〜今日のお気軽ひとこと翻訳・書類保管庫 (November - December 2000)〜



「くまのプーさん」


Winnie-the-Pooh is probably one of the most popular characters
ever created in the history of children's literature.
Over 270 of the illustrations Ernest Howard Shepard (1879-1976) made
for A. A. Milne's books are available in the Print Room.
"Feeling more snowy behind the ears than ever he had before" (95)
comes from chapter 1 of The House at Pooh Corner, published in 1928.


「くまのプーさん」はおそらく、これまでの児童文学の歴史において創造された中で
最も人気のある登場人物のひとりでしょう。
アーネスト・ハワード・シェパード(1879-1976)がA. A. ミルンの本のために描いた挿絵のうち
270点以上を「プリント・ルーム」で閲覧することができます。
「耳の後ろがこれまでになく雪ふかく感じながら」(95番)*は1928年に刊行された
「プー横町の家」第一章から取られたものです。

*カタログにつけられた各作品の通し番号。

from "V&A A Hundred Highlights" page 76 in Prints, Drawings, Paintings and Photographs section, book edited by Anna Jackson, published by V&A publications.

ロンドンにあるヴィクトリア・アンド・アルバート・ミュージアムはウィリアム・モリスなどを始めとしたさまざまなデザインや装飾芸術の魅力的で充実したコレクションで知られていますが、上はそのパンフレットの中で版画やデザイン画、写真などを集めた「プリント・ルーム」について説明した項の一部、日本でもよく知られた「くまのプーさん」の挿絵について述べた文です。
この文章が載っている本はミュージアム内の店で売られているもので、読む人は当然展示を見た人あるいはここの収蔵品に興味がある人という前提があるため、文章も特に眼を引くような書き方をせず割と淡々と簡潔に展示品の説明をしています。とはいえ最初の文は=One of the most popular characters ever created in the history of children's literature is probably Winnie-the-Pooh. とも書けるところを文頭にWinnie-the-Pooh 「くまのプーさん」という誰でも知っている名前を持ってきていることで、この展示品に特に興味を持っている人がページをざっと見たときに他の多くの情報の中から「プーさん」に関する情報をすばやく見つけられる効果はあるでしょう。

the most...ever は「これまで...したうちで最も」。You are the most attractive lady I have ever met. 「君は僕が今まで会った中で一番魅力的な女性だよ」などというように使えます。「...より」という意味のmore を使ってYou are more attractive than any lady I have ever met. 「これまで会った中の誰よりも魅力的」とも書き換えられますが、人をほめる場合はやはり誰かと比べるよりも当人だけを「一番」といったほうが相手に与える印象は強いですね。2番目の文は、Over 270 of the illustrations Ernest Howard Shepard made for A. A. Milne's books are... と太字部分が全部主部になっていて、英語としては普通あまり好まれない「頭でっかち」な文になっていますが、この場合書き手はあえてそうしても「270点の挿絵」→「それを描いた画家の名前」→「本の作者の名前」と重要な情報を最初に並べて読者の興味を引き付ける、あるいはいち早く情報を提供しようとしています。available は「(利用・使用)できる」という意味でさまざまな場面に広く使えます。This telephone is not available. と言えば「この電話は使用できません」。書店などで欲しい本を調べてもらってThe book is no longer available. と言われたら「その本はもう(絶版などの理由で)入手できません」ということ。お店の広告にWide range of products are available at our shop. とあれば「幅広い種類の商品を取り揃えています」ということになります。
3つ目の文の"Feeling more snowy behind the years than ever he had before" は先に挙げたYou are more charming...の文と全く同じ形です。このタイトルは物語の叙述部分から取られているので、he はもちろん主人公プーさんのことです。ここで面白いのはsnowy という形容詞の使い方。「雪の、雪で覆われた」という意味ですが、絵を見てみると雪の降りしきる道を歩いてくるプーと友人のコブタ(Piglet)の頭の上には雪が降り積もり、確かに耳の後ろもすっかり雪に覆われています。それにしてもsnowy weather 「雪もようの天気」などとは使いますが耳の後ろがsnowy というのは変わった表現。この「プーさん」シリーズはもともと作者のミルンが自分の息子クリストファー・ロビンに話して聞かせるため、彼のお気に入りのくまのぬいぐるみを主人公にして創作した物語です。登場するのは全て彼が持っているぬいぐるみの動物たち。まだ小さな子供であるクリストファー・ロビンと同じように、またお話を聞いている彼を楽しませるために、彼らはしばしばたどたどしく愉快な、そして大人の概念にとらわれない自由な言葉づかいをします。

面白い表現と言えばプーさんのフル・ネームWinnie-the-Pooh もそう。普通人の名前を誰々 the 何々という呼び方をする場合William the Conqueror 「ウィリアム征服王」、Merlin the Magician 「魔術師マーリン」またはEddie the Newsagent 「新聞屋のエディ」のように称号や爵位名あるい周囲の人に広く知られているその人の職業や性質と共にやや修辞的(?)に使われますが、このプーさんの場合Winnie(Winston またはWinifred の愛称)もPooh もどうやらどちらも名前。つまりそのまま訳すと「プーのウィニー」ということになります。実際のところは分らないのであくまでも推測ですが、一見「偉そう」だけれどもちょっと不思議なこの名前をぬいぐるみの持ち主であるクリストファー・ロビンがつけたものとすると、おそらく大人たちが前述のような名前の呼び方をしているのを耳にしてお気に入りの友人に子供なりに一生懸命考えた「かっこいい」名前をつけたのでしょう。
「プーさん」シリーズにはこんなふうに思わず笑ってしまうような可愛らしい言葉づかいや表現があふれています。原文自体それほど難しくはありませんが、石井桃子さん訳の邦訳版もとても読みやすく愛嬌たっぷりで楽しめます。

☆ヴィクトリア・アンド・アルバート・ミュージアムのウェブサイトはこちら


16/12/2000


「母からの手紙」


Dear Son,

...About your father, he has got a lovely new job. He has 500 men under him, he cuts grass at the cemetery.
Your sister Mary had a baby this morning. I haven't found out yet whether it's a boy or a girl so I don't know if you're an aunt or an uncle.


愛する息子へ

...父さんは、素敵な新しい仕事につきました。下に500人もの人を抱えています。墓地の草刈りの仕事です。
姉さんのメアリに今朝赤ん坊が生まれました。まだ男の子か女の子か分らないので、お前が叔母になったのか叔父になったのかもまだ分りません。



extract from "A mother's letter" printed on a souvenir Irish linen hanging.

アイルランドの土産物屋さんにあったリネンの壁掛けにプリントされている「母から息子への手紙」の一部です。アイルランド人はナンセンスとブラック・ジョークが大好きな国民ですが、家を離れている息子に宛てて母親が書いた手紙という形式を使って、この文章にもその独特のユーモアがよく現れています。

前半の父親の話題に関しては、先に「素敵な仕事」と言っておいて「下に500人の人が」と言えば日本語でも当然慣用的表現として「(父親が)500人の雇い人の上司になっている」という意味だと考えますが、すぐ後に「仕事は墓地の草刈り」とくることで前の文章は例えではなく文字どおり「足の下に500人」、つまり500人の死者が埋葬されている地面の上で仕事をしているという意味だと分ります。アイルランドのジョークでは「死」に関するものが驚くほど多く見られ、また内容もとても辛らつなので、慣れていない外国人などは笑っていいものかどうか戸惑ったり不謹慎だと取りかねないこともありますが、アイルランドの苛酷な自然環境と長い圧政の歴史の中で常に死と隣り合わせで生き延びてきた国民にとって、明日自分の身に降り掛かるかも知れない死を逆に冗談にして笑い飛ばしてしまうというのは、長い間につちかわれた自衛本能と決してへこたれない強さの現れかも知れません。
後半の姉の出産の話はナンセンス・言葉遊びの類で、赤ん坊が男の子でも女の子でも息子(=出産したメアリの弟)が叔父であることに変わりはないのですが、さらっと読み流すと一瞬何がおかしいのか分らないような書き方になっています。これは書くよりも口頭で言われたほうが冗談としてはおかしさが増すかも知れません。

冒頭のDear Son はこの場合名前を特定せずにすぐに「息子に宛てた手紙」と分るようにするためこう書いたということもありますが、通常の場合でも手紙または直接呼び掛ける場合My son, Son と言うことはよくあります。もちろん多くの場合は名前で呼びますし、手紙でもDear Charlie などと書くのが普通です。lovely は辞書を引くと「美しい、可愛らしい」または「素晴らしい」と出ていますが、英国やアイルランドではこの言葉はさまざまな場面で頻繁に使われます。夕食に招かれて「とてもおいしかった」というときは"The food was lovely." だし"What is he like?" (彼ってどんな人?)"Oh, he's lovely." と言えば「すごく素敵」、天気がよくても"It's a lovely day."。お店でおつりがないよう小銭までぴったり出した(=お店の人がおつりを出す手間を省いた)ときも"Lovely." と言われたりします。nice は単に「よい」「満足できる」「好き」程度ですがlovely はそこに肯定的感情がさらに強く入った表現として使われるようです。使用頻度としては女性、特に年輩の女性が多く使う傾向にあるようですが、若い層や男性でも割に使います。whether は「...かどうか」という意味で、後のif も同じ意味で使われています。I don't know if I can see him (or not). 「彼に会えるかどうか分らない」、I wonder whether it will be sunny tomorrow. 「明日は晴れるかな」などと使います。


7/11/2000

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