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□NTTドコモはビジネスモデルを変えるか?

 続けて携帯電話をテーマに書くことにしましょう。以前,NTTドコモの危うさについて書きましたが,FOMAの失敗が見えてきた現在,改めて考えてみます。

 ご存じのように,新規加入2000円とか1円とか極端な低価格で携帯電話端末が市中で販売されているのは,決して端末の製造原価を反映したものではありません。日本の携帯電話通信キャリアは例外なく,代理店にインセンティブと呼ばれるリベートを出していて,それを原資に製造原価を大幅に下回る低価格で端末が「販売」されています。費用回収は,月々の通信料金に上乗せされていることは言うまでもありません。事実上,10ヶ月間は機種交換できないという縛りはここに由来しています。

 前回,GSM携帯電話のことを書きましたが,端末メーカと通信キャリアはそれぞれ独自に費用回収していますので,日本とビジネスモデルが違います。タイなどでは,通信キャリアが自ら端末とセットで販売するために,SIMロックと呼ばれる仕組みを導入していることもあります。これは日本のビジネスモデルに似ていて,他の通信キャリアのSIMカードをその端末では使用できないようになっています。但し,蛇の道は蛇でして,SIMロックを解除するような改造行為も横行しているとのことでした。

 端末価格が数万円するGSM携帯電話については,ほとんどの国で需要が見込めるために100万台のオーダーで生産が行われます。そのおかげで製造原価を下げて,商売になるわけです。日本の携帯電話は日本でしか通用しませんし,出荷台数が5万台も出れば大ヒットです。通信キャリアが端末を買い上げていなければ,数十万円する端末すらあるわけです。以前ならば,日本の携帯電話の方が高機能でコンパクトとなっています。

 NTTドコモの第三世代携帯電話FOMAは,エリアの狭さ,端末の高さ,料金の高さ,キラーコンテンツの無さによって苦戦を強いられています。第三世代携帯電話は,NTTドコモが世界で初めてサービス提供を始めたこともあり,海外ではほとんど正式に運用が始まっていません。欧州の一部では運用実験が始まったようです。日本でのFOMA端末を海外に持ち出して使える国際ローミングサービスなどに期待できたりするのですが,端末をどのようなビジネスモデルにするつもりなのでしょうか。

 世界共通モデルの端末を使用すれば,製造原価が安く手に入ります。しかし,日本語のローカライズが必要ですから,結局はそれほど費用の削減は見込めないかもしれません。一方で,日本の携帯電話でやってきたビジネスモデルにはメリットもあります。通話料だけではなく,メール,Web,データ通信などで稼いでいかなければならない通信キャリアにとって,コンテンツを表現するプラットフォームとしての端末の設計は重要です。端末メーカから通信キャリアが買い上げるビジネスモデルを継続することによって,通信キャリアの実現したコンテンツをすぐに普及させることができます。iモード然り,写メール然りです。GSMが真似をし出しているのは周知の通りです。

 一方で,そのようにして販売された端末が日本だけではなく海外でも利用できるようになるのが第三世代携帯電話です。GSMのSIMカードのようなUIMカードと呼ばれるICチップがFOMAに採用されていて,いわゆるSIMロックがかけられています。この状態ではNTTドコモのUIMは専用端末でしか使えないようになっています。これがもし改造などで破られてしまえば,NTTドコモから販売された端末が海外で安く出回ったりする恐れがあります。また,端末メーカが同じ性能を持った端末を海外の通信キャリアに供給するとすれば,ユーザが入手しやすい日本で先行販売されて反応を確かめてから,海外の市場に投入するということが行われるでしょう。つまり,NTTドコモが必ず世界初の端末を発売して,それが市場調査に代替されることが繰り返されるようになるはずです。

 NTTドコモはメリット・デメリットを天秤にかけて,どちらのビジネスモデルを選択することになるのでしょうか。ビジネスモデルを変えないのであれば,常に世界に先駆けて新しいコンテンツを生み出していく革新者として自らを位置付けなければなりません。そのマーケティング費用も自分持ちで。


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