The Three Musketeers  三銃士

  1966年 BBC製作ドラマ The Three Musketeers

 三銃士の映像化作品は沢山存在しますが、私はそれらを全て見たいとは思わず、レスター版さえあれば満足でした。
 しかし、シャーロック・ホームズ役で有名なイギリスの俳優ジェレミー・ブレットが、ダルタニアン役として活躍するドラマが存在すると聞かされては、放っておけません。早速DVDを入手しましたので、この作品についていくらか記してみようと思います。

  
全10エピソード解説・感想はこちら


作品概要

 1966年  BBC(英国放送教会)製作 / 1話25分 全10話
 ディレクター:ピーター・ハモンド
 原作:アレクサンドル・デュマ The Three Musketeers
  → 更に詳細な情報は、IMDbのページへ

 DVD概要
  アメリカ版のみ:リージョンフリー,NTSC方式(日本の一般的なDVDプレイヤーで再生可能)
  2枚組 / 白黒 / 字幕なし
  → 購入はAmazon.com(米国)が便利

  ライセンスはBBCですが、ソフト化したのは、アメリカの会社KOCH VISION。この会社のソフトはリージョン・フリーな上に、中々センスの良い作品をDVD化してくれていて、私もよくお世話になっています。


 作品全体への感想

 1966年のイギリスのテレビ番組が、DVDで鑑賞できるとは、便利な世の中になったものです。海外モノのDVDと言うと、常にリージョンや映像再生方式が問題になりますが、この作品については、リージョンフリーのNTSCなので、日本の我々にとって、非常にありがたい仕様になっています。白黒なのは、60年代のテレビドラマなので我慢しましょう。
 残念なのは、字幕が無い事。日本語の字幕がないのは当然としても、せめて英語の字幕はほしかったですね(英米のDVDには大抵英語の字幕がついています)。ライセンスはBBCのものなので、権利関係の問題があるのかもしれません。そんなわけで、一瞬企てた「アヤシゲ翻訳」の野望は頓挫しました。

革命前のノリ炸裂!
 アメリカのアマゾンからDVDを購入し、さっそく鑑賞開始。第一話のオープニングが始まるなり、私は実感しました。そう、このドラマThe Three Musketeersは、「革命前」の作品なのだと。
 革命とは、ビートルズとモンティ・パイソンの登場による、音楽,映像作品の大変革の事です。レスター版は、この大変革を経た上での作品として、非常に良い例です。一方、この1966年のドラマThe Three Musketeersは、年代こそ66年ですがその雰囲気は明らかにビートルズやパイソンよりも前の世代が作った、前世代向けの作品なのです。
 たとえば、オープニング。何のタメも、余白もなしに、いきなり「ジャジャジャーン!」と騒々しい音楽と共に始まり、登場人物たちのアップでジャジャジャーン!ババーン!!そのまま本編に突撃。こういうノリは、これまで私はパイソンのスケッチでしか見たことが無く、しかもそれは笑いのネタでした。実際にこういうものが普通だったという事を、今回始めて思い知りました。ちなみに、エンディングも余韻もへったくれもなく、問答無用にエンディングが突っ込んでくるという勢いで、最初はいちいちびっくりしていました。

 音楽はクラシック音楽を使っています。17世紀の音楽を使うような洒落た真似ではなく、ベルリオーズや、チャイコフスキーなど、近代的なジャジャジャーンクラシックです。これがまた非常に作品のノリに合っている。

 カメラワークは、低予算なテレビ作品にはありがちな、アップショットの多様が目に付きます。台詞を言うたびに、カメラに向き直るのは、お約束。屋外のシーンでも、スタジオ撮影が多いです。当然エキストラも少なく、一見舞台作品を見ているような感覚もします。
 舞台作品といえば、役者たちの台詞回しも、いかにも舞台作品的。「革命後」に良く見られる、乾いた間を置くような演出は皆無です。誰もがノリノリの熱い演技をカメラにぶつけてきます。いちいち効果音を入れたくなります。「ガーン!」とか、「ビシィッ!!」…とか。特に女優陣。泣く、叫ぶ、嘆く!熱い!熱いぞ女優陣!クールビューティなんて文字は、存在しないのです。

 意外だったのが、衣装。低予算ともなれば衣装にはあまり期待できませんが、これが中々のものでした。銃士たちの個性あふれる衣装も格好よく、とくにレース使いはレスターにも負けていません。
 女性たちの衣装もバリエーション豊富で、素敵なものばかり。特にミレディは衣装替えが多くて楽しめます。カラーだったら、もっと良かったでしょう。

 脚本については、ほぼ原作どおりで進行しています。その代わり、レスターに見られたような「遊び」は皆無。脚本的にはサクサクと原作をこなしていくけれど、代わりに演出面での余裕は無いと言ったところでしょうか。


 登場人物紹介

アトス(ジェレミー・ヤング)
 鼻の形が特徴的な、ジェレミー・ヤング。製作時丁度30歳だったので、原作のアトスと同じなのだが、それにしては老けすぎかも知れない。ともあれ、飲んだくれの厭世伯爵という雰囲気は非常に良く出ている。ヤングがデヴィッド・スーシェ主演の「ポワロ」に出ているのを見たことがあるが、この時は「ポルトス,アラミス,ダルタニアンに出会い損ねて、そのまま駄目人間になってしまったアトス」という雰囲気だった。

ポルトス(ブライアン・ブレッスド)
 原作の雰囲気を非常に良く出している、ポルトス。豪快でお洒落で、まさにポルトスと言ってよい造形(少々トランプの王様に似ている)。ブレッスドはイギリスのドラマには欠かせない売れっ子俳優。一番驚いたのは、「トム・ジョーンズ」でのウェスタン氏役。確かに良く見ると、このポルトス、ソファイアのパパではありませんか!ウェスタン氏は私のお気に入りキャラなので、この一致は嬉しい。

アラミス(ゲイリー・ワトスン)
 少々目の寄っているアラミス。アラミスとしては少々キャラが弱かったかも知れない。製作当時は36歳。三銃士の中でも一番年上ということになる。聖職者を目指している雰囲気はあるが、いかんせん剣が弱そう。レスター版におけるチェンバレンと比較されると、非常に厳しい立場に置かれそうだ。

ダルタニアン(ジェレミー・ブレット)
 グラナダのドラマ版シャーロック・ホームズ役があまりにも有名な、ブレット。この作品製作時は33歳。ブレットは既に多くの映画,ドラマ,シェイクスピア作品に出演し、少々貫禄がありすぎで、小僧っぽさが足りない。従って、残念ながらダルタニアンには欠かせない青くて清々しい、若者らしさは出ていない(マイケル・ヨークもダルタニアンを演じた時30歳だったが、三銃士役者たちは彼より年上だった)。もしかしたら、アトス辺りが適任だったかも知れない(もしくは、ポルトスをやらせたら面白かっただろう)。

リシュリュー(リチャード・パスコ)
  これが中々はまっているパスコのリシュリュー。何せリシュリューの肖像画に良く似ている。理知的で、妥協を許さず、「国家の敵のほかに、我に敵はない」という台詞が、よく合っている。不必要なほど悪役にも描かれず、原作のリシュリューをうまく再現していた。

ロシュフォール(エドワード・ブライスショー)
 なんと金髪のロシュフォール。頬に大きな傷をつけ、立派な髭に、かなり凝った衣装。でも金髪で、どうもバランスが取れていない。キャラクターを練り損ねてしまったような印象もある。「敵側」の進行係のような役割にも見える。

ミレディ(メアリー・ピーチ)
 痩せすぎと言うか、顔の骨格がきつすぎて、妖艶さの足りないミレディ。ただ、悪役っぽさはよく出ている。たらしこむというよりは、力技で事を運ぶような雰囲気。悔しがり方、嘆き方などが大袈裟で、少々引くが、それは役者の責任ではないだろう。

コンスタンス(キャスリーン・ブレック)
 少々鼻が上を向いたコンスタンス。泣く、叫ぶ、暴れるが凄くて、ミレディと同じく、みているこっちが引いてしまいそう。

プランシェ(ビリー・ハーモン)
 もっとも驚きだったのが、このプランシェ。ハーモンは製作時18歳の少年。可愛らしい容姿で、舌ったらず。「マスター?」という台詞回しも可愛い。よくダルタニアンにどつかれている。レスター版のプランシェも傑作だが、この可愛いプランシェもありだろう。


 無論、国王ルイ13世や、バッキンガム公爵、ワルド伯爵、ウィンター卿、ボナシューなども原作どおり登場しますので、各エピソード紹介で言及していきましょう。

                                                             17th February 2007

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