ジュニア版 神社仏閣ミニ辞典           P13
                   ー入門篇・仏教の部ー                 
                                              参考文献:仏教入門(藤井正治)・目で見る仏像(東京美術)
                                                          仏像の見方(石井亜矢子)     ほか

・・・仏像についてX(明王形)・・・



明王形の特徴


 明王の「明」は神秘的な力を持つ言葉や呪文(真言)のことを意味します。
 インドに根づいていたバラモン教の神を、密教が成立する過程で取り入れたことから生まれた仏で、その前身はバラモン教やヒンドゥー教の神です。

 明王は如来の教えに従わない救いがたい人間や生き物を説得、救済する為に、如来の命令を受けて怒りの形相(忿怒相)になって現れた仏とされています。

 日本で明王像が盛んに造られるようになったのは密教が体系的に入ってきた平安時代以降のことですが孔雀明王像を例外として、髪を逆立てた焔髪と忿怒相が共通点です。


不 動 明 王

 大日如来の命令を受けて行動する、もっとも威力があり、功徳(ごりやく)も大きい明王です。
 修行する者を護る仏で単独で祀られるほか、五大明王の中央に置かれます。

 平安時代中頃まではおさげ髪(弁髪)を左側に垂らし、両目を大きく見開き、唇の両端に牙を出すのが特徴でした。
 平安時代後期以降は巻き髪(莎髪)に、右目を見開き、左目を半眼に閉じる天地眼で下歯で上唇の端を噛む例が多くなります。
 どちらも右手に剣、左手に羂索(つな)を持ち燃えさかる火焔の光背(仏の体からでる光を形どったもの)を背負うのが通常の形です。

 日本各地で盛んな”お不動様”信仰は関東では特に流行し江戸には青、赤、白、黒、黄の五色不動が町を護る目的で造られ、そのうちの目黒と目白は地名にもなっています。

 
 五大明王

 
不動明王を中心として東に降三世明王、南に軍荼利明王、西に大威徳明王、北に金剛夜叉明王を配置したものを五大明王といいます。


不動明王立像(神奈川、浄楽寺・重文)


降三世明王
(ごうさんぜみょうおう)
 
 インドのシヴァ神が起源とされ、過去・現在・未来の三世と貪(むさぼり)・瞋(怒り)・痴(無知)の三毒(煩悩)を抑え鎮めることから降三世の名があります。

 3つの顔と8本の腕をもつ三面八臂が普通の形で正面の顔には目が3つあります。手を胸の前で交差させ、左右の小指を絡ませる「降三世印」という特徴的な印を結び、左足で大自在天(シヴァ神)を、右足でそのお妃烏摩を踏んでいます。起源の神を踏むことで、さらに強力な仏であることを示したものです。

 体には虎皮という虎の皮製の裙(腰から下につける、はかまのようなもの)を着け印を結ばない手には金剛杵や剣、弓、矢などの武器を持ちます。

 殆どは五大明王像のうちの1体として東方に祀られますが、まれに脇侍として置かれることもあります。


降三世明王立像(福井、明通寺・重文)


軍荼利明王
(ぐんだりみょうおう)
 
 サンスクリット語で「とぐろを巻くもの」という意味の名を持つ明王で、蛇と密接な関係にあることから、手首や足首などに蛇をまきつける姿をしていますが、諸事を解決しさまざまな障害を取り除いてくれる仏です。

 顔に目が3つあり、腕が8本の一面三目八臂像が多く中心の2本の指は交差し、人差し指、中指、薬指を伸ばし親指で小指の頭を押す印を結びます。この「大瞋印」という独特の印相と体にまとわりつく蛇が特徴です。

 持物は三鈷杵、戟(刃先が3つにわかれている矛)金剛鉤などで、多くは片足を上げて白蓮華の上に立つ動きのあるポーズをとっています。

 ほとんどは五大明王像の1体として南方の祀られますが、単独例もあります。


軍荼利明王立像(埼玉、常楽院)


大威徳明王
(だいいとくみょうおう)
 
 阿弥陀如来の教えを説くための文殊菩薩の化身ともいわれ六面六臂六足の姿で六足尊とよばれます。

 六つの顔にはそれぞれ3つの目があります。
 正面の胸の前で組んだ手は、左右の中指を立てて合わせる「壇陀印」を結び、その他の手は剣や戟、弓などの武器を持ちます。

 サンスクリット語の名前は「死の神マヤを倒すもの」という意味があります。仏教がヒンドゥー教の死者の王マヤを取り入れ、マヤよりさらに強力な存在として創造したのがこの大威徳明王です。

 世間に蔓延する悪の一切を降伏させる仏とされ、平安時代の終わり頃からは戦勝を祈願する対象ともなりました。そのため五大明王像の1体として西方に置かれるほか単独で祀られることがあります。


大威徳明王坐像(教王護国時・国宝)


金剛夜叉明王
(こんごうやしゃみょうおう
 
 サンスクリット語の名前は「金剛杵の威力をもつ夜叉」という意味で金剛杵は古代インドの武器をかたどったものですが、この金剛杵でさまざまな悪を打ち砕き、降伏させるとされています。

 像の形は3つの顔と6本の腕をもつ三面六臂で中心の顔には左右の目を2段に4つ、額に縦に1つと計5つの目があり、他の顔にも3つの目があります。
 金剛杵と」金剛鈴を持ち、この持物と目の多い顔が金剛夜叉明王の特徴です。

 単独で祀られる例は画像(仏画)にはありますが、彫刻にはなく東密(真言宗)系の五大明王の1つとして北方に置かれます。


金剛夜叉明王(教王護国寺・国宝)


孔 雀 明 王

 孔雀は他の鳥より強く、毒草や毒蛇を食べるといわれることからあらゆる毒を除く力をもつとされ、孔雀明王は病魔退散、病気平癒や延命の信仰を集めています。その力は自然にも及び天変地異を治め、雨乞いの本尊としても祀られます。

 密教が日本に伝わった平安時代に造像が始まったほかの明王像とはちがい、それ以前の経典にも登場し、その信仰は奈良時代までさかのぼると言われます。

 孔雀を神格化した女性の明王であることから、明王の中では唯一怒りの表情ではなく、菩薩のような柔和な表情と姿で表わされるのが特徴です。
 頭には宝冠をかぶり、背後に大きく羽をひろげた孔雀にのっています。
 腕は多臂で、二臂、四臂、六臂の例がありますが、だいたいは四臂で、その手には蓮華、倶縁果(柑橘類)、吉祥果(ざくろの実)や孔雀の尾などを持ちます。

 仏画に描かれることが多く、彫像例は数例が知られるのみです。


孔雀明王像(和歌山、金剛峯寺孔雀堂・重文)


愛 染 明 王
 
 人間の愛欲煩悩を浄化しそれを菩提心(さとりをもとめる心)に変え、人の和合(なかよくすること)や争いを鎮めるための明王です。

 赤い日輪をを表わす光背を背に、宝瓶の上に置いた蓮華座に坐り、6本の腕を持つ一面三目六臂像で、体は愛欲を表わすという赤色に彩られ、逆立った髪に獅子冠をのせています。
 持物は五鈷杵、五鈷鈴、弓、矢、剣などです。

 日本には平安初期に伝えられ息災延命(わざわいを取り去り命をのばすこと)に霊験あらたかな仏として信仰されましたが中世以降には男女の縁結びの信仰、近世には恋愛の本尊へと進展し、庶民の愛染参りが盛んになり遊女の守護神ともなりました。
 また「染」の字がつくことから染色関係の職につく人々の守り本尊としても信仰をあつめるようになりました。

 変わった形の愛染明王像として、弓に矢をつがえ、天に向けて放とうとしている天弓愛染明王像や不動明王と愛染明王とが合体した両頭愛染明王像があります。


愛染明王像(奈良、西大寺)


その他の明王
 
 台密(天台宗)系では五大明王のなかに、金剛夜叉明王のかわりに烏枢沙摩明王(うすさまみょうおう)をいれます。
 この明王は一切の悪や穢れを焼き尽くすとされています。
 また男子出生を願う時に祈る仏としても知られています。

 空海が日本に伝えた大(太)元帥明王(たいげんすいみょうおう)は、もとはインドの薬叉神で仏に教化され、国土を護る明王となりました。
 鎮護国家、怨敵調伏という役割を持ち戦乱などに際して祈願されました。

 陰陽道との関係から生まれ、平安末期に信仰を集めたものに菩薩形の六字明王像があります。

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大元帥明王像(大正大蔵経図像)