更新日2002/10/8 「ことば・言葉・コトバ」


おすすめする本−コトバと教育を中心に


コトバ勉強の本や読んで感動した文学作品です。タイトルをクリックすると詳しい内容に進みます。
著 者
書 名
発行年月
出版社
コトバ学習事典 
放し飼いの子育て
―やる気と自立の教育論
現代日本語構文法
―大久保文法の継承と発展
表現よみとは何か
―朗読で味わう文学の世界
居酒屋 
ボヴァリー夫人
チェーホフの光と影   
人間的飛躍―アランの教育論

日本コトバの会編/大久保忠利監修『コトバ学習事典』
(初版1988年/増補版1990年。一光社。2800円。図書館協議会選定図書)

 日本コトバの会(創立昭和27年3月)創立35周年を記念して1988年8月に出版されました。コトバの理論と学習方法に関するこれまでの研究・学習活動の成果のエッセンスをまとめたものでした。一般社会人・学生・主婦から国語教師や専門の教育者まで、幅広い方々の要求に答える理論的実用書として多くのみなさまからご好評をいただきました。再販は1990年刊行『追補版』33項目を追加し138項目としました。(編集責任・渡辺知明)

 本書の特徴

(1)理論的知識・教養にとどまらずに、学習の具体的方法までを親切に示しているので、初心者の実用的利用からコトバ学習の指導書として最適。
(2)各項目を1項目ごとに見開きの形にまとめてあるので読みやすく、どこから読んでも自然にコトバ学習へと入ることができる。
(3)日本コトバの会独自の図や表を豊富に収録した初のコトバ学習用の総合テキストなので、個人学習用にも、サークル学習のテキストにも最適。
(4)朗読の時代に音読の理論と方法をリードする「表現よみ」の理論と実践について23項目100枚を収録。

 おもな内容

第1部 理論編……やさしく・わかりやすく書かれた言語理論入門
第2部 文章編……「15分思考」「書きなれノート」から文章上達まで
第3部 話し方編……あいさつ・自己紹介からスピーチ上達訓練の方法まで
第4部 小説創作編……文章構造のウラづけをもつ小説理論と書き方のコツ
第5部 表現よみ編……日本コトバの会の誇る「表現よみ」理論の最新内容
《追補の部》理論編……国語教育と全面発達/弁証法は人生・考え方の九九/コトバとコトバの論理的関係/日本語の主部/文章の構成―テーマ展開/テン(読点)の使い方/文字/日本語教育など。実践編……グループ理論学習/グループ学習の運営法/早がき訓練/日記のすすめ/話し方三位一体の勉強法/表現よみとは何か/表現よみ独習法/表現よみとアクセント/感情表現のイントネーションなど

渡辺知明著『放し飼いの子育て―やる気と自立の教育論』
(1994年。一光社1500円)(Amazonで注文する

 まえがきより=「やる気」や「意欲」というものは、子ども自身が本来もっている自己運動のエネルギーです。アドラー心理学でいう「勇気づけ」とは、まさに自己運動の強化です。近ごろ注目されているホリスティック医学でいう自然治癒力も人間本来のエネルギーの力を生かそうという考えです。教育の原点は子どもたちの自己運動をよく見ること、そして、どのようなはたらきかけをすべきかを考えることです。

* 各章の終わりには、書き下ろしの「教育についての自分史」が収録してあります。

 第一章 子どもの自立をはばむもの 動物の親子と人間の親子―母親はおこってはいけない/ガッツ石松の父―セコンドの役目/手塚治虫「どろろ」の世界―能力の獲得とは/子どもの自立をはばむもの―管理主義の教育/自由と自立の接近―人間に必要な土地/H君への手紙―ムリを楽しむのが勉強/美術教育のシステム―山梨県巨摩中学校ほか
 第二章 教育における対話 教育の「哲学」―作文教育を論理教育に/対話による発見の教育―科学的な思考と寛容の精神/ケストナー「始業式のあいさつ」―六つの忠告/対話としての通信―本の読み方・子どもの見方/日本の教師の欠点―林竹二の対話ほか
 第三章 やる気と自立の教育「やる気」はどこから生れるか―子どもの夢と幻想/めだたないおしゃべりの意味―ラッセルの「教育論」/おしゃべりとテレビ―テレビ感覚・テレビ思考/チェーホフの文学と子ども―父親と息子/与太郎の「哲学」―笑いと論理/子どもの責任者はだれか―「コワイもの」の効果ほか
 第四章 現代と子どもの意識 テレビと「聞く力」―学校教育と話しコトバ教育/おとなしい子どもたちと暴力―暴力と精神形成/想像力と論理的思考―想像力と人間関係/自立の教育と規律の教育―マカレンコの「規律」/規律と人間の歴史―人類共同体のモラル/きまりと道徳の根本―教育と道徳/テレビと読み・聞きの能力―失われゆく思考力ほか
 第五章 未来の教育のために わたしの「説教」―人と人の関係/「ブラッドレーのせいきゅう書」―経済合理主義と道徳/コンドルセの教育政策―フランス革命と教育/待てないおとなたち―モノづくり・ヒトづくり/学校をやめた先生たち―人生の価値の教育/はるさんの子育て記―エゴイズムと愛/若者たちの社会意識―社会と現実への関心ほか

下川 浩著『現代日本語構文法―大久保文法の継承と発展』
(1993年。三省堂。3000円)

 あとがきより=ドイツ文学の研究を志し、都立大学に入学した私を、言語研究の道へと方向転換させた大久保先生は、「民族のコヤシになること」をモットーにし、「街の言語学者」たらんとして、日本コトバの会をホームグラウンドとして、「生きたコトバ」の研究をされた。大久保先生にN・チョムスキーの初期理論の手ほどきをうけ、現代言語学の勉強をするようになった私にとって、日本コトバの会で運営副委員長を務めつつ、主婦や教師という「言語学の素人」にいろいろの学説を日本語に適用しつつ説明することは、学説そのものの勉強より、はかりしれないほどタメになった。コトバを使っている人にわからないようなコトバの理論などというものは「理論のための理論」にしかすぎず、実際には何の役にも立たない。私は大久保先生の率いてこられた日本コトバの会で「生きたコトバ」の「研究を生かす」ことを学ぶことができた。
 本書は副題の示すとおり、大久保忠利氏の文法学説を継承し、能力のおよぶかぎり、それを発展させることによって、氏の功績を後世に伝えたいと願い、書かれたものである。

もくじ第T部 第1章 文と文章―文節と文素 必要成文と自由成分 文分析 日本語の主部 総主文 「主語」なし文 補文素と客文素 修用文素とは 文のシッポ/外助動辞 終助詞と文の論理的構造 命題と命題態度 日本語の文型 デス・マス体 テンの打ち方 第2章 複合文と文章―接続表現/接続文素(ツナギ) 修体文素と埋め込み文 文をマトめる吸着辞 重文とは? 文章の構成/テーマ展開 主題と省略 前提と省略 視点 主題と「主語」 コトバの意味と作用 文章のツナガリとマトマリ 文章の世界 脈絡と推論 第3章―品詞 品詞分類 形容詞・形容動詞 補足文素による動詞の分類 格助詞 ハとモ 副助詞 複合助詞 第4章 言語と文法―文法とは 言語とは コトバの習得と知能の発達 言語と意識 第5章 動詞の分類 第U部 第1章 日本語の文の階層的構造―ドイツ人に対する日本語教授法の研究のために 第2章 日本語の文末の構造―大久保文法の継承と発展のために 第3章 日本語の複合文の構造―ドイツ語との対照から 第4章 談話における省略の構造―寄生構造について 第V部第1章 内言の弁証法 第2章 チョムスキーの「合理主義」 あとがき

渡辺知明著『表現よみとは何か―朗読で楽しむ文学の世界』
(1995年/明治図書/2301円+税/版元品切)

まえがきより=表現よみとは、声を出して文章をよむ音読の一種です。子どものころ、わたしたちは声を出して本をよみはじめますが、いろいろな理由でおとなになると音読することをやめてしまいます。しかし、音読は黙読にはないすぐれた点をそなえたよみ方なのです。この本は、音読・朗読の意義を見なおすとともに、より高度なよみに進むための理論と方法を示したものです。音読・朗読に興味をもつ方々ばかりでなく、コトバを声に表現することに関心をもつ方、音声化による文学作品のよみの問題を考える方々の要求にもこたえられるでしょう。  第一部 黙読・朗読・表現よみ
T 黙読と音読― 1 よみ方のいろいろ 2 黙読とはどんなよみか 3 黙読と音読のちがい 4 表現よみとは何か 5 表現よみの理想
U 朗読と表現よみ― 1 朗読とは何か 2 伝えること・理解すること 3 オーラル・インタープリテーションと表現よみ 4 アランの朗読論
V 文学文と表現よみ― 1 どんな文章をよむか 2 文学のコトバと理論のコトバ  3 コトバの裏づけと表現 4 散文としての文章 5 小説の文章をどうよむか 
W  表現よみのすすめ― 1 表現よみの楽しさ 2 一日五分よめば力がつく 3 準備するもの 4 練習の方法とコツ 5 発表会と交流の楽しみ
第二部 表現よみの実践
T 記号づけの方法― 1 なぜ記号づけをするのか 2 記号づけのいろいろ 3 記号のつけ方 4 『和解』の記号づけ実例
U 人物のコトバのよみ方 (引用作品が聞けます) ―1 人物のコトバをどうよむか 2 人物のコトバの四つの種類 3 文章の意識層 4 作品の組立てをどうよむか 
V 文学作品の文章構造―1 表現よみと文章の構造 2 作品分析の実例『夜あけ朝あけ』 3 「朝の花」分析と解説 4 作品分析のすすめ
 第三部 表現よみの文学理論
T 表現よみ理論の歴史―1 表現よみ理論の出発 2「聞き手ゼロ」と「主観」3「地の文」のもつ価値 4 「非反省的意識」と表現よみ 5 小説と文章の理論
U 小説の文章と文体―1 文学理論はなぜ必要か 2 「会話と地の文」と「説明と描写」 3 作者のコトバと他者のコトバ 4 小説の対話構造
V 作者・語り手・主人公―1 現実の世界と作品の世界 2 視点を図解する 3 小説の文章構成の図 4 二種類の主人公 5 主人公のコトバ

◎『表現よみとは何か』正誤表(1997/06/20)

▼58ページ14行《誤》「散文は……なる。」→《正》「散文は……なるのは、このためである。」
▼88ページ5行《誤》「地の文」のなかにうめこまられて→《正》「地の文」のなかにうめこまれて
▼88ページ7行《誤》いわゆる間接話法→《正》いわゆる直接話法
▼92ページ3行《誤》文と文との間を→《正》文と文とのあいだを
▼92ページ4行《誤》文と文との間で→《正》文と文とのあいだで
▼92ページ9行《誤》ときに、句点が→《正》ときに、読点が
▼92ページ10行《誤》読点より間が→《正》句点より間が
▼127ページ7行《誤》〈行間の線〉→《正》トル
▼127ページ7行《誤》〈BとCの間〉→《正》〈二重のタテ線を入れる〉
▼127ページ8行《誤》早くおきて→《正》早めにおきて
▼135ページ10行《誤》皮をむける→《正》皮がむける
▼148ページ1行《誤》は次のような二つの軸のひとつです。→《正》は次のような二つの軸のひとつであり、「理解」を前提とするものでした。
▼174ページ9行《誤》右遠俊郎が考察→《正》右遠俊郎が考案
▼177ページ6行《誤》わたしが考察→《正》わたしが考案
▼190ページ13行《誤》〒142 品川区旗の台2-5-9-205→《正》〒141-0022 品川区東五反田2-15-6-515

ゾラ『居酒屋』
(1970/26刷1987。新潮文庫。古賀照一訳)

 自然主義の小説などというと、たいていの人が毛嫌いして読まないものです。しかし、この作品はとてもおもしろくて読みやすい小説なのでぜひ読んでほしいものです。全13章で構成されています。1章が1作品ともいえるさまざまな手法が工夫されています。
 各章の内容は次のようになっています(漢数字が章、算用数字がページ)。
 一 7 洗濯場の喧嘩、二 51 クーポーとの婚約、三 93 結婚式、四 137 出産・グージェとの出会い・店・事故、五 177 開店・仕事ぶり・ばあさんを引き取る、六 221 工場見学・グージェ・ヴィルジニーとの再会、七 264 誕生日のどんちゃん騒ぎ、八 317 ランチエ同居・グージェ接近・ランチエもどる、九 369 二人の男の間で・店のゆくえ・ばあさんの死、十 424 七階・ナナの聖体拝受・ラリーと父・クーポーの飲酒、十一 475 ナナ成長・家出・やけ酒・ナナの出世? 十二 533 貧困・ラリーの死・町めぐり・グージェとの再会、十三 579 狂ったクーポー・そして死二つ。(なお、この作品は日本コトバの会・小説の会で1997年2月から13か月間、学習のテキストに使いました)

フローベール『ボヴァリー夫人―地方風俗』
(1965/12。2刷1976/10。筑摩書房フローベール全集第1巻。伊吹武彦訳)

 今回、読んだのが二度目でしたが、簡潔な表現のなかに人間の心理を見事に描き出しているのに感心しました。また、フローベールの持っているロマン精神が、伊吹武彦氏の名訳から感じられました。わたしの好きなチェーホフの作品にも通じる表現の象徴性もあるようです。現代の小説はやたらにべたべたと人間の心理を書きこもうとしますが、この作品は単純に見える人間の行動の奥の深さがあることを知らせてくれます。
 この筑摩書房版フローベール全集第1巻には、付録に二つ貴重なものが収録されています。ひとつは『ボヴァリー夫人』草案、もう一つは、『ボヴァリー夫人』裁判記録です。とくに、弁護人セナール弁護士の口頭弁論は、文学作品の読み方として、まっとうな手本になるものです。
 この作品の章立てと、わたしがつけた小見出しを紹介いたします。(漢数字は章、算用数字はページ)
 第一部 一 5 シャルルの伝記 二 13 ルオー宅へ・妻の死 三 19 結婚申込み 四 24 婚礼 五 28 二人の家 六 31 エンマの心 七 35 結婚の後悔 八 41 舞踏会 九 49 パリへのあこがれ・妊娠 第二部 一 60 ヨンヴィルの町 二 68 レオン 三 73 出産・ふたり 四 83 その後 五 86 エンマの悩み 六 94 教会へ・レオン出発 七 105 落胆・ロドルフ 八 112 共進会のデート 九 133 乗馬のできごと 一〇 142 変化と後悔 一一 150 ワニ足手術 一二 161 脱出への夢 一三 173 別れの手紙 一四 183 信仰と慈善 一五 192 芝居見物 第三部 一 201 教会堂にて 二 214 義父の死・委任状 三 223 三日間 四 225 ピアノの稽古 五 228 あいびきと嘘・逆転 六 243 倦怠と破産 七 258 差し押さえと金策 八 270 ロドルフ・エンマの自殺 九 287 納棺まで 一〇 294 葬儀 一一 299 その後のヨンヴィル・シャルルの死

松下裕著『チェーホフの光と影』
(1997/4。筑摩書房)

 チェーホフ全集の個人訳(ちくま文庫版/全12巻)をした著者によるチェーホフ論集です。チェーホフの紀行「サハリン島」とドストエフスキー「死の家の記録」との関連を説きあかす「四 核としての現実」は新鮮な発見でした。この本の魅力は翻訳で磨きぬかれた著者の細かいこだわりが本の造りに生きていることです。チェーホフの作品を文章の細かい展開を基礎にして論じる点には感心させられます。
 何よりもこの本を魅力的にしているのは、著者がチェーホフが好きだということです。どの文章を読んでいても著者のチェーホフへの愛情が感じられます。チェーホフの作品を読んでいない人には、的確な作品案内になり、チェーホフの研究をしたい人には、チェーホフ研究の参考文献のブックガイドにもなります。
 もくじ 一 チェーホフのなかの医者―敵 二 アントーシャ・チェホンテ―聖夜 幸福 くちづけ 三 自由の感覚―曠野 退屈な話 四 核としての現実―シベリアの旅 サハリン島 五 閉塞の状態―決闘 六号室 六 平凡人の運命―ロスチャイルドのバイオリン 七 幸福の条件―かわいい女 犬を連れた奥さん 谷間 八 劇作家チェーホフ―父なし子 イワーノフ 九 モスクワ芸術座とともに―かもめ ワーニャおじさん 三人姉妹 十 チェーホフの金銭観―桜の園 * ヤルタ追放 「桜の園」の日本語訳 チェーホフ翻訳談 チェーホフ誤訳談 チェーホフと女性 ドキュメント「サハリン島」 あるチェーホフ劇評 チェーホフの場合 チェーホフの窓 あとがき 発表誌覚え書 索引

オリヴィエ・ルブール(橋田和郎訳)『人間的飛躍 アランの教育論』
(1996.7。勁草書房)

 タイトルの「人間的飛躍」とは、子どもたち自身の秘めている人間的な能力のことです。ルブールはアランの教育論から、このことばをキーワードとして取りだしています。著者はフランスの教育哲学者です。だれよりも尊敬するアランの教育論から学ぶべき点を取りだしして紹介した本ですから、アランの教育論についての考えが分かるのは当然です。しかし、同時にルブール自身の教育論の解説にもなっています。
 教育と政治とのかかわりからはじまって、教育の理想とするモラルとはなにかという哲学的な問題に発展します。その道すじでは、子どもとおとなの関係、学校の果たす意味、教育すべき「教養」とはそもそも何なのかなど、さまざまな具体的な問題にふれています。たんに教育を目ざす人ばかりでなく、自らを教育したい人にとっては自己教育のための教科書にもなります。
もくじ 序 第一章 教育と政治 第一節 権力 第二節 民主制と教育 第三節 教育とユマニテ 第二章 子供と大人 第一節 幼少期の状況と発想様式 第二節 大人であるということは何か 第三節 守られる幼少期の意義 第三章 家庭、学校、遊び 第一節 家庭、『情操の学校』 第二節 学校と人生 第三節 遊び 第四章 教育学 第一節 動機づけ 第二節 権威と自由 第三節 アランと新教育 第五章 教養 第一節 文学的教養と古典研究 第二節 科学と真理 第三節 教養と反教養 第六章 障害 第一節 情念と教育 第二節 興奮、怠惰、不注意、愚行 第三節 道徳教育 結語 人間的飛躍とユマニスムの問題

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