The Three Musketeers  三銃士 番外編 

  パイソン・ソングでピューリタン革命!
 
                                                
   
〜 「二十年後」ファン必聴?! Oliver Cromwell 〜

  デュマの小説の面白さの一つに、巧みな歴史とのリンクが挙げられます。特にフランスとイギリス,双方の歴史的事件を絡めている手法が鮮やかです。
 「三銃士」ではフランスの宗教戦争におけるラ・ロシェル攻防戦と、イギリスにおけるバッキンガム公爵暗殺事件。
 続編の「二十年後」では、フランスのフロンドの乱と、イギリスのピューリタン(清教徒)革命が絡みます。
 これらの歴史的事件の中で、最も有名なのが「ピューリタン(清教徒)革命」でしょう。いわゆる「革命」の先駈けであり、日本の中学生も歴史の時間に習うほどの知名度です。
 この革命の立役者こそ、オリヴァー・クロムウェル。私の好きなコメディ・グループ,モンティ・パイソンが、このクロムウェルの歌を歌っていますので、ご紹介しましょう。
 なお、モンティ・パイソンに関する基本情報はこちら→雑記「モンティ・パイソン」をご覧ください。

 パイソン・ソング オリヴァー・クロムウェル Oliver Cromwell

 この「オリヴァー・クロムウェル」という曲は、スケッチや映画の挿入歌ではなく、単独楽曲として録音されたもので、1989年の発表です。曲は何と、あのショパンのポロネーズ6番。日本では「英雄ポロネーズ」として知られている、超有名曲です。
 メイン・ヴォーカルと作詞は、「欧州一の音痴」を自認するジョン。ピアノをバックに、歌と語りを交えてクロムウェルの活躍を描きます。コーラスはエリック(グレアムも入っているか?)。楽しい間の手を入れているのもエリックで、この部分はカッコで囲みました。
 ピアノと歌のほかに、馬の嘶き,蹄,大砲,群集,断頭台に振り下ろされる斧など、様々な効果音も楽しく、展開して行きます。
 歌詞の全てを、例によって私が翻訳しました。所々怪しげですが、ご容赦願います。
相手は英語だから語順が変わっちゃうし、専門用語は多いし…

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国王チャールズ一世について、大変興味深い事がある
それは彼の治世が始まった時は、5フィート6インチあった身長が
その終焉時には4フィート8インチになっていた、と言う事だ
それと言うのは、かの男のため…そう!

オリヴァー・クロムウェル!イングランドの護国卿!(ピューリタン!)
1599年生れ、1658年歿す(9月のこと)

はじめは(ただの) ハンティントンの下院議員(ところが、それが)
1664年マーストン・ムーアの戦いにて、鉄騎兵を率いて勝利
続いて新模範軍を組織
神に感謝を!ネーズビーの戦いにて 王党軍を叩きのめし
国王チャールズ一世は コウモリのようにスコットランドへ逃亡した

しかし、ジョン・ピムらクソ真面目な連中の要求と、盟約のために
スコットランドは国王チャールズ一世を引き渡したのだ そう、あの男に…!

オリヴァー・クロムウェル!イングランドの護国卿!
(おできと一緒に)1599年生れ、1658年歿す(9月のこと)

しかし嗚呼、悲しいかな!(オィ,ヴェイ!)
議会派内に意見の相違が噴出したのだ (誰との間にかと言うと)
長老派と、ヘンタイ独立派連中の軍との間で
ついに第二次内戦が勃発
プレストンとランクスにて、議会軍と王党軍が対峙
国王は再び破れ去ったのだ 馬鹿なことに…(なんたるマヌケ!)

するとクロムウェルは、長老派,王党派を追放する為に
下院へプライド大佐を派遣
王の処刑にはやる、残部議会だけが残り
ウェストミンスター ・ホールの臨時高等法院を組織した
それはチャールズ一世を起訴するために他ならず
罪状は専制暴虐 (ひえ〜!)
チャールズは死刑を宣告されたのである
この法廷が裁判権を持つ事自体、認められていないと
拒否したにもかかわらず… (チャールズの首に別れを告げよ)

哀れ国王チャールズ,断頭台に首を横たえ…
1649年1月…斧が振り下ろされた
辺りは沈黙に包まれ、聞こえたのは、ただ一人の忍び笑いの声だけ
その笑い声の主こそ…!

オリヴァー・クロムウェル!イングランドの護国卿!(オー・レィ!)
1599年生れ、1658年歿す(9月のこと)

次に ぶっ潰したのは (アイルランド!)
共和政を樹立 (まだまだ!)
ウースターにてスコットランド軍を壊滅させ
1653年には海戦でオランダ軍とドンパチ
残部議会を解散し
ランバートの手になるの統治章典によって
オリヴァーはついに、終身護国卿となったのだ!おしまいッ!!!

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 クロムウェルとチャールズ一世

 イギリスにおける絶対王政を終わらせ、近代の議会制を確立した(議会そのものは中世から存在した)功労者として、クロムウェルは特筆すべき人物であることは、誰もが認める所です。
 が、やはり国王の首を刎ねてしまったと言う点が尾を引き、嫌われ者として認識されています。しかも、クロムウェルのアイルランド侵攻が(彼一人のせいではないにしろ)、20世紀まで暗く悲惨な影を残し続けた事や、お粗末な共和制の末期、そして訪れる王政復古を思えば、致し方がない事でしょう。
 しかし、そこは大人を自認するイギリス人(笑…?)。ロンドンの国会議事堂前にはクロムウェルの銅像が建っています(見せしめではない。功労者としてである)。
 歌詞には、歴史好きなイギリス人のクロムウェル観が溢れています。しかも、あからさまに悪口を言うのではなく、皮肉っぽく攻撃する所がいかにもパイソン。しかも曲が日本では「英雄」と呼ばれているほど、ドラマティックで壮大な調子である所が、可笑しさを増幅しています。

 この歌のもう一人の主役が、チャールズ一世であることは明白です。別にこの国王を持ち上げる訳でもなく、むしろ茶化しているような気もしますが…とにかく。国王の処刑はこの革命の衝撃的な一場面であり、「二十年後」でも重要な場面として描かれています。

 音楽で楽しむパイソン・テイスト

 荘厳な響きで始まる「英雄ポロネーズ」は、歌に合せてテンポがかなり遅くしてあります。このテンポでは展開部が弾けないと思われますが、歌がその前に終わってしまいます。
 歌い始めは、お堅い歴史学者のように静かに語り始めたものの、ジョンの声はどんどん興奮して行き、最終的にはスケッチでも得意としたキャラのようにぶち切れ、甲高い絶叫と共に無理矢理曲を終わらしてしまいます。
 わざとっぽいジョンの音痴ぶりに対し、エリックの上手くて真面目くさったコーラスも絶妙。第一、間の手が面白い。「罪状は専制暴虐」の後は、“ooh !” と歌っています。
 詩としての韻は全く踏んでいませんし、シラブルと音符の数が全然合ってなかったりして、この点も笑えます。
 楽しい歌であると同時に、歴史の勉強になるのですから、一石二鳥ですね。

 収録アルバムは、Monty Python Sings 。輸入盤のみですが、CDショップのサウンド・トラック・コーナーに普通に置いてあります。 パイソンの歌の代表的な所をほぼ網羅していますので、おすすめです。こちらでは数曲試聴もできますので、ぜひお試し下さい。幸運にも、「オリヴァー・クロムウェル」も試聴できます。

 ちなみにパイソン・メンバーの歌唱力は、「上手組」と、「音痴組」に分かれます。グレアムとテリーJは声が良く、スケッチや映画でもよく歌っています。エリックに至っては作詞作曲,ギターの才能も含めて、立派なプロ・ミュージシャンです。
 音痴組では、自称音痴のジョン(それほど酷くはないが)が居る一方、マイケルは「下手でも楽しく歌えばそれで良し!」とばかりに、愛敬で乗り切る幸せなタイプ。巨匠テリーGは、「おいらにゃ二本足がある〜♪」などとバカをやって、射殺されておりました(笑)。
←笑う所です

 関連ページ:モンティ・パイソンにリシュリューが!
                                               3rd April 2004

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