68. コンク−ルドキュメント4

舞台袖に上がると、前半の場当たりが終わった人

達が降りてくるのにちょうど出会した。そこには

顔見知りが何人かいて挨拶を交した。そしてその

先にキコがいた。

「キコ!どうして先に行ったのよ。私はさっきま

であなたを待っていたのよ!もう来ないんじゃな

いかってヒヤヒヤしたわよ。」そんな私を見て詫

びるどころか、

「何をそんなに心配しているのさぁ。オレはプロ

なんだから、ちゃんと来るに決まってるだろう。」

と呑気に構えている彼に、怒っている自分が何だ

か馬鹿らしくなってきた。まあとにかく顔を見て

安心した。

それからすぐ後半の場当たりが始まり、舞台上に

敷かれた黒いパネルの上に、ソロ9人と群舞1組

が一斉に練習を開始した。先生に指導される人あ

り、一人で黙々と場所の確認をする人あり、角で

こっそり練習している人ありで、なかなか自分の

思うように場所の確認が出来なかった。あっとい

う間に場当たりの時間が終わり、下の控え室に降

りようとしたら、場当たりを見学していたギタリ

ストのぺぺが

「マリ、お前何だかすごく緊張しているなぁ。そ

の緊張を取り払うのに、頬をビンタしてやろうか?」

とからかってくる。彼らとおしゃべりしていると、

緊張がほぐれるから不思議だ。

控え室に戻った私はまず腹ごしらえをし、それか

らアーティストの控え室に向かった。バックアー

ティスト全員を呼んで、最後のブレリアのシエレ

の合わせだけしてもらった。前日のエンサージョ

で、シエレのリズムが全員揃わないことがあった

からだ。この時は一発で合った。キコ達に、そん

なに心配するなよ大丈夫さ、と励まされた。

ちょっと安心した私は化粧にとりかかった。友達

もいたせいか、楽屋の空気は東京の新人公演の時

に比べると和やかな雰囲気が漂っていた。私の出

番は17番で、それまでかなりの時間があるから

のんびり化粧することが出来た。アイラインを描

いていた時、開演のアナウンスが聞こえた。そし

て楽屋に置かれているテレビモニターから、1番目

の人の踊りが映り出されると、楽屋で化粧をして

いた人達が一斉にテレビモニターの前に集まった。

いよいよコンクールが始まったのだ。楽屋の空気は

緊張の張り詰めた雰囲気に変った。 自分の出番を

かなり長い時間待って、ようやく出番20分前の2

時半を迎え、アーティストを呼びに控え室に行っ

た。予想していた通り、またキコがいなかった。

>>5へ続く

2002.02.18.

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