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□NTTドコモの危機□

○NTTドコモの成長の障害

 iモードという携帯電話端末によるインターネット接続に新たなインフラストラクチャーを確立したNTTドコモは,日本の携帯電話市場において巨大なシェアを占めています.さらに海外市場へも進出するべく東南アジア各国へと出資を行っていて,欧州市場でもイタリアの企業と提携しました.アメリカ市場にも進出の計画があります.不振のAOLジャパンを子会社にしてドコモAOLにしましたし,プレステ2の開発販売会社SCEIとも提携していますから,かなり多角化にも積極と言えそうです.

 2001年5月にはIMT-2000という次世代携帯電話の試験サービスが,東京23区,横浜市,川崎市で開始されることになっています.W-CDMA方式という世界標準の規格を採用し,下り方向のデータ通信速度が最大384Kbpsというのが売りですが,料金自体は64Kbpsを実現し近々128Kbpsに向上すると言われているPHSよりも割高なものになりそうです.従来型の携帯電話のインフラを共有できないため,設備投資が必要なためです.

 高速の通信環境で動画も受信できることがメリットとして言われているのですが,もしかすると映画の予告編を見るだけで映画本編の入場料よりも高くつくかもしれません.PCのようなストレージ(記憶装置)が無いだけに,もう一度見ようとしたときに再び課金されるということにもなるでしょう.パケット課金や時間従量課金ではなく,定額料金設定こそが広帯域(ブロードバンド)の使い勝手をよくするための条件だと考えます.

 以上のようにiモードの海外進出と次世代携帯IMT-2000がNTTドコモの成長のカギを握っているわけですが,そのどちらも先行き明るいと思えない点があります.

○貧弱なiモードの機能

 iモードは高価なパソコンではなく,テンキーしかついていない携帯電話端末でメールが送受信できて,Webブラウジングができるのが特徴です.世界中がiモードに注目したのは,オフィシャルメニューと呼ばれる起動画面からアクセスするコンテンツの課金徴収を通話料金請求に含めたところです.パケット単位の課金という通信料金部分とコンテンツ毎の課金というお金のとれるビジネスにしたところが新鮮だったのです.インターネットにおけるビジネスというのはとかく無料サービスが幅を利かせて,なかなか有料サービスが成り立ちにくい部分があるのですが,iモードはそれをクリアするビジネスモデルを提供できたことが重要です.

 iモードが高校生などにも普及した背景には,日本の携帯電話キャリアの端末販売に関する価格政策も影響しています.東南アジアや欧米で携帯電話端末が5〜10万円で販売されているのをみて,日本の携帯電話は高くても1万円くらいだから技術力があるためだと誤解する日本人が少なくないようです.1円で販売されることもあるキャリアの端末を見て同様に思うのでしょうか.これは説明するまでもなく,通話料収入とバランスをとってリベートを販売代理店に渡しているからこそ可能なマーケティング戦略に他なりません.単にコスト原価を積み上げた価格であれば,日本でも東南アジアや欧米と変わらない価格になるはずです.

 携帯電話端末でインターネットに接続できるというアイデア自体は評価されて当然と考えられますが,一方で実装された機能はハードウェアに制約された極めて貧弱なものです.サイズ上限の厳しい極短いメールしか受信することができませんし,基本的にテキストベースでしかWebブラウジングできません.確かに9.6Kbpsという低速では仕方のないことかも知れませんが,天気予報をチェックしたり,占いをやってみたりというインターネットとはとても呼べない閉鎖環境のコンテンツをユーザに提供するやり方は次第にユーザ離れを招くのではないかと思わされます.もちろん,勝手連的にiモードに対応したCHTML仕様のWebページは増えており,Javaに対応したことでiアプリというソフトウェア群が開発提供されてきているのは前進と言えるでしょう.しかしながら,広大なインターネットコミュニティが存在するにも関わらず,ユーザを視野の狭い状態におくことはリテラシーの普及にも悪影響が生じると懸念しています.

 このようなインフラを世界標準としてNTTドコモが世界に進出する武器とすることには異論があります.容易に修得できるユーザインタフェースというメリットはあっても,リテラシーの普及を妨げるようなインフラを広めることは将来的に益にならないと考えるからです.PCにおけるインターネットアクセスと変わらないような機能の充実による将来ビジョンを,単にイメージビデオに示すのみならず,ユーザに対して提示していくべきだと考えます.

○次世代携帯電話の電波帯域不足

 ここで,携帯電話からテレビに話を変えてみます.2000年に開始されたBSデジタルに引き続き,地上波テレビ放送のデジタル化も2003年に東京,名古屋,大阪の3大広域都市圏で開始される予定になっています.この時点で,一部都市ではアナログ放送のチャンネル移行の必要性も指摘されています.デジタル放送を受信するには専用チューナーが必要で,従来のアナログテレビの役割は同時並行放送が終了すれば終わることになります.今使っているテレビが使えなくなるなんて困るという方,10年くらいはアナログのままらしいので買い替え時期がくればデジタルテレビに代えれば済む話です.よほど物持ちが良い方でなければ,だいたい家電の買い替えサイクルに入ってくる期間ではないでしょうか.

 さて,もう一度携帯電話に話を戻します.携帯電話とテレビの共通点は何でしょうか?そうです電波です.初期の携帯電話を思い起こしてもらうとわかるのですが,アナログ方式では増え続けるユーザをさばききれずにデジタル方式に移行しました.テレビのデジタル化はチャンネル数の増加という点では,BSやCSもありますので喫緊の課題ではありませんが,電波の帯域を有効に使うという意味ではアナログ方式の継続は非効率なのは確かです.ハイビジョンなどアナログ方式ならではの技術も日本で開発されましたが,世界的な潮流としてはデジタル化です.

 テレビのデジタル化はアナログ放送を継続したまま行われるため,電波の帯域自体は空きません.実は次世代携帯電話が全国に普及するためには新たな帯域が必要になりますし,さらに広帯域でデータ通信を行なうためには十分に帯域が割り当てられる必要があります.世界の経済先進国の多くはテレビのデジタル化を前倒しで進めて,空いた帯域をテレビ局から取り上げて携帯電話キャリアに割り当て直しています.そのやり方は国によって様々で,入札制度で高く釣り上げて落札させるところもあれば,北欧などのように手数料程度で済ませるところもあります.

 ともかく,地上波テレビ局という既存の利害勢力を尊重するために新興勢力である携帯電話キャリアに十分な帯域を割り当てる用意がないというのが,日本の現状です.どういうことが起きるかといえば,近所で数人が次世代携帯を使っているだけで他の人は使えないという混雑が発生する恐れがあります.出典は忘れましたが「電波は有限,有線は無限」という言葉があります.銅線にしろ光ファイバーにしろケーブルは何本でも敷設することができますが,電波の帯域に関しては効率的な割り当てが行われない限り資源を有効活用することはできませんし,帯域の制約は必ずつきまとうのです.

 日本の3大携帯電話キャリア(通信事業者)の残る2社はJ-Phoneとauですが,J-PhoneではNTTドコモと共通のW-CDMA方式を採用する一方で,auだけが現在のcdmaOneの拡張規格となるcdma2000方式を採用するという違いがあります.cdma2000方式のメリットは,現在のcdmaOneのサービスエリアがそのまま使えるため,全国サービスがいきなり始められるというところにあります.W-CDMA方式による次世代携帯電話の普及が足踏みした途端に,現在の設備を生かせるcdma2000方式を採用したauが台頭するという図式も浮かんできます.果たして数年後の携帯電話市場はどのように塗り替えられるのでしょうか,それとも現状維持なのでしょうか.注目していきたいと思います.


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