クリムゾンの物と推測される施設の調査の為南米に赴いた月臣は、表向きは建設途中の保養施設という島を視界に収められる対岸に張り込んでいた。
 アカツキから供与を受け、この地まで彼を乗せて来たアルストロメリア――例のジャンプ禁止法案が施行されたのを受けイリーガルな存在となった試作零号機――は、奥の森に光学迷彩カバーを掛けて隠してある。
 当然の事ながら月臣自身も、旧木連優人部隊の白い制服は流石に目だと過ぎるので、今回はゴートが作戦行動時に着用する様な濃緑色の戦闘服に身を包んでいる。
 いかにジャンプユニットを装備したアルストロメリアとB級ジャンパーである月臣と言えども、単機でいきなりその素性も知れぬ敵性施設へ殴り込む事は出来ない。
 だからこそ潜入のタイミングを計るべく、こうして敵性施設がある島を視認できる岩場に身を隠し、特殊双眼鏡で張り込みを続けているのだが、彼がそうしてから既に九日が過ぎていた。
 南半球に位置する為、季節はこれから夏を迎えようとしており、正直過ごしやすいとは言えない。
 そんな状況も相まって、彼自慢の長髪も、すっかり痛んでしまっている様だ。
 それでも、彼は特殊双眼鏡と、ネルガルのSSだけが装備している特別仕様のコミュニケを用いて、施設を観察し情報を分析し続けていた。
 島への物資搬入は頻繁に行われている様で、定期便と思われる輸送機が一日に一回訪れており、それとは別に多い日で三回の輸送機がやってくる事もあった。
 何かと忙しい研究か、大がかりな製造が行われているだろう――そう月臣は判断している。
「保養施設か……ふん」
 呆れたように呟く月臣の脳裏に、この地を訪れた際に垣間見た、ホームレスやストリートキッズで溢れる中心街の光景が思い浮かんだ。
 南米はクリムゾンと統合軍の勢力が非常に強い地域であり、それが火星の後継者の反乱後、官僚や経済界トップの解任やら退陣が相次ぎ、その後継者が揃いも揃って無能だった事もあって経済破綻を起こしかけている。
 治安の悪化も手伝って、未だにグローバルネットワークのインフラ構築が完了しておらず、ガーディアンのサポートも末端まで届いていない。
 地球圏における人口密集地域の中で、南米の都市群が最も復興に遅延が出ているのはそういった理由からだ。
 取り敢えず優秀な指導者をとスタッフを送り込んで、治安維持と市民レベルでの意識改革が必要だというガーディアンの見解に従い、現在その計画が実行に移されている。
 しかし、クリムゾンの息のかかった施設が、こうして稼働している事を考えると、意図的に遅延工作が行われているのかもしれないな――そう考えを巡らせていた月臣の耳に、大きな排気音が聞こえてきた。
 直ぐに視線を音のする方向――つまり空へと向ける。
「ん? 定期便にしては早いな……それに大きい」
 傾いた陽光を受けて鈍く光る灰色の輸送機――というよりは輸送船と表現すべきだろう、軍の払い下げと思われる大きな輸送船が問題の島へとゆっくりと降下を始め、やがて海面に着水した。
 どうやら島に設備されている輸送機の離発着場では大きさが足りなかったのだろう。
「これは好機と見るべきだろうか……」
 島への潜入方法を決めあぐねていた月臣だったが、予定外の大型船の着水という事態が引きおこすであろう、人員の増加は願っても居ないチャンスだった。
 しかも陽が暮れ始め、これから夜が訪れる。
 潜入には持ってこいだろう。
「アルストロメリアで乗り込むには、流石に問題あるな……」
 極秘な施設であるからには、それなりの警備体制が取られているだろう。
 機動兵器によるジャンプは、質量の増大に比例して生身より多くのボース粒子を発生させる事になり、それだけ関知もされやすくなる。
「ならば単身で乗り込むまでだ」
 月臣はそう呟くと、拳銃と予備弾倉にナイフを二本、そして幾つかの携帯爆薬を装備しただけのと軽装で、腰の特殊ポーチからCCを取り出して沖合の輸送船を見つめ――
「……跳躍」
 短い言葉と共に、光の粒子となって岩場から姿を消した。







機動戦艦ナデシコ 〜パーフェクトシステム#14〜








 トウキョウシティから二百キロほど南下した太平洋上に浮かぶハチジョウ島。
 二一世紀の中頃、島の形状が変わるほどの大噴火が発生し、住民の強制退去が行われてからずっと無人状態だったこの島に先代ネルガル会長が目を付けたのが今から数十年前の事。
 その後ネルガルは大金を投入しその荒れ果てた土地を整備し直し、島全体を巨大な研究所へと造り替えた。
 最高レベルの警備体勢に離島という環境も相まって、ネルガル本社の中央研究所に並ぶ研究開発拠点となり、その機密性の高さからマシンチャイルドの基礎研究や、ボソンジャンプの初期実験施設など、多くのイリーガルな研究がこの地で進められていた。
 ネルガルの体制が変わりアカツキ・ナガレが会長となってから、非人道的な研究開発は止められたものの、それがイリーガルな分野における開発の完全停止を指す事にはならない。
 現在のハチジョウ島研究所最高責任者の存在自体、戸籍的に存在しない人物だという一点を見ても、ネルガルの姿勢が伺える。
「……やっぱり駄目ね」
 その最高責任者――イネスが、個人用の研究室に備えられた特殊シールドケース内の惨状を見て呟きを洩らす。
 視線を横の計測機器へ向けると、サンプルの運動性能が通常の三倍以上の数値が表示されている。
 深く溜め息を付いてから、心の中で贖罪の言葉を述べて手元のスイッチを押す。
 シールドケース内に火炎が迸り、中のサンプルが断末魔の叫び声を上げて大暴れを始めるが、やがて燃え尽きてケースの中にはマウスだった物のバーベキューだけが残っていた。
 バイドが生物に与える影響の実験を続けていたイネスだったが、その結果は全く思うように進んではいなかった。
 アキトがバイドに感染した事で五感が回復できた事を証明出来れば、バイドの医療技術への転換は可能だろう。それどころか飛躍的に医療技術は進歩するはずだ。
 しかしどれほど実験を重ねても、特定の神経や機能を回復させる事は無く、バイド化したマウスは何処までも凶暴になるだけで、イネスが望む結果を示すことはなかった。
 人体実験は行っていないものの、他の小動物は無論の事、植物までもが同様である以上、同じ生物である人間も凶暴化するのはまず間違いがない。
 だがアキトの場合、此処まで如実な凶暴化は確認されなかった。
 となると、考えられるのはナノマシンの影響だ。
 アキトが普通の人間と異なるのは、ジャンパーとしての遺伝子構造と、何種類もの実験型ナノマシンが投与されている事だ。
 バイドは有機物と無機物を繋ぐ性質も持っているから、アキトの体内に存在するナノマシンが何らかの影響を受けた事は間違いないだろう。
 事実、アキトが消失する直前、他ならぬイネス自身が、彼の身体に起きたナノマシン変質が原因と思われる赤い発光現象も確認している。
 だが、そうなるともうお手上げである。
 何しろアキトの体内に巣くっていたナノマシンは、ヤマサキに代表される火星の後継者に属する科学者達が造り上げた試作品が殆どであり、その内容も構造も作った本人以外には判らない代物が殆どなのだ。
 そしてその当人達は、機密保持の名目で北辰らに殺されたか、アキトの復讐で全員が亡き者にされている。
「アキト君の例だけが特別なのね……これじゃどうする事も出来ない」
 イネスは額を抑えて天を仰ぐ。
 数々の人体実験の末にアキトの身体中を蝕んでいた悪性ナノマシンが、皮肉にも彼の精神をバイドの浸食から救い、彼の身体の中で共生する事が可能になったのでは? ――この仮説が正しければ、アキトの体内に存在するナノマシンを使用すれば、バイドを制御する事も可能かもしれない。
 だが、アキト体内のナノマシンが正体不明の物ばかりで、しかも通常の人体が耐えられない劇薬にも等しい物という現実を考えると、制御はほぼ不可能に近いだろう。
 ウィルスというのは元々極小の共生生命体であり、その組み合わせが正しければ、母体とウィルス双方に利益を生む存在となるが、共生関係を築けないウィルスは、母体を破壊するだけの存在となってしまう。
 結局、アキトの体内に巣くうナノマシンを完全解読し、バイドとの相性などを解析し尽くさないと民間への転用は不可能だ。
 イネスはそう考えを巡らせると、頭を振って椅子の背もたれに身体を預ける。
「暫く凍結するしかないわね」
 ルリとラピスが算出したアキトの帰還日までまだ一年以上残っている。研究を行うなら、彼が戻ってからするべきだろう。
 ふとカレンダーを見ると、今日――十月十二日に赤い丸印が記入されている。
 次いで時計を確認すると、そろそろスプリガンの搬入が始まる頃だった。
 ガーディアン型コンピュータは、中枢の演算装置だけでも一軒家ほどの大きさがあり、それを稼動させる為のいわばコンピュータとしてのパッケージ部分を含めると、ちょっとしたマンションほどの大きさになる。
 地上――実際には人工島だが――に設置された姉とは異なり、妹は宇宙に存在するゼロスへ運ぶので、その巨体を打ち上げる作業だけでも一苦労である。
 テロの標的となる可能性も高いので、現場は相当ぴりぴりと緊張している事だろう。
 だが基礎研究に携わったイネスは、さして心配はしていない。
 運搬にはナデシコ二番艦のコスモスが用いられているし、宇宙軍とて喉元で先日のテロ騒ぎを繰り返すつもりはないだろうから、警備には相当気合を入れているはずだ。
 そして何より、ガーディアンが自分の妹の警護を完璧にこなす事を確信していた。
 だからイネスの心配は、ああだこうだと喚きながら指示を出して現場の作業員達に煙たがられているであろう、エリナへと向けられていた。
 そして彼女の確信と心配は概ね正鵠を得ており、搬入作業は無事に終わり、エリナはブルーカラーの者達から「ネルガルの鬼女」と呼ばれ恐れられる事となった。






§








 先のヒマワリ落下未遂事件から十日後――二二〇三年十月一二日。
 姉に遅れること約一ヶ月、厳重な警戒態勢の下、スプリガンが軌道上に浮かぶゼロスへと搬入されました。

 ゼロスは地球圏の復興活動に用いる資源採掘用に、アステロイドから運んできた小惑星で、カッティングされたダイヤモンドの様な形をした、最大直径が二万メートルに達する巨大な鉱物の塊です。
 既に必要な分の資源採掘が終わり、出涸らしの岩の塊となったゼロスは、運ばれた際に備え付けられた核パルスエンジンを点火し、お役ご免と外宇宙へ放出される予定でした。
 しかしテロによってヒマワリが失われた事件が、ゼロスの廃棄に待ったをかけます。
 大小艦艇八百隻と、搭載機動兵器と戦闘攻撃機合わせて五千機にも達するグレイゾンシステム艦隊の新たな母港の整備が必要とされたのです。
 GS艦艇の就役に合わせて、入れ替わるように順次退役する宇宙軍の艦艇があるとはいえ、それらは即時解体されるわけでもありませんから、受け入れる設備が足りなくなるのは当然と言えば当然です。
 海賊や残党軍に解体前の艦を盗まれでもしたら洒落になりませんから、当然それなりの設備がある場所に暫く係留する必要もあって、既存するステーションや基地には新たにGS艦を係留させるゆとりがありません。
 その巨体を持て余しているゼロスに、GS艦隊の母港として白羽の矢が立ったのは自然の流れと言えるでしょう。
 スプリガンの搬入に先立って、既に一部の港湾施設は機能を開始しており、就役するGS艦艇が入港を初めてます。
 また、テロへの警戒強化策としてゼロス自身の要塞化も決定され、現在GS艦隊の配備共々急ピッチで整備が進んでおり、年内には一段落するという話です。
 本来は先行艦隊での運用試験を行い、その結果を見てから少しずつGS艦隊の配備を始める予定でしたが、その運用に全く支障が無いばかりか予想以上の働きを見せた事で、グレイゾンシステムへの期待が高まり、早期完全整備を目指す事になりました。
 GS艦隊の母港とスプリガンの設置場所という両側面から見て、ゼロスこそが地球の防衛力の具現と考えて差し支えないでしょう。
 そう言えば、つい先日ノウゼンハレンと連合軍のステルンクーゲルで模擬戦を行ったらしいです。
 宇宙空間、月面、地上と、数カ所で行われたこの模擬戦では、互いの機体が同数の場合、GS側の勝率は何と百パーセント。
 戦力比1:2――つまり相手の戦力が倍の状態であっても、GS艦隊側の勝率は六八パーセントとなってます。
 1:3になると流石に勝率は四パーセントになりますが、つまりそれだけ戦力差があっても勝てる時があるという事ですね。
 ノウゼンハレン自体の性能はステルンクーゲルの性能と大差無いとの事です。元々ステルンクーゲルは高性能な機体ですから。
 ジェネレーターを内蔵している所も同じですし、装備可能な武器も共有化出来る様にしていますので、全く同じだそうです。
 しかしスプリガンによって制御された一糸乱れぬ攻撃は、パイロットの身体を無視できるという無人機最大の特性を活かす事も相まって、連合軍を圧倒しました。
 エース揃いのリョーコさん達のエステバリス隊なら、恐らく同数でも良い勝負になるんじゃないでしょうか?
 つまり裏を返せば、工場から出荷されたばかりのノウゼンハレンは、搭乗時間と実戦経験の多いを熟練パイロットが操る機体と、同じ戦力になるという意味です。
 無人の機動兵器と言えば「デビルエステ」というのが有りましたけど、制御するコンピュータの性能差がありすぎる上に、数万の機体を同時にコントロール出来るスプリガンに操られたノウゼンハレンの一糸乱れぬ連携は、同じ無人機として比較するのもおこがましい程です。
 尚、ウリバタケさんは、この結果を聞いて「あったぼうよ!」と自慢げに話してました。
 ブラックサレナとアキトさんの組み合わせだとどうでしょう? 何せ単機でコロニーを襲撃する人ですから……ユーチャリスとラピスの支援が有れば、更に驚異になるでしょう。
 今度シミュレートしてみましょうか。
 話がそれてしまいましたが、そんな結果に加え、草壁晴樹元木連中将の死刑執行が来年の一月と決まり、それに合わせた武力蜂起などが予想されてます。
 おかげでネルガルドックは全てフル稼働状態となり、GS艦艇や機体は完成し適正検査を受け次第配備に付くという慌ただしさだそうです。
「休みがなかなか取れなくて、ラピスの機嫌が悪くて仕方ないわ」
 とはエリナさんの言葉です。すっかり未婚の母状態ですね。
 尚、GS艦艇の配備と入れ替わりに解体される宇宙軍の余剰人員は、復興活動を行う企業への斡旋を行っているので、地球圏の復興にも大いに役立ってますよ。
 来年末までに配備が予定されているGS艦隊の構成は以下の通り。
 ロベイオン級機動駆逐艦四二〇隻
 グレニウス級突撃駆逐艦一四八隻
 ナイゼス級砲撃艦一〇四隻
 レスターク級主力戦艦一二四隻
 ゲーレス級機動戦艦八隻
 ノウゼンハレン型機動兵器三八四二機
 ライネックス戦闘攻撃機一一四八機
 更に現在、これらネルガル――つまり人類から与えられた戦力を分析したスプリガンが、自ら欲し自主設計をした防空用のセグノ・ジオ級重巡洋艦と、火星圏までカバーする事になる今後を踏まえた整備母艦ヘリオ・ベイの竣工に着手し、これらも来年の秋までには就役予定だそうです。
 セグノ・ジオ級は全長八五〇メートルという巨体に似合わず、グラビティブラストは一門だけで砲撃能力こそ大したことないですが、三〇〇基・千門を越えるハリネズミの様な各種対空火器を有している防空艦です。
 ヘリオ・ベイは二つのブロックをL字型に接合した細長い艦で、長い方の全長が一万五千メートルに達する超大型艦です。
 大きさに驚かされるでしょうが、GS艦艇を係留する為の細いアーム部分がその全長の殆どをい占めてるので、巨大というイメージは余り湧きません。
 そもそも艦艇というよりも、移動ドックやステーションと言った意味合いが強く、武装も多少の対空火器以外は持ち合わせていないとの事です。
 今後予想される火星圏でのGS艦隊の行動を踏まえて計画されたもので、地球と火星の間で各艦艇の補給と整備を行うそうですが、これも完全無人艦らしいですね。
 GS艦隊の規模は、蜥蜴戦争以前の連合宇宙軍や、その後の統合軍、そして木連の無人艦隊等と比較すると、数的には随分少ないと思われますが、ガーディアンやスプリガンが地球と火星の両方の治安維持に必要な戦力として計算したものらしいです。
 無論予備戦力は別になりますが、定数割れを起こさなければ、向こう半世紀の治安維持に問題ないレベルだそうです。
 先の模擬戦の話を考えれば、機動兵器も実際の数の倍以上の戦力とも言えますし、維持費などの経済面から考えてもベストな数なのでしょう。
 あ、新造艦で思い出しましたが、GS艦艇とは別に、グロアール級大型戦艦なんて物の建造も始まったんですが……何なんでしょうこれ?
 新たな地球の力の象徴? ってことらしいんですけど、全長二三〇〇メートル、最大幅も一七〇〇メートル、全高は最大で五〇〇メートル――って、戦艦なんですかこれ?
 旧木連のかぐらづき級も真っ青です。
 全長ではGS艦艇のヘリオ・ベイの方が圧倒的ですが、あれは単純にドック代わりの係留アーム部分が細長いだけですし、各種補給、整備物資を除いた自重――つまり基準排水量は意外と大したことありません。
 何よりドック艦という存在理由も戦略的価値も持ってますが、グロアールにはそれらが有りません。
 ナデシコシリーズなんて高々三〇〇メートル、ドック艦であるコスモスにしたって精々九〇〇メートル程度ですよ?
 八門ある巨大なグラビティカノンは、ディストーションフィールドの存在すら気にする必要は無い出力を誇り、一五〇〇メートルもの馬鹿げた砲身が可能にする射程距離は、地球から火星を砲撃できるとまで言われてます。
 しかもこれ……有人艦だそうですけど、馬鹿にしてますね。
 これだけの戦艦動かすのに必要な人員と費用って、一体どれほどなんでしょうか?
 製造元はアスカインダストリーだそうで、アカツキさんもその情報を聞いた時――
「いやぁ、まさかこんな艦の承認が通るとはねぇ。恐らく旧統合軍の連中が自分達の食いぶち確保の為に考えたんだろう。大きくても一隻には違いないし。ほら、大軍縮で軍人さんは失業して大変でしょ? 末端であれば有るほど転職も楽なんだろうけど、階級が上がれば上がるほど、面子とか体裁気にするからね。今更人に頭下げられないってねぇ」
 成るほど納得ですね。
 軍縮で職を失いそうになった軍人さん達が、新たな職場を作るために、新型艦を一隻だけ建造許可出してもらい、適当な理由をでっち上げて作らせた――といったところですね。
 ガーディアンが稼働前に既に許可が降りていた為、竣工しちゃったみたいですけど、どうするんですかね?
 ちなみに、そのガーディアンは仕様書を見て――
『こんなモノ一体何に使えと言うのでしょう? 明らかな過剰戦力であり、その維持費は無駄な浪費に過ぎません。軍はエイリアンとでも闘う気なんでしょうか? それとも太陽系外へ進出し新天地でも探すんでしょうか? それに何より火星に対する圧力とも見られてしまいますし、地球火星間の平和を阻害する要因に成りかねません』
 と、頭を悩ませれば――
『戦艦と呼んで良いのかも判らない様な馬鹿げたスペックです。これはもう、政治家や一部軍人の玩具ですね。使い道と言ったら、精々観艦式の時に見せて市民を驚かせる事と、反政府組織に対する抑止力となるくらいでしょうか? それにしても費用対効果が悪すぎます。それに攻撃力も防御力も確かに凄いですけど、私ならGS二個艦隊・約二五隻で打ち勝つ自信があります』
 ――と、スプリガンも一蹴です。
 もしかしたら、グレイゾンシステムに危惧を抱いている人々が、その対抗戦力として作らせたのかもしれませんね。
 とにもかくにも、連合宇宙軍の艦艇は解体の順番待ちに列を作り、あぶれた軍人さん達は一生懸命地球圏の復興に回り、一部の官僚的軍人さん達は必至に立場を維持しようとふんばっているわけです。
 それでも、ガーディアンが行政の手綱を握って、地球の守りはスプリガンがしっかり行ってますんで、世界全体は良い方向へと向かっていると思います。
 慢性的物資不足に悩んでいる火星への輸送船団の護衛も、GS艦隊が行うようになり、海賊行為による被害は急速に減ってます。
 これも実に良いことですね。
 アキトさんの帰還まで後一年と少し。
 私、頑張ってます。






<戻る 次へ>

SSメニューへ