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2000年7月のお仕事日記(上)


7月1日 気分転換

久々にゆっくり眠ったようだ。
安らかな眠りがこんなにも有り難いものだとは。
何を思ったか、朝から塩サバなんぞ焼いてみる。
が、片身丸ごと冷凍してあったものだから、いかんせんデカい、デカすぎる。
いくらサバ好きとは言え、完食できず、サバに謝る。
「完食」といえば、今日のTVチャンピオンのテーマが「大食い選手権」でなくて、ホントに良かった。
あんなもん見せられたら、間違いなく吐き気を催していただろう。
始まった「夏の美容師選手権」につられて美容院に予約を入れる。
ボーボーに伸びきった髪を10センチほど切り、パーマをかけた。所要時間約3時間。
失敗だとは思っていないが、若返るつもりで選んだ新しい髪型を見た知人に
「大人っぽくなった」と予定外のコメントをされ、困惑する。
けなされているわけではないのだが、嬉しいかと言えば、そうでもないかもしれない。むむむ。


7月2日 日本の夏、キンチョーの夏

毎日欠かさず蚊取り線香を焚いている。
もちろん「キンチョー」のやつだ。
薬局では必ずその隣に他メーカーの製品も並んでいて、しかも幾らか安いのだが、
どういうわけだか、必ず「キンチョー」を選んでしまう。
「バルサン」とその類似商品のときも、選択はやはり「バルサン」。
CM効果ってすごい、と思う瞬間だ。
ちなみにゴキブリ対策には「ゴキンジャム」を愛用。
これまでに、私の目で確認しただけで、3匹が干からびた無惨な姿で御昇天あそばされた。
そんなアパートなので、油断は禁物である。
日に数回は、スリッパを履き家中の電気をつけ、ご遺体が転がってはいないかと点検して歩く。
そして、やっと一息つこうとベッドに腰を下ろそうとしたら…。
ざっと50匹は越えるのではないかと思われる数の小さな小さなムシ君たちが、瀕死の状態だ。
恐るべし、キンチョー蚊取り線香。あんなに効くとは思わなかったぞ。
犀川を臨む我が家の窓から、石川さゆりと大きな花火が見えたわい。


7月4日 カウントダウン

ボスがおもむろに「君の契約、あと半年くらいだね」と言う。
そうか、そうなのだ、私がこんな温室のような職場でのうのうと過ごしていられるのも、あと半年。
2年半前に、卒業後なお続く就職活動に疲れ果てて、自堕落なおミズ生活をしていた私を、
ひょいっと拾い上げてくれたこの職場は、思いの外居心地がよくて、うっかり長居になってしまった。
当初は夢が捨てきれず、3年の契約を全うすることなど考えてもいなかった。
でも、今、私はここにいる。
夢に失望したのか、新しい夢が見えたのか、我ながらさっぱりもってわからない。
わからないから、ここにいるのだ。
では、居場所がなくなったらわかるのかというと、そういうわけでもない。
ではどうしたらよいのだ、就職か、永久就職か、はたまた一獲千金か。
夜に開かれた選挙打ち上げでは、投票当日の当打ちがどうのこうの、という話に終始した。
私にとってはそんな過去のこと、どうでもいいのだ。
明日から、いや、いまこの瞬間からどう生きていくのか。
それを考えるだけで精一杯な私は、融通の利かない理想主義の堅物なのだろうか。
宴の最中にも、遅れてきた同僚を叱りつけてしまった。
こんなやつ、きっとみんなは鬱陶しく思っていることだろう。


7月5日 麻薬

サミットが近いからだろう、沖縄関係の番組が多い。
沖縄料理店がないことを嘆きつつ、せめて気分だけでも、と、沖縄民謡のCDを買う。
クーラーのないアパートの一室で聞く三線(さんしん)の音色は、どんな酒よりも五感に染みわたり、
毛足の長い絨毯の上に寝転がってうたた寝をしている気分になる。
伸ばした足の先には、インドネシアで触れた冷たい大理石。
薄れゆく意識と、混ざりゆく記憶。
堕ちてゆく眠りの先にあるのは、楽園か、それとも永遠の暗闇か。


7月6日 ダメ出し

今日は年に1度の健康診断の日。
診察室を出た直後、看護婦さんに呼び戻される。
うわっ、もしや薄幸の美少女か、美人薄命か。
長生きなんてまっぴらご免だが、余命半年というのもちょっと辛い。
健康診断でのダメ出しという予定外の展開に、咄嗟に思いつくこととはこんなにセコいことなのか。
−−−「背骨、曲がってますねぇ」。
は?死ぬんじゃないのか、私。
そばにいた職場の先輩に「性格曲がってっからだよ」と、おきまりの突っ込みをされつつ、骨密度測定に向かう。
結局、骨密度は平均以上で「75歳頃に骨粗鬆症になる危険性が生じます」と。
あーそうですか、それなら大丈夫。
心配しなくとも、わたくしそんなに長生きしませんから。


7月7日 失態

休日。
バーゲンに出掛けた。
ATMの前に立って、財布を忘れたことに気がついた。
当たり前だが、何も買えなかった。
それでも楽しかった。
どうしてだろう。
なんだか、幸せだ。


7月8日 更新

HPを少しずつ改造しています。
今日は、「む・ふ・ふの部屋」と「散歩道(旧リンク)」が新しくなりました。
なんか、デザインがバラバラやなぁ。改善の余地あり。
がっぱになって(注:ムキになって)やっていたら、いつの間にか日付が変わっておりました。
この私が机に6時間以上も座っていたなんて、前代未聞の出来事です。


7月9日 廃人

一里野に行こうと思っていた。本当だ。お世辞ではない。ギャグでもない。
お前が?という人もいるだろうが、こんな私でも、たまには自然に囲まれたくなる。
しかし、朝から腹が痛くて仕方がない。
月に一度の何物にも代え難い痛み。
この痛みが産みの痛みに通じる物であるとするならば、私は一生子供なんか産みたくない。
結局、一日中寝込んでいた。
親父に「女が子供を産むのは自然の摂理だ」とどやされたことを思い出した。
女に産んでくれなどと頼んだ覚えはないのに。
目覚めたとき、自分が寝ながら泣いていたことに気がついた。


7月10日 人の振り見て

ひどい音楽会だった。
一流と素人が同じ舞台に立つ笑えない喜劇は、お粗末な悲劇だ。
あんなに惨めな姿で舞台に立つ人間を初めて見た。
自分にふさわしい舞台を見極められない音楽家は、演奏の才能云々は関係なく、寒くて哀れだ。
あれなら、人に芸を仕込まれた猿まわしの次郎君の方が、どんなにか幸せかと思う。
自分が素人だと認識することがこんなに大切なことだったとは。


7月11日 小心者

職場を出た後、買い物に行ったスーパーのレジに並ぼうとしたら、後ろから猛烈な勢いで押しとばされた。
あぁ、主婦の「おばちゃん」は大変ねぇ、と思ってその「おばちゃん」を見たら、なんと新妻ではないの。
見てはいけないモノを見てしまった気になり、売場に戻って時間をつぶす。
野菜売場をひとまわりしてレジに並ぼうとしたが、まだいらっしゃったので、もうひとまわり。
そろそろいいかな、と思って、並ぼうとしたが、まだいらっしゃるのでもう一回り、
というのを延々繰り返していたら、結局野菜売場を5周くらい歩いてしまった。
おかげでゴーヤに出会うことになり、改めて地下で焼き豆腐を仕入れ、鰹節を買う。
この街でこれだけ飲み歩いても食べられないチャンプルーを作った。
数年ぶりに食べる沖縄の味。「マイブーム」の兆し。
きっかけは何でもいいのだ。
数日前に買った沖縄民謡のCDが流れる中で食ったチャンプルーは旨かった。
ただ、次回は冷房を消してみよう、と思った。


7月12日 美酒に酔う夜

誕生日である。
冗談で「ドンペリ飲みたいわぁ」と言ってみたら、奇特な人が本当にドンペリを持ってきた。
だめもとでも、やっぱ言ってみるもんだな。人生、何事もあきらめてはいかんな。
私は100g750円の能登牛を焼いて、クレソンとエリンギをソテーにしちゃったりなんかしちゃったわよ。
(なぜ、自分の誕生日に自分で料理するのか、という疑問は、この際無視することにする)
クラッカーの上にのせるのは、チキンレバーのパテとカマンベールチーズ。
なんなんだ、これ、おかしいぞ、わたし。こんなことやって、罰が当たるぞ、きっと。
あー、神様、仏様。今晩だけは勘弁してください。
いや、しかし、美味い酒だよ、ドンペリさん。
何がすごいって、用意した料理を食べ終え、突如登板する羽目になったキムチとラッキョにさえ合ってしまう。
世の中広しと言えども、キムチでドンペリ飲んだ奴は、そうそう居るもんじゃないだろう。
あー、世界の皆様ごめんなさい。でも、ほんとに美味かったんだよぉ。
さて、今度はロゼが飲みたいなぁ。どん・ぺりによ〜ん。


7月13日 釣り

深夜、懐かしい友人から久々の電話。
出会ったのは、高3の秋だったが、今じゃ妻帯者になりやがったよ、あいつは。まったくもう。
近況報告となると、必然的にひとりモンの私が質問責めに遭うことになる。
「あいつとは別れたのか」と聞かれ、思わず「あいつってどいつ?」と聞き返してしまう。
すると「そう言うと思ったよ」と返された上に「お前の恋愛は”キャッチ&リリース”だ」とさ。
そうか、私って、男に逃げられてたんじゃなくて、自ら逃がしてやってたのか。
そうだったのかぁ、そうだったのよねぇ。
というわけで、今後とも清く正しく美しく生きてゆこう。ほっほっほ。


7月14日 快楽

大きな声ではいえないが、私は結構不潔好きだったりする。
(あ〜、言っちゃったよ、ついに)
とはいえ、ぬるぬるカビや小バエ・ゴキブリ類には極めて弱いので、台所はきれいにしておる。
私が好きなのは「4畳半の万年床」的世界で、梅雨明け直前のこの時期が絶好のシーズンだ。
予定のない休日など、昼まで寝ていることが多いので、部屋は蒸し風呂に近い。
冷房のリモコンに手が伸びつつも、そこで敢えてグッと我慢してみる。
これだけで体温が1℃は上がる思いだ。
全身の毛穴が開き、限りなく油に近い汗が滲み出る。
飽和状態の空気と酸味を帯びた汗の匂いが混じり合い、皮膚をゼリー状に溶かしていく。
ひとつ大きく伸びをしてから、タオルケットを体全体で抱き込んで、再びの惰眠をむさぼる。
そして、次に目覚めたとき、こうつぶやくのだ。
「いったいここは日本の熱帯か」
(高村薫「黄金を抱いて翔べ」)


7月15日 立腹

長いので別項。


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