42.新人公演向けて猛稽古

私は初対面の人から、どちらかというと、か弱

くて頼りなさそうな印象を受けるらしい。おそ

らく、私の身体は小さいて華奢だからだと思う。

しかし、長く付き合っていくと、次第に化けの

皮が剥がれていく。「あんたの心臓は鋼ででき

ているんじゃないの」といわれるぐらい、私は

精神的に強い人間なのだ。 こんな私が、新人

公演の約2週間前の稽古から、別人のように

か弱い人間になってしまった。

それは、旦那も仕事も放り出して上京し、美香

先生に踊りをみてもらった時から始まった。

その2週間前に既に振りの構成のOKがでていた

ので、後は踊り込みをすれば大丈夫という変な

安心感が私の中にはあった。私のそんな甘えた

気持ちを察してか、美香先生から厳しいお叱り

のお言葉をいただいてしまった。

「ねぇ、Mariちゃんの今の踊りは発表会レベ

ルよ。新人公演は、発表会じゃないのよ。

ちゃんと分かっている?今のままじゃ恥ずか

しくて出せないわ。このままだと、本番当日

Mariちゃんをトイレに閉じ込めて、私が代り

に踊るからね。だから、もっとしっかり練習

しなさい。」

つまり、振りの構成はOKだけど、身体や舞台

空間の使い方がぜんぜんだめで、表現力がまっ

たくないのが、今の私の踊りだというのだ。

頭を金づちで叩かれたようなショックを受け

た。初めて自分で振付けをしたので、そのこ

とにばかり気を取られ、肝心なテクニックや

表現をおろそかにしていてた私のやり方が、

あまりにあさはかだということに気付いた

からだ。そして、とても悲しくなってしまっ

た。それから本番まで、ご飯がぜんぜん食べ

られなくなってしまった。ご飯が食べられな

い上、毎日4時間以上の稽古で、私は日に日に

痩せていった。 2週間前からどんな稽古をす

るのかといえば、最初、美香先生に表現力の

つけ方や舞台空間の使い方の基本的な部分を

習い、後は自分でひたすら探究するのだ。こ

れは発表会ではないんだから、自分で考えて

稽古をしなさい、というのが美香先生の教え

だった。それができなければプロになんか

なれないのよ、の一言に、それに立ち向かお

うとする強い自分と、そこから逃げ出したく

なる弱い自分がたたかっていた。暗闇の中を

手探りで歩くような毎日だった。 後で知った

ことだけど、美香先生に本気で怒られるとい

うことは、それだけ期待されて上手くなって

欲しいからで、だからいつも以上に厳しくさ

れたのだ。そうと分かっても、こういう経験

をしたことがなかったので、鋼のように強い

と思っていた私でも、精神的にかなりまいっ

てしまった。

それでも、持ち前の明るさで何とか楽しく

過ごそうと努力したけど、稽古をすればする

ほど、今まで出来ていたパソが踏めなくなっ

たり、どんどん自分が下手になっていくよう

な気がして、泥沼にハマっていった。

そこから追い討ちをかけるように、想像して

いなかったトラブルが私を襲った。

2001.08.21.

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