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和平復興関連 No110

  -赤色の文字はカプタフォントでお読みください-


2006‐Jan-15
Super Dvora Mk III
スリランカ海軍高速哨戒艇


 1月2日夜、トリンコマリの学校校庭で遊んでいた少年たち7人は手榴弾の爆破で死傷した。
 LTTEはこの事件を政府軍の市民への攻撃であるとした。政府軍は否定した。真相は不明だった。どこからか持ち出した数個の手榴弾をもてあそんでいた少年たちが不意の爆破で事故にあったという見方がスリランカのディリ―タイムスに掲載されていた。少年が乗り捨てた自転車の脇にはもう一つ、手榴弾が残されていた。

 1月7日、トリンコマリ湾の警戒に当たっている政府海軍の小型高速哨戒艇が爆破された。乗員の海兵13人が死亡した。哨戒艇は跡形もなく海に沈み、捜索が続いているが爆破沈没の原因を特定できるものは見つからなかった。政府軍はこれをLTTEの自爆テロによる攻撃だとして発表した。LTTEは否定した。スリランカ停戦監視団SLMMも政府軍の見方を否定した。だが、2日に起きた事件への報復だという噂が飛び交い、政府とLTTEの関係は悪化した。

Super Dvora Mk III

 爆破された小型高速哨戒艇の名はSuper Dvora Mk III。ミサイル積載可能。哨戒艇であるがすぐれた攻撃艇でもある。
 イスラエルの軍需会社IAI Ramta 製で排水量70トン、全長26メートル。エンジンを2機配備、最高速度43ノット超。舳先と船尾とに30ミリ、20ミリの砲を装備。そのほかにも0.5ミリの自動小銃を甲板に2機装備。乗員は操舵室から舳先の30ミリ砲を遠隔で操作できる。機動性と攻撃性に富んだ密閉型、最新型の攻撃ボートである。
 この装備を見る限り、身体に爆弾を巻き付けたテロリストが大海原を乗り越えて哨戒艇に自爆攻撃をかけるなど想定できない。漁船を装った船から、航空機さながらのエンジンで海原を滑走する哨戒艇めがけて携帯用のミサイルを打ちこめば簡単に撃破できるが。

 最新鋭の哨戒艇が沈められた。不穏な動きがトリンコマリで高まる中、1月8日、BBCサンデーシャのインタビューに応えてニマル・シリパーダスリランカ政府広報担当大臣は次のようにまくし立てた。
e~k sAvQ{`ny hr`kQrW v@g~, el~ tW tW I sAvQ{`ny wmn~@g~ bd kp`gnWm wmyQ j`wQyk~ ---@m| v@g~ krn~@n.
 「あの組織(LTTE)はハラキリしてんだよ、LTTEは自分の腹を掻っ捌くやつらだから----こんなことをするんだ」

 ハラキリの日本語を見出しにして8日のBBCシンハラ・コムは記事を組んだ。土曜夜のスリランカ海軍小型警戒艇への自爆テロで13名の海軍兵が死亡したとスリランカ政府広報大臣のことばを借りて伝え、スリランカ海軍はトリンコマリでの漁業を禁止し犯行に関与した組織の割り出しのため湾内での警戒を強めた、と報じた。休業に追いこまれた漁民への保障は政府が行うと伝えた。
 BBCシンハラ.コムの文面は穏やかだが、記事の元となった広報担当大臣の声は金切り声と罵声に近かった。LTTEは自爆テロなどという「ハラキリ」を平気でやる連中で、自分で自分の腹を裂くようなことをするから自業自得の顛末を迎えるのだと言った。日本人の武士道流美意識からすればハラキリへの誤解もはなはだしい。だが、論調には正当性もある。政治家のプラグマティズムからすれば、ハラキリは自暴自棄のおろかな行為でしかない。
 記事にはないが、ニマル大臣は次のようなこともサンデーシャのインタビューで言っている。
 政府はアジアの日本で和平交渉をしようと働きかけているのにLTTEはオスローで開催の一点張りだ、やれ日本は遠すぎるのどうのと言って頑固に譲らない。和平が進まないのは政府の責任ではない、頑固にオーストリアでの開催にこだわるLTTEが悪い。

 9日、マヒンダ大統領は執務室に和平調停役の各国代表を呼んで停戦協定の遵守を厳しく見張るよう注文をつけた。呼ばれたのは日本国大使、EU代表、アメリカ大使、ノルウエー大使、オランダ大使の面々。赤プリでの東京会議以降、日本も積極的にスリランカ和平調停に乗り出している。
 この日、スリランカ北部東部で急速に高まる緊張を回避する話し合いがマヒンダ大統領とのあいだに持たれた。順延されている和平協定が一刻も早く実現できるよう意見交換がなされた。また、同日、世銀代表とも別個に会議が持たれた。

 その日、会合に現れたマヒンダ大統領はいつものように白のジャーティカ・アンドゥム。敬虔なシンハラ仏教徒としての礼服に身を包んでいた。集まった各国代表はそろってダークスーツを着込み黒めのネクタイを締めていた。その様子はトリンコマリでの一連の事件が容易ならぬものであることを伝えていた。その中で日本国代表は軽いグレーの背広にあでやかな赤のネクタイを締めていた。あでやかな赤は日本政界に流行の勝負服かもしれない。新ODA大綱に基づく対外援助を国益に照らして行う意志の現れだったか。緊急の和平会議を日本に呼び寄せる気概だったか。しかし、異質だった。
 和平交渉の開催地を再び名乗り出た日本だが、日本の行政当事者は事案の重さに気付いていないのかもしれない。独り善がりのハラキリの匂いをかいだのは私だけか。


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