連れてこられた人々の悲鳴。
研究員や警備員達のゲスな笑い声。
そして、強化ガラスの向こうに横たわる、醜悪な姿をした物体。
それら全てが、コンテナの上で身を潜めている月臣の神経を強烈に逆撫でる。
(……任務は達成した。しかしっ!)
その所在を突き止めた月臣は、社へ戻り報告を済ませれば任務完了となる。
皆の意識がバイド体と、叫び声を上げる哀れな人々に集中している今なら、それは容易に行えただろう。
だが、月臣は木連の優人部隊の一員だった男である。
例え友を暗殺し、自分の国を裏切った経緯があるとはいえ、熱血を信奉し己の正義を疑わぬ木連男子であった月臣に、このまま戻る事良しとする事も出来なかった。
任務遂行を第一とするSSとしての自分と、人道的行動を促すもう一人の自分。二人の月臣が心の中で激しく葛藤している。
「では……皆さん、準備は宜しいですか?」
主任風の学者が狂気に満ちた笑いを浮かべながら宣い、哀れな被験者達を囲んでいた警備員へ目配せをする。
それを合図に、警備員達が首輪から延びたチェーンを引く腕に力を込める。
中年の男性が、年端もいかぬ少年が、幼さを残す少女が、痩せこけた青年が、口々に悲鳴を上げて稚拙な抵抗を始めると、警備員達が殴りかかろうと手にした警棒を振り上げる。
そして――月臣の我慢が限界に達した。
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