「さて、それじゃ行きますか」
ナデシコBの格納庫で私はそっと呟きます。
「何でこういう肝心な時にイズミの奴は居ないんだ? どうでもいい時には湧いて出て来るくせによ」
「イズミってあれで射撃も上手いし拳法も強いしね〜」
背後に並んで立っていたリョーコさんとヒカルさんが、この場に居ない親友を思って不服そうに口を尖らせています。
「まぁ居ない人間をあてには出来ねぇし。ここは俺達だけで艦長を守るって事で……というわけだからハーリー、留守番頼むぜ」
『三郎太さんこそ艦長をお願いしますよ。怪我なんかさせたら承知しませんからねっ!』
『ルリルリ、本当に気を付けてね。いざとなったら私がナデシコで突っ込むわよ?』
ハーリー君のウインドウに割り込むように、ミナトさんが心配そうな表情と共に通信を入れてきました。
「大丈夫ですよ。相手は仮にも国家主席ですし、ネルガルに何か用事があるだけだと思いますよ。別に取って食われるわけじゃないと思いますよ。それにアカツキさんからも相手の真意を見極めるようにとのお達しですから。社員としては従うしかありません」
私は白い大きめのストールの様な布を羽織りながら、周囲の皆を安心させるようにゆっくりと答えました。
これって特殊繊維で出来てる防弾マントらしいですね。
何でもアキトさんのマントと同じ素材とか……ちょっと嬉しいですね。
『んもぉ〜、こういう時こそプロスさんの出番なのに……タカスギ君、ルリルリの事頼むわよ!』
「任せて下さいって」
ミナトさんの言うとおり、交渉のプロであるプロスさんが居ないのは確かに残念ですね。
「お〜っし、機体はバッチリ整備しておいた。有る程度の無茶は保証するぜ」
ウリバタケさんが、内火艇――サワギクのボディを手の平で叩いてみせます。
「ナデシコBは警戒態勢のまま待機していて下さい。では……行ってきます」
私は小さくVサインを作って言うと、サワギクへ乗り込みます。
その後を三郎太さんとリョーコさんが続き、ハッチが閉じられました。
私達三人を乗せたサワギクは、心配そうなクルーの見送りを受けて、火星へと降下するべくナデシコBを発進しました。
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