『緊急事態発生!』
『総員速やかに脱出せよ』
『緊急事態発生!』
『中央区画メインジェネレータに異常発生!』
『繰り返す! 緊急事態につき、総員直ちに脱出せよ!』
 警報と共に備え付けられている赤色灯が点灯し、緊急事態の発生を告げる放送がひっきりなしに鳴り響いています。
 突然起きた爆発にステーション全体が揺れ、その直後、緊急事態を告げるウインドウが一斉に展開し、ステーション内に居る全ての人員に対して避難命令が発動されました。
 ステーション「ヒマワリ」を突如襲った出来事は、スプリガン受け入れの為の拡張工事の最中だった事もあって、作業に当たっていた多くの民間人も巻き込み、混迷を深めていきます。
 ヒマワリ内部は混乱し、周囲の人々が慌てて身近な脱出ポットやシャトルへ我先にと駆け込んだり、自分達の艦へ向けて必至の形相で走って、既に怪我人も出始めている様です。
 私はといえば、艦内の自室で警報を聞きつけ、走ってブリッジへ向かっているものの、普段と変わらぬ涼しげな表情のままです。
 こんな状態でも落ち着いていられるんですから、我ながら大したものだと思いますね。
 ナデシコBがヒマワリに接舷したのが約二〇時間前の事。
 この度の哨戒任務で捕縛した海賊や残党軍の捕虜を受け渡し、そのまま補給を受けてました。
 二日後に再度出航の予定でしたので、クルーには半舷休息を言い渡し、私はヒマワリの司令部へ赴き報告を済ませた後は、ナデシコBの自室へ戻ってました。
「オモイカネ、全クルーへ緊急召集。ナデシコBは緊急非常態勢へ移行」
[OKルリ]
 オモイカネは素早く全クルーへ緊急連絡を送り、ナデシコBを発進可能な状態へ準備を進めます。
 私が艦長席に収まりIFSコンソールに手を添えると、瞬時にガーディアンからの指示情報が表示されました。
 当然、今回の事態におけるガーディアンからの情報――今回は「要請」ではなく明らかな「命令」口調ですね。
 これは現状を高レベルの非常事態と判断したガーディアンが、死傷者数や経済損失、そして予想される各種被害を軽減する上でもっとも適した行動を、それぞれに促する為でしょう。
 こういう咄嗟の異常事態に見舞われた時、軍人さん達は上官の素早く的確な判断を欲するものなので、何処からも不満は聞こえず、無事な艦艇はみなガーディアンの指示通りに活動しているみたいですね。
「遅くなりましたっ!」
「申し訳ないっす!」
 休息中だったハーリー君と三郎太さんが息を切らせてブリッジインします。
「リョーコさん、エステ隊は全員でもって出動し、ガーディアンの指示に従い救助活動をお願いします」
[判ったよルリ]
 リョーコさんの返事を聞き、私はIFSレベルを上げてこの周辺空域に脱出した非常用ポットが発する信号キャッチに務めます。
 混乱で電波や通信が飛び交う中、小さな反応も見逃さない様に、神経を集中します。
「GS(グレイゾンシステムの略)艦隊動きました」
 そんなハーリー君の報告を聞きながら、私は生存者が信号を発するポイントを一つ一つマーキングして行き、付近の艦艇やリョーコさん達に伝達してゆきます。
 私が展開していたウインドウの一つに、巧みな動きでドックから離れて行く新型艦が映ってました。
「あの子達、頑張ってますね」
 私はほんの一瞬――時間にするとコンマ〇五秒程でしょうか――だけ、その画面を見てそっと呟き、再び意識を切り替えました。






機動戦艦ナデシコ 〜パーフェクトシステム#13〜








 私とハーリー君、そして三郎太さんとリョーコさんの四名が、ナデシコBの代表としてヒマワリの司令部へ出頭し報告を済ませ、ナデシコへ向けて戻っていた時の事です。
 外に面したガラス張りの通路を進む私達の目が、丁度ヒマワリに接舷しようとしている見慣れない軍艦の姿を認めました。
「あれは……」
 初めて見るその艦の姿に、私達は揃って足を止めてその光景を眺めていました。
「あれはナイゼス級砲撃艦とロベイオン級機動駆逐艦っすね。例のグレイゾンシステムの先行試験艦隊って事で、実験的にヒマワリに配備するとか何とか言ってたヤツです」
 私の呟きに三郎太さんが補足を加えてくれました。
 まぁ私も当然知っているんですけどね、何事も確認するのが副官の勤めですから。
 私達の眼前で、一隻のナイゼス級と二隻のロベイオン級が、まるで滑るようなスムーズな動作で、指定されたドッキングベイへと向かってます。
「へぇ〜あれが全自動砲撃艦と、全自動機動駆逐艦ですか。木連が使っていた無人艦とくらべて性能が良さそうですね?」
「そりゃそうさハーリー、木連で使ってた無人艦な、今だから言えるけどすげぇ馬鹿なんだぜ。単艦で自律行動が可能とは言え、肝心の人工知能が大した事ねぇから複雑な艦隊行動も取れなきゃ、難しい命令も実行できねぇし……まぁ当時としてはあの攻撃力と防御力は十分驚異的だったし、それに数も相当数揃ってたから使えたけどな。今のご時世じゃなーんの役にも立たねぇよ」
「そんなもんですかね」
「そんなもんさ」
「おおっすげぇな!」
 そう感嘆の叫びを洩らしたのは、リョーコさんです。
 確かに凄いですね。
 ナデシコBより一回りほど大きいナイゼス級が、切り返しを行う事なく一発で、しかも通常の艦艇が行うオートモードとは比べ物にならない程の機敏な動きで、接舷する光景はそう言葉を洩らすに値する光景でしょう。
 オモイカネもその気になれば難なく出来るとは思いますが、乗員を気遣う必要がある以上は実行不可能ですね。
 ナイゼス級は全長三五〇メートルですが、全幅も全高も約二五〇メートル程度ある寸胴な艦です。
 中央に制御装置を内包したタワー型コンピューターをそのまま大きくしたような縦長の本体があって、その本体から「前へ習え」をした人間の様に、砲撃ユニットが左右から突き出されており、そのユニットには連合軍がアマリリス等の主力戦艦で使用しているのと物と比較して出力が強化されたグラビティブラストと、三二セルのVLS六基がそれぞれに装備されてますから、かなりの重武装と言えるでしょう。
 正直不格好な外見ですが、中央の大きな本体部分は格納庫も兼ねており、その馬鹿に出来ないペイロードは輸送任務等にも用いられる事でしょう。
 ロベイオン級は、全長約一五〇メートル。
 中央の本体――制御ユニットを両脇から挟むような感じで、左右に一基ずつ相転移エンジンを取り付けて、そのエンジン部分の先端はグラビティブラストの発射口になってます。
 つまり小口径で出力は弱いですが、二門のグラビティブラスを装備している事になります。
 全体的に鋭角なシルエットは、デブリ群や小石の間を掻き分けて突撃出来る様にしたためでしょう。
 その他の武装は格納式のCIWSが二基、と八セルのVLSが二基、そして艦首にある連装五インチレールガンのみ。
 機動兵器は積んでいませんが、機動駆逐艦の名が示す通り、艦そのものが機動兵器とも言えるでしょう。
 そして両艦とも人員はゼロ。一人も乗ってません。
[艦名確認……ナイゼス01とロベイオン001、002]
 オモイカネが気を利かせて調べてくれたのか、ウインドウを表示してくれました。
「個別に名前付いて無いんですね」
「グレイゾンシステムの艦は、今までの銘々基準を敢えて無視して付けられてるみたいですね」
 ハーリー君の呟きに私が答えると――
「ふーん、なぁルリ、あれって機動兵器積んでるのか?」
 リョーコさんが興味深そうな表情で聞いてきました。
「ええ、ナイゼス級には一六機の無人機動兵器が積まれているはずです。ウリバタケさんの自信作らしいですよ。確か名前は『ノウゼンハレン』だったと思います」
 私がそう説明している合間に、ロベイオンが機動兵器顔負けのマニューバでヒマワリへの接舷を果たしました。


 ヒマワリに緊急非常事態が発令されたのは、私達がそんな光景を見ていた約一八時間後の事です。
 作業中の事故でしょうか? 中央区画に有ったメインジェネレーターが、何らかの原因で暴走したと思われますが、既にヒマワリは周囲にデブリをまき散らしながら崩壊を始めています。
 事故発生直後は混乱してましたが、ガーディアンの介入によって混乱は収まりつつありますね。
 私が幾らかほっとした心境で周囲の空域に散らばる救難信号や、生命反応の把握に努めていると――
『我々の理想が正しき事を後世に伝える為!』
 突如として大きなウインドウが開き、血走った目をした男のアップが写し出されました。
「な、なんだぁ?」
 三郎太さんが驚き……というより呆れた声を出してます。
『我らは火星の後継者挺身隊。我らが偉大なる指導者にして、人類を導く救世主、草壁閣下を処断するとした地球連合政府の愚行を、我々は黙って見逃す事は出来ない!』
『こいつ……オレ達が捕縛した火星の後継者の残党じゃねぇか』
 リョーコさんがウインドウの向こう側で呆然と呟いてます。
 確かに彼女の言う通り、昨日特攻を仕掛けて私達に返り討ちにされ捕虜となった人ですね。顔に見覚えがあります。
 つまり今回のこれは事故では無く――
『我々は草壁閣下の掲げる新たな秩序を妨げる現体制を否定する。地球連合政府は、今や熱き血の通わぬ機械の統制下に置かれた傀儡に過ぎない! 我々はそのような社会を断固として認めるわけには行かない。よって、ここに徹底抗戦の意を表明すると共に、我が命を草壁閣下の理想実現の為の人柱として捧げるものである!』
 ノイズ交じりの映像の中で、鉢巻きをした男が自己陶酔気味な表情で腕を上げ、熱弁を振るっている。
「おいおい……今時流行らねぇっての」
 そんな姿を三郎太さん、何処か冷めた様に――そして少し悲しそうな目で見つめて呟いてます。
『私の命は此処で潰える事になるだろう。だがそれと引き替えに、市民の目が覚めるのであれば、我が魂は喜んで靖国へと旅立つだろう!』
「お前が勝手に死ぬのはともかく、無関係な人間を巻き込むなってんだ! また繰り返したいのかよ」
 三郎太さん、かつての熱血漢の頃みたいに言葉を荒げてコンソールを強く叩いてます。
『草壁閣下万歳!』
 最期にそう叫ぶと、男を映していたウインドウはただノイズが走るだけで、何も映さなくなりました。
 入れ違いに爆発音と震動が響きます。
 どうやら先程の通信を行った人物が仕掛けた爆発物が爆発したのでしょう。
 沈静化しつつあった事態は急変し、周辺で救助作業を行っていた人々から悲鳴の様な通信が飛び交ってます。
 慌てふためく人々の希望を打ち砕くように、ヒマワリの崩壊が始まりました。
 全長二千五百メートル、全高七百メートル、最大幅で千八百メートルの大きさがあるヒマワリは、まるでその花びらを散らす様に、細かい破片となってゆき、ヒマワリ全質量の七割を占め、暴走中のジェネレータを内包した中央部分は崩れる事なく、そのまま爆発の余波を受けて軌道を変え移動を始めました。
 これはマズいですね――そう私が思った瞬間。
『全艦艇に警告! 非常事態! ヒマワリの中央部が落下を開始。外部よりの制御不可能。内部全域で電源供給が断絶されてます。軌道計算の結果、落下地点は中近東、カザフスタンと判明! 大気圏突入まで後六四五秒――』
 ガーディアンから悲鳴にもにたウインドウが表示されました。
 もしこのまま都市部に落下すれば、恐ろしい被害を生む事になります。
 推定死亡者数は万単位。
 しかしあれほどの質量ですと、ナデシコで牽引するのは不可能。
 何十隻も艦艇を集めて行えば可能かもしれないけれど、テロだと判り混乱した今の状態でそんな一糸乱れぬ艦隊行動がとれるとは思えません。
 ならば――行う事はただ一つです。
「ナデシコBを移動させます。地表に当たらない位置から、ヒマワリに向けてグラビティブラストを発射して破壊します」
 即決した私がそう発令すると同時に――
『状況をSレベル災害と判断。現在よりGS完全自動モードへ移行します。ヒマワリ周辺空域で活動中の全艦艇は私の指示に従い生存者救出に当たって下さい』
 ガーディアンからのウインドウが開きました。
『ルリ……ヒマワリ内部に生存者一六三名を確認。救助に向かいます』
「ガーディアン?」
 私は電子情報の奔流の中で、彼女の声を聞きました。
「艦長?」
「ハーリー君、ナデシコBは現位置にて生存者救出に務めます」
 私の言葉と共にウインドウが二つ開きます。
 一つは現在における生存者救出を示す[0/163]という数字。
 もう一つは、限界点突破までのカウントを示す[610]というタイマー数字。

 次第に速度を上げて地球の重力に引かれて落ちて行くヒマワリ。
 それを三隻のGS艦艇――ナイゼス01とロベイオン001と002が滑るような動きで追って行きます。
 やがて左右のロベイオンが加速を始め、レールガンをピンポント射撃――生存者の居ないブロック正確に撃ち抜いて行きます。
 タイマーは570に減ってます。
 ナイゼス01の中央カーゴが開き、中から真っ赤な機動兵器が飛び出して、ヒマワリ内部へと向かって行きます。その数は一六。
『あれがノウゼンハレンか……』
 救難ポットの収容作業を続けているリョーコさんの呟きが聞こえてきました。
 そんな合間にも、ロベイオンは駆逐艦でありながら戦闘機の様な運動で、不要部分を次々に撃ち抜いてゆきます。
 レールガンでは威力が大きすぎるのか、時折CIWSを単発射撃(!)で放って、細かい部分を破壊してます。
 あれは人間には不可能ですね。
 タイマーーが520になり、ノウゼンハレンがロベイオンが開けた穴よりヒマワリ内部へ侵入しました。
 まさか機動兵器で生存者を一人一人救出? ――それでは時間がかかりすぎますし、全員が宇宙服やポットに収まって待機しているとは思えません。
 タイマーが450を切っても、救出者数を示すカウンターは今だに0/163のまま変化を見せません。
 私ですら焦りが募る状況。
 落下が予想されるカザフスタンでは、市民達が大パニックに陥っているかと思えば――全くそんな様子が見られませんでした。
 私が確認した限り、該当地区ではガーディアンによる明確かつリアルタイムな情報掲示と、統制の取れた誘導により、市民達は落ち着いたまま所定のシェルターへと向かってます。
 私は手を強く握りしめ、乱れ飛ぶ電子情報の中でガーディアンの行動を見守ります。
 落下してゆくヒマワリの後方三百メートル程に、三隻のGS艦艇がピタリとくっついてます。
 宇宙空間ですと速度に関する感覚が鈍ってしまいますが、こうして落下を始めているヒマワリの速度もマッハ10程出てますんで、僅か三百メートルの距離で追跡ってだけでも十分すごい事だと判ります。
 無論、ミナトさん程の繰艦能力が有れば別ですけど……。
 タイマーが360を切った時、ポットを抱えたノウゼンハレンが飛び出して救出カウンターが4/163と動きました。
 次いで気密区画その物を切り取ってきたらしい、二機のノウゼンハレンが飛び出すと、更にカウンターは38/163となりました。
 そしてその後、幾つかポットや宇宙服に身を包んだ生存者を乗せたノウゼンハレンが現れナイゼス01と運んで行くと、カウンターは62/163まで上昇しました。
 しかし、タイマーは既に238――残り時間四分を切ってます。
 限界点を過ぎれば大気の摩擦で救助活動はおろか、巨体故に攻撃による解体すら意味を成さなくなります。
 この空域に居た全ての人達が、祈りながらGS艦隊の動きを見ていたでしょう。
 他ならぬ私もです。
 ハーリー君は見るからにオロオロとしてますし、リョーコさんは先程からしきりに『オレも行く!』と通信で息巻いており、三郎太さんがその都度彼女をなだめるのに苦労しています。
 タイマーが遂に180を切った時、後方に並んで位置していたロベイオンが揃ってグラビティブラストを発射。
 極限まで収束させたらしい黒いエネルギーの奔流が糸のように延びて行き、ロベイオンはそのまま繊細な動きで艦の向きを僅かにずらしていきます。
 小型とは言え、高圧縮の重力波ビームは、まるで工業用レーザーの様にヒマワリの一部分を切断して行き、その直後にヒマワリ内部で爆発が起きました。
 内部に残ったままのノウゼンハレンが爆薬を仕掛けていた模様ですね。
 グラビティーブラストで”切れ目”を入れられていた区画が、その後の爆発の影響綺麗に外れ、すかさずワイヤーアンカーを射出したロベイオン二隻が逆噴射をかけました。
 その瞬間、救助者数カウンターは163/163を示し、ブリッジ内の各所から歓声が沸き起こりました。
 恐らく全ての艦艇内が同じ状況になっている事でしょう。
 そしてタイマーが90を切った時――この時点では、ほぼ全ての人々が、眼前で行われている救出ミッションが百パーセント成功する事を確信していたでしょう――二隻のロベイオンに曳航されたヒマワリの区画が地球の引力から脱した事が確認され、ヒマワリ本体の後方に残っていたナイゼス01に搭載されている二門のグラビティブラストが広域モードでフルパワー射出されました。
 黒いエネルギーの奔流を受け、散り散りとなり大気の摩擦で燃え尽きて行くヒマワリの残骸を見て、ブリッジ内はお祭りの様な騒ぎ。
 オモイカネも[たいへんよくできました]といウインドウを、目一杯大きなサイズで表示させてます。
 パイロットや他の部署の人達、それだけではなく、他の艦艇の人々や救助された人々のウインドウが一気に表示され、目の前で起きた救出劇の成功を喜び、そしてそれを成し遂げたガーディアンを讃えてます。
 それら乱舞するウインドウに表示された全ての人達の表情を見た時、私の中で形容の出来ない熱い想いが込み上げてきました。
 全ての人々の顔に現れていた表情。
 それは――

 ――歓喜。

 ガーディアンは、私がヒマワリを破壊する事しか考えられなかったあの短時間で、内部の生命反応と、更に生存者の居る区画と、気密されている区画、等を調べ上げ、現有しているGS艦艇だけでも救助が可能と判断し行動に移しました。

 少数の正義にも耳を傾け、そして彼等にとっても良き結果となる様善処して下さい――私は確かにそうガーディアンに言いました。

 彼女は、私が言った事を実践してくれたんです。
『ルリ……私はこれが最良だと思った』
 私のプライベート通信に、小さく控えめなメッセージが表示されます。
 恥ずかしがってるんでしょうか?
 私は嬉しさや微笑ましさを感じて、ガーディアンへの回線を繋ぎ語りかけます。
「有り難うガーディアン。人々の笑顔が貴女には見えますか? そして喜びの声が聞こえますか? これら全てが貴女のした事による結果です。そしてこの場に居る全ての人々の代表として、貴女に御礼を申し上げます。――ありがとう」


 蜥蜴戦争におけるチューリップの落下以来最悪の落下事故となる予想されたヒマワリ爆破事件は、怪我人こそ大勢出たものの、落下予想地点のカザフスタンも含めて(こちらは見事なピンポイント誘導により怪我人すら無し)自爆した首謀者一名を除き死者ゼロ――他の実行犯すら救助されていました――という奇跡的結末で幕を閉じました。
 ヒマワリの喪失という経済的、また軍事的損失は大きかったものの、この事件後の世論は、火星の後継者への明確な拒絶と、ガーディアンとグレイゾンシステムへの明確な支持を打ち明けました。

 グレイゾンシステム制御用ガーディアン型スーパーAIコンピュータ「スプリガン」の新たな設置場所として選ばれた資源採掘衛星ゼロスが、失われたヒマワリの代替として要塞化される事が決定したのは、事件から一週間後の事でした。







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