44.新人公演当日<前編>

2001年8月8日、日本フラメンコ協会主催の新人

公演当日を迎えた。私はリハーサルが始まる2時

間前に、なかのZEROホールの楽屋に入った。ど

んなことがあっても、自分の踊りをしようと心に

誓って。 同じ日に踊る友達と楽屋が別室だったの

で、ちょっぴり寂しかった。そんな私を、大阪の

友達が送ってくれた大きな花束が励ましてくれた。

楽屋に入ってすぐ衣装に着替えて、リハーサル室

でかるくウォーミングアップを済ませ、バック

アーティストの楽屋に挨拶に行った。ギタリスト

はきちんと来ていたけど、カンタオールの二人が

まだ来ておらず、焦った。リハーサルの始まる

20分前には、指定された舞台裏に待機していな

いといけないというのに、その時間になっても来

ないので、裏方の人から「まだカンタオールが来

ていないんだったら、飛ばしますか?」と聞かれ

困ってしまった。そばにいた別の裏方の女性に

「ギターだけでも今やりなさい。」と言われ、

はい、と答えた。後でこの女性から、「こういう

場合は、バックが来なくてもやるって言わないと

だめよ。飛ばされたら、もうやらせてもらえな

いんだからね。」と教えてくださった。そうとも

知らずおろおろしていた自分が情けなかった。

そして、私のリハが始まる5分前にカンタオール

が到着した。あ〜良かった、間に合って。すっぽ

かされたらどうしようかと、心臓がばくばく鳴っ

ていた。

私の番になって、いきなり暗闇のなかに放り出さ

れた。どうも、場当たりなしで、いきなり踊るみ

たいだ。どこが端なのか、空間の感覚をつかみな

がら踊ったら、あっという間に終わってしまった。

緊張していたせいなのか、ギターのメロディーが

よく聞こえなくて、そのことをギタリストに伝え

たら、音響の担当者に指示をしてくれた。そして、

私に励ましの声をかけてくれたので、少し安心し

た。私のリハが終わったら、美香先生から他の人

の踊りを客席からみて、空間の感覚や音響を

チェックしておきなさい、と指示を受けた。私は

後半のほとんどの人の踊りを客席から観察した。

それぞれが個性的で、観ていて楽しかった。他の

出演者の友達に「自分の出演する前に、よく他の

人の踊りが観れるね。もしすごく上手い人が踊っ

てたら、ショックじゃないの?」と言われた。

そりゃショックだけど、私は私だし、そういう人

からパワーをもらえるので、あまり気にならな

かった。

全員のリハーサルが終わって、楽屋でひとりメ

イクをしていると、となりにどこかで見たこと

のある人が生徒らしき人にメイクをしていた。

誰だっけなぁ、あっ、そうだ入交さんだ!ビデ

オで踊りを観たことがあったし、パセオの特集

で載っていた舞踊家だ。声をかけたかったけど、

ミーハーと思われるのも嫌だったし、自分の踊

りに集中するため、やめた。メイクが終わった

頃、美香先生がモーニョの形が悪いからと、直

しに来てくださり、「自分の踊りに自信を持っ

て踊りなさい。」と励ましてくださった。 本番

の30分前に、カンテの二人がちゃんと着替えて

いるか心配だったので、様子を伺いに行った。

私の予想は適中で、彼らは着替えもせず、お

しゃべりをしていた。

「もう、早く着替えてよ。本番30分前よ。」

私が怒るのを楽しむかのように、

「mari 、人形みたいにかわいいぞ。このま

まスペインに持ち帰るぞ!」と抱き上げて、私

をからかう。緊張している私をリラックスさせ

てくれたのかもしれない。本番前になんて余裕

だろう。羨ましくなってしまう。

やがて私の出番となり、私は中野ZEROホールの

舞台に立った。

2001.09.05.

back next