9月24日 快晴
3:30に起床。外は満天の星空だった。テント内は2.8℃。外が氷点下なのは確実だ。テントの内壁には水滴が点々と付いていた。どうやら本体じたいが結露したようだ。フライシートは、もちろん、表も裏もがりがりに凍っていた。朝食はリフィルのインスタント天ぷらそばに前夜の残りご飯を投入したが、それでは足りなくて行動用のパンも食べた。
撤収の際にフライシートをバサバサすると、見る見る氷が増えた。それを振り落としてまたバサバサやると、またまた氷が生成された。空気中の水分が、バサバサすることで、冷えきったフライに触れて凍ってしまうのだと推測。キリがないので凍ったまま収納した。山頂アタックに必要な荷物はサブザックに詰め、それ以外はザックに丸めて突っ込んで、小屋の軒下に置かせてもらった。水は、前夜に沸かしてすでにぬるくなりつつあるお湯が500mlと、冷水が2.25L。夏じゃないから、山頂ピストンのコースタイム6時間なら足りるだろう。あとはミカンもある。
5:51 岳沢小屋発(高度計:2165m)
外は寒いことは寒かったが、風がほとんどない分、余裕で耐えられた。上はTシャツ・夏用長袖シャツ・カッパを着て、下はサポートタイツに夏用長ズボンにした。これでちょっと寒いくらいだったので、歩き出せばちょうどいいだろう。手袋はしなかった。テント場を通過して、よく整地された道をジグザグに登っていく。しばらくするとハシゴが登場した。このハシゴは長く、30数段あった。
6:42 カモシカの立場(2490m)
カモシカの立場からは、朝霧の溜まった上高地が見えた。見上げると、西穂の稜線が、あり得ないくらいにギザギザしていた。その右上の方に見えるのはジャンダルムのようだ。奥穂からのあの有名な姿と違い、とんがっていて衛兵っぽくない。たぶん奥穂も見えているのだろうが、どれがどれやらよく分からない。10数分でまたまたハシゴが登場。それを過ぎるとすぐにクサリ場。石ごろごろの急坂はもうほとんど攀じ登り状態だが、それでもクサリは何とか使わなくても登れそうな感じだ。
7:16 岳沢パノラマ(2655m)
樹林がしだいにカンバに変わり、もう一度クサリ場を過ぎて、急に見晴らせるようになったところが岳沢パノラマ。ちょうど1時間ほど経過したので、いったんザックをおろして休憩した。ここで森林限界を突破し、ようやく陽が差してきた。岳沢小屋とテント場がよく見える。道の日陰では、霜柱があり得ないくらい発達していた。細かいのがびっしりと生えていて、まるでスーパーで売っているカイワレとかスプラウトのパックのようだ。
ここからは奥穂と西穂のド迫力の大岩壁を眺めながらの歩きとなる。が、足元には注意しないといけない。ストックはまだ仕舞わない。ザックに収納したところで、石にぶつけてしまいそうな気がして怖いのだ。また、登るにつれて、風が強くなってきた。
7:45 雷鳥広場(2810m)
岳沢パノラマから雷鳥広場へは30分もかからなかった。奥穂はまだまだ高かったが、西穂は同じくらいの高さになってきた。白ペンキで「雷鳥広場」と書かれた岩を過ぎて間もなく小さなコブを越え、ぐにゃぐにゃとS字型に曲がった小さなハシゴを降りる。その後もクサリ場が連続。それにしても、高度計がおかしいことになってる。歩き始めてまだ2時間ほどなのに、もうすでに700m近く登っていて、紀美子平までは標高差であと100m程度という計算になる。しかしコースタイムは3時間なので、これはちょっとあり得ない早さだ。とにかく、スタートから2時間たったので、休憩することにした。
8:07 紀美子平(2885m)
なっっがいクサリ場を通過したら、分岐の標識が見え、あっけなく紀美子平に着いてしまった。結局岳沢からは2時間20分ほどだった。これは嬉しい誤算で、そのぶん頂上でゆっくりできる。紀美子平はスラブ岩の小さな広場で、奥穂の眺めが素晴らしい。ここからは前穂山頂をピストンする行程となる。ほとんどの登山者がザックをデポするため、あたりはザックだらけ。我々は軽装なのでザックは担いでいくが、ここにストックだけデポしていくことにした。
道は、最初いったん奥穂側になだらかに進むがそれはほんのちょっとで、すぐにこれまで同様の急登にかわった。ストックがないと楽に登れる。この先はクサリはない。登るにつれて涸沢岳・槍ヶ岳と、徐々に見える山が増えてくると、頂上はもうすぐだ。
8:43 前穂登頂(3055m)
すれ違いで時間を費やしたが、それでも紀美子平から30分ほどで山頂に着いた。展望は360度で、上空には雲ひとつなかった。奥穂は相変わらず凄かったが、そのおかげでその後ろに広がっているはずの黒部の山々がほとんど見えないのは残念。北の方はよく見え、槍の隣に立山連峰も見えた。針ノ木がなかなかカッコいいなと思った一方で、常念は他の山から見るときと違って端正さに少し欠けているように思えた。浅間・八ツ・富士・南アも完璧に見えた。これほどの快晴の山頂もなかなか味わえない。紀美子平にあったザックからして頂上は混雑しているものと思われたが、途中の道でばらけたせいか、それほどでもなかった。それどころか、一時的にだがたった5人だけになったときもあった。我々は、ミカンを食べたり、コーヒーを飲んだりしてゆっくりと過ごした。岩に寝転がって青すぎる空を眺めていた。
10:21 下山開始(3040m)
下山のちょっと前に、ヘリコプターが飛んできた。あとで知ったのだが、北尾根で滑落事故があったらしい。下りは、渋滞でイライラしたが、美しく凄まじい奥穂を見て、気持ちを鎮める。
10:55 紀美子平(2875m)
山頂は強風で寒いくらいだったが、紀美子平で微風になってしまい、とたんに暑くなった。山頂まで着ていたカッパとシャツを脱いで、Tシャツ1枚になった。紀美子平でストック回収。岩場の下りでストックはさすがに邪魔なので、ザックに収納することにした。
11:42 岳沢パノラマ(2625m)
下るにつれて、行き違いは少なくなってきた。もう下る人ばかりなのだろう。山ガール的な人が岩場で手こずっていて、一部で渋滞が発生した。結局、岳沢パノラマまで、登りとほぼ同じ時間がかかった。岳沢パノラマでザックを下ろして休憩し、ついでにここでストックを出した。しかし歩き始めると、ストックが有効なところと邪魔なところが交互に現れる感じ。これなら使わない方がいい。うーん、早まったか。
12:16 カモシカの立場(2465m)
カモシカの立場でようやく木陰が増えてきて少しほっとした。結局、最後の長いハシゴを過ぎるまではストックはなくてもいいかもしれないと思った。12:59 岳沢小屋着(2140m)
岳沢のテントは半分程度に減っていた。これなら連泊できるが、まだ13時なので、上高地へ下りることにした。小屋の陰でズボンを短パンに履き替え、パッキングをしなおした。ついでに行動食も食べた。ずっと岩場でも素手で行動していたせいで、両手の人差し指と中指の先がひりひりしていた。今さらだが、岩場では手袋をした方がいいと思った。
13:40 岳沢小屋発(2135m)
急に重くなった荷物はなかなか足に堪える。急ぐ旅ではないので、意識的にゆっくりと歩いた。その間にたくさんの人にどんどん抜かれていった。14:31 標識5(1810m)
中間地点。14:52 風穴(1680m)
前日と違って暑かったので、風穴で冷風にあたって休んだ。涼しいことは涼しかったが、ここよりも新穂高の林道にある風穴の方が涼しいような気がした。15:45 河童橋着(1485m)
と、まあ、かなりのんびりモードだったのだが、それでも河童橋にはコースタイム通りに着いた。上高地から、朝までいた山頂を眺められたのはまた格別だった。この日の最大高度は3060m、最低高度は1485m、積算登高は850m、積算下降は1555mとなった。
まだ家に帰れる時間だが、翌日も休みなので、ここは上高地に泊まってのんびりと散策でも楽しんでいくことで意見が一致。
上高地
まずはバスターミナルに行って、翌朝8時の新島々行きのバス整理券をゲット。この段階で8・9番だった。ターミナルには、沢渡だか平湯だかへのシャトルバスを待つながーい行列ができていた。河童橋に着くまでは、夜は小梨平でテント泊のつもりでいたが、もうだんだん面倒になってきた。16時を過ぎているが、ダメ元で、ターミナルにある宿泊案内に尋ねてみると、空いている宿がいくつかあって受け入れ可能という。こいつはラッキー。河童橋の目の前の白樺荘をとってもらった。
宿は館内でアルコールを販売していないというので、チェックインしたあとすぐ、併設の売店で地ビール4種とイヅツのデザートワインとつまみを買った。部屋にもどり、部屋の風呂(ユニットバス)に凍ったテントを干した。パッキングを直してから、えきねっとで翌日のスーパーあずさを予約。荷物を網棚にあげなくてもいいように、一番後ろの席をとった。部屋の窓からは夕焼けの明神・前穂がよく見えた。
大風呂は普通の沸かし湯だ。宿泊者数に比べてずいぶんと小さいので、女湯は洗い場争奪戦がたいへんだったようだ。
食事は懐石で、我々には量がちょっと物足りなかった。ワインはイヅツのシャルドネをとった。これはすっきり系で、信州サーモンとよく合った。食後は部屋に戻って、夕のうちに買っておいた地ビールとつまみでプチ打ち上げをして、腹一杯になった。夕食が少なかったのは逆に幸いだった。