組立易さとゲートの位置

 

 ゾイドには、様々な組立易さが考慮されている。例えば、パーツのナンバリング方法。ゾイドのパーツのナンバーは組立順になっている。これは他の組立キットではあまり見られない方法であり、ゾイドの特徴の一つといえる。

 この組立易さを得るために、ゾイドにはこの他にも様々な工夫がされている。その一つがゲートの位置である。ゲート、部品とランナーがつながっている部分、実際の製作においてはきれいに切り取ってしまう部分を、各部品のどの位置に持ってくるかにも、ちょっとした工夫がある。いきなり、ゲートの位置といわれても、ピンとこないであろうし、2001年現在最新のキットを見れば、それらはより工夫されたモノになっているので、ゾイドのゲートを見ても、工夫の跡があることを見つけることは難しいであろう。実際、ゾイドのゲートの位置は、本来平面であるべき部分のど真ん中にあるため切り取った後平面を出さざるを得なかったり、ゴジュラスの上唇部分など、ゲート後の処理がしづらい部分にゲートが来ているなど、あまり考慮されているとはいいがたいのも事実である。だがしかしそこはゾイド、そのゲートの位置の工夫は、表面処理やデザインの部分ではなく、動くということを考慮に入れた部分において、特に発揮されているのである。

 かつて「ゾイドファンクラブ」と銘打たれていた現在の「ゾイド歴史館」には、「フリートーク」のコーナーがあり、ファンから寄せられるメールに対して、トミーの担当者がコメントをつける、という形で多くのメッセージが掲載されていた。その中の担当者さんのコメントの中にこんな言葉があった。

「部品を手でもぎ取っても可動部分にはあまり干渉しないようにもしてあるんですが、わかりにくいんですよね。」

これは、そのままゲートの位置を意味しているといえる。つまり、ギミック部品においては、部品を手でもぎ取って、ゲートが部品に残ってしまったとしても、動くという基本機能が維持されるように、ゲートの位置が、実際に他の部品にふれあうようなところや、ゲートが残ってしまったときに他の部品にぶつからないような位置に、ゲートを持ってきている、ということが考慮されていることをいっていると思われる。ゾイドには、こんな、あからさまにはわかりづらい工夫が織り込まれているのである。

 ゾイドのゲートが、他の模型と比較して、かなり太いと感じている人は多いであろう。これは、ゾイドの各パーツの厚さが、他のプラモデルのそれと比較して厚みがあることを考えれば、必然的にゲートが太くなるのはわかるであろう。それと同時に、もう一つの「ゲート落ちを防ぐ」ということも考慮されている。

 商品のゾイドは、箱の中でビニール袋に納められている。箱は、もちろんパーツが壊れるのを防いでる。しかし、多くの人の手を渡って輸送されることを考えると、必ずしも丁寧に扱ってもらえない場合もある。そしてゾイドのメインターゲットは小学生。彼らが、店頭に並んでいる商品を見ているときに落とされてしまうこともある。そしてなによりも、彼ら小学生が、ゾイドを組み立てる際に、パーツがランナーの所定の位置で見つけることが出来ないと、正しく組み立てられない可能性もある。そこでゾイドには、輸送中や店頭展示中にランナーからパーツが落ちないようにする事を考慮しながら、ゲートを大きくしたり、一つのパーツを支えるのにいくつゲートを作るかなどを検討しているのである。もちろん他の模型でも、こうしたパーツがランナーから外れてしまうことを防ぐことは考慮されているであろうが、前述の通り、ゾイドの場合は想定されるメインユーザーの年齢が他の模型と比較して低いことから、部品がランナーから外れてしまうことが無いように、実際に組み立てる際に部品を確実に見つけられるように、より高い基準でのゲートの位置決定がされていると考えられる。

 

 こうしてゾイドのパーツとゲートの関係を見てきたのであるが、これを考慮に入れるとギミックが省かれることがあることということがわかるであろうか。つまり、当初は設計試作をしたとしても、上記のような事を考慮しながら部品のランナーへのレイアウトとゲートの位置を決めようとした場合、装飾部品よりもより精度の求められるギミック部品は、上記の基準を満たせないと判断された場合には、省かざるを得ない場合が起こってくるのである。まして、左右や前後で同じ様な動きを再現するために使われる部品は、見た目その構造がとてもよく似た形となる場合があり、ナンバリングを確かめながらランナーから切り取るのが確実なのは明らかであり、間違って組み立てた後に不具合を起こしてからでは、部品を変形させてしまうという自体にもなりかねないのである。

 

 ゾイドはディスプレーモデルではなく、動くことが前提とされたおもちゃである。そのため、ギミック部分にはより高い精度の部品が必要となり、様々な工夫を織り込んでいるのである。だが、それ故に、こうした様々な工夫をしても、どうしても必要な精度や考慮が生かせなかった場合には、ゾイドはそのギミックをあきらめている。最大の特徴が最大の特徴を奪っているという、なんとも皮肉な話であるかもしれない。

 

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ゴジュラス取扱説明書より転載