二二〇四年三月下旬――
ガーディアンが自分に施されていた枷を取り外すより少し前。
ナデシコBが一路バスティール回収の為に土星軌道付近へと向かっている頃、地球から少し離れた宙域でGS艦隊と連合宇宙軍艦隊の合同演習が行われた。
とはいえその能力差は歴然であり、この度の演習の目的は、「有事に対して有人の連合軍艦隊がスプリガンの指揮にどの程度ついて来られるか?」を見極める事にある。
オフェンスの仮想敵――ガーディアンがGS艦隊の一部を使用――に対する防衛戦を想定した演習を行ったのだが、ほぼ同数による艦隊戦の結果はディフェンス側の惨敗に終わった。
その原因は、単にGS艦隊と比較して有人制御の連合宇宙軍艦隊の能力が低い事にあった。
スプリガンの命令に対する反応速度が遅すぎて、他のGS艦艇との連携が上手く行かない上に、艦隊運動にも艦によってムラが有り、余計な隙を作り仮想敵につけ込まれる原因ともなった。
反応速度に関しては単にスペックの問題で仕方ない部分もあるが、艦隊運動云々に関しては、あくまで有人制御を考慮に入れた上でスプリガンが戦術指示を行っていたのだから、長らく続いた戦乱の影響で練度の高い兵が少なくなった事と、その後の平時における訓練を怠っていた事が影響しているのだろう。
ハードとしてのスペックに関して言えば、現存する有人艦は人間という壊れ物を載せている以上、速度も運動性もGS艦隊に比べて明らかに遅いので、本来高速機動が可能GS艦艇までもが、艦隊運動が制限されてしまう。
オフェンスのガーディアンが操るGS艦隊は――専用設計の妹程でないにしろ――見事な運動を行う為、正面攻撃に連合軍の有人艦隊は危なくて使う事が出来ず、スプリガンを悩ませる事となった。
結局、GS艦艇と有人艦艇との合同作戦は思うようにいかず、最終的に同規模戦闘が発生した場合、スプリガンが連合軍艦隊に対して指示すべき行動は、戦闘エリアの外周付近での陽動・後方攪乱・補給路分断といったものと結論した。
しかしそれはスプリガンなりに気を使った言葉に過ぎず、実態は戦力として「不要」と判断され、直接戦闘とは無関係な宙域を相手が無視できない程度に、それでいていつでも逃げ出せる様にチョロチョロと動き回れと言っているのと同じだった。
それはプライドの高い一部の軍人達を激怒させるには十分だった。
翌日の演習では、スプリガンはそんな軍人達の心境を考慮し、連合宇宙軍艦隊の性能を更にマイナス考慮した上で艦隊指揮を行ってみた。
無論相手がごく普通の人間や海賊であれば十分問題は無いだろうが、ガーディアンによる制御を受けたGS艦隊は、仮想敵としては余りにも強すぎた。
その結果一応は仮想敵からの防衛を達成する事も出来たが、連合宇宙軍艦隊は勿論、GS艦隊にも大きな被害が発生し、有人艦と無人艦の合同作戦の難しさと、何より有人艦の脆弱さが浮き彫りとなった。
結局この演習によって、地球圏の平和はGS艦隊に任せておけば良いとい判断が主流となり、連合宇宙軍の解体は加速する事となったが、一部の反対派はよりその意志を強固な物とし、反GS勢力の結束力が強まる結果にもなった。
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