一方
のパレスチナ間題で国際社会は
何をするべきなのでしょう。
 
 「イスラエルとパレスチナの
間に国際部隊を入れ、パレスチ
ナ人を保護する。それがたぶん
唯一の方策だろう。多くがそう
主張するが、米国が安保理で拒
否権を使うため実現しない
 
ーテロの根源を絶つのは難
しい作業です。
 
 「私は楽観的だ。教育や貧し
く絶望している入々の境遇改善
などで、テロを根絶やしにでき
ると思う。いま世界が直面する
問題はテロだと誰もが思ってい
る。だが、グローバル化や米国
の巨大な覇権が、先進国と開発
途上国、飢えたる者と満ち足り
た者との関係をどれほど変えた
か、見落とされがちだ。21世紀
の政府は共通の問題に協調して
取り組む必要がある。例えば環
境、飢餓、エイズ。いずれも対
処できるものであり、テロもそ
の一つだろう。天然痘を克服し
たようにテロも克服できる」
 
 「短期的には悲観的だが、中
長期的には楽観的。そうでなけ
れば教育者として世界の目と心
を開かせることはできない」
-----------------------------------------
エドワード・サイード氏
 
.米コロンピア大学教授(比較文
学)。代表作に「オリエンタリズ
ム」(78年)。エルサレム生まれのキ
リスト教徒でカイロの大学を出
た。いまは米国籍。パレスチナ民
族評議会(PNC)の議員を91年
までの14年間務め、米国における
パレスチナの巌も強力な代弁者。
9・11絡みでは言語学者ノーム・
チョムスキー氏と並ぶ「武力行使
批判派」。同氏は米主流メディア
に無視されているが、サイード氏
はなお発言を求められる。体調が
おもわしくなく、久々に大学へ。
66歳。
 
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