Sherlock Holmes シャーロック・ホームズ

  
2002年 BBC製作 バスカヴィル家の犬 その1 

 1994年にグラナダテレビ製作のシャーロック・ホームズシリーズが終了して以来、これといったホームズ作品は登場せず、「最後の決定版」としてグラナダは君臨し続けました。
 しかし、常に時代時代の、世代世代のホームズが作られるという、ホームズの持つ魅力には抗えず、英国国営放送が ― 満を持してと表現しましょう ― 新たなホームズを製作しました。それが、今回数回にわたってご紹介する「2002年 BBC製作 バスカヴィル家の犬」です。
 実はこの作品、NHKで放映される前にDVDで日本国内発売されており、この時のタイトルは「バスカヴィルの獣犬」でした。日本のホームズ愛好家の間では「犬」のほうがポピュラーですので、NHK放映時の邦題「バスカヴィル家の犬」で、このサイトでは統一します。DVD購入の折は、ご注意下さい。

Caution!
 以下は、全て
ネタバレです。犯人や、ストーリー構成、ネタなどすべてネタバレ前提で感想などを書いていますので、これから鑑賞するという方は、ご注意ください。


 ホームズとワトスンのキャスティング

 ホームズにしろ三銃士にしろ、有名な原作ものはどうしてもまずキャスティングに目が行きます。この時点で既にかなりの評価が下されるのですから、大変です。
 特に、ホームズの場合ホームズとワトスンの二人が、キャスティングの良し悪しを殆ど支配していると言って良いでしょう。その上グラナダが、ジェレミー・ブレット,デヴィッド・バーク,エドワード・ハードウィックという素晴らしいキャスティングだったため、プレッシャーも相当のものだったでしょう。
 実際に行われたキャスティングを見ると、今回のBBCは思い切って若いキャスティングを行ったと思われます。グラナダのキャスティングでは、既にシェイクスピアや映画でその地位を確立したベテラン俳優が配されました。グラナダ製作開始時の若々しいブレット・ホームズでさえ、既に実年齢は50代でした。
 今回は、主役二人を、思い切って丁度40歳にしました。見ようによっては30代に見えることもあります。私個人の意見としては、これは歓迎です。ただし、主役二人が若くなった分、割を食った登場人物もあり、それが原作の魅力を損ねてしまったことは否めません。

シャーロック・ホームズ:Richard Roxburgh ロクスバラか、ロクスバーグか?…ここではロクスバラで統一します
 1962年生まれというのだから、丁度40歳。オーストラリア出身。メジャーな映画に最近良く出演しています。身長180cmで痩せ型。端整な顔立ちなので、ホームズっぽい容姿をしています。髪の色は少し明るいのですが、これを黒くしたらそれこそグラナダを意識しすぎでしょうね。
 手つきなどはかなり研究しているようで、グラナダになれた目にも中々上手に見えました。喋り方はややおっとり目で、ホームズの「ちょっと傲慢な感じ」がよく出ていました。表情は「いたずらっ子のような」というよりは、「小生意気な青二才」という感じが強く、これはやはり若いキャスティングをしたが故でしょうか? 
 スチール写真を見る限りはちょっと心配だったのですが、いざ動き始めるとかなり「ホームズ」という感じで、安心しました。この先のホームズが楽しみだったのですが、残念ながらこの一作で降板。ハリウッド系の映画出るには、ホームズにべったりなキャラクターイメージを植えつけられるのは良くなかったのかもしれません。それはそれで道理だと思われます。が、やはり残念。


ドクター・ワトスン:Ian Hart イアン・ハート
 このキャスティングこそ、私がこの作品を評価する要素の9割を占めると言う、恐るべき存在。
 1964年生まれなので、撮影当時38歳。94年30歳の時に(!)演じたジョン・レノンがあまりにも有名。その後、沢山の映画で存在感があったり、物によっては無かったりする名脇役をこなし、主役で目立つタイプではありません。
 実は、グラナダとの最大の違いはこのワトスンだったのかもしれません。実年齢からして若く、背も小さく、しかも細いので更に若く見える。表情は鋭く、あまり笑わず(ホームズよりも笑わない)、ホームズに対して怒りを露わにし、情熱的で武闘派のワトスンというのは、ある意味衝撃的であり、製作側としては冒険だったのではないでしょうか。
 このワトスンを受け入れられるかどうかも、この作品の好悪に大きくかかわってくると思われます。私は当然…狂喜乱舞した方です。



 登場人物たち

ステープルトン:リチャード・E.グラント

 顔で犯人がバレている、ステープルトン。この作品の特徴の一つに、犯人ステープルトンの人物描写があり、グラントの演技がそれを良く出していました。しかし、額が広くて、眼光鋭く、髪が黒くて長身痩躯…どちらかと言えば、ホームズに最適の人だったかもしれません。

サー・ヘンリー:マット・デイ
 実は彼もオーストラリア人。撮影時は31歳でしたが、どうもそれよりも大分若く見えました。名家のお坊ちゃまという雰囲気は十分すぎるほど出ていましたが、カナダで農業をしていたという雰囲気は皆無。新大陸から里帰りし、イングランドの古い世界に果敢に挑もうとする若旦那は、ちょっと演じ切れていませんでした。これはキャスティングの時点でそれを放棄していたからでしょう。

ドクター・モーティマー:ジョン・ネトルズ
 主役二人が若いが故に、原作とは大幅に異なるキャラクターになったのがモーティマー。原作では気の良さそうな青年だったのが、なんと50代半ば以上の言わば老人に。主役二人以外も、ステープルトン,サー・ヘンリーも若いため、画面が若者だらけになるのを避けたと思われます。おかげで、最初に犬を連れてくるという秀逸なアクセントが消え、彼の名台詞も他の人に取られて、意味合いが全然変わってしまいました。グラナダと同じように、原作に忠実なキャスティングでもよかったのでは?

モーティマー夫人:ジェラルディン・ジェイムズ
 原作ではほとんど見せ場のない人物ですが、この作品ではオリジナルに作られたシーンでいくらか活躍します。特に効果的でもありませんが。ジェイムズ自身は、テレビや舞台で大活躍する女優で、シェイクスピアでトニー賞を受賞しています。

ベリル・ステープルトン:ネイヴ・マッキントッシュ
 グラグラする感じの美人女優。おびえた演技が非常に存在感がありました。彼女の経歴の中で気になったのが、2004年に製作されたミス・マープルの新シリーズ。「パディントン発4時50分」に出演しています。英国では、かつての名作ミステリー・ドラマに再挑戦する動きが活発なのでしょうか?

バリモア:ロン・クック
 今回キャスティングをチェックしていて、一番驚いたのが彼。なんと、私の大好きな「トム・ジョーンズ」でやっぱり大好きなパートリッジを演じている俳優さんではありませんか!あまりの違いに、まったく気付きませんでした。しかし、改めて見てみると、確かにパートリッジです。
 クックは、多くのシェイクスピア劇に出演し、テレビでも欠かせない俳優のようです。しかも、若い俳優の育成にも力を入れているようです。軽妙でお茶目なパートリッジからは想像もできないような、控え目で含みのあるバリモアの演技には、正直おどろきました。



 さて、いよいよドラマの中身について語ろうと思います。
 ストーリー構成と、チェックシーンについては、また次回。


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