このように、「お腹」と潜在意識との関わりは密接であり、頭は動いても「肚」がない彼は、潜在意識の働きが悪く、心理的、生理的にも不活発な状態にあると言えます。
◆錘体外路系運動
「心に対して」は、まずは強くするというのではなく、自分の「心に目覚める」ことが大切です。「心が動き出すこと」で「心を感じる」、という順序により「心の自発性」を識り、やがて本当の「自身の力」を取り戻さなくてはなりません。心はこころで気づくことが肝要で、「心が動く」ためには、意識的な随意筋運動では無理なのです。
冒頭で紹介した男性について、「心が動いていない」と書きましたが、それは、取締役ができるほど意識は発達しており、同時に随意筋運動も得意ではありますが、幼い頃の家庭環境の影響により、「情動」の働きが悪いのです。
心の「動き」の主体である情動は、自律神経の働きや無意識に行う運動と深い関係があります。
生理学では、意識で自由になる随意筋的な働きを錐体路系と呼び、無意識で行われる運動を「錘体外路系運動」と呼んでいます。
現代社会では、意識(大脳新皮質)的生活に偏るため、無意識に行われる錘体外路系の働きが悪くなることが多いのです。
◆活元運動とは
野口整体では、「錘体外路系」の訓練として「活元運動」というものがあります。「心の動き」の主体である感情は、意識して分かるものの、勝手に動いてしまうので、多くはそれに振り回されるのです。
特に怒りや不安の感情が「ふっ」と起こると、無意識に身体に力が入り、硬くなります。これを「無意緊張」と言い、この「感情=無意緊張」を滞らせていると、身体の「偏り疲労」となり、熟睡を妨げることにもなります。
筋肉のどこかに緊張が残っていると、そこから伝わる興奮が刺戟となって絶えず脳に伝わり、深く眠ることができないのです。
「大泣きしたら心がすっきりした」ということがありますが、その時無為緊張が消滅しているのです。
活元運動は、感情エネルギーの発散から始まり、後には感情力の育成に進むことができます。
活元運動で、自身の「裡の力を振作」し、心の動きを取り戻す。それが「自分を取り戻す」ということです。
また、活き活きと、元気に生きていくためには、自分が「生きる主体」となることが大切なのです。
活元運動は、本物になるまでには腰の鍛錬(中心軸を作る)と積み重ねが必要ですが、続けることで、自分に対する信頼を培うことのできる「行」であると思います。
活力を失っている感のある今の若い世代に、活元運動により「気」を活性化し、潜在生命力を喚起していただきたいと念願しています。