The Three Musketeers  三銃士 番外編 

  モンティ・パイソンにリシュリューが! Cardinal Richeliu in Monty Python !    

  自分が好きな、全く異なる二つの事柄に、共通点を見出すというのは、嬉しいものです。
このコーナーでは、私が大好きなコメディ「空飛ぶモンティ・パイソン」に登場した、あのリシュリュー枢機卿の様子をご紹介します。
 尚、モンティ・パイソンの基本情報については、当HPのこちら→「雑記 モンティ・パイソン」をご参照下さい。

 「空飛ぶモンティ・パイソン」第1シリーズ第3話より 「法廷劇」(Court Scene )

 パイソンのオフィシャル・スクリプト The Complete Monty Python’s Flying Circus All the wordsを使用しています。私の翻訳ですので、所々怪しげですがご容赦ください。
 舞台は現代イギリスの法廷。裁判長(テリーJ),被告人ラーチ(エリック),弁護人バートレット(ジョン)。
 被告人はクロムウェルのごとく、「市民にとって自由こそ、もっとも高貴なものなのです!神よ、自由を奪い給うな!自由、自由を!」と、大演説を打つものの、裁判長に「たかが駐車違反だろう」と一掃される。弁護人は、世間話しかしない近所のオバサン(グレアム)だの、棺桶に入った「殆ど死体」だのを証人として召喚し、裁判長をうんざりさせる。そして次の証人こそ、肖像画そっくりな赤い(ピンクに近い)法衣を纏った、リシュリュー枢機卿(マイケル)である。

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裁判長:バートレット弁護人。被告人は、もう駐車違反の罪を認めているのですよ。
 
弁護人:駐車違反ですか。くだらない罪状ですな、閣下。我々はあらゆる手を手を尽くさねばならないのです。リシュリュー枢機卿を召喚します。

裁判長:この件を長引かせるつもりかね。リシュリュー枢機卿だと?

弁護人:重要な証人です、閣下。

(ファンファーレが鳴り響く。リシュリュー枢機卿が豪華な法衣を纏って入場し、証言台に着く。)

枢機卿:アロー、みなさん。ここに来れて感激だよ。この国も気に入った。現代のロンドンってのは素晴らしいね。

弁護人:ええ…あなたは枢機卿,アルマン・デュプレシス・リシュリュー、ルイ13世の最初の宰相ですね。

枢機卿:ウィ。

弁護人:枢機卿、僭越ながらお尋ねします。あなたはフランスにおける中央集権的君主制をうち建て、ヨーロッパにおける宗教分立を決定的にしましたか?

枢機卿:(控えめに)らしいね。

弁護人:あなたはユグノー教徒を迫害しましたか?

枢機卿:ウィ。

弁護人:自分達の封建領土の独立性を守る為に、外国勢力と手を結んだカソリックの貴族達に対しても、断固たる措置を取りましたか?

枢機卿:確か、そうだったね。

弁護人:枢機卿。あなたは、被告人ハロルド・ラーチ氏を良く知っていますか?

枢機卿:昔からね。

弁護人:では、ローマンカソリックの枢機卿として、ルイ13世の最初の宰相として、そして近代社会の構築者としておっしゃって下さい。ハロルド・ラーチ氏は良い人間と言えますか?

枢機卿:聞いてくれ。ハリーって男は、すっごく良いやつだ。

弁護人:裁判長。過失なき高名な証人の人間性を考慮に入れて頂き、情状酌量をお願いいたします。

裁判長:たったの罰金30シリングなのに?

(ディム警部(グレアム)が入ってくる。)

ディム警部:ちょっと待て!

被告人ラーチ:なんで?

ディム警部:(突き放すように)お前のきざったらしい質問に答える気はない…頭が良いとでも思っているのか?よろしい。私はディムだ。

(字幕:スコットランド・ヤードのデム警部 [注:ロンドン警視庁の『うすのろ』警部という意味])

一同:ディム!驚いた!大変だ!

ディム警部:よろしい。自称リシュリュー枢機卿に質問がある。

枢機卿:ボンジュール、ムッシュー・ディム。

ディム警部:枢機卿さんとやら。あんたは1642年に死んだはずだろう。

枢機卿:まさにその通り。

ディム警部:アッハァ!引っかかったぞ!

(法廷に拍手喝采。うろたえる枢機卿。)

枢機卿:いまいましい警部め。バカどもより、頭が良すぎだ!

ディム警部:ついでに言わせてもらえば、あんたは他でもない、ロン・ヒギンス。プロのリシュリュー枢機卿モノマネ犯だ。

枢機卿:なんて優秀な刑事だ。

弁護人:素晴らしい切れ者のディム。恐れ入った。

ディム警部:何でもない事さ。

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 マイケル・ペイリン演じるこのリシュリュー、やたらと気さくでノリが軽く、変なフランス語を使ったり、わざとらしい仕種が
「おフラぁ〜んス」な胡散臭さを大発生させております。また、弁護人のやたらと歴史に詳しい熱弁に対し、ディム警部登場後のアホな展開が、このスケッチのミソと思われます。なお、この後はディム警部の「刑事でなければ、窓拭きになりたかった…」という、これまたアホな歌と踊りが続きます。
 この第1シリーズ第3話は、「法廷劇」以外にも、アメコミをおちょくった「自転車修理マン」、短いけど上手い「お話の時間」、テンションの上がり方が凄い「レストラン・スケッチ」、とにかく可愛い「子供インタビュー」、伝説的な「ナッジ、ナッジ」など、名作揃いの「当たり回」です。

パイソンのリシュリュー観,そしてまだまだ続く

 パイソンにおいてリシュリューは、「三銃士」の登場人物というよりは、「フランスの、そしてヨーロッパの高名な政治家」と言う、とらえ方をされているようです。どこを取ってもパイソンの好きそうなキャラですので、いきなり現代の証言台に立たせたくもなるのでしょう。
 今やカンヌ映画祭の審査員を務める巨匠テリー・ギリアムにとっても、リシュリューは格好の餌食です。パイソンの第一シリーズのオープニング・アニメでは、毎回リシュリューのあの有名な肖像が自転車を乗り回していました。

 パイソンは基本的に、同じキャラを何回も使う事はしないのですが、例外も居ます。リシュリューもその一人。
 第1シリーズ第13話「歴史的モノマネ」では、「ナポレオンによるR101爆撃機」や、「イワン雷帝による靴屋の店員」、「洗礼者ヨハネによるグラハム・ヒル」などに混じって、
「リシュリュー枢機卿によるペチュラ・クラーク」というモノマネが一瞬出てきます。
 リシュリューは勿論、前回と同じくマイケル。相変わらず立派な法衣を着けて、
 
「地下鉄で寝ないで、ダーリン,土砂降り雨の中に立たないで♪」
などと、ペッタペタな女性アイドルの歌を熱唱しておりました。実際は口パクしているだけです。変に可愛い。

 ちなみに、マイケルは「枢機卿」というキャラが好きなようです。第2シリーズ第2話(通算第15話),有名な「スペインの宗教裁判」では、ヒメネス枢機卿を愛情たっぷりに熱演。 Nobody expects the Spanish Inquisition ! (まさかの時に、スペインの宗教裁判!)という台詞は、欧米のドラマや映画に出て来るくらい、よく知られています。

 関連ページ:パイソン・ソングでピューリタン革命! 〜二十年後ファン必聴?! Oliver Cromwell 〜  
                                                     24th March 2004
                                                     ↓ 更に続く

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このコーナーにナイスないラストを頂きました!

 このマニアックな文章の、もっともマニアックな一文
 「パイソンの第一シリーズのオープニング・アニメでは、毎回リシュリューのあの有名な肖像が自転車を乗り回していました。」
 を読んだ「はっちぽっち。」のあさみさんが、こんなおちゃめなイラストを描いてくださいました!

 「モンセニョール、自転車で空を飛ぶ!」
 いや、「猊下のサイクリング・ツアー」か?!
 (パイソンに「サイクリング・ツアー」というスケッチがあるのです。エリックの「ロシアン・ジョーク」が最高でした…)

 な、なんてお茶目なのでしょう…!実の所、テリー・ギリアムによるオープニング・アニメーションは、額縁こそないものの、これに近いものがあるのです。
 絵をお描きになる方は、彼のアニメーションや映画の世界は、一見の価値があると思いますよ(激しく好みが分かれそうですが…)。
 それにしても、パイソンとリシュリューなんて非常にマニアで局地的なネタに、こんなイラストを描いて頂けるなんて、本当に嬉しいです。
 あさみさん、ありがとうございました!

 10th April 2004

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