9.トム・ジョーンズ The History of Tom Jones a Foundling  (ドラマ)

 トム・ジョーンズと言っても、おじさん熱血歌手ではありません。

 2001年の冬、NHK衛星第二で5回に渡って放映された海外ドラマ「トム・ジョーンズの冒険」は、そのあまりの面白さに、すっかりはまってしまい、DVDまで買い込見ました。キャラクターの描き方やストーリー展開などは、私の作品にも大きな影響を及ぼしています。とってもお勧めのドラマですよ。

作品紹介 〜 BBC Classic Drama 〜

 ドラマ「トム・ジョーンズ」は、1997年イギリス国営放送BBCが製作した、クラシック・シリーズの一つです。原題は「捨て子トム・ジョーンズの物語」。原作は英国の小説の父と称されるヘンリー・フィールディング(1707〜1754)。60年代に映画化もされていますが、断然このBBCのクラシック・ドラマ版がお勧めです。NHKで放映された時はタイトルに「冒険」がつきましたが、DVDでは「トム・ジョーンズ」だけになっています。
 ドラマは5話315分に渡りますが、全く飽きさせない展開で、とにかく続きが気になる。NHKで放映した時など、本当に次の週が待ち遠しかったものです。
 BBCと言えば硬派なドキュメンタリーに、パイソンやレッドドワーフの様な凄いコメディ、シェイクスピア・シリーズ,そして丁寧な作りのドラマに定評があります。クラシック・ドラマでは、「トム・ジョーンズ」の他にも「高慢と偏見」や「デビッド・コパフィールド」(ダニエル・ラドクリフが出演している)など、英国を代表する名作のドラマ化を続けており、いずれも素晴らしい出来です。

 あらすじ

 1725年イングランドのサマーセットシャーに、オールワージー氏という大変裕福な大地主が居た。ある日、彼の屋敷で赤ん坊が捨てられているのが発見される。オールワージー氏は赤ん坊をトム・ジョーンズと名付け、養子として育てる。オールワージー氏に愛され、いなかで伸びのびと育ったトムは、元気でやんちゃで、悪戯好き。ついでに女の子も好き。ご近所とのトラブルも絶えなかったが、正直で、勇気と思いやりのある好青年に育った。そして隣の地主の娘ソファイアとの間には、恋が芽生えていた。
 しかし、捨て子のトムが良家の娘と結ばれるはずもない。さらにトムを妬むオールワージーの甥と家庭教師の策略で、トムはオールワージー氏に勘当され、田舎から追い出されてしまう。
 旅に出たトムは、様々な人々と出会い、数々の事件に遭遇。紆余曲折の末にロンドンへ向かう。一方、ソファイアも父親の命じる結婚に反発して脱走。ロンドンへ向かう。
 ロンドンで新たな友人を得る一方で、ベラストン夫人の愛人になる事を余儀なくされるトムは、ソファイアとはすれ違い続けるばかりか、殺人容疑で逮捕されてしまう。サマーセットシャーの人々もロンドンに集まり、最後にはどんでん返しが…

 主な登場人物

トム・ジョーンズ (マックス・ビーズレイ)
 笑顔の素的な健康的な好男子。ついでにアチラも健康的。演じるビーズレイの脱ぎっぷりも凄い(自信があるのだろう)。国営放送なのに、モザイクがー!!ちなみにビーズレイは、映画俳優であり、ミュージシャンでもある。ハープシコードを弾くシーンは流石。もちろん美男だが、どこかミック・ジャガーにも似ている。

ソファイア・ウェスタン (サマンサ・モートン)
 トムの恋人で、美しくしとやかな令嬢…だが、かなりはっきりしている。「ブリフィル?!ブリフィルですって?!私、あんな人と結婚するくらいなら、死んだ方がましよ!!」その上、行動派。特技は買収。モートンの芯のある美しさと、お茶目な表情が魅力的。彼女は最近映画でも大活躍。

オールワージー氏
 トムの養父。ドラマ中で、感動的な場面は大抵この人が絡んでいる。特に最終回が良かった。

ブリフィル

 オールワージーの妹の息子。お澄まし坊ちゃんだが、陰険。トムを陥れる策略をめぐらす。

ウェスタン氏とウェスタン嬢
 ソファイアの父親と叔母。ウェスタン氏の馬鹿親父ぶりは最高。叔母は岸田今日子ばりの大迫力。

パートリッジ
 トムの父親ではないかという嫌疑を掛けられた、元教師。意外な形で再登場し、コメディ部門を担当。ちなみに、私のオリジナル小説「ハル&デイヴィッド」に登場する、ネッドのモデル。せんだみつおにそっくり。

オナー
 
ソファイアの侍女。かなりゲンキンな性格。「あんた(トム)に味方したせいで、あたしゃクビよ!!」

ベラストン夫人とフェラマー卿
 ロンドンでトムとソファイアに付きまとう悪者二人組。ティピカルな悪役なのだが、時々間が抜けている。

ヘンリー・フィールディング
 物語の作者で、案内役。偉大なる原作者のはずだが、カメラに置いていかれたり、馬車に轢かれそうになったり、トムに鬘を取られたり、奈落に落ちたり、不味い酒を飲まされたりと、とにかく散々な目に遭う。

 これだけ挙げてもまだまだ足りない。陰険な家庭教師のスワッカムとスクウェア,トムの女友達のモリー,オールワージーの妹ブリジット,トムの母親ジェニー・ジョーンズ,ソファイアの従姉のハリエットとその夫,怪しい弁護士,旅の途中の追い剥ぎ,ロンドンの下宿の母子,同宿のジャックなどなど…とにかく登場人物は多いのですが、それらの全てが丁寧に描かれ、魅力的なキャラクターとして活躍します。

 「トム・ジョーンズ」の魅力

 
このドラマの魅力といえば、まず素晴らしい構成だと思います。捨て子トムと、令嬢ソファイアの恋の行方を軸として、トムの出生,相続を巡る経緯,旅の最中やロンドンで起きる様々な出来事,そしてそれぞれの登場人物の思惑 ― 全てが見事に絡まりあい、一つ一つ収集されてゆく様は圧巻です。
 これはフィールディングの原作にほぼ忠実で、ドラマ化するに当っての調整も見事でした。そして全編に散りばめられたユーモアも丁寧な作りで、コメディ好きとしても嬉しい限りです。

 次に、登場人物の魅力です。トムもソファイアも、完璧な「正義の味方」ではありません。非常に人間的で、身近に感じられる人物です。そしてそれを取り巻く個性の強い人々 ― 私は特に、迫力満点のウェスタン兄妹と、パートリッジがお気に入りです。
 パートリッジとトムのやり取りは実に軽妙。レスター版「三銃士,四銃士」のダルタニアンと、プランシェに似ていますが、それ以上に面白いです。

 衣裳も綺麗です。サマーセットの田舎風の衣裳が特に好感が持てました。一方、ロンドンの退廃的なまでの都会風も、これでもかと言う感じで、徹底しています。そして役者達の実によく似合っている事!中でも、ソファイアの旅装 ― クリーム色の上着に緑の襟,紺色の丈の短いマントが、素的でした。
 そして、ロケも非常に多いです。スタジオ撮影場面の方が遥かに少ないでしょう。美しい田園風景に、重厚な地主の屋敷。ロンドンでもお城を多用した撮影が行われています。これが、ドラマ全体を包む開放感を生んでいるのでしょう。

 18世紀のイギリスの風物,世相もよく出ています。裕福な人々は基本的に教養豊かで、礼儀正しい(よくお辞儀をするシーンがある)。でも、やたら財産管理にうるさく、噂や中傷が横行。ロンドンの貴族はもっとひどく、ウェスタン氏に言わせれば「貴族なんてクソ食らえだ!」
 庶民は買収に弱いものの、力強く、金や地位にのある人間に庶民としての誇りを持って対峙しています。実に活き活きとしているのです。
 職業も様々。地主,聖職者,哲学者,医者,軍人,教師,弁護士,判事,旅籠,下宿屋,劇団,脚本家,旅の人形劇団,有閑マダムなどなど…上流階級の美男美女の恋だけではない、多様な世界が広がり、楽しませてくれるのです。

 再度お勧めの言葉

 歴史もので、コスチュームが綺麗で、巧妙なストーリー展開という点で、レスターの「三銃士・四銃士」がお好きな人には、特にお勧めです。それから、私自身が非常に影響を受けていますので ―特に拙宅の三銃士もの,ハルデヴィがお好きな方は、ぜひともご覧下さい。
 多分、DVDがレンタルで出ているでしょう(60年代の映画「トム・ジョーンズの華麗な冒険」ではありませんよ。90年代のBBCテレビドラマですよ!)。私はレンタルどころか、速攻で買ってしまいましたが。

 ここまでドラマが気に入れば、当然気になるのが原作です。私が思うに、この作品はドラマを先に見た方が良さそうです。原作については、また次回…

                                                   18th July .2004

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