
発表会があったテアトロ(劇場)は、想像以上に広
かった。 私はソロ(アレグリアス)を踊った時、
広い舞台の空間に自分しかいないことに恐怖を感じ
た。そして、舞台の上から暗闇の中に潜んでいる魔
物を見たのだ。魔物が私を睨んでいて、喰われそう
になった。去年、東京のEl Flamencoでソロを踊っ
た時だってこんなことはなかったのに。私は今まで
本番に強くて舞台の上ではいつも楽しくミスもなく
踊れた。それが今回は小さなミスをたくさんしてし
まったのだ。ただ、観に来てくれた友達にこの話し
をしたら、ミスしたこととか全然分からなかったし、
とても楽しそうに踊っているように見えたよ、と言
われた。確かに顔は笑って踊っていたけど、私の中
では魔物と戦っていたのよ。本当に。 そもそも、観
客が1000人以上の大きなテアトロで踊った経験が
なく、テアトロとタブラオで踊るのはぜんぜん違う
とは聞いていたけど、こうも違うものかというのを
実感した。会場の空気と雰囲気が全然違うのだ。タ
ブラオはちょっとした動作が観客に伝わり、その反
応が返ってくるのが分かる。だから私にはとても踊
りやすい。でも、テアトロは観客の反応がぜんぜん
読めなくて、怖かった。自分の踊りのイメージをか
なり明確に持って臨まないと舞台の上で自分自身を
見失ってしまうことが分かった。 それから、あの大
きな空間をうまく使って踊ることの難しさも分かっ
た。前日までの練習は実際の半分のスペースで踊っ
ていたので、当日のリハーサルのたった1回であの
空間を掴むのは至難の業だった。それだけではな
かった。舞台が大きすぎたのか、音響が跳ね返って
きたり、バックのギターの音がよく聞こえなかった
り、今までと状況がぜんぜん違ったので、今までの
ような踊りが出来なかったし、リズム面からいうと
本番が最悪だったのでとても悔しかった。。 友達か
らの評価は、皆口を揃えるように「良かったよ〜」
と褒めちぎられる。どこまで本心でどこまでがお世
辞かよく分からないので、心底喜べない。何故な
ら、自分も友達の発表会を観に行って踊りがどう
であれ「良かったよ〜」と褒めちぎるから。。素直
に喜べたのは、私がデザインして作った衣装が好評
だったこと。とてもシンプルなデザインだったの
で、身体がちゃんと使えないとマイナスのイメー
ジを与えてしまう恐れがあり、発表会のぎりぎり
まであれを着るかどうか悩んだのだ。スタジオの
練習以外でも、毎晩自宅の鏡の前で何度もブラソ
の練習をしたので、その成果を舞台の上でだせた
点については満足している。 一番参考になるの
は、旦那の評価だ。旦那は絶対お世辞を言わない。
腹が立つくらいはっきりと言ってくれる。今回の
評価も、ドキッとすることを言われた。 「去年の
東京の発表会から比べると、体の固さは取れてき
たし、回転も早くなって踊りが安定してきたな。
でもな、プロを目指すんなら、お前には表現力が
一番足らん。イメージづくりをもっとしないと。
それと先生の踊りと比べたら、お前の身体の使い
方はまだ固さが少し残ってるぞ。」フラメンコ素
人の旦那がこれだけ分かるんだから、分かる人には
もっといろんなことがわかるんだろうなぁと思う。
そういえば、フラメンコ先輩から「ソロのアレグリ
アスはすごく練習したのが伝わってきたけど、フィ
ナーレのブレリアはあんまり練習しなかったんじゃ
ない?」と言われたことを思い出した。ブレリアは
自分で振り付けしたので間違えることはないし、そ
んなに練習しなくても大丈夫と思っていたら、そこ
を指摘されたのだ。反省。 この発表会で私に課せら
れた大きな課題は
1.表現力の向上
2.イメージの明確化
3.リズムの安定
4.サパテアードの音質
5.重心のさらなる安定とバランス
6.振りのつなぎ部分をもっとなめらかにする
だと思う。3と4は去年からの課題だったけど、まだ
まだ修行が足りなかった。舞台経験を積みながらひ
とつひとつの課題をクリアにしていき、そしてそれ
をバネにしながら上にステップアップしていかない
と上達しないんだということがはっきりわかった。
発表会を観に来てくれた人達、本当にありがとうご
ざいました。このHPからチケットを買ってもらえて、
さらに初対面の人から花束まで頂いて感激しまし
た。公演を観に来てくれる人がいるお陰で私は踊る
ことができるのです。私の踊りをまた観たいと思っ
てもらえるよう、妥協することなく常に上を目指
し、これからも稽古に励みます。 最後に、ソロを
踊るチャンスをくれたナオミ先生には心から感謝
しています。発表会の朝から走り回って、踊りの
構正をチェックしたり、本番ではパルマも叩いて、
それでも最後にあれだけの踊りができるナオミ先生
をすごいと思う。
2000.12.04.
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