2000.1.21
ことばは生きていて身につけられ表現されている。それはわたしたちの心を伝え 社会を無形の内に築いているのである。地球上の生き物たちの命を育む空気のよ うにそれは心をつくり世界を広げている。希望、熱情、叫び、悲しみ...たく さんの想いを探すことばの旅にいつも漂うわたしでありたい、そんな願いがここ にいくらかでも現れたなら幸いだ。(すべて私の創作です)
淡い生 2000年睦月 早や絹雲は広がりて 残る日差しは淡すぎてかかる時さえわずかにて 通る枯野にわれの身の 道の影さえ消えゆきて 霜降り草の照る露も 広がり撒いてなおあれと 動く影をも消してゆく さやけき鳴くもか細くて 留まり会うも短くて 返り残るは冬の声 ぶつかり合うは川と波 ただそれだけの寒い音 われにしあれと祈る青 重ねて薄れ遠い山 白きに惑う光あり かなたに向かう冷たさの 静けさ満ちて辿る朝 悲しい冬に光あり
わたしの時間 1999年初冬 報われないとしたら、 失われた時間 奪われた時間 壊された時間 踏みにじられた時間 一体なんのためだったのか 有ったはずの時間 得られたはずの時間 続いていたはずの時間 積み上げてきたはずの時間 一体なんだったのか ありふれた時間 あたりまえの時間 流れつづける時間 どこにでもある時間 奪われなければあったはず 妨げられなければあったはず 壊されなければ 踏みにじられなければ 今もあるはず 変わらない時間は 踏みにじられたら壊されたら 奪われたら剥ぎ取られたら そこには何も残らない 風に逆らい歩き続けた 雨に向かい歩み続けた 振られてもよろけても それでも何も残らなかった ただ消えていった 奪い続けられる剥ぎ取られ続ける そんな中でわたしの時間は消えて行く 壊す者傷つける者奪う者踏み躙る者 彼らに明日は来ない 来てはいけない 変わらないもの 続いていくもの 広がっていくもの いつもあるもの それらはわたしの時間 歩み続けた時間 追い続けた時間 握り続けた時間 見つめ続けた時間 変わらない なにも変わらない 誰にでもあるわたしにもあるいつもある そんな時間にいつもいる 静けさや穏やかさも 美しさや豊かさも すべてその中にある 温かみも愛しみも 分かち合う心も支え合う心も いつもそばにある 抱きあい共に歩み支えあい 信じあえるように 持ち続けたい 歩き続けたい 追い続けたい 信じ続けたい そんな時間に生き続けたい ながれて立った 飛び越えて立った 歩み疲れて立った 離れて、立った 果てに見つけた わたしの時間
雨 1999年初秋 明るい雨 雷鳴去り行く空に見る 灰色雲の影変わり 白い光に雨かかる 遠い光 映す形に空を見る 思い広げて揺れ変わり 重ね積みつつ紛れてく 向こうから 白く緑に身を包み 前の緑に覆いくる 光を纏う山緑 はらいつつ 白い雨の衣まとい 染めた緑に伝えくる 命を揺らす雨緑 西空低く赤み帯び 揺らぐ光の白く満つ あした輝く白豊か 照らす雨の森深く 希望に変わる雨赤く 白く確かに近寄りつ 明るく白く深まりて いよいよ僕の前に立つ 緑育む雨長く あまねく光を敷きつめて 静けさ奏で葉に強く 命のもとをふりのせて 土を残らず潤しつ あしたの時を乗せてきて 示した道に置いてゆく 命の緑守る雨 明るい雨 まだ降り止まぬ悲しみの中
哀しみの春 1999年早春 通り雨に打たれ仰ぎ見る 雲の向こうに光り満つ信じ続けた光明日を射る 赤い陽に消ゆるこの道 それでも過ぎる時間の行く先に それでも見つめてたたずむこの身越え あったはずの明日を見ている どんなに遠くにあったとしても 明日は来る それでも信じている 変わらない光 変えられない心 変わらない時間 変えられないあした まだ信じている 来ないあした まだ見つめている 東の彼方
飛べない蝙蝠 1989年冬 飛べない蝙は、夜飛べない蝙は 世をただ逆さに見つめるだけ 飛べない蝙は、夜飛べない蝙は ただ蒼い月が微笑むのを待つだけ 夜の光の中に、星々の微動の中に 夜飛べない蝙はただ時の流れを見い出している 飛べない蝙は、飛べない蝙は 漂う光をとらえるだけ 飛べない蝙は、飛べない蝙は 生き者たちのざわめきをただ知るだけ 飛べない蝙は、夜飛べない蝙は けれどいつも見つめている いつも光をとらえている ずっと時を感じている
十六夜 1998年秋 青い夜空のお月さま 照らす真下に何を見る 仰ぐ青さに見る夢は いつもあしたの空しさか 満ちた向こうに過ぎた時 かける心の空回り 光る時間は十六夜の 遠いかなたの蒼い時 受ける下天は薄い闇 翳に怯える青いひと 返す視線に射す筋の 先を遮る黒い者 歩む影さえ隠す道 見えぬ陰さえ造る灯に あしたを奪う傘かけて 奪う月日は月の蔭 暈をかぶって身を隠す 覆う暗雲かさにきて 消える光に見る夜は 望みを消して陰消して