真新しい一戸建て。

 良好な家族関係。
 
 新しい生活、新たな日常。

 そのまま長く続くと思っていた新しい日常は、何の前触れもなく唐突に崩壊を始める。





§





「な、何だ?!」
「おわっ!」
 突如現れた来訪者に驚いた甲子国は手にしていた茶碗を落とし、祐一も腰を抜かしたようにその場でひっくり返る。
「?」
 真琴だけは特別驚いた反応は示さず、少し首を傾げて乱入者の姿を眺めている。
 黒い帽子にサングラス、夏場には似つかわしくない長袖の黒いシャツに黒い手袋、そしてやはり黒いスカートと黒いストッキング、仕上げに黒いブーツと手にした黒いアタッシュケース。
 そんな乱入者の出で立ちから判る事と言えば、その性別が女性であり、少なくとも大人と呼ばれる程の年齢だという事くらいで、それ以外の情報や身分を知らしめる外見的特徴を持ってはいなかった。
 一言で表現するならば、”怪しい女”というのがぴったりだろう。
「ちょっと失礼するわよ。悪戯好きの狐サン」
 その如何にも怪しい出で立ちの謎の女は、土足のままリビングの畳を踏みしめ真琴を凝視している。
 真琴はきょとんとした表情のまま暫く黒い女を見つめていたが――
「……あ」
 何か思いだしたのか、小さく声を上げる。
「やっと追いついたわよ沢渡真琴。あれほど忠告したのに……遂に辿り着いてしまったのね。本当いけない子」
 女は口元に笑みを浮かべてそう言うと、真琴へ向かって進み始める。
「な、何だ一体?」
「誰だお前は!」
 祐一と甲子国が倒れたまま叫ぶも、女は真琴以外に眼中に無いのか無視して更に近づいて行く。
「さあ沢渡真琴、不純人獣間交遊の現行犯で捕縛します。大人しく私といらっしゃい」
「御主人様……」
 真琴が弱々しい声で祐一を呼ぶ。
「ちょ、ちょっと待て!」
 祐一は真琴の声にはっとして飛び上がると、黒い女の前に立ちはだかる。
 真琴は彼の背中に隠れるようにして立ち竦み、影からほんの少し顔を出して事の成り行きを見守っている。
 その仕草は如何にも小動物っぽい。
「何よ?」
 祐一に興味が無いのか、女はいかにも面倒くさそうに応じる。
「さっきから黙って聞いてりゃペラペラと訳の分からない事ばかり抜かして……しかも人様ん家に土足で上がり込みやがって。貴様は何者だ? 何しに来た!?」
「土足については謝るわ、ごめんなさいね。でも一刻を争う事態だし、公務の執行上許されてる事なの。理解して。
 それで何者かという質問だけど、それは私の名前を問うているのかしら? それなら教えて上げる。
 私の名前は美汐よ。天野美汐」
 サングラスで目は見えないものの、眉毛と口元の動きが、明らかに祐一の事を見下している事を物語っている。
「名前なんかどうでも良いんだ! 俺が聞きたいのは貴様の正体だ」
「あらあら正体とは心外ね。少なくとも私はその娘とは違って”人間”よ」
「何?」
 人間という言葉を強調する女に、祐一は表情を険しくさせて睨み付ける。
「あらあら、そんな顔しないの。そんなに知りたければ別に教えても良いけど……」
 女は落ち着かせるような口調で応じると、軽く咳払いをして言葉を続けた。
「私は厚生省公認対人外狩猟者第三五号。えっと平たく言えば魔物ハンターね。ちなみにまだ独身よ。年齢は内緒だけどね」
 美汐と名乗った女は、自分の身分を明かすと真琴へ向けて再び歩を進めようとするが、祐一もまた美汐へと歩み寄り、彼女の動きを牽制する。
「魔物ハンター? ふ、ふざけた事抜かすな! 貴様一体何者だ? 真琴に何の用だっ!」
 声を一段ち荒げて質問する祐一だが、美汐は呆れたように眉毛を動かし、小さく溜め息をついてから口を開く。
「あら〜あなたって頭悪いのね。さっき言ったでしょ? 私の名前は天野美汐。厚生省公認対人外狩猟者第三五号……」
「それはさっき聞いた」
「沢渡真琴、貴女を不純人獣間交遊の現行犯により捕縛し……」
「それもさっき聞いた」
「それじゃ何よ?」
 祐一に言葉を止められた美汐が呆れたように言うと、祐一は少し考えてから、煮え切らない表情で言葉を切り出した。
「……あんたが本物の魔物ハンターかどうか? なんて事を聞いても……無駄なんだろうな……やっぱ」
 颯爽と美汐の前に立ちはだかったものの、自分の問いかけが全く意味を持たぬ事に気が付いてしまった祐一は、自分自身で己の疑問を否定してしまった。
「ふふっ。判ってるじゃない。あなたはこの娘が『恩を返すためにやってきた狐』だなんて言う、おおよそ受け入れがたい設定を既に受け入れてるのよね? それを覆す勇気があなたに無い以上は、この私がハンターだって事を認めない訳にはいかないわね」
 美汐と名乗る黒い女は、鼻で笑うようにして答える。
 そんな態度に腹を立てた祐一は、再び気を取り直すと美汐に挑みかかる。
「では仮にお前が本物のハンターだとして」
「あら、本物よ?」
「それで一体、真琴がどんな悪事を働いたと言うんだ?」
 祐一の言葉に、美汐は再び小さく溜め息をつくと、その視線をテーブルへと向けた。
「これは何よ?」
「これとはなんだ?」
「これはこれよ。このテーブルの上で美味しそうに煮えたぎっているこれは何か? と聞いてるのよ」
「……ただの寄せ鍋だが」
 美汐の質問の真意が掴めていない祐一は、テーブルの上で煮えている鍋を見て、少し考えてから答える。
「朝っぱらから?」
 美汐が大いに呆れた様に眉を寄せると、祐一は怒りを爆発させて美汐に食い下がる。
「朝食おうと昼食おうと夜食おうとウチの勝手だろうが! それとも何か? 朝っぱらから寄せ鍋食ったら法律に触れるのか? 誰かに迷惑かかるのか? 死刑になるのか? 一体誰が何の権利でそんな事決めたっていうんだよ!」
 祐一の言葉を全て聞いてから、美汐はまるで哀れむような表情を浮かべて、祐一の肩に手を置き語り始めた。
「そうね。朝食に寄せ鍋食べようが、すき焼き食べようが、ちゃんこ鍋を食べようが、そんな事を罰する事は誰にもできないわね……しかし!」
 最初は優しい口調で話していた美汐だったが、最後に言葉を荒げると、祐一の肩を掴んでいた手に力を込めて、彼の身体を投げ飛ばした。
「おわっ!」
 突然の事で受け身を取る間もなく、祐一はリビングの窓ガラスへと顔面を打ち付けた。
「御主人様っ!」
「祐一!」
 真琴と甲子国が叫び声を上げる中、美汐は姿勢を整えると、全員に言い聞かせるように言葉を続けた。
「いい? それはあくまで戸籍的に存在が許されている者同士で行われるべきものであって、本来その場に居るべきでない存在、すなわち化け物や人間に化けた獣とかと、仲良く鍋囲んで一家団欒の真似事なんかは許される事じゃないの!」
「ちょっと待ったっ!」
 今まで静観していた甲子国が立ち上がると、美汐に掴みかかる。
「今度は何よ?」
 困惑の表情を浮かべながら美汐が応じる。
「確かに真琴は狐だ。この家のペットかもしれない。だが、彼女我が家の一員である事に変わりは無い! 一緒に卓囲んで鍋つついて何が悪い?! それで誰かが迷惑を受けるか? 誰かが死ぬか? 誰かが怒るか?!」
「私が怒ります」
「何故お前が怒る?」
「法に触れるから怒るんです」
「法に触れると何故怒る?」
「何ですかそれ? 自分で言ってる事判ってますか? 良いですか御主人!」
 ことさら大きな声を上げると、美汐は錯乱気味の甲子国の両肩を掴み、言い聞かせるように叫んだ。
「確かに自分を羨み慕ってくれる家族ってのは良いものです。そしてそれが花の様な美少女なら尚のことです。
 食わせ育てた恩も忘れて、口を開けば『メシ・金・うるせぇ』の馬鹿息子や『関係ねぇ』のアホ娘、家族の絆や親に対する尊敬、上の者を敬い尊うかつての日本人的気質を失った出涸らしの様な今の子供達が溢れ、世紀末的家庭内闘争が蔓延る中にあってですよ? 家族の具現やら理想やらを一身に詰め込んだような人外の娘がやってきたとして、御主人様万々歳な生活を送ったら……一体どうなると思ってるんですか?!」
 最後はその口調を激しくして叫ぶと、美汐は甲子国の目をじっと見据えて話しを続けた。
「いいですか、この娘は人間では無いのです。家庭の、人の温かみに触れた事で人の世に未練を持ってしまった物の怪なの。それはこの社会には有ってはならない存在なんです」
「何故だ!?」
「何故と? では、この娘に戸籍は有りますか? 住民票は? 健康保険は? 御主人はこの娘を扶養家族として会社に申請しておりますか? 税金や年金はどうなります? 彼女の出生を誰が証明するのですか? この娘には、そういう人間社会で居きる上で必要な情報が存在していないのですよ。不法就労を目的とした外国人だって強制送還される現代において、それが人間以外の者ならなおさらよ。早く自分たちの世界に帰ってもらうのは至極当然じゃなくて? それにこういった人化の法を使った妖狐の場合、その記憶が失われる事が殆どですから……この娘も記憶が無いでしょ?」
「……」
 美汐の言葉に、甲子国は思わず視線を逸らす。
 そんな彼の態度に、自分の推測が正しいことを確信した美汐が話を続ける。
「やはり……ならば、余計にこの娘は危険です。この獣は人間にとっての疫病神ですから。彼らを受け入れた家族は間違いなく崩壊します。早い内に手を打たねば、取り返しの付かない事になってしまいますよ」
「嫌だ! そんなの嫌だ! 今更真琴を手放すなんて……そんな事をしたら私の生活はどうなると言うんだ。多美子に出て行かれた今、残るのは多額のローンと、祐一と二人だけで展開する近親憎悪のドラマだけじゃないか! そんな状況に私が耐えられるはずがない」
 甲子国は美汐にすがるように、彼女の両腕を掴み項垂れて叫んだ。
 その叫びはやがて涙交じりのものへと変わり、甲子国はずるずると床へと崩れ落ちる。
 床に手をつき泣き崩れる今の甲子国の姿に、家長としての尊厳を感じる事は出来ない。
 いたたまれず美汐は視線を逸らして、窓ガラス付近で祐一の介抱をしている真琴へと向き直る。
「あなた……もうここまでこの家庭を崩壊させていたのね?」
 美汐は腰に手を当てきつい口調で真琴に追求すると、アタッシュケースを持った手の指が探るようにグリップを這う。
「待てよ」
 祐一が介抱しようと伸ばしていた真琴の手を押し退け立ち上がる。
「何?」
 美汐は動きを止めて祐一と向き合う。
「家庭の崩壊が真琴の所為だと?」
「ええそうよ。さっきも言ったけどこの娘は疫病神みたいなモノよ。早く私に渡した方が身の為だと思うけど?」
「父さん! いつまでこんな女に良いように言わせておくんだよ! 例え父さんがコイツに真琴を差し出すってんなら、俺にも考えが有るぞ……」
 美汐のストレートな物言いに、祐一は怒りを爆発させ、その矛先を未だに泣き崩れたままの甲子国へと向ける。
「ほら。貴方の息子ですよ? 貴方の実の息子がこんな暴言を吐くようになってるんです。奥さんには逃げられ、家計は苦しくなり、息子は開き直って……結果的にあなた方の家庭を崩壊させてるんですよ。この娘が来たことが原因で」
「俺が俺の父親に何を言っても俺の勝手だ! お前のような部外者が口を挟む問題じゃない!」
「それが目上の者に対する口のきき方ですか? 全く……人として不出来としか言えませんね」
 美汐は、やれやれと呆れたポーズを取って溜め息混じりに応じるが、その馬鹿にしきった態度が更に祐一の神経を逆撫でる。
「五月蠅い! 人ん家に土足で上がり込む様な奴が”目上”等とうぬぼれるな! そもそも俺は最初っから開き直ってる! 単に今まで口に出さなかっただけの事だ!」
「余計に悪いわよこのお馬鹿さん!」
 祐一の言葉に心底呆れたのだろうか、美汐は怒鳴り声を上げた。
「ちょっと待った! さっきから人ん家の息子捕まえて『馬鹿』だの『不出来』だのって、一体何の権利が有っての畳み込みだ?」
 美汐の言葉に怒鳴り声で応じたのは、泣き崩れていた甲子国だった。
 明かな怒りをその表情に浮かべ美汐を睨み付けている。
 しかし美汐は、甲子国の反応を半ば予想していた様に微笑むと、余裕の態度で話し始めた。
「ほらほら、それですよそれ。それが肉親や血縁の情ってやつの限界なんですよ。
 どんなに馬鹿な息子でも、どんなに頼りない父親でも、血の繋がった肉親を他人に罵られれば腹も立つし頭にもくるんです。
 もしも私がこの人つかまえて『剥げデブ中年の駄目親父!』何て言ったら、貴方だって頭に来るでしょ?」
 最後の問いかけは祐一に対して向けられたものだ。
「当たり前だ!」
 祐一は声を荒げて間を置かずに答えた。
「うふふ、でしょう? それこそが問題なのよ。
 貴方、今私に父親を罵られて腹が立ったでしょ? でも、例えばとなりの家のオジサンを私が同じように罵っても、大して腹は立たないわよね? 家族や血縁ってのは、幾ら自分でその関係を否定しようとしても、決して逃れることが出来ないのと同じで、どれだけ忌み嫌っても、自分の血を分けた相手や家族には、ギリギリのところで自然と優しくなれるものなのよ。
 そしてね、その情って奴を、真琴に覚える事がまずいわけ。
 貴方が真琴を守ろうとする気持ちと、父親を罵られて怒る気持ちは似ている様に思えるかもしれないけれど、それは決して同じ物ではないわ。ううん、同じではいけないのよ……」
 美汐はそう言うと、真琴を見ながら空いている手を顎に添えて考える仕草をする。
「ねぇ真琴、貴女は何故ここの居るのかしら?」
「私は……ただ、御主人様や旦那様と一緒に暮らしたい。その為に一生懸命尽くしたい……ただそう思ってるだけです」
 真琴は美汐の顔をしっかりと見据えながら答える。
 しかし、言い終わると同時に、表情を曇らせると項垂れて、元気の無い声で続けた。
「ですが、それは人間社会にとって危険思想なんですよね?」
 真琴の問いかけを受けて、美汐は静かに頷くと口を開いた。
「一族繁栄、家内安全、無病息災……家族を思う気持ちとしてはパーフェクト、実に素晴らしいわね。でも貴女自身が認めてる通り、それを願う事は真琴の様な存在に限って危険な事」
 美汐の言葉に、真琴が肩を震わせる。
 そんな姿を美汐は見て小さく溜め息を付くと、祐一へと視線を戻し続きを話し始めた。
「彼女が家族に憧れ、幾ら家族に溶け込んだとしても、それは全てまやかし。彼女がいかに人間らしく振る舞おうと、彼女が化け物である事実は決して覆らないのよ。
 どれだけあなた方が真琴を家族の一員だと思いこんでも、彼女に対して血縁の情には発展する事は有り得ない。そこに有るのはあくまで哀れみと、同情に過ぎないわ。
 良いですか? 家族とは人間社会を形成する最小単位の集合体です。本来それはその家系に連なる者だけで構成するべき物であり、その中へ不当に侵入してくる存在は、決して許されるものでは無いはずなの。
 貴方だって突然やってきた者に『家族に入れて下さい』なんて言われても断るでしょ普通? それが当たり前なんです。
 ああ、結婚は別ですよ。婚姻によって結ばれた人間は家族になります。ですが、その娘は人間じゃありませんから、当然結婚なんか出来ません。
 よくペットに入れ込み擬人化して家族の一員として扱う人も居るけど、ペットは何処まで行ってもペットなの。どれだけ家族の一員だとうたったところで、そのペットに人権が与えられる事はないし、ましてやペットと結婚なんか出来るわけがない。
 ましてやこの娘は化け狐よ。
 人外管理法第五条の第一項に『人外の存在における現社会への流入は、如何なる理由においてもこれを禁ずる』と有るわ。
 良いですか皆さん。先程も言いましたが、化け狐なんて存在はこの現代人間社会に居てはいけないの。
 もし仮にその存在を認めたとして、人に化けた狐に人権を与えられますか? 戸籍はどうなるんです? 選挙権は? 人の姿で人の社会に出て暮らす以上、人間として生きていかねばならないのよ? もし彼らが犯罪を犯して、それでその後に狐の姿に戻ってしまったら、誰が彼らを捕まえ罰則を与える事が出来るんですか? 人間は人間の社会がある様に、彼らにも彼らの社会が有るんです。
 彼らが人の世に興味を持ってやって来ても、例えそれが恩返しであったとしても、それは決して許される事では無いのよ。
 特に真琴の様に人化の法を用いて人間になった妖狐は、皆記憶を失うのですよ。
 只でさえ人間には無い力を持った危険な存在が、そんな不安定な状態にあって良いと思う? この娘は無事目的地に辿り着いたけれど、途中でその目的を失い、人家に侵入して器物破損や窃盗、暴行傷害、最悪殺人を起こすケースだって有るんです。
 また、暴力団やマフィア等が彼らの能力に目を付け、そして内々で育てたりして犯罪に利用したりしたらどうなると思う?」
「詭弁だ! 俺はそんな化け物も、それを規制する法律の存在も知らなかった! お前が本当の事を言っているとは言い切れない!」
 美汐の言葉に溜まらず祐一が異を唱えるも、美汐はさも呆れた様に眉を寄せる。
「あなたって本当に馬鹿なのね。良いですか? もしもそんな存在が公になったとして、パニックは必至よ。
 人間は皆が疑心暗鬼になります。そんな状態になった時、誰が責任を取るのですか? 私達政府公認のハンターは、このような化け物が引き起こすであろう数々の問題を未然かつ秘密裏に、そして平和的に解決する為に活動しているの。あなた方の様な一介の市民が知っているはずが無いわよ」
「ならば、お前等の存在を世間に公表するまでだ!」
「お好きにどうぞ。どの様な手段を用いるかは知らないけど、どこもまともに応じる事は無いでしょうね。むしろあなた方が気狂いか、夢想者だと思われるのがオチよ」
「くっ……言わせておけば! そんな御託はどうだっていい! とにかく俺がはっきり言える事は、貴様の様な奴に真琴は渡せんという事だ!」
 口での勝負に負けを悟った祐一は、壁に立てかけてあった金属バットを素早く取って構えると、再び真琴を庇うように立ちはだかった。
「御主人様……お気をつけ下さい。ハンターは……彼女は恐ろしい女ですよ」
「あらあら。私は貴方達を救いに来たのよ? 貴方達家族の為にも、それに真琴の為にもと思って来たのに……それに税金で賄ってるんだから、私が処理すれば無償なのよ?」
「やかましい! 真琴はもう家族の一員だ。それを見ず知らずのお前に差し出す事なんか出来るか!」
「その娘だって、ついこの間までは見ず知らずの他人だったはずよ? 自分達が騙されている事にも気が付かない程、既に化け物に取り込まれてるのね。ご愁傷様……」
 そう言う美汐が余裕の表情でアタッシュケースのグリップ部分を指先で操作すると、グリップ部分だけを残してケースの外殻が外れ落ちる。
 中から姿を現したのは、やはり漆黒のゴツゴツとした物体。
 ただ一つ祐一が確信出来るのは、それが武器の類であるという事。
 彼女の存在がハンターだと言うのは、残念ながら本当の事だと認めざるを得ない。
 である以上は、真琴の様な人外の存在を狩る際に使用する武器だと考えるのが自然だ。
 祐一は甲子国にそっと頷くと、手にした金属バットのグリップを握り直す。
「本気? 仕方がないわね。一応これって公務執行妨害って事になるから、先に貴方を排除させてもらうわよ。真琴の処置はそれからゆっくりさせてもらうわ」
 二人はリビングのテーブルを挟んで対峙すると、円を描くようにじりじりと動きつつ互いの出方を伺う。
 相手の技量や技、そして手にしている得物の特性も判らぬ祐一は、その緊張に身体を震わせている。
 逆に美汐から見れば、素人の祐一の行動は概ね予想する事は可能だった。
 手にした得物はバットであり、それを用いた殴打による接近戦がメインになる事は間違いない。
 事実、祐一に喧嘩や武道の経験があれば、蹴りや組み付き攻撃なども考えられるだろうが、生憎彼には手にした武器を無視して別の攻撃を行える程のゆとりは全くなかった。
「……」
 緊張に満ちた表情が、祐一にゆとりが無いことを公然と伝えている。
 こうなると、唯一警戒するのはもう一つのバットの使い方――手にした金属バットを投擲して来る事――になるが、唯一の武器を自ら投げ飛ばす事のリスクを冒してまで実行に移すことは考えにくい。
 対峙した瞬間から、祐一は美汐に飲み込まれていた。
「ふふっ。素人さんが私に闘いを挑むなんて……愚かね」
 美汐の言葉に、祐一の頬を汗が滴り落ちる。
「……」
 祐一は応じず、美汐の背後で機を伺っている甲子国にアイコンタクトを送ると、事の成り行きに呆然としていた甲子国がそっと動き始める。
 彼の伸ばした手が棚の影に隠されていたメタルフェイスのドライバを探り当てると、甲子国の心の中で闘う家長としての力が漲ってゆく。
(よし……)
 甲子国はへたり込んだままの姿を擬態として、タイミングを図っていた。
 祐一と一瞬だけ視線が合うと、甲子国は小さく頷いてみせる。
 やがて意を決したように祐一が金属バットを竹刀の様に構えて美汐ににじり寄る。
 そんな祐一に美汐は口元を僅かにつり上げただけで、構える事もなく、変わらぬ姿勢で祐一の出方をうかがっている。
「はぁぁっ!」
 祐一がバットを振り上げ気合いを入れるように叫んだ瞬間、甲子国がドライバを振り上げ美汐の背後へ躍りかかった。
 美汐の注意は前面の祐一に注がれており、その祐一の行動を常に伺っていた事で後方に対する警戒は全くしていない。
 タイミング的には完全な奇襲であったはずだ。
 だが――
「ぎゃぁぁっ!」
 悲鳴を上げて倒れたのは甲子国の方だった。
「旦那様っ!」
「なにっ!?」
 真琴が悲鳴を上げ、祐一が驚愕の表情で見る先に、床へ倒れたまま痙攣している甲子国の姿があった。
 甲子国のドライバが美汐の肩目がけて振り下ろされた瞬間、彼女は半歩身体をずらしてやり過ごすと、手にしていたアイテムを甲子国の伸びきった腕に当てたがった。
 殴打ではない、単なる接触だ。
 だが甲子国の腕で何かが光る一瞬を祐一は見逃さなかった。
 スタンガン――防犯グッズとして、また民間人が所有出来る安易な攻撃用アイテムとして知られる高圧電流放射器、恐らくはその類であろう。
 だが彼女が持つ得物が、単なるスタンガンであるはずが無いのは、その形状や偽装具合からみて間違いない。
 祐一はあくまでスタンガンとしての機能も併せ持っているだけだと判断した。
「御主人様、だ、旦那様が!」
「やめろ真琴!」
 倒れた甲子国の元へ駆け寄ろうとした真琴を、祐一はその肩を掴んで制する。
「馬鹿ですね……あんなあからさまなやり取りをしては、貴方の行動が全て囮だって教えている様なものです」
 美汐は姿勢を変えずにあざ笑う。
「くっ」
 一瞬の目配せさえ、彼女にとってはオーバーアクションだったのだろうか? 祐一は歯ぎしりしつつバットのグリップを今一度握りしめる。
「今一度問います。大人しくその娘を差し出せば良し。抵抗すると言うのであれば……」
「五月蠅い! 真琴は渡さないと言ったはずだ!」
 祐一は美汐の言葉を遮って吠える。
 そんな彼の姿を見て、美汐はさも嬉しそうな表情を浮かべた。
「では、貴方も黄泉路を急ぎますか?」
 何とも縁起の悪い事を言いながら、美汐がアイテムの下部へ左手を潜り込ませると、銃器の様なグリップが引き出される。
 ケースの取っ手の部分だったところから、新たに出現したグリップ部へ手を移動させ持ち替えると、そのまま腕を正面へ向かって伸ばし構えてみせる。
 初めて見せた美汐が本格的に動きに祐一は戸惑った。
 彼女が持つ得物は明らかに遠近両距離に対応した攻撃用デバイスであり、その独特の形状やギミックから察して彼女の任務用にカスタマイズされた物だろう。
 彼女の任務とはつまり人外の物を捕獲する事。
 魔物ハンター――口に出せば実に胡散臭さが抜けない単語であるが、この様な得体の知れない武器を日本で持ち歩く以上は、彼女は彼女自身が言う通りの存在だと認めざるを得ない。
 対する祐一は特にスポーツや武道の経験があるわけでもない、ごく一般標準的な高校生男子に過ぎず、手にしている金属バットですら、つい数ヶ月前に購入したばかりの馴染み無い物だ。
 明らかに分が悪い。
 連携を取ろうにも、頼みの綱だった父親は既に倒れ、祐一は独力で真琴を守りつつ闘わなければならない――彼にとっては二重三重に不利な状況だった。
 ――ポンッ!
 祐一があれこれと思案に耽っていたところ、空気の抜けた様な音がした。
 その瞬間、美汐の構えた物から何かが尾を引きながら飛来した。
 音がしたと同時に、慌てて祐一はバットを構えたまま上体を横へ反らしていた。
 直撃は避けたものの、飛んできた物体がそのバットへと絡みつく。
 ワイヤーアンカー――圧搾空気の力で細いワイヤーの付いたアンカーを打ち出す装置だった。
 そして――
「!?」
 何かを感じて祐一は思わずバットを手放した。
 そのすぐ直後、金属バットが火花を放ちながら床に転がった。
「あら? 勘は良いのね」
 感心した様な口振りで美汐が笑みを浮かべる。
 甲子国を一瞬で倒したスタンガン――その電圧がワイヤーを伝って金属バットに放電されたのだ。
「な、何なんだよお前!?」
「だからハンターだって言ったでしょ? もっとも人間を狩る事は初めてだけどね……んふふっ」
 口元を妖しく歪めながら笑う美汐に、祐一は全身から冷や汗を流す。
 美汐がグリップの先に付いたボタンを操作すると、ワイヤーが高速で巻き戻されて行く。
 ワイヤーと共に手繰り寄せた金属バットを空中で見事にキャッチすると、構えていたハンターデバイスを下ろして、しばしば観察を始めた。
「あら? このバット新品同様〜。ふふっ、貴方って野球部員……というわけじゃ無いようね。一体何の為に持ち歩いてるんだか……ほら、返すわよ」
 暫くバットを調べて興味が失せたのか、美汐は巻き付いたワイヤーを手際よく外すと、バットを祐一へと投げてよこした。
「くっ……」
 完全に手玉に取られた祐一は、その悔しさに歯ぎしりをしつつバットを受け取ると、再び両手で構える。
「金属バットってね、落雷で死傷するケースも有るって知ってる?」
 美汐は相変わらず余裕たっぷりの口調だ。
 対する祐一は、美汐の軽口に付き合うゆとりすら無い。
「……ふぅ。にらめっこにも飽きたし……そろそろ仕事に取りかからせてもらうわ」
 そう言ってハンターデバイスを構え直すと、美汐はグリップの付け根にあるトリガーを絞った。
 乾いた短い音と共に、ワイヤーアンカーが射出される。
「冗談じゃねぇっ!」
 それは咄嗟の判断だった。
 ワイヤーが射出された瞬間、祐一は手にしていた金属バットを勢い良く投げ放った。
「はっ?!」
 金属バットはその質量によりワイヤーアンカーの先端を弾いてもなお直進し、驚きに目を見開いた美汐の顔面目がけて飛んで行った。
 美汐はハンターデバイスを手放すと、飛んできた金属バットを両手で受け止めた。
 だがバランスを崩した美汐を見て、その隙に祐一は猛然と突進する。
 祐一は何も考えていなかった。
 ただ本能が赴くまま「接近して一発でも良いから殴る」という、至極単純な接近戦を挑もうとしただけだった。
「えっ!」
 美汐が驚きの声を上げると同時に、彼女の背後で甲子国が上半身を起こした。
「祐一っ!」
 意識が戻った甲子国が、祐一の行動を瞬時に把握し、脇に落ちていたメタルフェイスのドライバを放り投げた。
「おう!」
 それは彼ら父子の間では不可能と思われていた見事な連携、そして完全な意思の疎通がもたらした奇跡だった。
 甲子国からの見事なパスにより、走りながらドライバを受け取った祐一はそのままの勢いで大きく振りかぶる。
 美汐もまた素早く金属バットを構え、迫る祐一目がけて振り下ろした。
「うおおおおっ!」
 二人の得物がそれぞれ弧を描き交錯する。
 鈍い音と共に片方の得物が回転しながら、リビングの窓を突き破って外へと飛んでいった。
「くっ……」
 祐一が呻き声を上げてその場で膝をつくと――
「あぁっ……」
 小さな声と共に、美汐の身体が崩れ落ちる様に床へ倒れた。
 祐一の振り下ろしたドライバは、その軽さの分、美汐の金属バットよりも先に彼女の首筋へと届いたのだ。
 次いで祐一の手からドライバが床に落ちると、彼は痺れる手と床に倒れている美汐とを呆然と見比べる。
 ――メタルフェースのドライバが持つ攻撃力は、金属バットにも優る。
 あの駅前のブティックの横にあるスポーツ用品店の親父が言っていたという言葉を、祐一は思いだしていた。
 動かぬ美汐を見つめる祐一の心の中にあるものは、人を傷つけた事に対する罪の意識でも、後悔の念でもなかった。
 彼の心の中で、何かがむくむくとその鎌首をもたげ始める。
 それはあの時一度は封印した自らの本心。
 見せかけだけの平穏な物語を自らの手で破壊し、自由を手に入れる事。
「上手くいったな祐一!」
 未だに身体の痺れが治まらないのだろう、甲子国が身体を再び床に横たえると、多少興奮した声を上げる。
「ああ」
 だが、応じる祐一の口調には、一切の感情が籠もっていない、実に淡々としたものだった。
「しかし、この女をどうする?」
「それは……父さんに任せるよ」
「何?」
 未だ動かぬ美汐を見ていた甲子国が、祐一の返答を聞いて振り返る。
 そんな甲子国を無視する様に、祐一は心配そうな表情で固まっていた真琴の傍らへと移動する。
「御主人様……」
「支度するんだ真琴。この家を出るぞ」
 祐一の顔を見つめ呟く真琴の肩を掴むと、力の籠もった声で言い放った。
「……御主人様?」
「祐一?」
 祐一の言葉の真意を掴みきれないのか、二人が唖然とした表情で祐一を見つめている。
「仕方がないんだ。判ってくれるよね父さん……」
 甲子国の方を向きつつも、決して目を合わさずに祐一がゆっくりと口を開く。
「無駄なんだよ。この女を倒した程度じゃ、何も解決にはならないんだよ……だから、判ってくれるよね父さん」
「な、何の話をしているんだ?」
「俺には判るんだよ。この女を倒したところで、どうせ次の追っ手が迫るだけだ。だからこの家に居るのは危険なんだ。それにハンターを倒してしまった以上はこの俺もお前と同罪、一蓮托生だ。真琴、俺と一緒にこの家を出て脱出するんだ!」
 ここに至り、やっと甲子国は祐一の真意を把握した。
「お、お、お前は……」
 甲子国は祐一の言葉に声を失い身体を震わせている。
「でも、旦那様が……」
 未だ身動きのとれない甲子国に駆け寄ろうとする真琴だが、その肩を祐一に捕まれる。
「仕方がないんだ真琴。三人では目立ちすぎるし、何より傷ついた父さんに逃亡生活は無理だ。一刻も早くこの場を出る必要がある以上、此処は涙を呑んで父さんとは別行動を取るしかない。判ってくれ真琴っ」
 祐一はオスカー俳優も驚く程の演技力で真琴に言い聞かせる。
 かつてない程の真剣な眼差しは、彼の言葉に説得力を持たせる事となり、やがて真琴は小さく頷いた。
「……判りました」
「真琴? おい、祐一っ!」
 甲子国がそんな二人のやり取りに顔を引きつらせる間に、真琴はリビングを足早に出ていった。
「キャッシュカードと預金通帳は二番目の引き出しだ。印鑑も忘れるなよ」
 そんな彼女の背中へ言葉を投げかけると、祐一は甲子国に背を向けたまま話し始めた。
「ねぇ父さん。素晴らしい天気だよ」
 白々しい程に爽やかさを装い、祐一は窓の外へと目を向ける。
「……祐一、貴様っ!」
 甲子国は怒りと悔しさと惨めさに身体を震わせ、息子の背中へ向かって叫んだ。
「若い二人の男女が駆け落ちするには、絶好の日和だよね。そう思うだろ?」
 窓の外に広がる紺碧の空を見つめながら祐一は続けた。
「貴様貴様貴様っ!」
 怨念を篭めて息子の背中を見ていた甲子国の目に、いつしか涙が浮かんでいた。
 まともに動かない手足を必至に動かし、その背中へ向かおうとしても、甲子国の身体が意思通りに動く事は無かった。
「俺はこの日を待っていたんだっ! 若い男女が繰り広げる情欲の世界。欲望と自由、暴力と混乱に満ちた波瀾万丈な生活をね」
 そこまで言って、やっと祐一は甲子国の方を向いた。
 その顔に浮かぶ歪んだ笑顔を見て、甲子国は涙を拭うことも出来ず、人生最大の絶望感に苛まれていた。
「ははははっ! 見せかけだけのホームドラマはもう終わりだ! これからはこの俺が主役の、俺の物語が始まるんだよ。父さん……アンタの出番は終わったのさ。出番を終えた脇役は消え去るのみさ」
 実の父親を完全に見下しながら祐一は言い切った。
「御主人様〜」
 玄関の方から真琴の呼ぶ声が聞こえてきた。
「おーっし今行くぞ真琴!」
 声のした方向へ向かって大声で応じると、祐一はテーブルの上にあった鍋の中から、よく煮えた鶏肉を指で摘み口に頬張り、リビングを出て行く。
 そしてその出入り口で立ち止まり、今一度甲子国の方を向いた。
「おっと、『さよなら』は言わないよ。だって最初からさよならの雰囲気に満ちていた家だったからな。わーっはっはっはっはっ」
 下品な笑い声を残して、祐一はリビングから走り去った。
 決して振り向くことも、残した父親へ言葉をかける事も無く――玄関の扉が大きな音を立てて閉まると、家から祐一と真琴の気配が無くなった。
「祐一ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!」
 残された甲子国の叫び声が、リビングに虚しくこだまする。
 伸ばした手はただ空を切る事しか出来なかった。





§




「行くぞ真琴!」
 そんな声と共に祐一と真琴を乗せたスクーターが家の玄関を飛び出して行く。
「……」
 相沢家の斜め前に路上駐車していた黄色い車――Be-1の中で、シートを倒して寝そべっていた男が、ルームミラー越しに走り去って行く祐一達の背中を見つめている。
 真夏の日差しが降り注ぐ中、祐一達が乗ったスクーターは逃げ水に揺れながら小さくなっていった。
 手にしていたカメラを助手席へ置くと、空いた手を懐へと伸ばす。
「さて……これで少年は暴行傷害……下手すりゃ致死で立派な殺人罪だが……」
 呟きながら取り出したシガレットに、安物のライターで火を付ける。
 窓を少し開けて煙を吐き出すと、その隙間から外気がエアコンの効いた室内に雪崩れ込んできた。
 片方の耳に付けているイヤホンからは、今でも甲子国の呪詛にも似た言葉が聞こえ続けている。
「やれやれ、手を出せない自分の立場ってのも時々呪わしく思うよなぁ。全く」
 煙草をくわえたままシートに身を投げると、大気を彷徨う煙草の煙を目で追った。
 男の視線の先に、嫌味なほど青い空が広がっていた。



 真琴を背後に乗せ、祐一はスクーターを走らせる。
 ノーヘルや二人乗りが禁止されている事くらい知っているが、暴行傷害を起こしたばかりの彼に、そんな些細な道徳観は消失している。
 夏の日の強い日差しが照りつける中、全身に自由な風を感じながら、未だ整備が終わっていないニュータウンを走らせる。
 祐一は、自らが望んだ波乱に満ちた物語への確かな感触に酔い、この先に待ち受ける物語に想いを馳せていた。
「真琴、しっかり捕まってろ。俺を放すなよ!」
 高ぶる感情に身を任せ、背後の真琴に聞こえるよう大きく声を上げると、祐一はアクセルを限界まで開く。
 定員200パーセント状態のスクーターは排気ガスと騒音をまき散らしながら猛然と進む。
「はい……御主人様」
 真琴は口元を隠すように、その顔を祐一の背中へと押しつけ、そっと答えたた。


 真琴が訪れて三ヶ月、新居へ越して僅か一ヶ月。

 母多美子の出奔、魔物ハンターの襲撃と撃退、そして祐一と真琴の逃亡――

 相沢家の物語は、新たな局面へと突き進んで行く。








<戻る 続く>

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