「何……これ?」
電車から降りて改札を抜け、待ち合わせ場所の駅前に降り立った時、七瀬は我が目を疑った。
駅前のいたる場所に、同じ図柄のポスターが大量に貼られており、そしてどのポスターにも『ミス学園コンテスト開催!』の文字が踊っているのだ。
「ったく、一体なんなのよこれ?」
自分がその学校の生徒であり、更に主催者とは少なからず関係を持っている事で、七瀬は気恥ずかしさを覚えていた。
時計を見ると時刻は十一時半にもなっていない。
瑞佳との待ち合わせまでには、まだ30分以上時間はある事になるが、その間寒さだけではなく、精神的な居心地の悪さにも耐える必要がある。
「制服じゃなくて良かったわよ……こんな状況で学校の生徒だって判ったら、どんな目で見られた事か……ん?」
七瀬が顔の前で、手袋越しに手のひら同士をさすりつつ呟いていると、小さな子供達がパタパタとじゃれ合いながら走ってくるのが見えた。
「こら、走ると危ないわよ?」
今現在こそ天候は晴れ渡っているが、地面は溶けた雪で滑りやすくなっている。
そんな足下の悪さを思って、子供達が目の前を通る際、本人としては出来る限り優しく注意を促してみた。
七瀬の声にその子供達は足を止めると、彼女の顔をじっと見つめ――
「あーっ! このお姉ちゃん本物だ!」
と、嬉しそうな声で突然叫んだ。
「はい?」
子供の言葉を理解しようとしている合間に、周囲の目が一斉に七瀬へと集まる。
「ほら、あの子よ」
「あら……確かに可愛いわね」
「でも奥さん、見た目は可愛くても中身はどうだか判ったもんじゃないわよ?」
七瀬を見ながら通り過ぎるおばさん達の会話が聞こえてきた。
「お姉ちゃん、握手握手!」
「あ、ボクも!」
「わたしも〜」
子供達は口々にそう言うと、我先にと七瀬の手を引っ張る様に掴んできた。
「ぐわっ! 何なのよ一体っ! 痛っ! ちょっと無理に引っ張らないで……あ、髪の毛引っ張るなぁーっ!」
暫くして満足したのか、まとわりついていた子供達は、来た時同様に声を上げながら走って姿を消した。
「ぐすっ……せっかく瑞佳とのお出かけだからって、綺麗にまとめて来たのに……」
目尻にうっすらと涙を浮かべた七瀬が、二つにまとめた髪の毛を必至に整えていると、歩いていた中年男性と目が合った。
そのオヤジは何を思ったのか、進行方向を改め七瀬の前に立つと、笑みを浮かべて口を開いた。
「姉ちゃん、あの学校の生徒だろ? 今度のコンテスト優勝できると良いな」
見ず知らずのオヤジは、酒気を帯びた息を吐きつつそう七瀬に声をかけた。
オヤジから漂うアルコール臭と、その言葉に戸惑い固まっている七瀬を余所に、その張本人のオヤジは彼女の肩を軽く叩き、「まぁ頑張りな」と声をかけるとふらふらと去って行った。
「え? 何?」
その後七瀬は、同じように何人かの見知らぬ人々に声を(一方的に)かけられる事となる。
当惑する七瀬は、まるで逃亡中の犯人の様な心境でコートの襟を立て、顔を隠すようにマフラーを巻き瑞佳を待つ事にした。
どの程度の時間が流れたのだろうか。
『ふぅ……』
思わず付いた溜め息が、他人のそれとぴったりと重なった。
驚いた七瀬がふと横を見ると、いつの間にかすぐ隣に小柄な少女が立っており、同じように七瀬を見つめている。
その少女は走って来たばかりなのか、小さな肩を上下させつつ胸に手を当てて呼吸を整えようとしている。
偶然同じタイミングで行った溜め息に、七瀬が思わず表情を綻ばせると、その少女も少しだけ表情を崩して会釈をしてきた。
「あの……大変失礼かとは存じますが……」
「はい?」
少女の妙に丁寧な言葉遣いに一瞬腰を引きそうになる七瀬。
「確か二年生の方でいらっしゃいますよね?」
その丁寧な物腰と落ち着いたしゃべり口調に、七瀬は自分よりも年上の者と判断し慌てて姿勢を正す。
「あ、はい。二年四組の七瀬留美です」
元が体育会系出身なためか、縦の関係を重んじる七瀬がはっきりとした口調で返答すると、今度は少女の方が困惑の表情を浮かべ、慌ててかしこまる。
「あ……そんなにかしこまらないで下さい。七瀬先輩」
「へ?」
七瀬が少女の言葉を理解するまで数秒を要しただろうか。
呆ける七瀬をそのままに少女は挨拶を続ける。
「申し遅れました。私の名は天野。一年一組の天野美汐と申します」
きょとんとしたままの七瀬を余所に、そう名乗った少女は深々と頭を下げた。
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■Beautiful 7days #3 |
晴れ渡った空の下、舞と佐祐理の二人は降り積もった雪を踏みしめつつ歩いていた。
佐祐理は昨夜遅くまで舞と作戦会議を行っていた為、結局そのまま彼女の部屋に泊まる結果になっていた。
そして遅めの朝食を食べ終わった二人は、昨夜話し合った作戦の下準備をすべく、こうして連れだって町中を歩いている。
「はえ〜……何だか凄いね?」
佐祐理は、感心の意味で溜め息をつくと、隣を歩く親友を見る。
「……」
目の前の、明らかに常軌を逸している状況にも、舞は動じることもなく、いつも通りの表情で歩を進めている。
二人が進む街の中、いたる場所――電柱はもとより、町内会の掲示板から民家の壁まで――には、今回のコンテストを告知するポスターが貼られており、すれ違う人々の会話の中にもコンテストの話題を聞く事が出来た。
そして二人とも制服姿である為か、興味深そうな視線で彼女達の姿を見る者も少なくない。
尚、昨夜学校帰りでそのままお泊まりした佐祐理はともかく、舞までもが制服姿なのは、親友にあわせての配慮か、お揃いの服を着て出かける事に、多少の喜びを感じているのかもしれない。
「あははー思ってたよりも盛大だね〜」
「………」
佐祐理の言葉に舞は軽く頷いただけだったが、その頷きには若干の驚きが含まれている事を、佐祐理はその微妙な間から読みとっていた。
「これは気合いを入れてやらないとね」
両手で軽くガッツポーズを作りながらそう言うと、舞もまた先程よりは深く頷いた。
彼女なりに気合いを入れた返事をしたのだろう。
二人はそのまま暫く雑談――主に佐祐理が喋り舞は相づちをうつ程度だが――をしつつ歩いていたが、やがてとあるポスターに気付いた佐祐理が、その場で立ち止まる。
「あれ? このポスター……」
佐祐理の目に止まったポスターは、確かに今回のコンテストに関わるものではあったが、周囲のコンテスト告知のそれらの中にあって、異彩を放っていた。
「……」
舞が佐祐理の目線を追うようにそのポスターを見つめ、そして魅入ったようにじっと眺めている。
「この人は祐一さんのクラスメートの里村さんですねー」
「……」
佐祐理が目の前のポスターを見ながら呟くと、ポスターを見つめたままの舞が微かに頷いた。
彼女達が見ているポスターは、まるで政治家の選挙ポスターの様に、茜のバストアップの写真に、自己主張も逞しい極太のゴシック体で『里村茜』とプリントされていた。
いつもと変わらぬ儚げな表情の茜の写真に加え『私に入れてくれなきゃ嫌です……』と、ご丁寧にキャッチコピーまで入っている。
「あははは……」
思わず乾いた笑い声をあげる佐祐理。
黙ったままポスターを見つめていた舞が、何か気配を感じたのか突然横を向く。
「……詩子」
舞が小さく呟くと、電信柱の影から人影が躍り出る。
「あちゃー、これは先輩方。どうもどうも」
詩子は手にしていた物を慌てて背後へと隠すと、ばつの悪そうな表情で二人に軽く会釈をする。
「どうも柚木さん。今日は良いお天気ですねー」
そんな態度を気にも止めずに、佐祐理は笑顔で言う。
「そ、そうですね。あ、あははは〜」
彼女にしては妙に歯切れの悪い笑い声を上げつつゆっくりと後ずさる。
「はぇ? どうしたんですか?」
「いえ別に何でもありませんよ。あっ、たった今詩子さんに神からの司令がびびっと着信〜! そんなわけですんで、大宇宙の意思に従い任務を遂行しなければなりません。そんなわけで……あたしは失礼しまーすっ」
明らかに適当な言葉でその場を取り繕うと、詩子は回れ右して駆け足で離れていった。
だが、途中で雪に足を滑らせて姿勢を崩し、小さな悲鳴を上げる。
「大丈夫ですかー?」
佐祐理が大きな声で問いかけるが、詩子は照れ笑いとも苦笑いとも取れる笑みを浮かべて、そのまま再び走り去っていった。
普段であれば、舞が嫌な顔してもまとわりつく程にフレンドリー(?)な詩子だが、そんないつもの彼女とは思えぬほど余所余所しい態度に、佐祐理は首を捻る。
「一体どうしたんだろうね?」
雪煙を立てつつ走り去っていく詩子の姿を見送ると、佐祐理は隣の舞へと向き直る。
「あれ? 舞それは何?」
舞は何処で見つけたのか、先程までは無なかった紙を手にしていた。
「詩子が落としていた」
舞の答えに佐祐理は、彼女の反対側からその紙を覗き込むと、それは先程見かけた茜のポスターだった。
「これ……さっきのポスターだね」
「……」
佐祐理の言葉に無言で頷く舞。
壁に貼られた茜のポスターと、それを所持していた彼女の親友である詩子の態度。
これら状況から導き出される答えは一つしかない。
揃って顔を見あうと、舞は手にした茜のポスターを丁寧に折り畳む。
「佐祐理」
呟く舞の表情が普段にも増して厳しくなり、佐祐理も少し表情を引き締める。
「何?」
佐祐理の言葉に、少し間を空けて舞は口を開いた。
「……負けられない」
舞はそう言うと、自分の言葉が恥ずかしいのか、顔を赤らめて俯いてしまう。
「はぇ〜……」
思いもよらぬ舞の言葉に黙ってしまった佐祐理だが、照れくさそうな彼女の仕草を見て直ぐにいつもの笑顔を見せる。
「よっし! それじゃ早く買い物済ませて準備しようね」
佐祐理の言葉に、舞は顔を赤らめつつも力強く頷いた。
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§ |
「あ、北川さ〜ん」
普段にも増して愛想のいい声をあげつつ栞が駆ける。
彼女が待ち合わせに指定した公園は雪に覆われており、その白い広場の中心にある噴水の側に居た北川が、栞の姿を見つけて返事をする。
「よぉ栞ちゃん、元気そうだね?」
「はい。北川さんの、その脳天気な顔を見たから、元気いっぱいです」
北川の前に立った栞が、胸に手を当てて呼吸を整える。
「そうかそうか。俺の顔は栞ちゃんの元気の素ってヤツ? でも身体の調子が悪くなったらすぐにオレに言うんだぞ。いずれは義妹になるんだか……ぐふぉっ!」
言葉が終わらない内に北川の身体が雪に沈む。
「何勝手な事言ってるのよっ! 寝言は寝て言いなさい」
栞の背後に居た香里が、北川の戯れ言に反応して素早く栞の前に飛び出すと、そのままの勢いで北川の喉元へラリアットを決めていた。
「お姉ちゃん何するんですか! 大丈夫ですか北川さん」
栞は北川へ駆け寄ると、雪に埋もれた彼の身体を抱き起こす。
「ああ、大丈夫だ。美坂の痛い愛情には慣れっこだからな。がはははははは」
脳天のアンテナを震わせながら笑う北川の姿を見て、香里が再び拳を握って一歩前へ進む。
「お姉ちゃん!」
栞が両手を広げてすかさず間に割って入ると、怒りに震える香里の耳元にそっと口を寄せて呟いた。
「今は耐えるんです。臥薪嘗胆です!」
「……判ったわよ」
栞の言葉に、唇を噛み締めながら香里は思いとどまった。
「んで、俺に用って何だい?」
北川がわざとらしいほどに清々しい笑顔で尋ねる。
なぜか彼の顔がキラキラと輝いているが、先程雪に埋もれた時に髪の毛や顔面に付着した雪が、単に陽光に反射しているだけだった。
「えーとですね。実はお姉ちゃんが北川さんにお願いがあるらしいんです」
「何? 本当か美坂!」
「え?」
栞の言葉に驚く二人。
「ええ、実はお姉ちゃんは……」
「美坂ぁっ! そんな他人行儀な事しなくたって、オレは何時だってお前の頼みなら聞いてみせるぞ! 何だ? 何が望みだ? 世界か? 力か? 金は……今すぐには無理だが、どうしてもと言うならその辺の金融機関を襲ってでも手に入れてみせるぞ」
栞の言葉が終わらぬ内に、北川は振り向き、香里の両肩を正面からがっちりと掴む。
「ちょ、ちょっと。あたしはお願いなんか……」
「ほら。お姉ちゃんの頼みなら何でも聞いてくれるって言うんだから、素直に言っちゃいましょう」
狼狽する香里の耳元に、栞が手を当てて伝える。
「あ、あのね北川君」
引きつった笑みを浮かべつつ、香里が口を開く。
「おう!」
「今度のコンテストの事なんだけど……」
香里としては全くの不本意であるが、愛すべき妹に押し流される形で用意された台詞を口にする。
「ふむふむ」
「えーと、その……ははは。何を言えば良いのかしら」
舞台の上で台詞を間違えた事がない香里だが、彼女自身としてその台詞が全くの不本意である為か、いざ用件を伝えようとすると口ごもってしまう。
その様子は照れている様にも見え、北川はそんな普段見られない香里の姿に鼻息を荒くさせる。
「もう! えーとですね北川さん。お姉ちゃんは次のコンテストで優勝したいんです」
「ちょ、ちょっと栞っ!?」
「でもお姉ちゃんは恥ずかしい上に心細いらしく、妹の私にも一緒にコンテストの本選に出場して欲しいんだそうです」
「何〜だ、その事か」
栞の言葉を聞いて、北川は香里の肩から手を離して、妙に芝居がかった仕草で髪を掻き上げ二人を見つめる。
「へ?」
「心配するな美坂。このオレに任せてくれれば、美坂を学園ナンバーワンにしてみせるぜ!」
親指で自分を指し、そしてそのまま親指を立てたままの拳を香里の前に突き出す。
「そ、そうなの?」
「さっすが北川さんです。頼りになります」
北川の自信たっぷりな態度に、栞がずいっと一歩前に出て興奮気味に声を上げる。
「はっはっはっは。任せろ任せろ!」
「お任せします! 北川さんの力で私達美坂姉妹の本選出場を確実なものにして下さいね」
「おぅ! オレの力で美坂の本選出場はおろか、優勝だってさせてみせるぜ」
「その根拠のない自信が素敵です! こうしてよく見ると、人によっては北川さんって結構微妙に格好良い風味に映りますよね」
「あっはっはっはっ。栞ちゃん誉めるな誉めるな」
「良かったですねお姉ちゃん。これで私達美坂姉妹の野望も一気に現実味を帯びて来ました」
「そ、そうね」
手と手を――半ば一方的に――取り合い喜ぶ香里と栞を見つめ、北川はしきりに頷いていた。
「よっし、それじゃここで結成式だっ。美坂の優勝を目指して共に力を合わせるっ!」
「はいっ!」
北川が腕を伸ばす。
差し出された手に、栞が自分の手を重ね、未だ事の成り行きを実感出来ないでいる姉の手を強引に乗せる。
「美坂が一番だっ!」
「美坂姉妹こそ一番ですっ!」
「えいえい」
『おーっ!』
「声が小さいぞ。栞ちゃん! もう一回だっ!」
「判りましたっ!」
『えいえいおーっ!』
香里には目の前で行われている二人の勝ちどきが、遠くの出来事の様に聞こえていた。
(あたしは一体何をしているのかしら……)
「わはははははっ! 美坂よ、まぁ大船に乗った気で居ろよ」
そんな北川の言葉も、香里の耳には届いて居なかった。
「あはははははは」
「がはははははは」
いつまでも続く妹と級友の笑い声、そしてカラスの鳴き声だけが、ただぼんやりと耳に聞こえていた。
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§ |
「はぁ〜」
「ふぅ」
「……何だか疲れたね」
駅前にあるファーストフードのチェーン店の中で、七瀬と美汐、そして瑞佳の三人が溜め息を付く。
七瀬は上半身をテーブルに投げ出すような姿勢で深く溜め息を付いているが、美汐の方は姿勢を崩さず、口元に手を当てて溜め息を付いている。
瑞佳は苦笑しつつも笑顔のまま、他の二人を労っている。
彼女達がこうして疲れ切って顔を向かい合わせて居る原因は、彼女達を取り巻く環境が僅か一日で激変した事にある。
駅前で待っていた七瀬の元に瑞佳が到着したのは、約束の時間より五分前の十一時五五分だった。
瑞佳がやってきたことで、当初の予定通り二人はショッピングへと出かける事になった。
七瀬にとって予定外だったのは、瑞佳がその場に居合わせていた美汐も誘った事だろう。
二人とは初対面の美汐は断るつもりだったが、周囲の状況がそれをよしとせず、瑞佳の申し出を受け入れた。
周囲の状況――コートの襟やマフラーを戻して素顔を晒していた七瀬達に気が付いたのか、三人の周囲にいつの間にか人垣が出来ており、値踏みするように見つめる者や、妙にエキサイティングな少年達、そして好き勝手な所感を言い合う中年女性達等々、野次馬に囲まれていたのだ。
「え? え?」
状況を理解出来ずに首を捻る瑞佳の手を掴むと、七瀬はその場から全速力で逃げ出した。
尚、もう片方の手は、しっかり美汐の手を掴んでいる。
毎朝折原の付き合いでマラソン状態の瑞佳は、七瀬の走りに辛うじて付いて行く事が出来たが、美汐の方はそうもいかなかった。
必至に七瀬を制止しようと声をかけるが、走りながらでは大きな声を出せないのか、その言葉は七瀬の耳には届かなかった。
美汐が音を上げている事に気が付いた瑞佳が声をかけて、やっと七瀬の爆走は止まった。
「ご、ごめんね。二人とも大丈夫? あ〜美汐っ!」
立ち止まった七瀬が見たものは、目を回して今にも倒れそうにフラフラしている美汐の姿だった。
その後三人は、駅前周辺にある色々なお店のショーウィンドウを眺めて歩いていたのだが、そこかしこに貼られているコンテスト開催のポスターと、道行く人々の値踏みするような視線に耐え切れなくなり、近くのファーストフード店へ逃げ込んだというわけだ。
「服を買いに来ただけで、まさか此処まで疲れるとは思わなかったわね」
「……全くです」
「それにしても、七瀬さんと天野さんってすごいんだね」
二人は瑞佳の言葉に深く溜め息を付く。
「これじゃ見せ物よ。はぁ〜」
七瀬は溜息をつくと、片肘を机についたまま、ストローを口へ運ぶ。
「それにね瑞佳。あたしと美汐じゃなくて、あなたもでしょ?」
「え、わたし? まさか〜。わたしだよ? 七瀬さん達みたいな人気なんて無いよ」
慌てて七瀬の言葉を、手を振って否定する瑞佳。
「自覚が無い……という事が、殿方を惹き付けるのでしょうか?」
そんな瑞佳を見て美汐は小さく呟きつつ、行儀良く手を添えてポテトを口へ運んでいる。
「それにしても、何であたし達があの学校の生徒だって判るのかしら? 制服着てるわけでもないのに」
ジュースの入ったカップを置くと、向かいの二人に思っていた疑問を投げかけてみた。
「そうですね……例のコンテストが街中を巻き込んだ大イベントに発展していたという事実は一応理解できましたが、私達が生徒である事を知らない限り、初対面の方々から騒がれたり、値踏みする様な目で見られる訳無いです」
「えーとそれは七瀬さん達がそれだけ人気が有って、以前から街の有名人だったって事じゃないかな?」
美汐の言葉に瑞佳は嬉しそうに自分の意見を述べる。
「んなわけあるかっ! 」
「そうかな?」
「そうよ。それにしても……あたしはあのアホ共の力を見くびっていたようね。まさかこれ程の事態にまで発展するとは思いもしなかったわ」
「でもでも、これだけ大きなコンテストなら、優勝すれば街中の人気者だよ?」
そう答える瑞佳の表情はいつもの笑顔のままだが、それは七瀬を複雑な心境にさせるものだった。
瑞佳は本気で、自分がコンテストの対象になっているとは思っておらず、この街中を巻き込みつつある馬鹿騒ぎすら、自分には無関係だと思っている。そして目の前に居る七瀬が、優勝を狙える存在だと信じているのだ。
無論、七瀬からしてみれば、そんな瑞佳の気持ちは十分過ぎるほど嬉しいのだが、過大評価である事も自覚している。
自分が”理想の乙女”とする瑞佳に敵うはずがない。
だが、そんな彼女に、自分の方が優れていると思われている。
「はぁ……」
ポテトを乱雑に口に運びながら七瀬は溜め息を付く。
そのまま向かいに座った美汐を見て、余計に七瀬の気分は鬱気味となる。
七瀬の目線の先で、美汐は丁寧な動作でポテトを口に運んでいた。
ただポテトを食べるという動作にも関わらず、彼女のそれは一言で言うならば”優雅”だった。
おまけに美汐が注文した食べ物はポテトだけで、ハンバーガーとのセットにサイドオーダーを加えた七瀬としては気恥ずかしさも感じている。
「どうか致しましたか?」
七瀬の視線に気が付いた美汐が、首を僅かに傾げて尋ねる。
「え? いや、何でもないわよ」
そう答えて七瀬はポテトの食べるのを止めた。
こんな粗暴な自分が、瑞佳や美汐をさしおいて優勝など出来るはずがない――七瀬にはそう思えて仕方がなかった。
「あーっもう苛つくわね。折原め、今度有ったらコロスわ! もうテッテ的に」
自分のささくれだった気持ちを誤魔化す為に、七瀬はそのはけ口として折原を選んだ。
「あの、折原さんという方は……校内で有名な、あの折原先輩の事でしょうか?」
「そうよ」
ぶっきらぼうに答える七瀬に、瑞佳は苦笑を浮かべている。
「七瀬さん、天野さんごめんね」
「な、何で瑞佳が誤るのよ」
「だって、また浩平が起こした騒動でみんなが迷惑してるみたいだから……ごめんね」
「ちょ、ちょっと、瑞佳の所為じゃないでしょ。まったくあんたって本当に……」
七瀬は言葉を途中で打ち切った。
続きを言ってしまえば折原と瑞佳の関係を認めてしまうと思った。だから七瀬は言葉を飲み込んだ。
「……?」
そんな七瀬の表情に美汐は疑問を感じたが、無礼に当たると考え何も追求する事はしなかった。
「さて……そんな事より、これからどうする?」
気持ちと表情を切り替え、七瀬はいつもの調子で二人に尋ねた。
「うーん、街中がこんな有様だと、今日はあんまり出歩かない方がいいかな……あ、でも七瀬さんにわざわざ来て貰ったのに、ここでお開きっていうのは何だか悪いよね」
「別に良いわよ。気にしないで。美汐は?」
「そうですね……私ももう少し歩きたかったのですが、この状況では大人しく家に帰った方が良いかもしれませんね」
丁寧に答える美汐だが、その表情には少しだけ残念そうな雰囲気が伺える。
正直、美汐は人付き合いが得意な人間ではない。
それは自他共に認めている事で、彼女がこうして初対面の者と一緒に食事をとりつつおしゃべりに興じている現状は、美汐自身にとっても不思議なものに思えていた。
もしも彼女の級友や知人が、今この場を見ればさぞ驚いたであろう。
「あ、それじゃ。わたしの部屋に来る?」
そんな美汐や七瀬の心境を知ってか、瑞佳が手をポンと叩いて提案する。
「え? 瑞佳の……部屋? い、いいの?」
瑞佳の言葉に深い意味など無いのは判っているのだが、七瀬は部屋という単語に思わず反応してどもってしまう。
「うん。せっかく七瀬さんが来てくれたんだし、それに天野さんともお友達になれたんだもん。あ、でも寮だから狭くて大きな声で騒ぐ事は出来ないよ」
「そ、それじゃ、せっかくだし……あたしはお邪魔させてもらおうかなぁ〜」
緩みそうな頬を必至に抑えながら七瀬が答える。
「長森先輩は寮住まいだったのですか?」
「うん。今年の春からだよ。それで天野さんはどうする?」
瑞佳の申し出に美汐は、眼前に座っている二人の先輩の姿をそっと見つめて考える。
善意の塊の様な瑞佳と、裏表の無い真っ直ぐな態度の七瀬。
自身が驚くほど容易に打ち解け合う事が出来たのは、眼前の二人の性格によるものなのだろうと美汐は思う。
暫く考えを巡らせた後、美汐はゆっくりと口を開いた。
「そうですね……誠に残念ですが、私はこの場で失礼させて頂きます」
舞程でないにしろ表情の変化に乏しい美汐が、本気で残念な表情を見せて断った。
本心を言えば「是非ご一緒させて頂きます」と言いたい所なのだが、流石に初対面の先輩の自室を訪れる事に遠慮を感じていた。
「美汐は来ないんだ。残念ね。となると……」
七瀬はそう言うと途端に顔を赤らめて俯き「瑞佳と二人? 瑞佳の部屋で……二人きり……」と小さな呟きを反芻している。
「そうなんだ、残念だよ。えっと、それじゃ天野さんは、また今度遊びに来てね」
「有り難うございます。あ、でも私の事は天野と呼び捨てて下さい。先輩から敬称を付けて呼ばれると心が痛みます」
瑞佳の目を真っ直ぐに見つめながら答える美汐。
「う、うん。判ったよ。それじゃ美汐ちゃんって呼ばせてもらうね」
「……はい。それで結構です」
美汐は”ちゃん”という愛称に一瞬戸惑ったのか、少しだけ間を空けて美汐は頷いてみせた。
「……」
瑞佳と美汐の会話で正気に戻った七瀬は『それじゃあたしの事も留美って呼んで』と、言いたくなったが、それを実行に移すことはしなかった。
「それじゃ出ようか?」
七瀬は紛らわす様にそう言うと、自分のトレイを持って勢いよく立ち上がった。
残りの二人も続いて立ち上がる。
ファーストフード店を出て暫く三人で歩いていると、再び道行く人々から興味深そうな視線を送られる。
何処を見てもコンテスト告知のポスターが目に付き、嫌でも現状が予想以上のお祭りに進展している事を認識させる。
「はぁ……そういえばさ、瑞佳は何か聞いてないの?」
「え?」
「ほら、折原から今回のコンテストに関してよ。どうせ住井とあいつが中心なんでしょ?」
「実はわたしも何も知らないんだ。何となく浩平が馬鹿な事をしようとしてるとは思ったけど、何も教えてくれなかったんだよ」
三人は積もった雪に注意を払いながら、ゆっくりと歩く。
「ふーん」
「それにしても、折原先輩や住井先輩の行動力は……その、凄いんですね」
間が幾らか空いたところを思うと、頭の中で言葉を選んでいたのだろう。
「私、入学式の時から驚かされっぱなしです」
「え? あいつら新入生の入学式にも何かやらかしてたの?」
「そっか、七瀬さんは転入生だから知らなかったね。浩平と住井君が、その……久瀬先輩がやる予定だった新入生歓迎の祝辞を乗っ取って、歓迎漫才をやったんだよ」
「は?」
「その……久瀬先輩をトイレに閉じこめて」
瑞佳がまるで自分の事の様に恥ずかしそうに顔を赤らめて、当時の状況を説明する。
「あのアホ共はそんな事してたの?」
七瀬は呆れた声を上げる。
「在校生代表として生徒会長の名前が呼ばれまして……でも壇上に姿を現したのは、マントと言いますかフードを被った二メートル以上もある変な方で……それはそのお二方が肩車をしていただけだったのですが、私達新入生はただ唖然といたしました」
美汐は当時の様子を思い出してそう呟いた。
「ふふっ、浩平と住井君ね、あまり受けなかった……って悔しがってたんだよ」
「本当にアホなのね。あの二人……まったく、今回のお祭り騒ぎも先が思いやられるわね」
楽しそうに語る瑞佳に反して、七瀬は心底迷惑そうに吐き捨てる。
「でもでも、優勝できたら賞金とか商品とか凄いんだよね」
「よくまぁ集めたわよね。あいつらが政治家にでもなったら、そら恐ろしいわね」
「賞金……出るんですか?」
瑞佳と七瀬の会話に、美汐が控えめに反応した。
「あれ? 美汐ちゃん知らなかった?」
「はい」
美汐は瑞佳の言葉に小さく頷く。
「あれほど大騒ぎしてたのに気が付かなかったんだ?」
「ええ、興味が無かったものですから……あ、それじゃ私はこの辺で失礼させて頂きます。今日は本当に有り難うございました」
辿り着いた交差点で美汐は深々と頭を下げて丁寧に礼を述べると、二人とは別の方向へと歩いて行った。
途中、一度振り返り、もう一度頭を下げると小さな路地へ入ったのか、姿を消した。
美汐の姿を最後まで見送ると、残った二人は並んで歩き始めた。
「美汐って何だか凄い上品よね」
「うん。何だか、日本的なお嬢様……って感じだね」
「そういえば瑞佳」
「ん? 何かな?」
「折原の奴の急用って何か聞いてる? 自分の彼女との約束をキャンセルしてまで出かける用事っていうんだから、さぞ大層な用事よね?」
「うーん……実はよく知らないんだけど。多分、今回のコンテストの準備じゃないかな。さっきも言ったけど、わたしも内容とか全然知らされてないんだよ。だから用件を何も言わないって事は、住井君達と秘密の準備をしていると思うんだ」
笑顔の中に含まれていた寂しそうな表情を見つけて、七瀬の心が少し痛む。
「よっし! それじゃ折原のアホの分まで、あたしと一緒に楽しもう!」
余計に元気を込めて言い放つと、横を歩いていた瑞佳の手を掴み七瀬は走り始めた。
「わっ、七瀬さん、危ないよ〜」
コンテスト告知のポスターが列ぶ道を、二人の少女が走り抜けていった。
その後七瀬は雪に足を滑らせ盛大に転ぶ事となった。
更に付け加えるならば、七瀬が瑞佳を引っ張って闇雲に走った所為で、瑞佳の部屋とは違う方向に進み、到着時刻が大幅に遅れる結果となった。
|
§ |
「いよぅ、よく来たな折原」
部屋に入ってきた折原の姿を認めると、住井はモニタから目を離して彼を迎え入れた。
「ああ……で、何用だ?」
折原はそう答えると、遠慮する事なく部屋の中程にずかずかと進み適当な所に腰を降ろす。
「実は、相談があってな……よいしょっと」
再びモニタを見つめ、キーボードやマウスを操作しながら住井が話し始める。
「今回のコンテストなんだが、予想以上に周囲が盛り上がり始めてな、初期の予定を大幅に変更しなければならなくなった。ところで街の様子は見たか?」
「ああ、随分と派手に宣伝やってるな。ありゃお前の仕業か?」
感心した様に折原が尋ねる。
「まさか。あんな大量のポスターを僅か一日で張り付けるのは、ピンクチラシ貼りのプロでも不可能だって。色んな所を突っついただけだよ」
「全く恐れ入るな。おかげで今や街中、今回のコンテストの話題で持ちきりだぞ」
「そうか? さて本題なんだが、実はな……」
そう言って住井はプリントアウトしたと思われる紙を、折原へ手渡す。
「ん? おい、こりゃ本当か?」
渡された紙面に書かれた文字を読んで、折原が驚きの声を上げる。
「うむ本当だ」
住井は驚く折原の姿を見て満足そうに頷く。
「まさか、ここまで話が大きくなっているとは……こりゃ確かに生半可な企画でお茶を濁す事は出来なくなったな」
何度も紙面を読み直している折原はやや興奮気味だ。
「まぁ、これで来週の本選当日は授業を潰して、一日中祭りに出来るわけだ。体育のマラソンも、これでやらずに済むわけだな」
「お前……まさかそれだけの為にこの企画でっち上げたんじゃないだろうな?」
「その辺はお前の推測に任せるよ。さて、事態の急変に伴って、本選の内容も見直す必要がある。幸い資金はどうにでもなりそうなんで、こうなったら徹底的にやってやろうかと思う」
「ほぅ」
「そこで、委員会招集の前にお前にだけは話しておこうと思ってな」
そこまで話すと、住井はモニタから目を離して、折原に向き直る。
「さっきの話もそうだが……」
そう言って折原が持ったままの紙を見つめる。
「正直に言えば俺自身、ここまで大きなイベントに発展するとは思っても居なかった。だが今更引き返す事は無理だ。ならばどう転んでも、俺達が得をするようにはしておきたい」
「なるほど」
折原は住井の言葉に素直に頷く。
「そこで、今俺達が出来る手っ取り早い稼ぎ方は何だと思う?」
「そりゃチケットの販売と、キャラクタビジネスだろ? グッズ販売なんか良いんじゃないか? テレカとか、ポスターとかを作っておけば、後でプレミアが付くかもしれないな」
「俺もそう考えた。チケットはともかく、グッズに関しては誰が本選に残るか? という事が問題になるわけだ。本選は金曜日で、出場者が決定してからその間まで僅か二日間だ。決まってから製造では遅い。つまり……」
「今から本選出場が見込まれる女生徒のキャラクタグッズは抑えておくべきでは? という事だな」
「話が早い。そこで現在における下馬評を調べておいたわけだが、幾つかの支援団体で目立った動きが出始めている」
「驚いた事に一番動きが早かったのは、里村さんの支援団体だ。まぁ柚木さんが絡んでるんだろうが、既に広報活動を始めてるぞ。しかも委員までも取り込んでる」
「委員会の? 誰だ?」
住井の言葉に、折原が身を乗り出す。
「沢口だ……」
「なるほど。何か弱みでも握られたかな? まぁ沢口じゃあんまり役には立ちそうにもないが」
茜の願い――限りなく脅迫に近いが――を受けた南は、現時点で既に彼女の為に働く事を余儀なくされていた。
「それから七瀬さんの後援組織も動いてるぞ」
「七瀬にまだそんな組織が残ってたのか? てっきり本性がバレてもう絶滅したかと思ってたぞ」
「ふぅ。お前はこういう所の認識が甘いんだよ。中崎と南森が中心になってる。奴等独自の資金を持ってるからな、結構侮れないぞ」
「むぅ。七瀬がねぇ〜」
「あ、それから美坂さんが北川に接触したぞ。ついさっきだ」
「お前……何でそんな事まで知ってるんだ? まさか発信器でも付けてるのか?」
「さっき本人から電話が有ったんだ。『美坂が優勝出来るよう便宜を図れ』ってな。ちなみに見返りは”うまい棒”らしい」
「相変わらずの直球馬鹿だな。アイツ」
「ああ」
二人は部屋の中に寒い風が吹き通った様な気がした。
「とまぁ、現状で支援組織が動いているのはこの三つに、後もう一つを加えた四勢力で、彼女達が本選に残る確立は高い。そして水瀬さんに、三年の倉田先輩、そして人気赤丸急上昇中の川澄先輩に、演劇部の深山先輩と川名先輩、一年ではやはり栞ちゃんと、澪ちゃん辺りが妥当だろう。あ、郁未先生もポイント高いな」
「ふむふむ」
折原は住井の言葉に目を閉じて頷いている。
「そして……長森さんだな」
「ぶっ! み、瑞佳? まっさかー。あいつを好きになる物好きなんか、俺ぐらいじゃないのか?」
住井が最後に挙げた名前を聞いて、折原は思わず吹き出した。
「お前なぁ〜いい加減現実を直視しろよ? 五月にやったクラス内コンテストの結果を忘れたとは言わせんぞ?」
「だってありゃクラスの中での話であって、全校生徒を対象にすれば瑞佳が選ばれるわけないだろ?」
「はぁ〜、ったく……まぁ良い。お前がどう思おうと、蓋を開けてみれば判る事だ」
住井は折原を見ながら心底呆れた表情で深く溜息を付くと、気持ちを切り替えて言葉を続けた。
「……それからもう一人気になる女生徒が居る。天野美汐っていう一年生だが、知ってるか?」
「天野美汐?」
「ああ、近年希に見る逸材らしいぞ。物腰の丁寧さから、良家のお嬢様ではないかと囁かれている。情報が少ないんで詳細は不明だが、一年生内部に彼女の支援団体が有るらしく、活動を開始しているらしい」
「聞いた事が無いな。ふむ……ダークホースという訳か」
「とまぁ、この辺りをターゲットにして、グッズの手配をしておこうと思う。お前は彼女達が残る事も考慮して、本選の内容を煮詰めておいてくれ。さっきも話したが、有る程度費用がかかるものでも構わないぞ」
「了解した」
そう言って折原は立ち上がると踵を返し、部屋の扉まで進んだところで立ち止まって振り返った。
「なぁ住井よ」
「何だ?」
「確認しておくが、俺に任せて良いんだな?」
折原の言葉に、住井はしばし間を空けてから口を開く。
「ああ。観客が喜びそうなヤツを頼むぞ」
「判った。任せろ」
折原は口元に笑みを浮かべて短く答えると、身を翻して部屋を出ていった。
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§ |
「祐一さんに電話ですよ」
控えめなノックの後に続いて、ドアの向こう側から秋子の声が聞こえてきた。
「俺に……ですか?」
「はい」
秋子の返事に、祐一は読んでいた文庫本を枕元に置くと、首を傾げながら立ち上がった。
「判りました、直ぐに行きます」
そう答えながらも祐一には、自分に対する用件で水瀬家の電話へかけてくる者が思い当たらない。
なぜなら祐一と親しい者は、皆既に彼の携帯電話番号を知っており、ここ数ヶ月の間は水瀬家の電話へかける者は居なかったからだ。
仮にセールスや押し売りの類であれば、秋子が取った時点で断っているはずであるから、少なくとも今回の電話は祐一の関係者からのものである事は間違いないと思われる。
「祐一さんどうぞ」
ドアを開けると、笑顔と共に秋子が祐一へ電話の子機を持った手を差し出してきた。
「済みません。わざわざ」
祐一が礼を述べて子機を受け取ると、秋子は笑顔のまま「いいえ」と述べて一階へと戻っていった。
「ふぅ……さて、誰だろ?」
ドアを閉めてベッドに腰掛けると、祐一はボタンを押して保留を解除した。
「もしもし……」
『突然の電話で申し訳ないな』
受話器を通して聞こえてきた男の声に、祐一は眉を寄せて露骨に嫌な表情を浮かべる。
「誰だ?」
『僕だ』
「朴? 悪いが俺の知り合いに中国人は居ない。イタズラ電話なら切るぞ」
『切るなーっ! 用件があるんだ!』
子機を耳から離しボタンを押そうとした所で、受話器から大きな声が聞こえてきた。
祐一は溜息を付いて、再び子機を耳にあてる。
「久瀬……お前が俺に一体何の用だ?」
『ふむ、実は折り入って話したいことがある』
「なるほど。だが残念ながら、俺からは何もない。以上!」
早口で伝えると、躊躇わずにボタンを押して回線を切断する。
「さて……」
何事もなかったかのように受話器を放りベッドへ寝転がると、読みかけの文庫本を取ってページを開く。
”プルルルル……”
間を置かずに子機から呼び出し音が鳴り響く。
「ったく……」
祐一はそのまま無視しようと思ったが、そのまま放置していれば秋子が親機で取ってしまい、結局の所自分へ回ってくるのは明らかである。
下らないことで彼女の手を煩わせるのに躊躇いを感じた祐一は、諦めたように息をつくとボタンを押した。
「はい、こちら水瀬」
『人が話している途中に切る奴がいるか! 全く君は礼儀というモノを知らないのか?』
耳をつんざくような怒号に、祐一は子機を耳から放す。
「どうやら電波の状態が悪いみたいだ。俺の所為じゃない」
『通常電話回線に電波状態の善し悪しなど無い! 君は僕を馬鹿にしているのか? この僕が忙しい合間を縫って、わざわざ名簿を調べてまで君に電話をかけたんだぞ。黙って僕の話を聞きたまえ』
「お前に対する礼儀は持ち合わせていないんでな。俺も時間が惜しい。どうせ俺とお前とじゃ何を言い合っても平行線だ。さっさとその用件とやらを話してくれ」
一刻も早くこの不快な電話を終わらせたい祐一は、一気に早口で捲し立てる。
『ふっ……それもそうだ。話というのは他でもない。例のコンテストの件だ』
「今更中止なんてしようものなら男子生徒の暴動に発展するぞ。まぁ俺としては、暴徒と化した生徒達によってお前が亡き者にでもなれば万々歳だが」
『君の戯れ言は聞かなかった事にしてやろう。寛大な僕に感謝したまえ。それから一つ断っておくが、僕に今回のコンテストを中止する気は毛頭無い』
「何?」
『ふっふっふっふっ……』
「おい……お前何か変なモノでも食ったか? 自己正義の塊で風紀厳守主義者のお前が、こんならんちき騒ぎに興味を覚えるとはどうした?」
『校則でミスコンを禁止してある訳でもないし、何より今回の件は既に校長も認知している。今更この僕が何を言っても仕方があるまい。それに何より今回のコンテストは、倉田さんの美しさを世に知らしめる絶好の機会だと思ったまでだ。君もそう思うだろ? 倉田さんこそ、この世が産んだ奇跡の存在にして美の具現。あの人を惹き付ける笑顔と美しい声。均等の取れたプロポーション。そして学年トップを誇る明瞭な頭脳に、申し分ない家柄。正にこの街の女神と言えるだろう。なぁ君もそう思うだろ? 思うと言えコノヤロウ!』
「おい久瀬……」
『ハァハァ……そうとも、今回のコンテストはスタート地点に過ぎないのだ。倉田さんの偉大さは、これを機に全国へ伝え、いや、最終的には万国津々浦々まで知らしめる必要があるっ! 彼女こそこの世に舞い降りたヴィーナスっ! 彼女の美しさが、やがてこの世から争い事を一掃するのだ』
「おーい」
『だが、今の彼女はまだこの北の大地を暖かく照らす輝かしい光、そして優しく吹く爽やかな風に過ぎない。なぁ相沢、君は気付いているか? 倉田さんのフレンドリーな物腰の中にも漂う気品に。そして時折見せるお茶目な表情。そんな表情見ちゃったら、思わずこう言っちゃうよ『くぅーっ!』……ってなモンだ。それに君は学年が違うから知らないだろうが、体育の授業中等に見せる無防備な姿勢なんてもう! ああ僕はっ! 僕はぁぁぁっ! そんな訳で僕は彼女の美しさを詩で現してみたんだ。是非聞いて欲しい。 ああ、彼女は我が心の世界の中心にあって、』
祐一は何も言わずに子機のスイッチを切った。
再びベッドに横になり、文庫本を手に取ったところで呼び出し音が鳴る。
今度こそ無視しようと思ったが、秋子に変質者の粘着質な声を聞かせる訳にもいかず、祐一は諦めて子機を取った。
「何だよ?」
『だから、人が話している時に電話を切るなと何度言えば判る!』
「話は済んだんだろ? なら俺とお前が話す事など何もない」
『何を言っている。話はこれからだ』
「さっきの気色悪い詩なら聞く耳持たないぞ」
『ふっ……僕のセンスは愚劣な君には理解できないだろうからな。いや、僕も大人気無かった』
「お前喧嘩売ってるのか?」
『何を勘違いしているんだ? 謝罪しているんだよ。この僕と同じレベルで話が出来るわけが無い事を失念していたよ。済まなかった』
「切るぞ」
久瀬の鼻持ちならない言葉に祐一の我慢は限界を迎えようとしている。
『仕方がない……今から君にも理解できるよう、判り易く話をしてやろう』
「俺が話を聞いてやってる事を忘れるな。良いからさっさと言ってくれ」
『ふむ、君は短気だな。実は倉田さんの美しさはさっき話した通りだ。故に彼女がミス学園に選ばれるのは当然の事であり、必然であり、義務である! ところがだ……愚かにも、倉田さんに対抗してコンテスト優勝を狙っている不届き者が居るらしいのだ』
「そりゃまぁ居ても不思議じゃないだろ? お祭りなんだし」
『馬鹿者めがっ! 君にはまだ倉田さんの美しさが理解出来ていないのか? 一年近くも傍に居ながらその体たらくとは……嘆かわしい事この上ない。この僕が代われるものなら代わりたいものだ。そもそも倉田さんとの付き合いは、君よりも僕の方が長いわけであって、それはつまり君よりも僕の方がより深く』
「深く? 長くの間違いだろ? 時間の長さと付き合いの深さは比例するわけじゃない。お前の妬みを聞くほど暇じゃ無いんだ。それはともかく、つまりお前は何が言いたいんだ?」
『まだ判らないのか?』
「判るか!」
『ふぅ……これだけ頭の悪い君にも判るように言っても理解できないとは……、つまり要約するとだ、倉田さんを優勝させる為、ここは呉越同舟、一時協力といかないか? そう言いたいのだよ』
「最初から素直にそう言え。そうすれば、お前の歪んだ愛情をたっぷり聞かされずに済んだ」
『僕の倉田さんへの愛は本物だ。歪んでなどいない!』
「ではお前は本物の馬鹿という事になるな。めでたい奴め。自らの馬鹿さを証明してどうする」
『ふん。僕は寛大だからな、君と違ってこれしきの戯れ言に腹は立てない。心の広いボクに感謝したまえ。……で、返答は?』
「当然断るぞ」
祐一は即答していた。
『……何故だ?』
逆に久瀬は祐一の返答が予想外だったのか、少し間を空けて声を出す。
「俺は今回のコンテストには、もっぱら否定的でな。出来ることなら佐祐理さんや舞には、選ばれて欲しくないと思ってる」
『なるほど。つまり君は、倉田さんより美しい女生が我が校に居ると言うのだな?』
「俺だって佐祐理さんは綺麗だと思う。外見上だけでなく、その心だって容姿に負けない程綺麗だろう。だが、それとこれは別だ」
『なるほど。では倉田さんを差し置いて、他の何処の馬の骨とも知れぬ女生徒が優勝しても良いわけだな? それはつまる所、倉田さんよりも優れた女性だと公に認める事になるぞ』
「構わないさ。誰がどう思うかは問題ない。大事なのは自分自身の気持ちであって、客観的な評価に意味はない。少なくとも俺にはな」
『……君が今回の件に否定的だったのは意外だったが、やはり君とはどうあっても共闘する事は出来ない様だな』
「そんな判りきった事一々確認すんな」
『ふっ……そうだな。まぁ君との共闘は無理でも、僕自身は全身全霊をかけて倉田さん支援に回らせてもらうよ。では失礼』
祐一の軽口に、久瀬は鼻で笑って返すと電話を切った。
ものを言わなくなった子機を持ったまま、祐一はその身をベッドへ放り投げる。
「ったく……どいつもこいつも。佐祐理さん自身が望んでなきゃ何もかも無意味だっての」
だが彼の心配を余所に、佐祐理達の意思は既に逆の方向へと一直線に突き進んでいた。
「ただいま〜」
久瀬との電話でのやり取りを終えて暫くした頃、祐一の耳に階下から玄関の閉まる音と名雪の声が聞こえてきた。
「お帰りなさい名雪。もうすぐご飯だからお風呂に入っちゃいなさい」
続いて聞こえてきた秋子さんの声に、既に時間が陽も暮れた頃だと気が付いた。
間もなく夕食の用意も始まるだろう。
真琴の襲撃――本人は出迎えのつもりだが――を黙って受けるのもしゃくに障ると考えた祐一は、読んでいた文庫本に栞を挟んで閉じると、ベッドから立ち上がって部屋を出た。
祐一が食器を列べていると、風呂から出てきた寝間着姿の名雪がダイニングへと現れた。
「うぅ〜、疲れたよぉ〜」
よほど陸上の練習が堪えたのか、名雪は自分の席に座ると、ダイニングの机に上半身を力無くふにゃっと倒して呟いた。
「よっ名雪お帰り……って、何だか妙に疲れてるっぽいな?」
祐一は、椅子に腰掛けると向かいの名雪を見て声をかける。
「ごっはん出来たよ〜。あれ?」
キッチンで夕飯の準備を手伝っていた真琴が、スリッパをパタパタ鳴らしながら姿を現す。
「名雪大丈夫?」
机に力無く項垂れている名雪の姿を見て心配そうに呟き、手にしていた料理を手早くテーブルに列べて、彼女の身体を優しく揺する。
「うん大丈夫だよ。二人とも有り難う。へへへ〜」
祐一と真琴の言葉に名雪は姿勢を戻し、笑顔を作ってみせる。
「大丈夫か?」
「うん、何だか部活の子達が妙に張り切ってて……」
「へぇ〜良い事じゃないか。名雪も部長として頑張ってる甲斐が有るってもんだな」
「うーん……そういう事なら嬉しいんだけど、みんなが頑張ってるのは、今度のコンテストの事なんだよ〜」
そう言うと再び上半身を伏せるが、勢い余って机に頭をぶつけてしまう。
むくっと顔を上げるが、そのおでこは少し赤くなっており、涙目で「うーっ」と唸り声を上げている。
「わっ、名雪大丈夫? 秋子さーん」
真琴が再びスリッパを鳴らしながらキッチンへ小走りで消えて行く。
「やれやれ……名雪はドジだな。ほら見せてみろ」
「うーっ。痛いよー」
祐一が立ち上がり名雪の横に立つと、彼女の前髪を撫で上げ、おでこを露わにしてみせる。
どうも先程よりも多少赤みが増している様子だ。
「あらあら、名雪大丈夫?」
「はい名雪、これタオルだよ」
キッチンから支度を終えた秋子と、濡れたタオルを持った真琴がやってきた。
「ん、有り難う真琴〜」
祐一が真琴から濡れたタオルを受け取り、おでこに当てる。
「わっ冷たいよー」
「暫く手で押さえておけよ」
そう言って祐一は名雪の向かいの、自分の席へ腰をかける。
「それにしても、陸上部の女子達もコンテストの事で頭いっぱいなのか? ったくどいつもこいつも……」
先程の名雪の言葉と、久瀬の電話を思い出し、呆れた表情を浮かべて祐一は溜め息を付いた。
「あ、そう言えばね〜商店街も凄かったんだから」
真琴が祐一の隣に座り、思い出した様に話し始める。
「何が凄いって?」
今日一日中家に居た祐一は、街の豹変ぶりに気が付いていない。
「秋子さんと買い物行ったんだけどね、そこら中にポスター貼ってあるし、商店街の入り口なんか立派な横断幕までどーんって掲げられていたんだから。それにどの店でも記念商品とか限定グッズ売ったんだから。ねぇ秋子さん」
「便乗商売かよ?」
「でも今は世の中が不景気ですから、こういうお祭りで街全体が盛り上がるのは良いことだと思いますよ」
「まぁそうかも知れませんが……」
「商店街の街灯全部にコンテストのタペストリが吊されてましたし、何だか商店街自体がタイアップしてるみたいでしたよ。折原君や住井君の行動力は相変わらず凄いんですね」
料理の盛られた大皿から、皆の小皿へ移してゆく秋子の表情は、心底感心している様に見える。
「うーん、果たして素直に感心して良いものかどうか……」
「なによぅ。祐一は一々細かいこと気にし過ぎよ。良いじゃない、みんな楽しそうなんだし。それに真琴達だって名雪のお陰でいっぱーいサービスして貰えたんだから」
「え?」
「サービス?」
祐一と名雪が真琴の言葉に首を捻る。
「八百屋さんと魚屋さんに、お肉屋さんで買い物したら、名雪の事応援してる……ってサービスしてもらっちゃったもんね」
祐一達の疑問に、真琴は自分の事の様に自慢げに応じる。
「え? ひょ、ひょっとしてわたしって商店街推薦?」
真琴の言葉に嬉しさを感じたのか、名雪が顔を赤らめて身もだえる。
「秋子さん、本当ですか?」
「ええ。何だか申し訳ないとも思ったんですが、自分達の売った物を食べて育った名雪が優勝できれば……と、皆さん親切にサービスしてくれました」
「ほら、真琴の言ったとおりでしょ? それに『秋子さんが出場できればなぁ』とか『名雪ちゃんは秋子さんの娘さんだから優勝できる』とか、みんな応援してくれてたんだから」
「……それはどちらかというと、名雪を応援しているというよりも、秋子さんの娘という事で応援をしている雰囲気だな」
「だおーっ」
祐一の言葉を聞いて名雪が不満そうな表情を浮かべ唸り声を上げているが、祐一は無視する事にした。
「あらあら。そういえば祐一さん。商店街で舞ちゃん達に会いましたよ」
ふてくされる名雪を見て苦笑しつつなだめている秋子が、思い出した様に祐一へ言う。
「あ、そうそう。佐祐理達大きな荷物を抱えててね、真琴の頭を撫でてくれなかったの」
そう言う真琴の表情は心底残念そうだ。
「それに二人とも制服姿でしたよ」
秋子が真琴の言葉を補足するように伝える。
「休みの日なのに制服ですか? 学校に用事でもあってその帰りに商店街で買い物でもしてたのかな……ん?」
秋子から差し出された茶碗を受け取りつつ、そんな考えを巡らせていると、目の前の名雪が未だに唸り声を上げて睨んでいる事に気が付いた。
「うーっ」
「そ、それじゃご飯食べましょう。ほら、名雪も暖かい内に食えよ。せっかくお前を応援してくれている人々の気持ちが籠もってるんだからな。いただきまーす」
祐一は、少し照れくさそうにそう言うと、誤魔化すように茶碗の中身を掻き込んだ。
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§ |
自宅のマンションへ戻ってきた郁未は、部屋に入るなり大きく溜め息を付いた。
リビングのテーブルの上に愛車のキーと、買い込んだ食料品を置いて、そのままソファーにその身を投げる。
「全く……あの子達の行動は、私の予想の遙か上を行っていたわね」
休日を利用して商店街へと買い物へ出かけた郁未だったが、その様変わりした状況に思わず声を失うほど驚いた。
商店街の入り口には『ミス学園コンテスト開催記念フェア』と書かれた横断幕が掲げられており、訪れる店々でその店主や店員から、期待の籠もった目線と、歯が浮くような美辞賛辞を貰うこととなった。
郁未は学校の保険医として比較的顔と名が街に知られている為、商店街には得意先も多い。
その為、郁未が訪れた店では彼女が今回のコンテストで優勝出来る事を願っているらしく、やたらとその手の話題を持ち出された。
善意からの応援である以上無下にする訳にもいかず、郁未は強張った笑顔で適度に受け流す事しか出来なかった。
いや、こういった馴染みの店員であるならまだ良かったが、全く無関係の通行人や、初対面の住人達の興味深そうな視線が、郁未には精神的に堪えた。
動物園で公開された珍獣の様に、一挙一動が住民達に見られている……そんな感じだった。
それが煩わしいからといって、周囲の住民達を不可視の力で吹き飛ばす事は流石に出来ない。
精神的に疲れ切った身体をだらしなくソファーに横たえていた郁未が、軽く手を振ってみせると、リビングの壁際に置かれていたテレビのスイッチが自動的に入り、ニュースが流れ始めた。
本日起きた事件など淡々と語っているローカル放送局のキャスターの声をぼんやりと聞きながら、再び郁未が片手を二、三度軽く動かしてみせる。
冷蔵庫の扉が開いて、中のペットボトルのオレンジジュースが飛んできて郁未の手に収まった。
『次は本日の特集です――』
手にしたペットボトルの口を開けて、そのまま自分の口へと運ぶと、郁未は喉を鳴らしながら中身を飲み始めた。
『とある高校で行われる美人コンテストが、その街全体に経済効果を及ぼしているという話題をお伝えします――』
「ぶーーーーーーーーーっ!」
テレビから伝わった言葉を聞いた郁未は、盛大に口の中の液体をぶちまけた。
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あとがき |
続く> |