
74. ヘレスのレッスン
ヘレスに着いてすぐしたことは、個人レッスンの
予約をすることだった。 スペインに行く前に、お
目当ての踊り手に個人レッスンの予約をして欲しい
とお願いしたら、こう返答されたのだ。
「スペインに着いてから電話をちょうだい。それか
らいつにするか決めましょう。大丈夫、ちゃんとす
るから安心して。」
私は既婚者なので、短期間でしか滞在できないし、
その期間に集中していろんなことを学びたいから、
こういう返答をされると一番困ってしまう。スペ
インに着いてから電話して、すぐ次の日からレッ
スンが出来るとは、とても思えないからだ。 そし
てヘレスに着いてお目当ての踊り手に電話してみ
たら、嫌な予感は適中した。
「Mari、来週までヘレスのフェスティバルの仕事
でとても忙しいの。だから再来週の月曜日にまた
電話をちょうだい。」 ヘレスのフェスティバルの
時期は、たくさんの外国人がヘレスに押し寄せる
ので、どの踊り手もクラスなどで忙しいようだ。
さて、困った。1週間も稽古なしはもったいない。
私はalma(スペインのフラメンコ冊子)の広告を
見ながら唸っていたら、それを見ていたホームス
テイ先のパキが救いの手を差しのべてくれた。
「私の友達の踊り手を紹介してあげようか?」
「誰を知ってるの?」
「フェルナンドっていうんだけど、とってもいい
踊り手よ。」
「男性でしょ?私は女性に習いたいのよ。」
「彼は男性だけどおかまだから、女性らしい動き
をするわよ。とにかく彼にレッスン出来るか聞い
てみるわ。」
私は今回男性に習う気はまったくなかったので、
このお勧めに乗り気ではなかった。しかも、聞い
たことのない踊り手だったので、どう断るか悩ん
でしまった。そんな私の気持ちを他所に、パキは
携帯電話をポケットから取り出し、そのフェルナ
ンドという人に電話を掛けて話をしだした。そし
て話は勝手に進んでいき、彼女は個人レッスンの
値段の交渉までしてくれているようだった。
「Mari、喜びなさい。友達価格で個人レッスンを
してくれるって。上の鏡ばりの部屋で稽古してい
いから、そこで彼のレッスンを受けたら?」
パキが言うには、スタジオに行ってレッスンを受
けるとお金がかかるし、家で稽古したら楽だろう
からと、2階のサロンを稽古場にさせてくれると
いうのだ。ここまでしてもらって、誰がNoと言え
るだろう? という訳で、最初の1週間だけフェル
ナンドの個人レッスンを受けることにした。
こうして、ヘレスでの個人レッスンが始まったの
だ。レッスンの初日、約束の時間にフェルナンド
はやって来た。想像していた程おかまっぽくなく、
小柄な男性だった。何を教えて欲しい?と聞かれ
たので、ブレリアを教えてとお願いした。 そして
彼のレッスンを30分くらい受けて、あまり乗り気
じゃなかった自分の考えが一変してしまった。
何だかすごくいい!こういうブレリアを習いたかっ
たのよ!私は今までいろんなスペイン人にブレリ
アを習ったけど、どれもピンとくる振りではなかっ
た。でも、彼は違った。私が欲しいと思っていた
ブレリアの振りをくれるのだ。しかも、解説しなが
ら、体の使い方もかなり丁寧に見てくれるではない
の。
レッスンの3日目に、他のレッスンを削っても、彼
にもっと習おうと決心したのだ。
2002.04.20.
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